人が亡くなると、相続人は預貯金や不動産などの相続手続きを進めるだけではありません。
亡くなった人に一定の所得があった場合には、その年の所得について確定申告が必要になることがあります。
しかし、本人はすでに亡くなっているため、自分で確定申告することはできません。
そこで、相続人が亡くなった人に代わって所得税の申告と納税を行います。
これが「準確定申告」です。
通常の確定申告とは申告期限が異なり、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行う必要があります。
相続放棄の3か月、準確定申告の4か月、相続税の10か月というように、相続では異なる期限の手続きが並行して進んでいきます。
準確定申告とは何か
準確定申告とは、年の途中で亡くなった人について、その年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、相続人などが本人に代わって行う所得税の確定申告です。
例えば2026年8月15日に亡くなった場合には、原則として2026年1月1日から8月15日までの所得を計算します。
給与所得
事業所得
不動産所得
公的年金等に係る所得
株式や不動産の譲渡所得
などがあれば、通常の確定申告と同じように所得や税額を計算します。
死亡によって所得税の計算そのものがなくなるわけではありません。
通常の確定申告とは何が違うのか
通常の所得税の確定申告では、1月1日から12月31日までの1年間の所得を計算します。
そして原則として翌年2月16日から3月15日までの確定申告期間に申告します。
準確定申告では、死亡によってその人の所得計算期間が途中で終了します。
そのため、死亡した年については1月1日から死亡日までを対象として所得税を計算します。
さらに申告期限も通常の確定申告とは異なります。
原則として、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
前年分の確定申告が終わっていない場合もある
準確定申告で注意したいのが、亡くなった年だけが問題になるとは限らないことです。
例えば2027年2月に亡くなった人が、2026年分の確定申告をまだしていなかったとします。
通常であれば本人が2027年3月までに2026年分を申告するところでした。
しかし、その前に亡くなっています。
この場合には、前年分についても相続人が本人に代わって申告する必要が生じることがあります。
死亡した時期によっては、前年分と死亡年分という複数の申告を確認する必要があります。
誰が準確定申告をするのか
準確定申告をするのは、原則として亡くなった人の相続人です。
相続人が一人なら、その人が手続きを進めます。
相続人が複数いる場合には、各相続人が連署して申告する方法があります。
また、一定の方法によって各相続人が別々に提出することもできますが、その場合には他の相続人へ申告内容を通知する必要があります。
相続人が複数いる場合には、誰か一人だけの問題ではありません。
相続人間で所得や税額、必要書類などを共有して進める必要があります。
すべての人に準確定申告が必要なわけではない
人が亡くなったら必ず準確定申告をしなければならないわけではありません。
通常の確定申告と同様に、確定申告義務があるかどうかを確認します。
例えば個人事業を営んでいた場合や、不動産賃貸による所得があった場合などには申告が必要になる可能性があります。
給与所得者でも、給与収入が一定額を超えていた場合や、給与以外の所得が一定額を超えていた場合などには申告が必要になることがあります。
一方、所得の状況によっては確定申告義務がなく、準確定申告も不要になる場合があります。
年金受給者も確認が必要になる
高齢者の相続では、公的年金を受給していたケースが多くなります。
公的年金等については、一定の要件を満たせば確定申告を不要とする制度があります。
そのため、年金を受給していたからといって必ず準確定申告が必要になるわけではありません。
一方、公的年金以外に不動産所得や事業所得などがあれば、申告が必要になることがあります。
故人がどのような収入を得ていたのかを確認することが重要です。
申告期限は原則4か月
準確定申告で特に重要なのが期限です。
原則として、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税を行います。
一般的には死亡したことをその日に知るケースが多いため、死亡日の翌日から4か月以内と考えると分かりやすいでしょう。
例えば8月15日に死亡し、その日に相続人が死亡を知った場合には、原則として12月15日までが期限になります。
通常の確定申告の3月15日という期限とは異なります。
相続放棄と準確定申告では期限が違う
相続では、複数の期限を同時に管理する必要があります。
代表的なのが、
相続放棄や限定承認は原則3か月
準確定申告は原則4か月
相続税申告は原則10か月
という期限です。
特に死亡直後は、葬儀、役所への届け出、金融機関への連絡、相続人調査、相続財産調査などが重なります。
その中で税務手続きも進めなければなりません。
「相続税は10か月あるから税金のことは後でよい」と考えていると、準確定申告の4か月という期限を見落とす可能性があります。
医療費控除は死亡日までに支払ったものを考える
準確定申告でも、要件を満たせば医療費控除などの所得控除を適用できます。
ただし、対象となる期間には注意が必要です。
亡くなった人の医療費控除については、原則として死亡日までに本人が支払った医療費が対象になります。
例えば入院中に発生した医療費について、死亡後に相続人が支払ったものは、故人の準確定申告における医療費控除の対象とはなりません。
誰が、いつ支払ったのかによって税務上の扱いが変わることがあります。
社会保険料や生命保険料にも死亡日の考え方がある
社会保険料控除や生命保険料控除などについても、死亡日までに支払われた金額を基本として考えます。
例えば生命保険料を年払いしている場合などには、実際にいつ支払ったのかを確認する必要があります。
所得控除を正確に計算するためには、死亡時点までの支払状況を整理することが重要です。
通常の確定申告のように12月31日までの1年間を対象とするわけではないため、死亡日を境に整理する必要があります。
配偶者控除や扶養控除の判定にもルールがある
準確定申告では、配偶者控除や扶養控除などを適用できる場合があります。
通常の確定申告では12月31日の現況によって判定する事項がありますが、納税者本人が年の途中で死亡した場合には、原則として死亡時の現況によって判定します。
例えば死亡時点で配偶者や扶養親族について要件を満たしていれば、一定の所得控除を適用できる可能性があります。
年の途中で亡くなったからといって、こうした人的控除がすべて使えなくなるわけではありません。
納税が必要なら相続人が支払う
準確定申告によって所得税の納付額が発生した場合には、相続人が納税手続きを行います。
所得税の納税義務も、相続の対象となる債務の一つです。
相続人が複数いる場合には、原則として相続分などに応じて負担することになります。
準確定申告によって確定した所得税は、一定の要件を満たせば相続税を計算する際の債務控除の対象になることがあります。
所得税と相続税は別々の税金ですが、相続税計算にも関係してくることがあります。
準確定申告で還付になる場合もある
準確定申告は、税金を納めるためだけの手続きではありません。
故人がすでに納めていた所得税が本来の税額より多ければ、還付を受けられる場合があります。
例えば給与や年金などから所得税が源泉徴収されていたものの、各種所得控除を適用して計算すると税額が少なくなるケースです。
医療費控除などによって還付になることも考えられます。
「税金を取られるだけだから申告しない」というものではなく、申告によって税金が戻る可能性も確認する必要があります。
還付金は相続財産になる
準確定申告によって所得税の還付金が発生した場合、その還付を受ける権利は相続財産となります。
つまり、故人に帰属する税金が戻ってくるため、その還付金も相続人が引き継ぐ財産の一つになります。
還付加算金については所得税上の扱いが別途問題になる場合があります。
準確定申告は所得税の精算だけではなく、相続財産の金額にも影響する可能性があるのです。
相続税の申告より先に準確定申告が来る
相続税の申告期限は原則10か月です。
一方、準確定申告は原則4か月です。
したがって、両方の申告が必要な相続では、通常は準確定申告の期限が先に来ます。
例えば故人が不動産賃貸業をしていた場合には、賃貸収入や必要経費を計算して準確定申告を行い、その後、相続財産を評価して相続税申告を進めることになります。
死亡後の税務手続きは、相続税だけを見ていてはいけません。
所得税から先に期限が到来するケースがあることを覚えておく必要があります。
結論
準確定申告とは、年の途中で亡くなった人について、その年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、相続人などが本人に代わって所得税を申告する手続きです。
すべての人に必要になるわけではなく、故人の所得状況などによって申告義務の有無を判断します。
最大の注意点は、通常の確定申告とは期限が異なることです。
原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税を行います。
また、申告によって税金を納めるケースだけでなく、源泉徴収された所得税などが還付される場合もあります。
相続では、3か月の相続放棄、4か月の準確定申告、10か月の相続税申告というように、重要な期限が次々に到来します。
故人の財産だけでなく、生前にどのような所得があり、確定申告が必要だったのかまで早い段階で確認することが、死亡後の税務手続きを円滑に進めるために重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日 朝刊 <マネーの知識ここから>相続の基礎(1) 故人の財産、死亡後に「凍結」