役員借入金が増えると、会社の貸借対照表にはどのような変化が表れるのでしょうか。
役員借入金は、会社が社長などの役員から借りているお金です。
したがって、会計上は負債として計上されます。
例えば、会社の資金繰りが厳しくなり、社長が個人資金3,000万円を会社へ投入すれば、現預金などが増える一方、負債として役員借入金3,000万円が計上されます。
決算書だけを形式的に見れば、負債が増えたことになります。
ところが、今回の資料では、役員借入金について通常の銀行借入金とは異なる見方ができることを説明しています。
役員借入金が多い会社の決算書は、表面的な数字だけではなく、その中身まで見ることが重要です。
役員借入金は負債として表示される
貸借対照表では、会社が保有する財産が資産として、その資金をどのように調達したのかが負債と純資産として表示されます。
役員借入金は会社が役員へ返済する義務のあるお金です。
そのため、負債になります。
資料の図表1では、次のような会社が例として示されています。
資産が2億円あります。
これに対して、流動負債が5,000万円、固定負債が1億6,000万円あり、固定負債の中には役員借入金3,000万円が含まれています。
純資産はマイナス1,000万円です。
会計上は債務超過の状態です。
自己資本比率はマイナス5%
この会社の総資産は2億円、純資産はマイナス1,000万円です。
そのため、資料では自己資本比率をマイナス5%としています。
自己資本比率は、会社の財務状態を見るうえで重要な数字の1つです。
純資産がマイナスになっているということは、負債が資産を上回っている状態です。
貸借対照表をそのまま見れば、財務内容が厳しい会社に見えます。
しかし、この会社には3,000万円の役員借入金があります。
ここで金融機関が役員借入金をどのように評価するかが重要になります。
役員借入金には資本金に近い性格がある
役員借入金は、銀行借入金とは性格が異なる場合があります。
銀行から借りた資金であれば、通常は決められた条件に従って返済していきます。
一方、経営者から会社が借りたお金であれば、会社の資金繰りが厳しいときに経営者が返済を求めないことがあります。
会社に資金がなければ返済を待ち、余裕が出てから返済するという対応ができます。
資料では、このような特徴から、役員借入金には資本金に近い性格があると説明しています。
会計上は負債であっても、実態を見ると通常の借入金とは異なる場合があるわけです。
3,000万円を自己資本として見ると財務状態が変わる
資料の図表1では、役員借入金3,000万円を自己資本とみなした場合の考え方も示しています。
もともとの純資産はマイナス1,000万円です。
ここに役員借入金3,000万円を自己資本相当額として加えると、実質的な自己資本は2,000万円になります。
その結果、自己資本比率はマイナス5%からプラス10%になります。
同じ貸借対照表でも、役員借入金を通常の負債として見る場合と、自己資本に近いものとして見る場合では、財務状態の見え方が大きく変わります。
これが役員借入金を読み解く際の重要なポイントです。
すべての役員借入金が自己資本になるわけではない
ただし、役員借入金が計上されていれば、自動的に自己資本として扱われるわけではありません。
資料では、過去の金融検査マニュアルにおける考え方を紹介しています。
代表者からの借入金について、返済を当面求めないなど一定の実態があれば、自己資本相当額として扱う考え方がありました。
一方、代表者からの借入金の推移などを見て安定性がない場合には、自己資本相当額とはしない考え方も示されています。
つまり、勘定科目の名称ではなく、実際にどのような資金なのかを見る必要があります。
金融機関によって取扱いが異なる
資料では、現在の役員借入金の取扱いについて、金融機関によって異なるとしています。
役員借入金を自己資本と同じように扱っている金融機関もあります。
一方で、すべての金融機関が同じ評価をするわけではありません。
そのため、
「役員借入金だから実質的には自己資本だ」
と会社側だけで判断することはできません。
自社の取引銀行が役員借入金をどのように評価しているのかを確認することが重要です。
役員借入金が多いからすぐ返済するとは限らない
貸借対照表に多額の役員借入金があると、
「負債を減らした方が決算書がきれいになる」
と考えるかもしれません。
しかし、資料では、まず取引銀行に役員借入金をどのように扱っているか確認することを勧めています。
銀行が役員借入金を自己資本と同じように扱っているのであれば、そのまま残しておくことも考えられます。
無理に返済すれば、会社の現預金が減ってしまいます。
役員借入金を減らすことだけを目的に返済し、会社の資金繰りを悪化させては意味がありません。
通常の返済では純資産は増えない
役員借入金3,000万円を会社の現預金から返済した場合を考えてみます。
会社の負債である役員借入金は3,000万円減ります。
しかし、同時に会社の現預金も3,000万円減ります。
つまり、負債だけではなく資産も減少します。
そのため、役員借入金を返済しただけで純資産そのものが増えるわけではありません。
しかも、手元資金が大きく減れば、その後の支払いに影響する可能性があります。
資料が無理な返済による資金繰り悪化に注意を促しているのはこのためです。
債務免除なら財務状態は大きく変わる
これに対して、役員借入金について経営者から債務免除を受ける場合は意味が異なります。
例えば3,000万円の役員借入金について債務免除を受ければ、その負債がなくなります。
しかも、通常の返済と違って会社の現預金を3,000万円減らす必要はありません。
資料では、債務免除によって、その分だけ純資産額や自己資本比率を大幅に改善する効果があると説明しています。
ただし、債務免除益が発生するため、法人税額が大幅に増える場合があります。
財務改善だけを見て判断できない点には注意が必要です。
決算書の数字だけでは分からない
役員借入金について特に重要なのは、貸借対照表に表示された金額だけでは実態を判断できないことです。
同じ3,000万円の役員借入金でも、
経営者が当面返済を求めない3,000万円なのか。
会社に余裕ができればすぐ返済する予定の3,000万円なのか。
その実態によって意味は変わります。
資料でも、役員借入金の安定性が重要な要素として示されています。
決算書を見るときには、役員借入金の残高だけではなく、その性格まで確認する必要があります。
役員借入金が増え続ける原因を見る
さらに注意したいのは、役員借入金が毎年増え続けている会社です。
資料では、役員借入金が発生する理由として、経営者による個人資金の投入だけではなく、役員報酬の未払い、経費の立替えなども挙げています。
また、経理がずさんな企業では、経営者との貸し借りや現金残高の異常を調整するために役員借入金が使われることが多いとしています。
役員借入金が多い会社では、
「残高はいくらか」
だけではなく、
「なぜこの残高になったのか」
を確認することが重要です。
本当に見るべきなのは会社がキャッシュを生み出せるか
役員借入金が自己資本に近く評価される場合があるとしても、会社が役員借入金に依存し続けてよいということではありません。
資料では、役員借入金に依存しない経営を実現するためには、企業全体で利益を出し、それに見合ったキャッシュを増やすことが不可欠だとしています。
社長がお金を入れ続けなければ事業を継続できない会社なのか。
それとも、一時的に経営者から資金提供を受けているだけなのか。
ここには大きな違いがあります。
貸借対照表を読むときには、役員借入金という1つの数字だけでなく、その会社が自らキャッシュを生み出せる状態にあるのかを見る必要があります。
結論
役員借入金は、貸借対照表では負債として表示されます。
そのため、多額の役員借入金があれば、決算書上は負債が大きく見えます。
しかし、役員借入金には通常の銀行借入金とは異なる性格があります。
経営者が当面返済を求めず、安定的に会社へ資金を提供している場合には、金融機関が自己資本に近いものとして評価する可能性があります。
資料の例では、純資産マイナス1,000万円、自己資本比率マイナス5%の会社でも、3,000万円の役員借入金を自己資本相当額として見れば、実質的な自己資本は2,000万円となり、自己資本比率はプラス10%になります。
同じ決算書でも、役員借入金の実態によって見え方が大きく変わるわけです。
ただし、金融機関によって取扱いは異なります。
まず取引銀行が役員借入金をどのように評価しているのかを確認する。
そして残高だけでなく、なぜ役員借入金が発生し、増えてきたのかまで確認する。
役員借入金が多い会社の貸借対照表は、表面的な負債額だけを見るのではなく、その数字の中身を読み解くことが重要です。
参考
企業実務 2026年10月号 役員借入金の発生理由と解消方法について