株式の過半数だけでは安心できない 特別決議と経営支配権の落とし穴

経営

中小企業の経営者の中には、自社株式の過半数を保有していれば、会社の重要事項を自由に決定できると考えている人がいます。

確かに、議決権の過半数を保有していれば、取締役の選任や解任など、通常の株主総会決議について大きな影響力を持つことができます。

しかし、会社法では、すべての議案を過半数の賛成だけで決定できるわけではありません。

定款変更や一定の組織再編などについては、原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。

そのため、株式の過半数を保有していても、会社の重要事項を単独で決定できない場合があります。

2026年10月20日の日本経済新聞では、大阪府内の同族会社で、創業者と長男らの間に経営権を巡る対立が生じ、株主総会決議の不存在が認められた裁判例が紹介されました。

この事例では、創業者が長男に株式を贈与し、妻も増資によって株式を取得した結果、長男と妻が合計で80%近い株式を保有していました。

同族会社では、株式の贈与や相続によって議決権が分散すると、創業者が想定していなかった経営権の変化が生じることがあります。

今回は、普通決議と特別決議の違い、議決権の保有割合による経営支配力、少数株主の権利、株式分散を防ぐための実務対策について解説します。

株主総会の決議には種類がある

株式会社の株主総会では、議案の内容によって必要な決議要件が異なります。

代表的なものが普通決議と特別決議です。

普通決議は、会社の通常の意思決定に用いられる決議方法です。

会社法309条第1項では、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数によって決議すると定めています。

ただし、定款によって別段の定めを置くことができる場合があります。

また、役員の選任や解任については、会社法341条に特別な定足数の規定があります。

一方、特別決議は、会社の基本的な仕組みや株主の権利に大きな影響を与える事項について必要となる決議です。

会社法309条第2項では、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上によって決議すると定めています。

定款によって定足数を緩和する場合でも、一定の下限があります。

さらに、会社法には、特別決議よりも厳しい要件が求められる特殊決議もあります。

つまり、株主総会では、議案の重要性などに応じて異なる決議要件が設けられているのです。

議決権の過半数で決められる事項

普通決議の代表例が、取締役の選任と解任です。

例えば、父親が60%、長男が40%の議決権を保有している会社を考えてみます。

父親と長男がともに株主総会に出席し、父親が取締役選任議案に賛成した場合、法令や定款上の要件を満たせば、父親の賛成だけで普通決議を成立させることができます。

この場合、長男が反対しても、父親の意向が決議に反映されます。

このように、議決権の過半数を保有することは、会社の経営体制を決定するうえで大きな意味を持ちます。

ただし、代表取締役の選定方法は、会社の機関設計によって異なります。

取締役会設置会社では、代表取締役は原則として取締役会が選定します。

そのため、株主総会で取締役を選任できることと、代表取締役を直接選定できることは同じではありません。

また、普通決議で決定できる事項であっても、適法な招集手続きや議事録の作成などが必要です。

議決権の過半数を保有しているからといって、株主総会を無断で省略できるわけではありません。

特別決議には原則として3分の2以上の賛成が必要

特別決議が必要となる代表的な事項が、定款変更です。

定款は、会社の基本的なルールを定めるものです。

商号、目的、機関設計、株式に関する事項など、会社の運営に重要な影響を与えます。

そのため、原則として普通決議よりも厳しい決議要件が設けられています。

例えば、父親が60%、長男が40%の議決権を保有している会社を考えてみます。

株主全員が出席し、父親が定款変更に賛成しても、長男が反対すれば賛成割合は60%にとどまります。

原則として必要な3分の2以上に達しないため、特別決議は成立しません。

父親が過半数の議決権を保有していても、定款変更を単独で実現できないことになります。

特別決議が必要となる事項には、このほか、一定の合併や会社分割、株式交換、株式併合、会社の解散などがあります。

ただし、組織再編には簡易手続きや略式手続きなどの例外があり、すべての場合に株主総会の特別決議が必要になるわけではありません。

経営者は、重要な経営判断を行う際に、どのような決議が必要なのかを事前に確認する必要があります。

3分の1超の議決権が持つ意味

特別決議を考えるうえで重要なのが、議決権の3分の1超という割合です。

例えば、父親が65%、長男が35%の議決権を保有している会社を考えてみます。

株主全員が出席して議決権を行使する場合、父親が賛成しても、賛成割合は65%です。

特別決議に必要な3分の2以上には届きません。

つまり、長男は35%の議決権を保有することで、特別決議を阻止できる立場にあります。

このような権限は、一般に拒否権として説明されることがあります。

ただし、会社法上の拒否権付種類株式とは異なるものです。

また、3分の1超の議決権を保有していれば、あらゆる状況で特別決議を阻止できるわけではありません。

特別決議は、原則として出席株主の議決権を基準に賛成割合を計算します。

したがって、反対する株主が欠席した場合などには、決議が成立する可能性があります。

さらに、定款によって法令の範囲内で決議要件が変更されている場合もあります。

重要なのは、持株比率だけでなく、実際の議決権行使や定款の内容まで確認することです。

同族会社では親族の協力関係が経営権を左右する

同族会社では、株式を保有する親族同士の協力関係が経営権に大きな影響を与えます。

例えば、父親が40%、母親が30%、長男が30%の議決権を保有する会社を考えてみます。

父親と母親が協力すれば、合計70%になります。

株主全員が出席する通常の特別決議についても、原則として必要な賛成割合を満たすことができます。

一方、母親と長男が協力すれば、合計60%になります。

普通決議については、母親と長男の意向が優先される可能性があります。

このように、同じ株主構成でも、親族間の関係によって実質的な経営支配力が変化します。

特に、創業者と後継者の関係が悪化した場合には、配偶者や他の子供がどちらを支持するかによって、会社の意思決定が左右されることがあります。

同族会社の経営権は、株式の保有割合だけでなく、親族間の信頼関係によっても支えられているのです。

株式贈与によって創業者の支配力が低下する

事業承継を進める過程では、創業者が後継者に株式を贈与することがあります。

例えば、創業者が100%の議決権を保有している会社で、長男に40%、次男に20%を贈与したとします。

創業者の議決権割合は40%になります。

この場合、創業者は単独で普通決議を成立させることが難しくなります。

長男と次男が協力すれば、合計60%の議決権を確保できるため、取締役の選任や解任などについて、創業者の意向と異なる決議が成立する可能性があります。

一方、長男と次男の合計60%では、株主全員が出席する通常の特別決議を単独で成立させることはできません。

このように、株式贈与によって、創業者と後継者の双方が重要事項を単独で決定できない状態になることがあります。

株式を贈与する際には、贈与税の負担だけでなく、贈与後の議決権構成を確認する必要があります。

特に、複数の子供に平等に株式を贈与する場合には注意が必要です。

財産分配の公平性を重視した結果、経営権が分散し、将来の意思決定が難しくなる可能性があるからです。

少数株主にも法律上の権利がある

同族会社では、過半数の議決権を保有する株主が経営を主導することが一般的です。

しかし、少数株主にも会社法上の権利があります。

例えば、株主総会に出席して議決権を行使する権利があります。

また、一定の要件を満たせば、株主総会の招集請求、株主提案、会計帳簿の閲覧請求などを行うことができます。

これらの権利には、議決権割合や保有期間などの要件が設けられている場合があります。

例えば、会社法433条では、原則として総株主の議決権の3%以上など、一定の要件を満たす株主に会計帳簿の閲覧等を請求する権利が認められています。

ただし、請求の目的などによっては、会社が閲覧を拒否できる場合もあります。

また、株主総会の決議手続きに重大な問題がある場合には、決議の効力を争う訴訟が提起されることもあります。

大阪府内の不動産会社の事例では、長男と妻が株主総会決議の不存在を主張しました。

裁判所は、株主総会が実際に開催されていないことや、重要な株主の同意がなかったことなどを踏まえ、決議が存在しないと判断しました。

この事例は、経営者が少数株主を軽視することの危険性を示しています。

株主総会の手続きは、株主の持株比率にかかわらず、法律に従って適切に行う必要があります。

株式の分散は相続によっても進む

同族会社の株式分散は、生前贈与だけでなく相続によっても生じます。

例えば、創業者が80%の株式を保有したまま死亡し、配偶者と3人の子供が相続人になった場合を考えてみます。

遺言や遺産分割などによって株式の承継先が決まらなければ、株式が相続人間の共有状態になることがあります。

この場合、共有株式の権利行使については、会社法106条に基づく権利行使者の指定などが問題になります。

また、遺産分割によって複数の相続人に株式が分散すると、後継者が十分な議決権を確保できなくなる可能性があります。

例えば、長男が後継者として代表取締役に就任しても、他の相続人が過半数の議決権を保有していれば、長男の経営基盤は不安定になります。

このような問題を防ぐためには、生前から株式の承継方法を検討しておくことが重要です。

遺言の作成、株式贈与、種類株式の活用、遺留分に関する民法の特例など、複数の方法を組み合わせることが考えられます。

ただし、相続人間の公平性や税務上の負担にも配慮する必要があります。

株式を後継者に集中させることだけを優先すると、他の相続人との紛争を招く可能性があるためです。

経営権を安定させるための実務対策

同族会社が経営権を安定させるためには、まず現在の株主構成を正確に把握する必要があります。

株主名簿を確認し、誰が何株を保有しているのかを整理します。

次に、株式数だけでなく議決権数を確認します。

種類株式を発行している場合などには、保有株式数と議決権数が一致しないことがあります。

そのうえで、普通決議と特別決議について、誰の賛成があれば成立するのかを試算します。

例えば、父親が55%、母親が15%、長男が30%の議決権を保有している場合、父親と母親が協力すれば70%になります。

一方、父親と長男が対立した場合には、母親の意向が重要になります。

このような議決権構成を把握しておけば、将来の経営権争いを予防するための対策を検討しやすくなります。

また、株式贈与や相続を行う場合には、承継後の議決権構成を必ず確認することが重要です。

さらに、必要に応じて種類株式や株主間契約などの活用を検討することも考えられます。

ただし、株主間契約によって会社法上の決議要件そのものを自由に変更できるわけではありません。

契約上の義務と株主総会決議の効力は区別して考える必要があります。

結論

同族会社の経営者にとって、自社株式の過半数を保有することは、経営権を維持するうえで重要です。

しかし、過半数を保有しているだけで、会社のすべての重要事項を自由に決定できるわけではありません。

取締役の選任や解任などは、原則として普通決議によって決定します。

一方、定款変更や一定の組織再編などには、原則として特別決議が必要です。

そのため、議決権の過半数を保有していても、3分の2以上の賛成を確保できなければ、重要な経営判断を実現できない場合があります。

また、議決権の3分の1超を保有する株主は、株主全員が出席する通常の特別決議について、重要な阻止力を持つことになります。

同族会社では、親族間の協力関係によって、こうした議決権の影響力が大きく変化します。

さらに、株式贈与や相続によって株式が分散すると、創業者や後継者が想定していなかった経営権の変化が生じる可能性があります。

大阪府内の不動産会社を巡る裁判例は、株式の保有関係と株主総会の適法な運営が、会社の経営権を左右することを示しています。

重要なのは、単に株式の過半数を確保することではありません。

普通決議と特別決議の違いを理解し、将来の株式承継まで見据えて、安定した議決権構成を設計することです。

中小企業の経営者には、株式の保有割合を財産面だけでなく、会社の意思決定権限という観点から管理することが求められます。

経営権を守るためには、株式の数だけでなく、その株式が持つ議決権の意味を正しく理解することが重要なのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月20日 役員務める長男、知らぬ間に解任 「一人で経営」父が株主総会開かず

会社法第106条 共有者による権利の行使

会社法第108条 異なる種類の株式

会社法第295条 株主総会の権限

会社法第309条 株主総会の決議

会社法第341条 役員の選任及び解任の株主総会の決議

会社法第433条 会計帳簿の閲覧等の請求

中小企業庁 事業承継ガイドライン

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