確定給付年金(DB)と確定拠出年金(DC)――企業年金改革で誰がリスクを負うのか

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企業年金は、会社員の老後生活を支える重要な制度です。しかし、企業年金の仕組みによって、将来受け取る年金額の決まり方や運用リスクの負担者は大きく異なります。

三井住友信託銀行は、退職金と企業年金について勤続年数による加算を廃止し、能力や役職を重視する制度へ移行しました。

今回の改革では、確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の双方について、給付や掛金の算定方法が見直されています。

企業年金は、従来のように会社が将来の給付額を約束する仕組みから、従業員自身が運用成果に責任を持つ仕組みへと変化する動きもあります。

ただし、DBとDCのどちらが優れているかを単純に判断することはできません。

重要なのは、それぞれの制度の特徴を理解し、企業と従業員のどちらが、どのようなリスクを負担するのかを把握することです。

税理士・FPの視点から、企業年金の基本構造と制度改革の影響、金利上昇時代の老後資金設計について考えます。

企業年金を支えるDBとDCの基本的な仕組み

日本の企業年金には、主に確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)があります。

DBは、企業が年金規約などに基づいて将来の給付額を約束する制度です。

従業員の勤続期間、給与、役職、ポイントなどを基準に給付額が決まります。

企業は将来の給付に備えて掛金を拠出し、年金資産を運用します。

一方、DCは企業が掛金を拠出し、従業員自身が運用商品を選択する制度です。

将来の受取額は、拠出された掛金と運用成果によって変動します。

両制度の最大の違いは、将来の給付額があらかじめ定められているか、それとも運用成果によって変動するかという点です。

DBでは給付額の算定方法が定められ、DCでは拠出額の算定方法が定められます。

この違いが、企業と従業員のリスク分担に大きく影響します。

DBでは企業が運用リスクを負担する

DBの特徴は、企業が将来の給付に対して責任を負うことです。

例えば、ある従業員について、退職時に2,000万円相当の給付を行う制度があるとします。

企業は将来の支払いに備えて、掛金を積み立て、年金資産を運用します。

運用が順調であれば、必要な給付原資を確保しやすくなります。

一方、株価下落や金利変動などによって運用資産が不足した場合には、企業に追加拠出などの負担が生じる可能性があります。

つまり、DBでは運用リスクの相当部分を企業が負担します。

従業員にとっては、規約に基づく給付を見込めるため、老後資金計画を立てやすいというメリットがあります。

ただし、企業の経営悪化や制度変更などによって、将来の給付に影響が生じる可能性はあります。

DBであっても、将来の受給額があらゆる状況で完全に保証されるわけではありません。

DCでは従業員が運用リスクを負担する

DCでは、企業が拠出する掛金が定められています。

例えば、企業が毎月3万円を拠出する場合、年間の掛金は36万円です。

30年間では、掛金の合計は1,080万円になります。

ただし、将来受け取る金額は運用成果によって変動します。

仮に毎月3万円を30年間積み立て、年率3%で運用できた場合、資産額は約1,748万円となります。

一方、年率5%で運用できた場合には、約2,497万円となります。

この試算では毎月末に積み立て、一定の利回りが継続すると仮定しています。税金や手数料は考慮していません。

実際の運用では市場環境によって資産額が増減し、元本割れが生じる可能性もあります。

DCでは、従業員自身が運用商品を選び、資産配分を管理する必要があります。

そのため、金融知識や長期的な資産形成への理解が重要になります。

DBとDCのリスク分担の違い

DBとDCの違いを整理すると、企業と従業員の責任の所在が明確になります。

DBでは、企業が制度で定められた給付を実現する責任を負います。

一方、DCでは企業が定められた掛金を拠出し、従業員が運用成果による変動を引き受けます。

企業にとってDBは、将来の給付債務や運用環境による負担変動が生じる制度です。

DCでは、企業の拠出負担を比較的予測しやすくなります。

従業員にとってDBは、給付額の見通しを立てやすい制度です。

DCでは、運用成果が良ければ資産額が増える一方、運用が不調であれば受取額が減少します。

ただし、DBにも給付減額や企業の信用リスクがあり、DCにも長期分散投資によってリスクを管理できるという特徴があります。

制度の優劣ではなく、自分がどのリスクを負担するのかを理解することが重要です。

金利上昇がDBの財政に与える影響

金利上昇は、企業年金の財政にも影響します。

DBでは、将来の給付に必要な金額を現在価値に換算して評価します。

企業会計上の退職給付債務を計算する際には、割引率が重要な要素になります。

一般に、割引率が上昇すると、将来の給付額を現在価値に換算した退職給付債務は減少します。

例えば、20年後に1,000万円を支払う場合を考えます。

割引率が年1%であれば、現在価値は約820万円です。

割引率が年3%であれば、現在価値は約554万円となります。

このように、金利上昇は退職給付債務の現在価値を小さくする方向に働きます。

ただし、実際のDB財政では、保有する債券の価格下落、株式などの運用成果、制度上の予定利率なども関係します。

金利が上昇すれば必ず企業年金の財政が改善するというわけではありません。

企業は資産と負債の両面から影響を評価する必要があります。

金利上昇がDCの運用に与える影響

DCでは、金利上昇が運用商品ごとに異なる影響を与えます。

一般に、金利が上昇すると既発債券の市場価格は下落します。

そのため、債券型投資信託では評価額が下がる場合があります。

一方、預金などの金利が上昇すれば、元本確保型商品の利息収入が増える可能性があります。

株式についても、金利上昇によって企業の資金調達コストや株価評価に影響が生じます。

ただし、株価は企業業績や経済成長など多くの要因で変動するため、金利上昇だけで値動きを予測することはできません。

DC加入者にとって重要なのは、短期的な金利変動だけで運用商品を変更するのではなく、運用期間やリスク許容度に応じた資産配分を維持することです。

特に退職までの期間が短い場合には、資産価格の大幅な下落が老後資金に与える影響を慎重に考える必要があります。

企業がDBからDCへの移行を検討する理由

企業がDBからDCへの移行を検討する背景には、退職給付債務の管理があります。

DBでは、将来の給付に対する責任が企業に残ります。

運用環境の悪化や長寿化などによって、追加的な負担が必要になる可能性があります。

一方、DCでは拠出額が定められているため、企業は将来の負担を予測しやすくなります。

また、転職が一般化する中では、DCの資産を転職先の企業型DCやiDeCoなどへ移換できることも特徴です。

ただし、DBからDCへの移行には、既存の受給権の取り扱い、制度変更手続き、従業員への説明などが必要になります。

企業が一方的にすべての退職給付をDCへ変更できるわけではありません。

制度改革では、財務上の合理性だけでなく、従業員の理解と納得を得ることが重要です。

50代・60代が確認したい企業年金の受給条件

定年が近づく50代・60代にとって、企業年金の受給条件は老後資金計画に直結します。

DBでは、受給開始年齢、年金の支給期間、一時金選択の可否などを確認する必要があります。

DCでは、現在の資産残高、運用商品の構成、受給開始可能年齢、受取方法を確認します。

特にDCでは、退職直前に市場が大きく下落すると、資産額が減少する可能性があります。

そのため、受給開始までの期間や資金の使用予定に応じて、運用リスクを調整することが考えられます。

また、企業年金を一時金で受け取る場合と年金で受け取る場合では、税制上の取り扱いが異なります。

一般に、退職所得として扱われる一時金には退職所得控除が、年金形式の給付には公的年金等控除が関係します。

ただし、制度の種類や受取方法によって課税関係が異なるため、個別の確認が必要です。

企業年金だけに依存しない老後資金設計

企業年金は重要な老後資金ですが、老後生活のすべてを支えるものではありません。

公的年金、企業年金、iDeCo、NISA、預貯金などを組み合わせることが基本になります。

例えば、公的年金の手取り収入が毎月20万円、生活費が毎月25万円の場合、毎月5万円の不足が生じます。

この不足を企業年金で補うのか、金融資産を取り崩すのか、退職後の就労収入で補うのかによって、必要な資産額は変わります。

DBのように給付の見通しが立てやすい制度がある場合には、毎月の収入計画に組み込みやすくなります。

一方、DCのように資産額が変動する制度では、受取時期や取り崩し方法を慎重に考える必要があります。

人生100年時代には、企業年金を単独で考えるのではなく、老後全体の収入と支出を一体として設計することが重要です。

結論

確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の最大の違いは、将来の給付額の決まり方と運用リスクの負担者にあります。

DBでは企業が給付に対する責任を負い、DCでは従業員が運用成果による変動を引き受けます。

企業にとってDCは将来の拠出負担を予測しやすい一方、従業員にとっては資産運用の重要性が高まります。

また、金利上昇はDBの退職給付債務やDCの運用資産に異なる影響を与えます。

企業年金改革が進む中で、従業員は勤務先の制度を正確に理解し、自分が負担するリスクを把握する必要があります。

特に50代・60代では、受給開始年齢、受取方法、税負担、運用リスクを含めた具体的な資金計画が重要です。

企業年金は、会社が用意してくれる老後資金というだけの存在ではなくなっています。

人生100年時代には、企業年金の仕組みを理解し、公的年金や個人の金融資産と組み合わせて、自分自身で老後資金を管理することが求められます。

参考

日本経済新聞 2026/10/28 朝刊「三井住友信託銀行、退職金・年金の年功廃止 長く勤めても増額なし」

日本経済新聞 2026/10/28 朝刊「退職給付とは 大企業ほど充実、25%は制度なし」

厚生労働省「確定給付企業年金制度について」

厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」

企業会計基準委員会「退職給付に関する会計基準」

国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」

国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」

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