日本企業では女性活躍推進の取り組みが進んでいますが、管理職や経営幹部に占める女性の割合は依然として低い水準にあります。
女性社員の採用を増やし、育児休業制度や短時間勤務制度を充実させても、女性管理職が期待したほど増えない企業は少なくありません。
なぜ女性社員が増えても、女性管理職は増えないのでしょうか。
その背景には、女性本人の能力や意欲だけでは説明できない、日本企業特有の人事制度や昇進慣行が存在しています。
年功序列、転勤、長時間労働、管理職候補者の選定方法など、従来の制度が結果として女性の昇進機会を制限している可能性があります。
女性管理職の登用を進めるためには、単に女性社員を優遇するのではなく、これまでの人事制度そのものを見直す必要があります。
女性管理職比率は依然として低い水準
内閣府の男女共同参画白書によると、2025年の日本企業における女性の割合は、係長級25.2%、課長級16.1%、部長級9.3%となっています。
上位の役職になるほど女性の割合が低くなる傾向が明確です。
また、日本の就業者に占める女性の割合は45.8%ですが、管理的職業従事者に占める女性の割合は14.4%にとどまっています。
女性が働くこと自体は一般的になっていても、組織の意思決定を担う立場への登用は十分に進んでいないことが分かります。
ここで重要なのは、女性社員の人数と女性管理職の人数を単純に比較するだけでは、問題の本質を把握できないことです。
管理職になるためには、一定の職務経験や評価実績が必要です。
したがって、管理職候補となる女性社員がどれだけ存在するのか、その候補者に必要な経験が与えられているのかを確認する必要があります。
女性管理職比率が低いという結果だけでなく、そこに至る人材育成の過程を分析することが重要です。
年功序列が女性登用を遅らせる構造
日本企業では、長年にわたって年功序列を基本とした人事制度が採用されてきました。
近年は成果主義や職務を重視する制度も広がっていますが、昇進までに一定の勤続年数や職務経験を求める企業は依然として存在します。
例えば、入社後10年以上経過してから課長に昇進し、その後さらに長期間をかけて部長や役員を目指す仕組みです。
この制度では、過去に採用された女性総合職が少なかった影響が、現在の女性管理職比率に表れます。
現在の20代や30代に優秀な女性社員が多くても、従来の昇進ルートでは経営幹部になるまでに長い時間が必要です。
伊藤忠商事が2024年度から女性執行役員特例措置を導入した背景にも、この問題があります。
同社では、部長や部門長を経験していない女性社員でも、将来性を評価して執行役員に登用する仕組みを設けました。
2026年4月時点までに12人が内部登用されています。
これは単に女性役員の人数を増やすためだけではなく、経営幹部としての経験を早期に与えることで、人材育成を加速させる取り組みです。
従来の年功序列的な昇進ルートが、必ずしも最適な人材育成方法とは限らないことを示しています。
転勤経験を重視する昇進制度の問題
日本企業では、管理職になるための条件として、複数の部署や地域での勤務経験を重視する場合があります。
全国転勤や海外勤務を経験した社員が、将来の経営幹部候補として評価されることもあります。
確かに、異なる地域や事業環境で働く経験は、幅広い視野を身につけるうえで有効です。
しかし、転勤経験がすべての管理職に必要なのかは、慎重に検討する必要があります。
育児や介護などの家庭事情によって、転勤が難しい社員もいます。
その結果、転勤できる社員が昇進しやすく、転勤できない社員が昇進しにくい制度になっている可能性があります。
重要なのは、転勤そのものではなく、転勤を通じてどのような能力を身につけることが期待されているかです。
例えば、異なる事業環境への対応力や組織運営能力が必要なのであれば、国内の別部署での勤務やプロジェクトへの参加でも習得できる場合があります。
管理職に必要な能力と、その能力を身につける手段を分けて考えることが重要です。
長時間労働を前提とする管理職像
女性管理職の登用を阻む要因として、長時間労働を前提とする管理職像も挙げられます。
日本企業では、管理職は部下より長く働き、緊急時には夜間や休日にも対応するものだという考え方が残っている場合があります。
このような職場では、育児や介護との両立を重視する社員が管理職への昇進をためらう可能性があります。
しかし、長時間働くことと、優れた管理職であることは同じではありません。
管理職に必要なのは、部下の能力を引き出し、組織の目標を達成することです。
業務の優先順位を判断し、適切に権限を委譲し、限られた時間で成果を上げる能力が求められます。
リクルートでは、管理職に求められる要件を明文化し、従来の暗黙の条件を見直しています。
夜間や休日に働けることが、本当に管理職として必要なのかを検証しているのです。
こうした改革は、女性だけでなく、育児や介護を担う男性社員や中高年社員にとっても重要です。
長時間労働を前提としない管理職制度は、組織全体の生産性向上にもつながる可能性があります。
管理職候補者の選定に潜む思い込み
管理職候補者を選ぶ際には、直属の上司の判断が大きな影響を持つことがあります。
上司が優秀だと評価した社員に重要な仕事を任せ、その経験を昇進評価に反映する仕組みです。
この方法には、日常業務をよく知る上司が適切に人材を評価できるという利点があります。
一方で、上司の経験や価値観によって、育成機会に偏りが生じる可能性もあります。
例えば、育児中の女性社員に負担をかけないよう、重要な仕事を任せないという判断です。
本人への配慮として行われていても、結果として昇進に必要な経験を積む機会が失われることがあります。
大東建託では、女性管理職の数値目標を設定したことで、管理職候補者の発掘や育成に対する上司の意識が変わりました。
これまで候補者として十分に検討されなかった女性社員にも、昇進に必要な仕事を任せる動きが生まれています。
重要なのは、本人の希望を確認せず、上司が一方的に将来の可能性を判断しないことです。
社員の能力を公平に評価するためには、複数の管理職による人材評価や、育成機会の配分状況を確認する仕組みが必要になります。
育児休業後のキャリア停滞を防ぐ
女性管理職の登用を考える際には、育児休業から復帰した社員のキャリア形成も重要な課題です。
育児休業制度が整備されても、復帰後に責任の軽い仕事ばかりを任されれば、昇進に必要な経験を積みにくくなります。
このような状況は、一般にマミートラックと呼ばれています。
本人が育児との両立を優先して、一時的に仕事の負担を軽くすること自体は問題ではありません。
問題なのは、その選択によって将来の昇進機会が事実上失われてしまうことです。
子どもの成長によって家庭の状況が変われば、再び責任のある仕事に挑戦したいと考える社員もいるでしょう。
その際に、過去の働き方だけを理由に昇進候補から外す制度では、優秀な人材を十分に活用できません。
必要なのは、育児休業前後の一時的な勤務状況ではなく、長期的な能力や実績を評価する仕組みです。
また、育児や介護によるキャリアの中断を、男性社員も含めた共通の人事課題として考えることが重要です。
女性管理職比率の公表義務化が促す改革
2026年4月から、常時雇用する労働者が101人以上の企業では、女性管理職比率の情報公表が義務化されました。
男女間賃金差異とともに、企業の人材活用の状況を外部から確認できる仕組みが強化されています。
これにより、女性管理職の登用は企業内部の人事問題にとどまらず、投資家や求職者などから評価される経営課題になっています。
ただし、女性管理職比率を高めることだけを目的とすると、形式的な登用が進む可能性があります。
重要なのは、女性社員がどのような職務経験を積み、どのような評価を受け、どの段階で昇進候補から外れているのかを把握することです。
例えば、管理職候補者に占める女性比率、重要プロジェクトへの参加状況、育児休業後の昇進状況などを分析することが考えられます。
こうした指標を組み合わせることで、女性管理職比率が低い原因を具体的に把握できます。
情報公表を単なる法令対応で終わらせず、人事制度を改善する契機として活用することが求められます。
女性登用は男性社員の働き方改革にもつながる
女性管理職の登用を進めることは、女性だけに利益をもたらす改革ではありません。
長時間労働や転勤を前提とする昇進制度を見直せば、男性社員にも新たな選択肢が生まれます。
育児や介護を担いながら管理職を目指す男性社員も、今後増えていくと考えられます。
また、専門能力が高くても転勤が難しい社員や、長時間労働を希望しない社員が、能力に応じて評価される環境を整備できます。
さらに、年功序列を見直し、能力や成果に応じた登用を進めれば、若手社員や中途採用社員にも昇進機会が広がります。
女性登用をきっかけとする人事改革は、年齢や性別にかかわらず、多様な社員が能力を発揮できる組織づくりにつながります。
企業にとって重要なのは、女性管理職を増やすことだけではなく、これまで十分に活用できていなかった人材の能力を引き出すことです。
結論
日本企業で女性管理職が増えない背景には、年功序列、転勤、長時間労働、管理職候補者の選定方法など、複数の構造的な問題があります。
女性社員の能力や意欲だけに原因を求めても、問題の解決にはつながりません。
伊藤忠商事は、従来の昇進ルートを見直し、将来性のある女性社員を早期に経営幹部へ登用しています。
大東建託は、数値目標によって管理職候補者の発掘と育成を促進しています。
リクルートは、成長機会の公平性を確保し、管理職に求められる要件を見直しています。
方法は異なりますが、共通しているのは、従来の人事制度を当然のものとして受け入れず、必要な改革を進めていることです。
女性管理職比率は、人材活用の結果を示す指標の一つです。
しかし、その数字だけを改善しても、企業の競争力が高まるとは限りません。
本当に重要なのは、能力のある社員が公平に成長機会を得て、適切に評価され、責任ある仕事に挑戦できる環境を整えることです。
女性登用を巡る問題は、日本企業の人事制度が時代の変化に対応できているかを問い直す問題でもあります。
女性管理職を増やすことを目的とするのではなく、優秀な人材が性別や年齢にかかわらず活躍できる企業へと変革することが求められているのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月26日朝刊 女性登用は「結果」か「機会」か 伊藤忠は課長から執行役員に
内閣府男女共同参画局 令和8年版男女共同参画白書
厚生労働省 令和7年度雇用均等基本調査
厚生労働省 女性活躍推進法に基づく女性管理職比率の情報公表
伊藤忠商事 統合レポート2025 CAOインタビュー