女性管理職の登用は結果の平等か機会の平等か 伊藤忠商事とリクルートに学ぶ人材育成の新戦略

人生100年時代
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

2026年10月26日

女性管理職や女性役員の登用が、日本企業の重要な経営課題となっています。

女性管理職比率を高めるために、積極的に女性を抜てきする企業がある一方、昇進に必要な経験や能力を身につける機会を平等に提供する企業もあります。

前者は結果の平等を重視する考え方、後者は機会の平等を重視する考え方です。

2026年10月26日の日本経済新聞では、伊藤忠商事、大東建託、リクルートの取り組みが紹介されました。

興味深いのは、3社が異なる方法を採用しながらも、女性リーダーの育成と企業価値の向上という共通の目的を持っていることです。

女性登用は単なる人数合わせではありません。従来の人事制度や昇進慣行を見直し、企業の意思決定の質を高める経営改革として考える必要があります。

伊藤忠商事は登用を先行させて人材を育成

伊藤忠商事では、2024年度から女性執行役員特例措置を導入しています。

通常であれば、課長、部長、部門長などを経験した後に執行役員へ昇進します。

しかし、この制度では部長や部門長を経験していなくても、将来性を評価して執行役員に登用します。

2024年に課長へ昇格した女性社員が、翌2025年には執行役員を兼務する事例も生まれました。

これまでに12人が特例措置によって登用されています。

この制度の特徴は、経営幹部としての経験を積ませることで、本人の成長を加速させる点にあります。

通常の昇進制度では、経営幹部になるまでに長い年月が必要です。

特に、女性総合職の年齢構成が20代から30代に偏っている企業では、従来の昇進ルートだけでは女性役員の増加に時間がかかります。

そこで、将来の経営人材を早期に抜てきし、経営会議への参加などを通じて視野を広げる仕組みを導入したのです。

これは、能力が完成してから役職を与えるのではなく、役職を与えることで能力を伸ばす人材育成戦略といえます。

ただし、抜てきした社員に過度な負担が集中しないよう、支援体制を整備することが不可欠です。

大東建託は数値目標によって人事慣行を改革

大東建託では、2021年に女性管理職の登用目標を設定するクオータ制を導入しました。

当時の女性管理職比率は4.6%でした。

女性社員比率14.8%と比較しても、管理職への登用が十分に進んでいない状況でした。

そこで、2024年4月時点の女性管理職比率6.0%を目標に設定し、部門長などに達成を求めました。

その結果、2024年には6.5%となり、目標を上回りました。

現在は2030年に10.0%を目指しています。

重要なのは、数値目標の設定によって管理職候補者の発掘や育成に対する上司の意識が変わったことです。

従来は優秀な女性社員であっても、管理職候補として十分に検討されない場合がありました。

しかし、登用目標が設定されることで、管理職に必要な経験や能力を逆算し、仕事を任せる動きが生まれました。

また、育児との両立を理由に昇進を諦めていた女性社員にも、新たな機会が提供されています。

管理職になりたくないという社員に対しても、その理由を確認し、家庭との両立などの課題を解決する方法を一緒に考えます。

数値目標は、それ自体が目的ではありません。

これまで見過ごされてきた人材を発掘し、組織の行動を変えるための手段として機能しているのです。

リクルートは機会の平等を重視

リクルートは、伊藤忠商事とは異なる考え方を採用しています。

女性管理職や女性役員の比率を高める目標を掲げながらも、人数を合わせるための登用は行わない方針です。

重視するのは、社員が成長するための機会を公平に提供することです。

同社の女性管理職比率は35.0%、役員比率は33.3%となっています。

2030年度までに50%を目指す方針ですが、昇進の前提となる経験や能力の形成を重視しています。

特徴的なのが、人材開発委員会の仕組みです。

社員の育成方針を直属の上司だけで決めるのではなく、複数の組織長が関与します。

本人の希望、能力、課題、これまでの経験などを確認し、次にどのような仕事を任せるべきかを検討します。

これにより、特定の上司の価値観や思い込みによって、社員の成長機会が左右されることを防ぎます。

また、管理職に求められる要件も明確にしています。

例えば、夜間や休日にも自由に働けなければ管理職になれないという考え方が、本当に必要な条件なのかを見直しています。

長時間働けることと、優れた管理能力を持っていることは必ずしも同じではありません。

従来の暗黙の昇進条件を見直すことは、女性だけでなく男性社員にも公平な機会を提供することにつながります。

結果の平等と機会の平等には異なる効果

結果の平等を重視する方法には、女性管理職比率を比較的短期間で改善できるメリットがあります。

女性リーダーが増えることで、後輩社員にとってのロールモデルも生まれます。

一方で、登用された本人の経験が不足している場合、業務負担や組織運営上の問題が生じる可能性があります。

また、登用基準が不透明であれば、他の社員から公平性に対する疑問が出ることも考えられます。

これに対して、機会の平等を重視する方法は、昇進に必要な能力や経験を着実に蓄積できる点が強みです。

性別ではなく、本人の能力や実績を重視する制度として、社員の納得を得やすい面もあります。

ただし、成果が表れるまでに時間がかかります。

さらに、機会を公平に提供しているつもりでも、実際には重要な仕事が特定の社員に集中している可能性があります。

そのため、仕事の配分、評価基準、昇進候補者の選定などを継続的に検証する必要があります。

結果の平等と機会の平等は、必ずしも対立するものではありません。

短期的には登用を促進しながら、中長期的には育成機会を公平にするという組み合わせも考えられます。

女性登用を阻む見えない昇進条件

女性管理職の登用を考えるうえで、特に重要なのが、従来の人事制度に存在する暗黙の条件です。

例えば、転勤を経験していなければ管理職になれないという慣行があります。

海外勤務や長時間労働を経験した社員が、昇進で有利になる企業もあります。

こうした経験が本当に管理職に必要であれば、合理的な条件といえます。

しかし、過去から続いているという理由だけで条件が維持されている場合は、見直しが必要です。

育児や介護などの事情によって転勤が難しい社員でも、優れた専門能力やマネジメント能力を持っている可能性があります。

管理職に必要なのは、長時間働いた実績ではなく、組織の目標を達成する能力です。

部下の能力を引き出す力、適切な意思決定を行う力、リスクを管理する力などが重要になります。

これらを客観的に評価する仕組みを整備すれば、従来の昇進ルートに乗らなかった人材にも活躍の機会が広がります。

女性登用を進めることは、企業が長年維持してきた人事制度の合理性を検証する機会でもあるのです。

女性管理職比率だけでは企業価値を測れない

女性管理職比率や女性役員比率は、企業の多様性を評価する重要な指標です。

しかし、数値が高ければ必ず企業価値が向上するわけではありません。

重要なのは、登用された女性が実際に経営上の意思決定に関与し、能力を発揮できているかどうかです。

例えば、女性役員が増えていても、主要事業の責任者や財務責任者などへの登用が進んでいなければ、経営の中核における多様性は十分とはいえません。

米MSCIの調査によると、日本企業の女性取締役比率は2025年に23.4%となりました。

2021年の12.6%から改善していますが、先進国平均の35.3%とは依然として差があります。

今後は女性取締役の人数だけでなく、担当する職務や権限、経営への貢献度なども重要な評価対象になると考えられます。

投資家にとっても、女性役員比率の上昇が形式的な対応なのか、実質的な経営改革につながっているのかを見極める必要があります。

人材登用は企業の将来への投資

女性管理職の登用を、単なる人事上の優遇措置として捉えるべきではありません。

企業が成長するために、これまで十分に活用できていなかった人材の能力を引き出す取り組みと考えることが重要です。

日本では少子高齢化が進み、企業の人材確保が一段と難しくなっています。

そのなかで、性別や年齢、家庭環境などによって活躍の機会が制限されることは、企業にとって大きな損失です。

人材育成には時間と費用がかかります。

しかし、能力のある社員が昇進機会を得られず離職すれば、それまでの教育投資が十分に回収できなくなる可能性があります。

女性登用の促進は、採用費用や離職コストの抑制、組織の活性化、経営人材の確保などにもつながる可能性があります。

経営者は女性管理職比率という結果だけでなく、人材育成への投資と、その成果を総合的に評価する必要があります。

結論

女性管理職の登用では、結果の平等と機会の平等のどちらか一方を選ぶ必要はありません。

伊藤忠商事のように、将来性のある人材を早期に登用して成長を促す方法があります。

大東建託のように、数値目標によって管理職候補者の発掘と育成を促進する方法もあります。

リクルートのように、成長機会の公平性を確保することで、結果として女性管理職を増やす方法もあります。

それぞれの企業が置かれている状況や人材構成によって、最適な方法は異なります。

重要なのは、女性登用そのものを最終目的にしないことです。

優秀な人材が性別にかかわらず能力を発揮できる環境を整え、多様な視点を経営判断に生かすことが本来の目的です。

そのためには、登用基準の透明化、成長機会の公平な提供、昇進後の支援体制を一体として整備する必要があります。

女性登用を巡る議論は、最終的には企業がどのような人材を評価し、どのように経営幹部を育成するのかという問題に行き着きます。

女性活躍推進の成果は、女性管理職の人数だけではなく、企業全体の人材活用力と経営力がどれだけ高まったかによって判断すべきではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月26日朝刊 女性登用は「結果」か「機会」か 伊藤忠は課長から執行役員に

タイトルとURLをコピーしました