土地は個人や企業が所有する財産です。
一方で、土地の使い方は所有者だけの問題で完結するとは限りません。土地の利用方法によっては、周辺地域にも影響が及ぶことがあります。
今回の提言では、こうした土地の性質を踏まえ、土地取得に関する情報把握を強化するとともに、取得後の利用についても継続的に把握する方向性が示されています。
特に注目されるのが、現在の土地利用関連法では必ずしも禁止されていない土地利用についても、「不適切な土地利用」として指導監督できる仕組みを検討していることです。
土地所有者による利用と、周辺地域への影響をどのように調整するのか。
今後の制度設計を考えるうえで重要な論点になります。
土地は所有するだけでなく利用される
土地の取得について考えるとき、まず注目されるのは誰が所有者になるのかという点です。
しかし、今回の提言では所有関係だけでなく、その土地が取得後にどのように利用されるのかにも重点が置かれています。
土地を取得した時点では問題がなくても、その後の利用方法によって周辺地域に影響が生じる可能性があるためです。
そこで提言では、土地取得時の情報把握から、その後の土地利用まで継続的に確認する仕組みを強化する方向性が示されています。
土地行政の対象が「誰が取得したのか」から「取得後にどのように利用しているのか」まで広がろうとしています。
法律で禁止されていなければ問題ないのか
今回の提言で重要な問題として示されているのが、法規制の「隙間」です。
資料では、周辺地域に悪影響を生じさせるような土地利用であっても、土地利用関連法では必ずしも禁止されていないものが存在するとしています。
つまり、現在の個別の土地利用関連法だけでは十分に対応できない土地利用が存在するという問題意識です。
そこで提言では、こうした規制の隙間に対応する新たな仕組みが必要とされています。
土地所有者が利用できる範囲と、行政が地域への影響を考えて対応する範囲をどのように整理するのかが重要になります。
不適切な土地利用を明示する
提言では、土地利用基本計画において「不適切な土地利用」に該当する行為を明示する方向性が示されています。
これによって、都道府県による指導監督の根拠とし、国土利用計画法に基づく対応を可能にすることが想定されています。
ここで重要なのは、単に行政が問題だと考えた土地利用をその都度規制するという話ではないことです。
どのような行為を「不適切な土地利用」とするのかを土地利用基本計画に明示する仕組みが提言されています。
行政による指導監督を強化するのであれば、その対象となる土地利用をどのように定めるかが重要になります。
不適切な土地利用の具体像はまだ示されていない
もっとも、今回の資料では、「不適切な土地利用」に該当する具体的な行為までは示されていません。
どのような土地利用が対象となるのか。
どの程度の周辺への影響があれば対象となるのか。
どのような手続きを経て指導監督が行われるのか。
こうした具体的な内容は今後の制度設計を待つ必要があります。
土地利用に対する行政の関与を強化するのであれば、対象となる行為を明確にすることは、土地所有者や企業にとっても重要です。
何が問題となるのかを事前に判断できる制度でなければ、土地利用を計画する企業の実務にも影響するからです。
取得時の規制だけでは対応できない
土地取得時の届出を強化するだけでは、土地利用上の問題すべてに対応できるとは限りません。
土地を取得した時点で予定していた利用方法が、その後変更されることもあるからです。
今回の提言では、届出後に利用目的を変更した場合には再届出を求め、土地利用の継続的なモニタリングを可能にすべきとしています。
土地取得時に情報を把握する。
その後、利用目的が変われば再び情報を把握する。
そして問題となる土地利用があれば指導監督につなげる。
こうした流れによって、取得時だけでは把握できない土地利用の変化にも対応しようとしていることが分かります。
土地所有者の行動を継続的に把握する方向
今回の提言では、土地取引の情報把握についても複数の強化策が示されています。
現在大規模な取引に限られている届出対象面積を引き下げることが検討されています。
さらに全国一律の引下げだけでなく、地方公共団体による引下げも可能にする方向です。
届出対象面積未満の土地取引についても、国が情報を把握して地方公共団体へ提供する仕組みを構築すべきとしています。
登記情報との照合によって無届事案を把握し、現地調査に入るなどの対応強化も提言されています。
こうした施策を組み合わせることで、行政が土地の取得と利用をより継続的に把握する仕組みが検討されています。
公共利益との調整が制度設計の重要点
土地利用への行政の関与を強化するときには、土地所有者による財産の利用と、周辺地域への影響をどのように調整するかが重要になります。
今回の資料は、私有財産と公共利益の法的な関係について詳しく論じているものではありません。
そのため、具体的な権利制限の範囲について、この資料だけから結論を出すことはできません。
一方、提言が問題としているのは、周辺地域に悪影響を生じさせる土地利用に、既存の土地利用関連法では十分対応できない場合があるという点です。
その隙間を埋めながら、どのような土地利用を行政による指導監督の対象とするのか。
今後の制度設計では、その線引きが非常に重要になります。
企業は取得可能かだけで判断しない
企業が事業用地を取得するときにも、この考え方は重要になります。
これまでも土地にはさまざまな規制がありますが、今回の提言が制度化されれば、土地取得時の手続きだけでなく、取得後の利用方法についても確認する重要性が高まる可能性があります。
土地を取得できるか。
必要な届出を行ったか。
それだけではなく、その土地を計画している方法で継続的に利用できるのかという視点も重要になります。
特に「不適切な土地利用」の内容が具体化された場合には、企業が土地を取得する前の段階から確認すべき事項になる可能性があります。
地域によって対応が異なる可能性もある
今回の提言では、地方公共団体の役割も重視されています。
土地取得時の届出対象面積について地方公共団体による引下げを可能にするほか、国、都道府県、市町村がそれぞれの役割に応じて分担し、重層的に対応することが求められています。
また、「不適切な土地利用」に関しては、土地利用基本計画への明示を通じて都道府県による指導監督の根拠とする方向です。
そのため企業にとっては、全国共通の法律だけではなく、土地が所在する地域における制度運用も重要になる可能性があります。
ただし、具体的な地域差がどのような形になるのかについては、今回の資料では明らかではありません。
規制強化と予見可能性の両方が重要になる
土地利用への指導監督を強化するのであれば、企業や土地所有者が事前にルールを理解できることも重要です。
どのような土地利用が問題となるのか。
どのような場合に行政から指導監督を受ける可能性があるのか。
利用目的をどの程度変更すると再届出が必要になるのか。
今回の資料では、こうした具体的な基準までは示されていません。
今後の制度設計では、土地利用上の問題に対応できる仕組みをつくることと、土地所有者があらかじめルールを確認できることの両方が重要な論点になるでしょう。
現時点では提言段階
今回の内容については、現時点で新しい土地利用規制がすべて導入されたわけではないことにも注意が必要です。
有識者会議が土地の取得や利用の在り方について提言をまとめた段階です。
国土交通省はこれを受け、国土利用計画法など関連法の見直しも視野に入れながら、具体的な制度や施策を検討するとされています。
したがって企業としては、現在の制度に基づいて対応しながら、今後具体化される法改正や制度の内容を確認することが重要です。
結論
土地は私有財産ですが、その利用方法によっては周辺地域にも影響を与えます。
今回の提言では、現在の土地利用関連法では必ずしも禁止されていないものの、周辺地域に悪影響を生じさせる土地利用が存在することを法規制の「隙間」として問題視しています。
その対応として、「不適切な土地利用」に該当する行為を土地利用基本計画に明示し、国土利用計画法に基づく指導監督を可能にする方向性が示されています。
同時に、利用目的変更時の再届出などによって、取得後の土地利用を継続的に把握する仕組みも検討されています。
今後の焦点は、土地利用への行政の関与を強化するだけではありません。
どのような土地利用を対象とし、どのような基準で指導監督を行うのかを明確にすることです。
土地所有者による財産の利用と、周辺地域への影響への対応をどのように両立させるのか。
そこが、これから具体化される土地利用規制の重要な論点になるでしょう。
参考
企業実務 2026年10月号 土地の取得・利用に関する規制の見直しを求める提言がまとめられる