日本の家計金融資産は約2,500兆円に達しています。
非常に大きな金額ですが、その中身を見ると日本の家計の特徴が分かります。
1,100兆円超、全体の約45%が現金や預金として保有されています。
安全性や流動性の高い現預金は、家計にとって欠かせない金融資産です。
一方、物価が継続的に上昇する環境では、現預金だけで長期間資産を保有することにも別のリスクがあります。
2027年1月から始まる「こどもNISA」は、子どもの資産形成だけでなく、日本の家計に眠る現預金の一部を長期投資へ動かすきっかけになる可能性があります。
日本の家計は1,100兆円超を現預金で持っている
日本の家計金融資産は約2,500兆円です。
そのうち1,100兆円超が現金や預金です。
割合にすると約45%になります。
これだけ多くの資金が現預金で保有されている背景には、日本の家計が安全性を重視してきたことがあります。
預金であれば、株式や投資信託のように毎日価格が大きく変動することはありません。
近い将来に使う生活資金や教育資金などを保管する場所として、預金は重要です。
現預金を持つこと自体が問題なのではありません。
問題になるのは、長期間使う予定のない資金まで現預金だけで保有することが適切なのかという点です。
長いデフレが預金志向を強めた
日本では長期間、物価がほとんど上昇しない時代が続きました。
物価が下がることさえありました。
こうした環境では、現金の価値が大きく目減りしにくいため、無理に投資しなくても預金を持っていることに合理性がありました。
さらに、株価や不動産価格が大幅に下落した時代を経験した人も多くいます。
投資は危険で、預金は安全という意識が広がった背景には、こうした長年の経済環境があります。
家計の金融行動は短期間では変わりません。
何十年にもわたって形成された預金中心の習慣が、現在の家計金融資産の構成にも表れています。
インフレになると現金にも別のリスクが生まれる
預金は価格が大きく変動しないため、元本という意味では安定しています。
しかし、物価が上昇すると別の問題が生じます。
お金の購買力が低下することです。
例えば100万円を現金で持っていても、物価が長期間上昇すれば、100万円で購入できる商品やサービスの量は減ります。
口座残高が100万円から減っていなくても、実質的な価値は低下している可能性があります。
これがインフレ時代に現預金だけで長期資産を保有する際のリスクです。
預金には預金の役割がありますが、長期資金については物価上昇も考慮する必要があります。
すべてを投資へ動かす必要はない
「貯蓄から投資へ」という言葉から、預金をできるだけ減らして投資すべきだと考える必要はありません。
家計には現預金が必要です。
毎月の生活費。
病気や失業などに備える緊急資金。
数年以内に必要になる教育費。
住宅購入の頭金。
こうした資金まで価格変動のある金融商品へ投資すると、必要なときに相場が下落している可能性があります。
重要なのは、預金か投資かという二者択一ではありません。
近い将来使うお金は現預金で確保し、長期間使わない余裕資金について投資を検討するという役割分担です。
こどもNISAは長期資金を投資へ動かしやすい
こどもNISAと長期投資は相性があります。
0歳から投資を始めれば、18歳まで約18年間あります。
さらに18歳以降も通常のNISAへつなげて資産形成を続けることができます。
子どものために祖父母や親が長期間保有する予定だった預金の一部を、こどもNISAで積み立てることが考えられます。
年間投資上限は60万円です。
毎月にすれば5万円です。
必ず上限まで投資する必要はありません。
毎月1万円や2万円からでも、長期的な資産形成を始めることができます。
少額を継続的に投資する仕組みがあれば、預金から投資への移行もしやすくなります。
高齢世代の預金を若い世代の投資へ変える
日本の家計金融資産の6割超を60歳以上が保有しています。
そのため、現預金から投資への流れを考えるときには、世代間の資産移転も重要になります。
例えば祖父母が預金として持っていた60万円を孫へ贈与します。
孫側では、その資金をこどもNISAで投資信託などへ投資します。
すると、高齢世代の預金だった資金が、若い世代の長期投資資金へ変わります。
さらに孫には何十年という投資期間があります。
高齢世代に蓄積された金融資産と、若い世代が持つ長い時間を組み合わせることができます。
投資された資金は経済を循環する
家計が投資信託や株式などへ投資すると、その資金は資本市場へ向かいます。
企業は資本市場から得た資金などを使って事業を拡大します。
研究開発。
設備投資。
新規事業。
デジタル化。
海外展開。
こうした企業活動が成長につながれば、雇用や賃金にも影響します。
家計が保有する金融資産を単に預金から投資へ移せば必ず経済が成長するという単純な話ではありません。
それでも、家計の長期資金が企業の成長資金へ向かう経路を広げることには意味があります。
こどもNISAには、その入口を若い世代まで広げる役割があります。
投資するだけでは十分ではない
現預金から投資へ資金を動かす政策では、投資額を増やすことだけを目標にしてはいけません。
投資には価格変動があります。
元本保証もありません。
手数料の違いもあります。
金融商品の内容を理解せずに投資すれば、思わぬ損失につながる可能性があります。
だからこそ、こどもNISAでは金融教育も重要になります。
なぜ投資するのか。
なぜ長期で考えるのか。
なぜ分散するのか。
なぜ短期的な値下がりだけで売却しないのか。
こうした基本的な考え方を、親子で学ぶことが重要です。
家計金融資産の構成が変われば日本経済も変わる
1,100兆円超という現預金は非常に大きな金額です。
そのすべてを投資へ移す必要はありません。
仮に一部でも長期投資へ向かえば、資金の流れには大きな変化が生じる可能性があります。
さらに重要なのは、次の世代が最初から預金だけではなく、預金と投資を使い分ける習慣を身につけることです。
子どもの頃から長期、積み立て、分散投資を経験すれば、成人後の資産形成にもつながります。
こどもNISAは、単に新しい非課税口座を増やすだけではなく、日本人のお金の持ち方そのものを長期的に変える可能性があります。
結論
日本の家計金融資産は約2,500兆円あり、そのうち1,100兆円超、約45%が現金や預金として保有されています。
現預金は生活資金や緊急資金を確保するために欠かせません。
しかし、インフレが続く環境では、長期間使わない資金まで現預金だけで保有することには、購買力が低下するリスクがあります。
重要なのは、預金をなくして投資へ移すことではありません。
近い将来使うお金は預金で守り、長期間使わないお金について投資を組み合わせることです。
こどもNISAは、その考え方を0歳から取り入れる制度になります。
さらに祖父母の預金を孫へ移し、若い世代の長期投資資金へ変えることができれば、世代間の資産移転にもつながります。
日本に蓄積された1,100兆円超の現預金をどのように生かすのか。
こどもNISAは、家計の資産形成だけではなく、日本経済全体のお金の流れを考えるきっかけにもなる制度なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日 朝刊 「こどもNISA」を経済活性化の契機に