会社が保有する株式などの有価証券は、保有目的によって会計上の取り扱いが異なります。
その中には、決算時の時価によって評価し、取得価額との差額をその他有価証券評価差額金として純資産の部に計上するものがあります。
ここで少し不思議なことが起こります。
株式をまだ売却していないにもかかわらず、値上がりによって含み益が生じると、税効果会計によって繰延税金負債が計上されることがあるのです。
今回の参考記事では、繰延税金負債を計上するときに法人税等調整額が使われるケースが説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
その他有価証券では、さらに一歩進んで、損益計算書を通さない評価差額について税効果を考えることがポイントになります。
その他有価証券とは何か
会社が保有する有価証券にはさまざまなものがあります。
短期的な値上がり益を得る目的で保有するものもあれば、取引関係の維持などを目的として長期間保有する株式もあります。
こうした有価証券のうち、売買目的有価証券や満期保有目的の債券などとは異なる区分に入るものが、その他有価証券です。
その他有価証券については、決算時に時価で評価することがあります。
たとえば1000万円で取得した株式の決算時の時価が1500万円になっていれば、500万円の評価差額が生じます。
ただし、この500万円を通常の売却益と同じように考えるわけではありません。
まだ株式を売却していないからです。
含み益はまだ実現した利益ではない
株式を1000万円で購入し、その時価が1500万円になったとしても、会社がその株式を保有し続けているのであれば、500万円を現金で受け取ったわけではありません。
このような値上がり分を一般に含み益と呼びます。
その他有価証券の評価差額については、一定の会計処理のもとで純資産の部にその他有価証券評価差額金として計上されます。
つまり、
取得価額は1000万円
会計上の時価は1500万円
評価差額は500万円
という状態になります。
ここで税務との違いが問題になります。
税務上の金額とはズレが生じる
会計上で株式を1500万円に評価したとしても、税務上も同じように1500万円になるとは限りません。
仮に税務上の帳簿価額が取得価額の1000万円のままであれば、
会計上の帳簿価額は1500万円
税務上の帳簿価額は1000万円
となります。
両者には500万円の差があります。
参考記事では、税効果会計について、企業会計上の資産または負債の額と課税所得計算上の資産または負債の額に一時差異がある場合、その差異に係る法人税等を適切な会計期間に配分する手続きと説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
その他有価証券でも、この会計と税務の資産額の違いが税効果会計につながります。
将来売却すると税金が発生する
なぜ含み益に対して税効果を考える必要があるのでしょうか。
先ほどの株式を将来1500万円で売却したとします。
税務上の帳簿価額が1000万円であれば、単純化すると500万円の売却益が生じます。
その500万円は将来の課税所得を増やす方向に働きます。
つまり、決算時点ではまだ売却していないため実際の税金は発生していなくても、現在存在している500万円の評価差額には将来の税負担が潜んでいると考えることができます。
このように、一時差異が将来解消するときに課税所得を増加させるものが将来加算一時差異です。
含み益から繰延税金負債が生じる
簡単な数字で考えてみます。
その他有価証券について500万円の将来加算一時差異があり、税率を30パーセントと仮定します。
税効果額は、
500万円掛ける30パーセント
で150万円です。
将来500万円の差が解消するときに税負担が生じると考えれば、その税金への影響として150万円の繰延税金負債を認識することになります。
したがって、500万円の含み益があったからといって、その500万円すべてを税効果考慮後の純資産の増加と考えるわけではありません。
単純化すれば、
評価差額500万円
税効果150万円
税効果考慮後350万円
という関係になります。
現在は税金を支払っていなくても、将来の税負担まで考えて決算書に反映させるわけです。
特別償却準備金との共通点
今回の参考記事では、繰延税金負債が生じる例として特別償却準備金が取り上げられています。
5000千円の機械について取得価額の30パーセントに当たる1500千円を特別償却限度額とし、法定実効税率40パーセントを掛けた600千円を税効果額としています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250… 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
特別償却準備金とその他有価証券評価差額金では、取引の内容は大きく異なります。
しかし、
現在一時差異が存在している
その差が将来解消する
解消すると将来の課税所得を増やす
将来の税負担を繰延税金負債として認識する
という基本的な考え方には共通点があります。
損益計算書を通らない税効果がポイントになる
その他有価証券の税効果会計で特に重要なのが、これまで取り上げてきた税効果とは表示の仕方が異なる場合があることです。
参考記事では、法人税等調整額について、繰延税金資産や繰延税金負債を計上したり取り崩したりするときに、原則としてその相手勘定科目として使用すると説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
一方、その他有価証券の評価差額は、そもそも通常の当期損益として処理されるものではなく、純資産の部に計上されるものがあります。
そのため、それに対応する税効果についても、単純に法人税等調整額を通じて当期の税金費用を増減させると考えるわけではありません。
評価差額とそれに対応する税効果を合わせて純資産に反映させることがポイントです。
含み損の場合には反対方向になる
株価は上昇するとは限りません。
1000万円で取得したその他有価証券の時価が700万円になれば、300万円の評価差額がマイナス方向に生じます。
一定の前提のもとで、この差が将来解消するときに課税所得を減少させる効果があるのであれば、繰延税金資産の方向で税効果を考えることになります。
つまり、
含み益なら将来の税負担増加
含み損なら将来の税負担軽減
という方向から考えると理解しやすくなります。
ただし、繰延税金資産については、将来その税負担軽減効果を利用できるかという回収可能性も考える必要があります。
単に含み損があるというだけで、無条件に税効果を資産として認識できるわけではありません。
決算書では税引後の評価差額を見る
その他有価証券評価差額金を見るときには、株式などの値上がり額そのものと同じだと考えないことが重要です。
たとえば500万円の含み益が生じていても、将来その利益が実現すると税金が発生する可能性があります。
そこで、その将来の税負担を繰延税金負債として認識し、税効果を考慮した金額を純資産に反映させます。
税効果会計は損益計算書の法人税等を調整するためだけの仕組みではありません。
貸借対照表や純資産の部に計上される評価差額についても、将来の税金への影響を適切に反映させる役割があります。
結論
その他有価証券は、決算時に時価で評価され、その評価差額が純資産の部にその他有価証券評価差額金として計上されることがあります。
株式の時価が取得価額を上回れば含み益が生じますが、株式をまだ売却していないため、その時点では税務上の利益が実現していない場合があります。
その結果、会計上の資産額と税務上の資産額に一時差異が生じます。
その差が将来の売却などによって解消するときに課税所得を増加させるのであれば、将来加算一時差異となり、その税金への影響を繰延税金負債として認識します。
そして、その他有価証券の評価差額については、通常の損益計算書を通じた税効果とは異なり、評価差額とそれに対応する税効果を純資産に反映させる点が重要です。
税効果会計を理解すると、株式の含み益500万円がそのまま会社の純資産を500万円増やすとは限らない理由も見えてきます。
将来その利益にかかる税金まで考えて、現在の決算書に反映させるのが税効果会計だからです。
参考
企業実務 2026年9月 なるほど納得勘定科目 会計上の利益と税金の費用を対応させるには