繰延税金資産は、一度計上した金額がそのまま将来まで固定されるわけではありません。
法人税などの税率が変更されれば、すでに貸借対照表に計上されている繰延税金資産や繰延税金負債の金額にも影響することがあります。
なぜなら、繰延税金資産は将来の税負担を軽減する効果を、繰延税金負債は将来の税負担が増える効果を表しているからです。
将来適用される税率が変われば、同じ一時差異でも税金への影響額が変わります。
今回の参考記事では、貸倒引当金繰入限度超過額300千円に法定実効税率40パーセントを掛け、120千円の繰延税金資産を計上する例が紹介されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
この税率が変わったらどうなるのかを考えると、税率変更と税効果会計の関係が理解しやすくなります。
繰延税金資産は一時差異に税率を掛けて計算する
税効果会計では、会計と税務の間に生じている一時差異について、税金への影響を計算します。
参考記事では、税効果会計について、企業会計上の資産または負債の額と課税所得計算上の資産または負債の額に一時差異がある場合、その差異に係る法人税等を適切な会計期間に配分する手続きと説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
基本的な考え方を単純化すると、
一時差異掛ける税率
によって税金への影響額を求めます。
たとえば、将来減算一時差異が1000万円あり、税率が30パーセントであれば、税効果額は300万円です。
一定の要件を満たせば、この300万円を繰延税金資産として認識します。
つまり、繰延税金資産の金額は一時差異だけで決まるわけではありません。
計算に使用する税率によっても変わります。
税率が下がれば将来の節税効果も小さくなる
たとえば、1000万円の将来減算一時差異について、30パーセントの税率を使って300万円の繰延税金資産を計上していたとします。
その後、税率が25パーセントになることが税効果会計に反映される状況になったと仮定します。
一時差異が1000万円のままであれば、新しい税率による税効果額は、
1000万円掛ける25パーセント
で250万円になります。
従来計上していた繰延税金資産は300万円ですから、そのままにしておくと50万円多く資産を計上していることになります。
そこで、繰延税金資産を300万円から250万円へ減額する必要が生じます。
税率が下がれば、将来損金になる金額が同じでも、それによって減らせる税金の金額が小さくなるからです。
税率が上がれば将来の節税効果は大きくなる
反対に税率が上昇した場合を考えてみます。
1000万円の将来減算一時差異について、30パーセントの税率で300万円の繰延税金資産を計上していたとします。
その後、税率が35パーセントになることが税効果会計に反映される状況になれば、
1000万円掛ける35パーセント
で350万円となります。
従来の300万円から50万円増えることになります。
将来1000万円が損金になるという事実は同じでも、税率が高ければ、それによって軽減できる税負担も大きくなるためです。
このように、一時差異そのものに変化がなくても、税率の変更だけで繰延税金資産の金額が変わることがあります。
過去に計上した金額を再計算する理由
ここで疑問になるのが、なぜ過去の決算で計算した繰延税金資産まで見直すのかという点です。
繰延税金資産は、過去に支払った税金を記録している資産ではありません。
現在存在している一時差異が将来解消するときに、どれだけ税負担を軽減する効果があるかを表しています。
したがって、その将来の税負担軽減効果が変われば、現在の貸借対照表に計上している繰延税金資産も見直す必要があります。
税率が変わったにもかかわらず以前の税率で計算した金額を残してしまえば、将来の税金への影響を適切に表さなくなってしまいます。
法人税等調整額にも影響する
繰延税金資産の金額が変われば、その差額は税効果会計上の処理にも影響します。
参考記事では、繰延税金資産を計上するときには法人税等調整額を貸方に計上して税金費用を減額し、繰延税金資産を取り崩すときには法人税等調整額を借方に計上して税金費用を増額すると説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
たとえば税率低下によって繰延税金資産を300万円から250万円へ減額する場合、50万円分の繰延税金資産が減少します。
損益を通じて認識されている税効果であれば、その変動は法人税等調整額を通じて税金費用に影響することになります。
そのため、会社の事業そのものに大きな変化がなくても、税率変更によって法人税等調整額が動くことがあります。
繰延税金負債も再計算する
税率変更の影響を受けるのは、繰延税金資産だけではありません。
繰延税金負債についても同じ考え方です。
参考記事では、繰延税金負債を計上するときには法人税等調整額を借方に計上して税金費用を増額し、取り崩すときには税金費用を減額すると説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
たとえば1000万円の将来加算一時差異について、税率30パーセントで300万円の繰延税金負債を計上していたとします。
税率が25パーセントになれば、単純化すると250万円になります。
将来の税負担増加額が小さくなるため、繰延税金負債も減少する方向になります。
反対に税率が上昇すれば、将来の税負担増加額も大きくなるため、繰延税金負債は増加する方向になります。
すべての税効果が法人税等調整額に出るとは限らない
前回取り上げたその他有価証券評価差額金のように、税効果が通常の損益計算書を通じて認識されない項目もあります。
その場合、税率変更によって繰延税金資産や繰延税金負債が変動したとしても、必ずその全額が法人税等調整額として損益計算書に出てくるとは限りません。
税効果の元になった項目がどこに計上されているのかによって、税率変更による影響の反映先も考える必要があります。
これは、税効果会計を決算書から読み解くうえで重要なポイントです。
税率変更だけで利益が動くことがある
税率変更の影響を理解すると、決算書を見るときの視点も変わります。
たとえば会社の売上や本業の利益に大きな変化がないのに、法人税等調整額が大きく動くことがあります。
その原因の一つとして考えられるのが、繰延税金資産や繰延税金負債を計算する税率の変化です。
税率変更によって繰延税金資産が減少すれば、損益を通じて認識される部分では税金費用が増える方向に働くことがあります。
反対に、繰延税金負債が減少すれば税金費用を減らす方向に働くことがあります。
したがって法人税等調整額が大きく変化した場合には、単純に「会社が支払う税金が増えた」と判断するのではなく、その背景に税効果会計上の再計算がないかを見ることが重要です。
結論
繰延税金資産や繰延税金負債は、一時差異に税率を掛けることによって税金への影響を計算します。
そのため、税率が変更されれば、一時差異そのものが変わっていなくても税効果額が変わることがあります。
税率が下がれば、将来減算一時差異によって軽減できる税負担は小さくなり、繰延税金資産は減少する方向になります。
反対に税率が上がれば、将来の税負担軽減効果が大きくなり、繰延税金資産は増加する方向になります。
繰延税金負債についても同様に、将来の税負担を現在の税率前提で適切に表すため、必要に応じて再計算されます。
税効果会計では、過去にいくらの税率で計算したかではなく、一時差異が将来解消するときの税金への影響を現在の決算書にどう反映するかが重要です。
そのため税率変更は、実際の納税額だけでなく、すでに計上されている繰延税金資産や繰延税金負債、さらに法人税等調整額にも影響を与えることがあります。
参考
企業実務 2026年9月 なるほど納得勘定科目 会計上の利益と税金の費用を対応させるには