人生100年時代を迎え、単身高齢者や子どものいない夫婦の増加に伴い、民間の身元保証サービスへの関心が高まっています。
病院への入院や介護施設への入居、緊急時の対応、死亡後の手続きなどを、家族に代わって支援するサービスです。
2026年9月17日の日本経済新聞では、子どものいない高齢者が2050年に約1,000万人に達するという試算とともに、身元保証サービスの課題が紹介されました。
民間の身元保証サービスを提供する事業者は400以上あるとされていますが、その多くは小規模な事業者です。
利用者にとって気になるのは、契約内容や費用だけではありません。
自分が90歳や100歳になったときにも、契約した事業者が存在し、約束したサービスを提供してくれるのかという問題があります。
さらに、判断能力が低下した場合や死亡した場合に、預けたお金や財産が適切に管理されるかという不安もあります。
身元保証サービスは、家族に頼れない高齢者の生活を支える重要な仕組みですが、契約には慎重な判断が必要です。
今回は、身元保証サービスの仕組みと費用、事業者リスク、契約前に確認したい事項について考えます。
身元保証サービスが必要とされる背景
日本では、病院への入院や介護施設への入居に際して、家族や親族が身元保証人になることが一般的でした。
身元保証人には、緊急時の連絡、費用の支払いに関する対応、退院や退所時の調整、死亡後の手続きなどが期待される場合があります。
しかし、未婚者や離婚経験者、子どものいない夫婦が増えたことで、こうした役割を担う家族がいない人も増加しています。
また、子どもがいても遠方に住んでいたり、親子関係が疎遠だったりする場合があります。
2022年の総務省関東管区行政評価局の調査では、病院や介護施設の9割以上が身元保証人を求めていました。
一方、身元保証人がいない場合に受け入れを断ると回答した施設などもありました。
ただし、身元保証人がいないことだけを理由に、医療機関が正当な理由なく診療を拒むことは認められていません。
介護保険施設についても、身元保証人がいないことのみを理由にサービス提供を拒むことは適切ではありません。
それでも、緊急時の連絡や死亡後の手続きなどを誰が担うのかという実務上の問題は残ります。
こうした背景から、家族に代わる支援を提供する民間サービスへの需要が高まっているのです。
身元保証サービスには複数の役割がある
身元保証サービスという名称から、単に保証人になってくれるサービスを想像する人もいるかもしれません。
しかし、実際には複数のサービスを組み合わせて提供する事業者が多くあります。
まず、入院や介護施設への入居時の身元保証支援です。
施設との連絡調整や緊急連絡先の引受けなどを行います。
次に、日常生活支援です。
通院への付き添い、買い物の支援、行政手続きの補助などが含まれる場合があります。
さらに、財産管理支援があります。
預貯金の管理や生活費の支払いなどを支援するサービスです。
また、死亡後の手続きを支援する死後事務サービスもあります。
葬儀や納骨、住居の明け渡し、公共料金の解約などが対象になる場合があります。
ただし、これらのサービスは法律上の性質がそれぞれ異なります。
例えば、緊急連絡先を引き受けることと、医療行為への同意を行うことは同じではありません。
身元保証サービスを契約したからといって、事業者があらゆる医療判断を本人に代わって行えるわけではありません。
また、財産管理や死後事務については、適切な委任契約などが必要になります。
契約する際には、サービスの名称だけでなく、実際に何をしてもらえるのかを確認することが重要です。
契約費用は総額で考える必要がある
身元保証サービスを利用する際に注意したいのが費用です。
事業者によって料金体系は大きく異なります。
入会金や契約金が必要な場合があります。
毎月の会費や管理料が発生する場合もあります。
さらに、通院付き添いや緊急対応などについて、利用の都度料金が発生することがあります。
死亡後の葬儀や納骨、家財整理などに備えて、預託金を求められる場合もあります。
例えば、ある事業者の料金を次のように仮定します。
入会金が20万円です。
契約事務手数料が10万円です。
月額管理料が5,000円です。
死後事務のための預託金が80万円です。
この場合、契約時に必要な資金は110万円になります。
さらに、月額管理料は年間6万円です。
20年間利用すれば120万円になります。
契約時の110万円と合わせると、資金の拠出総額は230万円です。
ただし、このうち80万円は死後事務に備える預託金であり、直ちにサービスの対価として費消されるものとは限りません。
実際の費用負担を判断する際には、返還される可能性のある預託金と、返還されない手数料などを区別する必要があります。
また、この試算には個別の付き添い費用や緊急対応費用などは含んでいません。
料金表に記載された入会金だけで判断するのではなく、生涯にわたる総負担額を確認することが重要です。
預託金の管理方法が重要になる
身元保証サービスで特に注意したいのが、預託金の管理です。
預託金は、将来の葬儀や納骨、家財整理などの費用に充てる目的で、利用者が事業者に預けるお金です。
しかし、事業者が預託金をどのように管理しているかによって、リスクは大きく異なります。
例えば、事業者の運転資金と利用者の預託金が明確に分けられていない場合、事業者の経営が悪化すると問題が生じる可能性があります。
事業者が倒産した場合、預託金が全額返還されるとは限りません。
また、契約を途中で解約した場合に、預託金のどの部分が返還されるのかも重要です。
契約書には、預託金の使途、管理方法、返還条件、精算方法などが明記されていることが望まれます。
利用者の財産を守るためには、事業者の資金と利用者の資金を分けて管理する仕組みが重要です。
信託銀行などを利用した保全方法が採用されている場合には、その具体的な仕組みや保全範囲を確認する必要があります。
単に分別管理しているという説明だけで、倒産時の返還が保証されるわけではありません。
預託金は、利用者の老後資金の一部です。
その安全性を十分に確認することが必要です。
事業者が倒産した場合はどうなるのか
身元保証サービスは、契約期間が非常に長くなる可能性があります。
例えば、65歳で契約し、100歳まで生きた場合、35年間にわたる契約になります。
その間に、事業者の経営状況が変化することも考えられます。
経営者の高齢化や人材不足によって、サービスの継続が難しくなる可能性もあります。
また、事業者が他社に事業を譲渡したり、廃業したりする場合もあります。
重要なのは、事業者がサービスを提供できなくなった場合の対応です。
契約書に、事業停止時の取扱いや預託金の返還方法、他の事業者への引継ぎなどが定められているかを確認する必要があります。
ただし、契約書に引継ぎの規定があっても、実際に引き受ける事業者が確保できるとは限りません。
また、契約先の事業者が倒産すれば、利用者自身が新しい事業者を探さなければならなくなる可能性があります。
高齢になり、判断能力や身体機能が低下してから契約先を変更することは容易ではありません。
身元保証サービスでは、現在の料金やサービス内容だけでなく、長期的な事業継続性を確認することが重要なのです。
死後事務委任契約は何をしてくれるのか
単身者が亡くなった後の手続きを支える仕組みとして、死後事務委任契約があります。
死後事務委任契約は、本人が生前に、死亡後の一定の事務を第三者へ委任する契約です。
例えば、葬儀や納骨に関する手続きがあります。
賃貸住宅の明け渡しや家財整理に関する対応も考えられます。
公共料金や各種サービスの解約手続きなども、契約内容に含める場合があります。
ただし、死後事務委任契約で対応できる範囲には法律上の限界があります。
例えば、相続財産を誰に取得させるかという問題は、原則として遺言や相続制度によって処理されます。
死後事務委任契約だけで、相続人の権利を自由に変更できるわけではありません。
また、賃貸借契約の終了や家財の処分についても、相続人の権利や契約関係を踏まえた適切な手続きが必要です。
死後事務委任契約は、遺言書の代わりになるものではありません。
財産承継と死亡後の事務処理を分けて考えることが重要です。
任意後見契約との違いを理解する
身元保証サービスを検討する際には、任意後見制度との違いも理解しておく必要があります。
任意後見制度は、判断能力が十分にあるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、支援を依頼する人や事務内容を契約で定める制度です。
任意後見契約は、公正証書によって締結する必要があります。
その後、本人の判断能力が不十分となり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から効力が生じます。
任意後見人は、契約で定められた代理権の範囲内で財産管理や各種契約などを支援します。
一方、身元保証サービスは、事業者との契約に基づいて緊急連絡や生活支援などを提供するものです。
両者は役割が異なります。
また、任意後見契約だけでは、本人が亡くなった後の事務をすべて処理できるわけではありません。
そのため、必要に応じて財産管理等委任契約、任意後見契約、遺言書、死後事務委任契約などを組み合わせることが考えられます。
ただし、契約を増やせばよいというものではありません。
それぞれの役割を明確にし、費用や権限の重複を避けることが重要です。
財産管理とサービス提供を同じ事業者に任せるリスク
身元保証サービスでは、同じ事業者が生活支援、財産管理、死後事務などを一括して引き受ける場合があります。
利用者にとっては、窓口が一つで済むという利点があります。
しかし、同じ事業者が利用者の財産を管理し、その財産から自社のサービス料金を受け取る場合には、利益相反の問題が生じる可能性があります。
例えば、利用者が判断能力を失った後、必要性の低いサービスが追加されても、本人が適切に判断できないおそれがあります。
また、利用者の預貯金から料金が引き落とされる仕組みでは、第三者による確認がなければ、不適切な支出を発見しにくくなる可能性があります。
そのため、財産管理とサービス提供を分けることも検討に値します。
例えば、生活支援は民間事業者に依頼し、財産管理については別の専門家などに相談する方法があります。
ただし、専門家に依頼する場合にも費用が発生し、すべてのリスクがなくなるわけではありません。
重要なのは、誰が財産を管理し、誰が支出を確認するのかという役割分担を明確にすることです。
国のガイドラインと業界団体の役割
高齢者等終身サポート事業を巡っては、契約内容の不明確さや預託金の管理などが問題となってきました。
こうした状況を受け、国は2024年に高齢者等終身サポート事業者ガイドラインを策定しました。
ガイドラインでは、契約内容の説明、利用者の意思の尊重、預託金の適切な管理、サービス提供体制などが重要な事項とされています。
また、2025年8月には、全国高齢者等終身サポート事業者協会が発足しました。
業界団体の設立は、事業者のサービス品質や透明性を高めるための動きとして注目されます。
ただし、業界団体に加入していることだけで、事業者の安全性が保証されるわけではありません。
また、国のガイドラインは、すべての事業者について経営の健全性や預託金の返還を保証する制度ではありません。
利用者自身が契約内容を確認し、必要に応じて第三者へ相談することが重要です。
契約前に確認したい10の事項
身元保証サービスを契約する前には、少なくとも次の事項を確認したいところです。
第一に、サービスの範囲です。
入院時の対応、緊急連絡、生活支援、財産管理、死後事務のうち、何が契約に含まれているのかを確認します。
第二に、契約時の費用です。
入会金、事務手数料、預託金などを区別して確認します。
第三に、継続費用です。
月額料金や年額料金、個別サービスの追加料金を確認します。
第四に、預託金の管理方法です。
事業者の資金と分けて管理されているか、倒産時にどのような保全があるかを確認します。
第五に、解約条件です。
途中解約した場合の返金額や違約金を確認します。
第六に、事業者の経営状況です。
事業年数、財務状況、運営体制など、確認できる情報を調べます。
第七に、緊急時の対応体制です。
夜間や休日にも対応できるのか、実際に誰が駆け付けるのかを確認します。
第八に、判断能力が低下した場合の対応です。
認知症になった後も契約を継続できるのか、誰がサービス内容を確認するのかを把握します。
第九に、死亡後の手続きです。
葬儀、納骨、家財整理、賃貸住宅の明け渡しなどについて、具体的な対応範囲を確認します。
第十に、事業停止時の対応です。
事業者が廃業や倒産をした場合に、契約や預託金がどう扱われるのかを確認します。
これらを口頭説明だけで済ませず、契約書や重要事項説明書などの書面で確認することが重要です。
身元保証サービスを契約する前に相談したい窓口
身元保証サービスは、契約期間が長く、費用も高額になる場合があります。
そのため、契約前に第三者へ相談することが望まれます。
まず、自治体の高齢者福祉担当窓口や地域包括支援センターがあります。
地域の支援制度や相談先について情報を得られる場合があります。
また、消費生活センターでは、契約内容や解約条件などに関する消費者トラブルについて相談できます。
法律上の問題がある場合には、弁護士などの専門家への相談も考えられます。
相続や遺言、財産管理、死後事務などについては、それぞれの業務に対応できる専門家を選ぶ必要があります。
重要なのは、身元保証サービスの営業担当者だけの説明で契約を決めないことです。
複数の事業者を比較し、必要に応じて第三者の意見を聞くことが、契約トラブルの防止につながります。
結論
身元保証サービスは、単身高齢者や子どものいない夫婦が安心して暮らすための重要な選択肢です。
しかし、契約すれば老後のすべての問題が解決するわけではありません。
サービスの範囲、費用、預託金の管理、事業者の継続性などについて、慎重な確認が必要です。
特に、65歳で契約して100歳まで生きる場合には、35年間にわたってサービスを利用する可能性があります。
その間に事業者の経営状況が変化することも考えられます。
また、認知症などで判断能力が低下した後には、自分で契約内容を見直すことが難しくなる可能性があります。
人生100年時代には、身元保証サービスを単なる保証人の代替として考えるのではなく、財産管理、任意後見、遺言、死後事務などを含めた総合的な生活支援の一部として位置付けることが重要です。
さらに、民間事業者だけに依存するのではなく、自治体や社会福祉協議会、専門家などとの連携も必要になります。
子どもや親族がいなくても、安心して老後を迎えられる社会を実現するためには、サービスの質と利用者保護の両立が欠かせません。
身元保証サービスを選ぶ際に最も重要なのは、契約時の安心感ではなく、将来本当に支援が必要になったときに、約束されたサービスを受けられるかという視点なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日 子のない高齢者1000万人に、終のすみかは 結婚しても「いずれ一人」
日本経済新聞 2026年9月18日 高齢者賃貸、孤独死懸念で厳しく おひとり様「住宅政策の蚊帳の外」
内閣官房ほか 2024年6月 高齢者等終身サポート事業者ガイドライン