就職氷河期世代が40代から50代となり、老後の住宅確保が大きな社会課題になっています。
非正規雇用や低賃金によって十分な金融資産を形成できなかった人にとって、退職後も家賃を支払い続けることは容易ではありません。
さらに、高齢になると、家賃を支払う能力があっても、年齢や保証人の問題によって賃貸住宅への入居を断られる場合があります。
2026年9月18日の日本経済新聞では、単身者が従来の住宅政策から取り残されてきた実態が紹介されました。
日本の住宅政策は長年、夫婦と子どもからなる世帯を中心に設計されてきました。
しかし、未婚者や離婚経験者、子どものいない夫婦が増え、従来の家族像を前提とした制度では対応が難しくなっています。
こうした状況を改善するため、2025年10月には改正住宅セーフティネット法が施行されました。
新たに居住サポート住宅の制度が始まり、住宅確保と生活支援を組み合わせる仕組みが整備されています。
果たして、この制度は単身者の老後の住まいを守ることができるのでしょうか。
住宅セーフティネット制度とは何か
住宅セーフティネット制度は、住宅を確保することが難しい人が、安心して暮らせる住まいを確保するための制度です。
対象となる住宅確保要配慮者には、低所得者、高齢者、障害者、子育て世帯などが含まれます。
住宅確保要配慮者に対する支援は、単に家賃の安い住宅を提供することだけではありません。
民間賃貸住宅への入居を円滑にすることや、入居後の生活を支援することも重要な目的です。
例えば、高齢の単身者が住宅を借りようとしても、貸主が孤独死や家賃滞納を心配して入居を認めない場合があります。
このような場合、家賃保証や見守り、福祉サービスなどを組み合わせることで、貸主と借主の双方の不安を軽減することが期待されます。
住宅セーフティネット制度は、住宅市場だけでは解決できない問題に対して、公的な支援を組み合わせる仕組みといえます。
なぜ単身高齢者は住宅を借りにくいのか
高齢者が賃貸住宅を借りにくい理由の一つは、貸主側のリスク認識です。
高齢者の場合、病気や認知症によって生活に支障が生じる可能性があります。
単身者であれば、室内で倒れても発見が遅れるおそれがあります。
また、死亡後に親族と連絡が取れなければ、家財の整理や賃貸借契約の終了などが難しくなる場合があります。
高齢者専門の不動産仲介会社R65不動産の2025年の調査では、65歳を超えて賃貸住宅を探した人の約3人に1人が、年齢を理由に入居を断られた経験があるとされています。
この数字は、高齢者全体の3分の1が住宅を借りられないという意味ではありません。
しかし、住宅を探す高齢者の中で、年齢が実際の障壁になっていることを示しています。
住宅が空いていても、高齢者が入居できるとは限らないのです。
公営住宅は低所得単身者の受け皿になるのか
住宅セーフティネットの代表的な仕組みが、公営住宅です。
公営住宅は、住宅に困窮する低所得者に対して、地方公共団体が比較的低廉な家賃で住宅を提供する制度です。
家賃は、入居者の収入や住宅の立地、規模などに応じて決まります。
例えば、民間賃貸住宅では月7万円の家賃が必要な地域でも、公営住宅に入居できれば、住居費を大幅に抑えられる場合があります。
仮に家賃が月7万円から3万円になれば、毎月4万円の負担軽減です。
年間では48万円です。
20年間では960万円になります。
老後の生活費にとって、大きな違いです。
ただし、公営住宅には課題があります。
まず、入居できる住宅の数が限られています。
地域によっては応募者が多く、抽選で入居者を決定する場合があります。
また、単身者が申し込める住宅や条件は、自治体によって異なります。
高齢者や障害者などに対象を限定した単身者向け募集が設けられている場合もあります。
そのため、低所得であれば誰でも希望する公営住宅に入居できるわけではありません。
公営住宅の入居条件は自治体によって異なる
公営住宅を利用する際には、所得要件だけでなく、入居資格を確認する必要があります。
例えば、単身者の入居を認める住宅であっても、年齢や障害の有無などによって申込条件が異なる場合があります。
また、自治体によっては、住宅に困窮している事情や居住要件などを確認することがあります。
さらに、入居できる住宅が希望する地域にあるとは限りません。
駅から遠い住宅や、築年数の古い住宅が中心となる場合もあります。
高齢者にとっては、家賃の安さだけでなく、病院やスーパーへのアクセス、エレベーターの有無、段差の少なさなどが重要です。
公営住宅に入居できても、生活の利便性が低ければ、将来の住み替えが必要になる可能性があります。
公営住宅は重要な支援制度ですが、供給戸数と住宅の質の両面で改善が求められます。
UR賃貸住宅という選択肢
単身者が住宅を確保する方法として、UR賃貸住宅も考えられます。
UR賃貸住宅は、都市再生機構が管理する賃貸住宅です。
原則として礼金、仲介手数料、更新料が不要であり、通常の民間賃貸住宅のような連帯保証人も不要です。
そのため、親族に保証人を頼みにくい単身者にとっては、有力な選択肢となる場合があります。
ただし、UR賃貸住宅には一定の収入基準や貯蓄基準などがあります。
また、家賃が必ずしも低廉とは限りません。
都市部では、民間賃貸住宅と同程度の家賃が必要になる場合もあります。
例えば、年金収入が月12万円の単身者にとって、家賃8万円の住宅は大きな負担です。
連帯保証人が不要であっても、家賃を継続して支払えるかという問題は残ります。
UR賃貸住宅は保証人問題を軽減する選択肢ですが、低所得高齢者の住宅問題を全面的に解決する制度ではありません。
2025年の法改正で始まった居住サポート住宅
2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法では、居住サポート住宅の制度が創設されました。
居住サポート住宅は、住宅確保要配慮者に対して、安否確認や見守りなどの支援を提供する住宅です。
入居者の生活状況を把握し、必要に応じて福祉サービスなどにつなぐことを目的としています。
例えば、単身高齢者が居住サポート住宅に入居した場合、日常的な安否確認を受けられる仕組みが設けられます。
また、生活上の問題が生じた際には、適切な支援機関につなぐことが期待されます。
貸主にとっても、見守り体制が整うことで、入居者に何かあった場合の不安を軽減できる可能性があります。
重要なのは、住宅の提供と生活支援を一体として考える点です。
従来の住宅政策では、住宅を確保した後の生活支援が十分ではない場合がありました。
居住サポート住宅は、その課題を改善するための制度といえます。
居住サポート住宅は介護施設とは異なる
居住サポート住宅については、介護施設やサービス付き高齢者向け住宅と混同しないことが重要です。
居住サポート住宅は、住宅確保要配慮者の居住を支援するための住宅です。
原則として、入居者は賃貸住宅で生活します。
安否確認や見守りなどの支援は提供されますが、介護施設のように24時間の介護サービスが当然に提供されるわけではありません。
また、医療サービスが常時提供される制度でもありません。
介護が必要になった場合には、介護保険サービスなどを別途利用することになります。
例えば、要介護状態になった高齢者が居住サポート住宅に住み続ける場合、訪問介護や訪問看護などの利用が必要になることがあります。
ただし、住宅の設備や支援体制によっては、住み続けることが難しくなる場合もあります。
居住サポート住宅は、高齢者の生活を支える重要な仕組みですが、終身にわたる介護や医療を保証する住宅ではないのです。
見守りサービスの費用負担はどうなるのか
居住サポート住宅では、住宅の家賃だけでなく、支援サービスの費用についても確認する必要があります。
制度上の具体的な費用負担は、住宅や支援内容などによって異なります。
ここでは、家計への影響を考えるために仮の数字を使います。
家賃が月5万円の住宅を想定します。
共益費が月5,000円です。
さらに、見守りなどの支援に関連する費用が月5,000円かかると仮定します。
この場合、毎月の住宅関連支出は6万円になります。
年間では72万円です。
年金の手取り収入が月12万円であれば、住宅関連支出を差し引いた残額は6万円です。
この6万円で食費、光熱費、通信費、医療費などを賄う必要があります。
住宅確保の支援があっても、家計そのものに余裕が生まれるとは限りません。
低所得の高齢者にとっては、住宅の確保と家賃負担の軽減を一体で考える必要があります。
空き家が増えても住宅問題が解決しない理由
日本では人口減少に伴い、空き家が増加しています。
住宅が余っているのであれば、単身高齢者の住まいも確保しやすくなるように思えます。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
空き家がある地域と、高齢者が住みたい地域が一致するとは限らないからです。
例えば、地方の交通不便な地域に空き家があっても、都市部で働く50代の単身者が簡単に移住できるわけではありません。
また、空き家の中には、老朽化によって大規模な修繕が必要な住宅もあります。
断熱性能や耐震性能に問題がある場合もあります。
さらに、所有者が不明確であったり、相続手続きが完了していなかったりする住宅では、賃貸住宅として活用することが難しい場合があります。
空き家を住宅セーフティネットとして活用するためには、改修費用の支援や所有者との調整、管理体制の整備などが必要です。
空き家の数が多いことと、安心して住める住宅が十分にあることは同じではないのです。
居住支援法人の役割が重要になる
住宅セーフティネット制度を実際に機能させるうえで、重要な役割を担うのが居住支援法人です。
居住支援法人は、都道府県から指定を受け、住宅確保要配慮者の入居支援などを行う法人です。
例えば、住宅探しの相談や、入居に関する情報提供などを行います。
また、地域や法人によっては、見守りや生活相談などの支援に取り組んでいます。
単身高齢者にとっては、不動産会社だけでは解決できない問題を相談できる窓口となります。
例えば、緊急連絡先がいない場合や、家賃保証会社の審査に不安がある場合などに、利用可能な支援制度を確認できる可能性があります。
ただし、居住支援法人がすべての地域で十分に活動しているわけではありません。
支援内容や対応できる範囲は、法人ごとに異なります。
また、相談者の増加に対して、専門人材や運営資金が不足する可能性もあります。
制度を広く普及させるためには、居住支援法人の活動を継続的に支える仕組みが必要です。
住宅政策と福祉政策の連携が欠かせない
単身高齢者の住宅問題は、住宅政策だけでは解決できません。
例えば、家賃の安い住宅を確保できても、認知症によって生活管理が難しくなれば、支援が必要になります。
また、病気によって働けなくなり、家賃を支払えなくなる場合もあります。
このような問題に対応するためには、住宅政策と福祉政策の連携が重要です。
住宅担当部門は、入居できる住宅の確保や貸主との調整を担います。
福祉担当部門は、生活困窮者支援や高齢者福祉、介護サービスなどにつなぐ役割を担います。
さらに、地域包括支援センターや社会福祉協議会、医療機関などとの連携も必要です。
単身者が住宅を失う前に支援へつながることができれば、生活の不安定化を防げる可能性があります。
住宅を確保することは、生活を守るための出発点です。
住み始めた後も安心して暮らせる仕組みがなければ、住宅セーフティネットとして十分に機能しないのです。
50代から確認しておきたい住宅支援制度
就職氷河期世代が老後に備えるためには、50代のうちから利用可能な住宅支援制度を確認しておくことが重要です。
まず、現在住んでいる自治体の公営住宅制度を調べます。
単身者の入居条件や所得要件、募集時期などを確認します。
次に、UR賃貸住宅の入居条件を確認します。
連帯保証人が不要であることに加え、収入や貯蓄の基準を満たせるかを調べます。
さらに、居住サポート住宅の供給状況を確認します。
希望する地域に認定住宅があるか、家賃や見守りサービスの内容が自分に合っているかを検討します。
また、自治体の居住支援窓口や居住支援法人についても情報を集めます。
高齢になってから住宅を探し始めると、希望する条件の住宅が見つからない可能性があります。
健康で判断能力が十分にあるうちから、将来の選択肢を把握しておくことが大切です。
結論
住宅セーフティネット制度は、単身高齢者や低所得者の住まいを守るために欠かせない仕組みです。
公営住宅は、低所得者の家賃負担を軽減する重要な役割を担っています。
UR賃貸住宅は、連帯保証人を確保しにくい単身者にとって有力な選択肢となります。
また、2025年に始まった居住サポート住宅は、住宅の提供と生活支援を組み合わせる新たな制度として期待されます。
しかし、いずれの制度にも課題があります。
公営住宅は供給戸数が限られ、単身者の入居条件も自治体によって異なります。
UR賃貸住宅は、家賃や収入基準の問題があります。
居住サポート住宅は、住宅の供給や支援人材の確保が課題です。
人生100年時代には、家族がいないことや高齢であることを理由に、住まいの選択肢が狭まる社会を変えていく必要があります。
そのためには、住宅を増やすだけでなく、家賃負担の軽減、保証人問題への対応、見守り、福祉サービスなどを一体として整備することが重要です。
就職氷河期世代の住宅問題は、個人の努力だけでは解決できません。
誰もが高齢になっても安心して住み続けられる住宅セーフティネットを構築できるかどうかが、これからの日本社会に問われているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月18日 高齢者賃貸、孤独死懸念で厳しく おひとり様「住宅政策の蚊帳の外」
日本経済新聞 2026年9月14日 就職氷河期おひとり様「家借りるのも大変」 見えぬワンルーム8畳の先
国土交通省 2025年10月 改正住宅セーフティネット法の施行と居住サポート住宅制度