育児休業は昇進の障害になるのか マミートラックからの脱却

人生100年時代
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育児休業制度や短時間勤務制度が充実する一方で、育児休業から復帰した社員のキャリア形成が新たな経営課題となっています。

育児休業を取得し、職場に復帰できる環境が整っていても、その後の昇進や管理職登用につながらないケースがあります。

育児との両立に配慮するため、責任の軽い仕事を任せたり、重要なプロジェクトから外したりすることが、その後のキャリア形成に影響する場合があるからです。

こうした状況は、一般にマミートラックと呼ばれています。

本人が希望して仕事の負担を軽くする場合もありますが、一度その働き方を選択すると、管理職への昇進が難しくなることもあります。

2026年10月26日の日本経済新聞では、大東建託で育児との両立を理由に昇進を諦めていた女性社員が、再び管理職への挑戦機会を得た事例が紹介されました。

この事例は、育児休業後のキャリア形成を考えるうえで重要な示唆を与えています。

育児休業を取得できることと、育児休業後も公平に昇進できることは、必ずしも同じではありません。

企業には、育児と仕事の両立支援に加えて、長期的なキャリア形成を支える人事制度が求められています。

マミートラックとは何か

マミートラックとは、出産や育児を経験した社員が、仕事と家庭の両立を優先する過程で、昇進や責任ある仕事から遠ざかってしまう状況を指します。

例えば、育児休業から復帰した社員に対して、上司が負担を軽くするために定型的な業務を中心に任せる場合があります。

本人の希望に沿った対応であれば、合理的な働き方の選択といえます。

しかし、本人が責任のある仕事を希望しているにもかかわらず、育児中であることを理由に重要な業務から外されるのであれば問題です。

また、一時的に仕事の負担を軽くした社員が、その後も管理職候補者として評価されなくなる場合があります。

子どもの成長によって家庭の状況が変化しても、以前の働き方が昇進評価に影響し続けるのです。

こうした仕組みでは、育児と仕事の両立を選択することが、長期的なキャリア形成に不利に働く可能性があります。

重要なのは、育児中の社員に一律の働き方を求めることではありません。

本人の希望や家庭環境の変化に応じて、働き方やキャリア形成を柔軟に選択できることです。

育児休業制度の充実だけでは解決しない

日本では、育児休業制度の整備が進み、男性の育児休業取得も広がっています。

企業にとって、育児休業を取得しやすい環境を整備することは重要です。

しかし、育児休業の取得率が高いことだけで、育児と仕事の両立支援が成功しているとはいえません。

育児休業から復帰した後に、どのような仕事を任され、どのような評価を受けるかが重要だからです。

例えば、育児休業前には管理職候補者として期待されていた社員が、復帰後に責任の軽い業務へ配置される場合があります。

その結果、管理職に必要な経験を積む機会が減少し、昇進が遅れる可能性があります。

また、短時間勤務制度を利用する社員について、勤務時間が短いことを理由に評価を低くする場合も考えられます。

もちろん、実際の業務成果や責任の範囲に応じた評価は必要です。

しかし、労働時間の長さだけで能力や将来性を判断することは適切ではありません。

企業は、育児休業の取得率や復職率だけでなく、復職後の配置、評価、昇進状況まで確認する必要があります。

育児休業制度の充実とキャリア形成支援を一体として考えることが重要です。

大東建託が示した管理職への再挑戦

大東建託では、2021年に女性管理職の登用目標を設定するクオータ制を導入しました。

当時の女性管理職比率は4.6%でしたが、2024年には6.5%となり、当初目標の6.0%を達成しました。

現在は2030年に10.0%を目指しています。

この取り組みのなかで、育児との両立を理由に昇進を諦めていた女性社員が、再び管理職へ挑戦する機会を得ました。

日本経済新聞によると、この女性社員は、かつて管理職手前まで昇進していました。

しかし、子育てとの両立が難しくなり、仕事の負担を軽くしてもらった経験があります。

その後は、管理職への昇進を諦めていたといいます。

ところが、女性管理職の登用を進めるなかで、再び管理職候補者として評価され、2025年に課長へ昇進しました。

この事例が示しているのは、一度キャリアの進路を変更した社員であっても、再び管理職を目指せるということです。

育児や介護などによって一時的に仕事の負担を軽くしたことが、その後の昇進機会を永久に失わせる理由になってはなりません。

企業には、社員の家庭環境や本人の希望の変化を踏まえ、キャリア形成を柔軟に支援する姿勢が求められます。

上司の配慮が昇進機会を奪う場合

マミートラックが生じる背景には、上司による善意の配慮がある場合もあります。

例えば、育児中の社員に負担をかけないよう、重要なプロジェクトの担当から外すことがあります。

急な残業や出張が必要になる仕事を任せないという判断も考えられます。

こうした配慮自体が、必ずしも問題というわけではありません。

しかし、本人の希望を確認せずに上司が一方的に判断すれば、成長機会を制限することになります。

育児中であっても、責任のある仕事に挑戦したいと考える社員もいます。

一方で、一定期間は家庭との両立を優先したいと考える社員もいるでしょう。

重要なのは、本人の希望を確認し、仕事の内容や働き方を調整することです。

例えば、重要なプロジェクトを担当しながら、勤務時間や会議の開催方法を工夫することも考えられます。

また、複数の社員で業務を分担し、特定の社員に負担が集中しない仕組みを整備する方法もあります。

上司が育児中の社員を保護する対象としてだけ捉えるのではなく、能力を発揮できる人材として評価することが重要です。

昇進評価における労働時間の問題

日本企業では、長時間労働や残業への対応力が、管理職候補者の評価に影響する場合があります。

しかし、長時間働けることと、管理職として優れた能力を持つことは同じではありません。

管理職に求められるのは、組織の目標を達成し、部下の能力を引き出すことです。

限られた時間で成果を上げる能力や、業務を適切に分担する能力も重要になります。

短時間勤務制度を利用している社員であっても、高い専門能力や組織運営能力を持っている場合があります。

そのため、労働時間の長さだけで管理職への適性を判断することには問題があります。

一方で、管理職として必要な責任を果たせるかどうかは、適切に評価する必要があります。

例えば、緊急時の対応や部下への指示について、どのような体制を整備すれば業務を遂行できるのかを検討することが重要です。

管理職本人がすべての業務に対応するのではなく、組織として対応できる仕組みを整備することも考えられます。

働く時間の長さではなく、役割と成果を重視する評価制度への転換が求められます。

育児休業によるキャリアの中断をどう評価するか

育児休業を取得した社員については、休業期間中の業務経験が不足することがあります。

例えば、同じ時期に入社した社員と比較して、担当したプロジェクトの数や管理経験に差が生じる可能性があります。

この差をどのように評価するかは、人事制度上の重要な課題です。

育児休業を取得したこと自体を理由とする不利益な取り扱いは、法令上も禁止されています。

一方で、実際に経験していない業務について、経験したものとして評価することが常に適切とは限りません。

重要なのは、育児休業によって生じた経験の差を、将来の育成機会によって補える仕組みを整備することです。

例えば、復職後に重要なプロジェクトへ参加する機会を提供する方法があります。

管理職候補者向けの研修や、部門を超えた業務経験を積ませることも考えられます。

また、昇進に必要な経験年数について、形式的な勤続年数だけで判断しないことも重要です。

本人の能力や実績を総合的に評価し、必要な経験を積む機会を公平に提供する必要があります。

育児休業による一時的なキャリアの中断が、長期的な昇進機会の喪失につながらない制度設計が求められます。

男性の育児休業取得も人事制度改革につながる

育児休業後のキャリア形成は、女性社員だけの問題ではありません。

男性の育児休業取得が広がることで、男性社員についても同様の課題が生じる可能性があります。

例えば、育児休業を取得した男性社員が、重要な仕事から外されたり、昇進候補者として評価されにくくなったりする場合です。

こうした状況が生じれば、男性社員も育児休業の取得をためらうことになります。

育児休業を取得することが昇進に不利になるという認識が広がれば、制度の利用は進みにくくなります。

そのため、企業は男女を問わず、育児休業取得後のキャリア形成を支援する必要があります。

また、男性が育児や家事を担うことが一般的になれば、女性だけが家庭との両立を理由に働き方を制限される状況も変化する可能性があります。

育児休業を取得しやすい環境と、取得後も公平に評価される制度を整備することが重要です。

男女双方の育児休業取得を前提とした人事制度は、企業全体の働き方改革にもつながります。

キャリアの再挑戦を可能にする制度

マミートラックからの脱却には、キャリアの再挑戦を可能にする仕組みが必要です。

例えば、育児や介護を理由に一時的に仕事の負担を軽くした社員について、定期的にキャリア面談を実施する方法があります。

本人の家庭環境や希望が変化していないかを確認し、必要に応じて仕事の内容や責任の範囲を見直します。

また、管理職候補者の選定を直属の上司だけに任せず、複数の管理職や人事部門が関与することも有効です。

これにより、過去の働き方だけを理由に、管理職候補者から外されることを防ぎやすくなります。

さらに、管理職への昇進を希望する社員に対して、必要な研修や業務経験を提供することも重要です。

一度昇進を諦めた社員であっても、能力や意欲があれば再び挑戦できる制度が求められます。

こうした仕組みは、育児中の女性社員だけでなく、介護を担う社員や病気などによって一時的に働き方を変更した社員にも役立ちます。

長い職業人生のなかでは、家庭環境や健康状態などによって、働き方を変更する必要が生じることがあります。

そのたびにキャリア形成が断絶する制度では、企業は優秀な人材を十分に活用できません。

社員が人生のさまざまな段階で、責任ある仕事に再挑戦できる仕組みが重要になります。

企業は復職後のキャリアをどう評価すべきか

育児休業制度の成果を評価する際には、取得率や復職率だけでは不十分です。

復職した社員が、その後どのような仕事を経験し、どの程度昇進しているかを確認する必要があります。

例えば、育児休業取得者と非取得者の昇進状況を比較することが考えられます。

ただし、本人の希望や職務経験、勤務形態などの違いを考慮せず、単純に昇進率だけを比較することには注意が必要です。

重要なのは、合理的な理由のない昇進機会の偏りが存在していないかを確認することです。

また、短時間勤務制度を利用する社員についても、重要な仕事への参加状況や能力開発の機会を把握する必要があります。

さらに、育児休業から復帰した社員の定着率や、管理職への昇進希望の変化なども重要な指標になります。

こうした情報を継続的に確認することで、育児と仕事の両立支援が実際のキャリア形成につながっているかを評価できます。

企業は、育児休業を取得できる制度から、育児休業後も成長できる制度へと発展させる必要があります。

結論

育児休業制度の充実は、女性活躍推進にとって重要な取り組みです。

しかし、育児休業を取得できることと、その後も公平に昇進できることは同じではありません。

育児休業から復帰した社員が、責任の軽い仕事に固定され、管理職への昇進機会を失うのであれば、十分なキャリア支援が実現しているとはいえません。

大東建託の事例は、育児との両立を理由に昇進を諦めていた社員であっても、再び管理職へ挑戦できることを示しています。

重要なのは、一時的な働き方の変更によって、将来の可能性を制限しないことです。

企業は、育児休業後の配置や評価、育成機会を見直し、本人の希望や家庭環境の変化に応じたキャリア形成を支援する必要があります。

また、長時間労働を前提とする管理職像を見直し、限られた時間でも成果を上げられる組織運営を進めることが重要です。

こうした改革は、女性社員だけでなく、育児や介護を担う男性社員にも利益をもたらします。

人生100年時代には、職業人生の途中で働き方を変更する機会が増えると考えられます。

その際に、一度キャリアの進路を変更した社員が、再び責任ある仕事へ挑戦できる制度が必要です。

育児休業を昇進の障害にしないことは、単なる両立支援ではありません。

社員の能力を長期的に活用し、企業の競争力を高めるための人材戦略です。

育児休業を取得しやすい企業から、育児休業後も成長し続けられる企業へと変革することが、これからの日本企業に求められているのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月26日朝刊 女性登用は「結果」か「機会」か 伊藤忠は課長から執行役員に

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