昇進機会の平等は実現できるか リクルートの人材開発委員会に学ぶ

人生100年時代
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

女性管理職の登用を進めるために、数値目標を設定して積極的に女性を昇進させる企業があります。

一方で、昇進の結果よりも、そこに至るまでの成長機会を公平に提供することを重視する企業もあります。

リクルートは後者の考え方を採用しています。

女性管理職や女性役員の比率について高い目標を掲げながらも、人数合わせのための登用は行わない方針です。

重視しているのは、社員が管理職に必要な経験や能力を身につける機会を公平に提供することです。

2026年10月26日の日本経済新聞では、リクルートの人材開発委員会や管理職要件の見直しが紹介されました。

注目すべきなのは、女性管理職が少ない原因を、女性社員の能力や意欲だけに求めていないことです。

重要な仕事を誰に任せるのか、誰を管理職候補者として育成するのかという、日常の人事判断そのものを見直しています。

女性登用の問題は、昇進時点の公平性だけでなく、昇進に至るまでの機会の公平性を考える必要があります。

リクルートが重視する機会の平等

リクルートは、グループ全体で女性役員や女性管理職の比率などを2030年度までに50%へ引き上げる方針を掲げています。

2026年10月26日の日本経済新聞によると、同社の女性管理職比率は35.0%、役員比率は33.3%となっています。

目標の50%には届いていませんが、数値を達成するためだけの登用は行わない方針です。

同社が重視しているのは、多様なリーダーを育成し、企業の価値創造力を高めることです。

女性管理職の人数を増やすこと自体が最終目的ではありません。

社員が能力を発揮し、経営や事業運営に貢献できる環境を整えることが重要だと考えています。

そのため、管理職への昇進に必要な経験や能力を身につける機会が、性別によって偏らないようにしています。

例えば、重要なプロジェクトの責任者や、新規事業の立ち上げを担当する機会が男性社員に集中していれば、女性社員は管理職に必要な経験を積みにくくなります。

昇進時点で能力や実績を比較しても、それまでの成長機会が公平でなければ、実質的な公平性は確保されません。

リクルートの取り組みは、昇進の結果だけでなく、人材育成の過程を重視するものです。

直属の上司だけに依存する人材評価の限界

日本企業では、社員の育成や昇進候補者の選定を直属の上司に任せることが一般的です。

直属の上司は、日常業務を通じて社員の能力や実績を把握しています。

そのため、上司による評価には合理性があります。

しかし、直属の上司だけで社員の将来性を判断することには限界もあります。

例えば、上司が過去に経験した昇進ルートを、部下にも当然のように求める場合があります。

転勤や長時間労働を経験した社員を高く評価し、家庭との両立を重視する社員を管理職候補から外してしまう可能性もあります。

また、上司が自分と似た経歴や価値観を持つ社員を高く評価することも考えられます。

こうした判断が意図的な差別でなくても、結果として成長機会に偏りが生じる可能性があります。

さらに、直属の上司が社員の能力を十分に理解していない場合もあります。

現在の部署では能力を発揮できていなくても、別の部署や業務では優れた成果を上げられる社員がいるかもしれません。

社員の将来性を一人の上司だけで判断することは、企業にとって人材活用の機会を失うリスクがあります。

人材開発委員会が育成機会を決める

リクルートでは、人材開発委員会という仕組みを活用しています。

社員の育成を直属の上司だけに任せず、複数の組織長が関与します。

本人の希望、強み、課題、過去の経験などを確認し、今後の育成方針を検討します。

そのうえで、次にどのような仕事や経験を与えるべきかを決定します。

この仕組みには、複数のメリットがあります。

第一に、評価の偏りを抑制できることです。

複数の管理職が社員の能力や将来性を検討することで、一人の上司の価値観だけに依存しない判断が可能になります。

第二に、社員の能力を幅広い視点から評価できることです。

現在の部署では十分に活用されていない能力についても、別の組織長が可能性を見いだす場合があります。

第三に、育成方針を組織全体で共有できることです。

社員をどのような管理職や専門人材へ育成するのかを明確にすることで、計画的な仕事の配分や配置転換が可能になります。

人材開発委員会は、単なる昇進審査の仕組みではありません。

社員の成長機会を組織全体で管理する仕組みと考えられます。

重要な仕事の配分が将来の昇進を左右する

管理職への昇進では、これまでにどのような仕事を経験してきたかが重要になります。

例えば、大規模なプロジェクトの責任者を経験した社員は、組織運営能力や調整能力を評価されやすくなります。

新規事業の立ち上げや海外事業を経験した社員も、経営幹部候補として評価される場合があります。

しかし、こうした重要な仕事を誰に任せるかは、上司の判断によって決まることが少なくありません。

その結果、特定の社員に重要な仕事が集中し、他の社員には成長機会が与えられない可能性があります。

例えば、育児中の女性社員に負担をかけないよう、上司が重要なプロジェクトから外す場合があります。

本人への配慮として行われた判断であっても、結果として昇進に必要な経験を積む機会が失われます。

重要なのは、本人の希望を確認することです。

育児中であっても、責任のある仕事に挑戦したいと考える社員もいます。

反対に、一時的に家庭との両立を優先したいと考える社員もいるでしょう。

上司が一方的に判断するのではなく、本人の希望や状況を確認したうえで、仕事の配分を決める必要があります。

成長機会の公平性は、日常の仕事の割り振りから始まります。

管理職に必要な条件を明文化する

リクルートの取り組みで注目されるのが、管理職に求められる要件の明文化です。

日本企業では、管理職になるための条件が必ずしも明確になっていない場合があります。

例えば、転勤を経験していることや、夜間や休日にも対応できることが、暗黙の昇進条件になっている場合があります。

しかし、こうした条件が本当に管理職に必要なのかは、慎重に検討する必要があります。

管理職に求められるのは、組織の目標を達成し、部下の能力を引き出すことです。

長時間働くことや転勤経験が豊富であることが、必ずしも優れた管理能力を意味するわけではありません。

リクルートでは、従来の暗黙の条件を見直し、本当に必要な管理職要件を明確にしています。

これにより、社員は管理職になるためにどのような能力や経験が必要なのかを理解しやすくなります。

また、評価する側にとっても、客観的な基準に基づいて判断しやすくなります。

管理職要件の明文化は、女性登用だけでなく、人事評価全体の透明性を高める取り組みです。

長時間労働を評価する人事制度の問題

日本企業では、長時間働く社員が高く評価される傾向が残っている場合があります。

夜遅くまで働き、休日にも対応できる社員が、管理職候補として評価されることもあります。

しかし、労働時間の長さと仕事の成果は必ずしも一致しません。

限られた時間で高い成果を上げる社員の方が、組織の生産性向上に貢献している場合もあります。

管理職には、業務の優先順位を判断し、適切に権限を委譲する能力が求められます。

部下に長時間労働を求めるのではなく、効率的な業務運営を実現することが重要です。

また、管理職自身が長時間労働を前提としない働き方を実践することで、部下の働き方にも良い影響を与える可能性があります。

育児や介護との両立を重視する社員にとっても、管理職への挑戦が現実的な選択肢になります。

長時間労働を前提とする管理職像を見直すことは、女性登用だけでなく、企業全体の働き方改革にもつながります。

機会の平等は男性社員にも利益をもたらす

機会の平等を重視する人事制度は、女性社員だけを対象とするものではありません。

男性社員にとっても、公平な成長機会が提供されることは重要です。

例えば、育児や介護を担う男性社員が、転勤や長時間労働を理由に昇進機会を失う場合があります。

また、専門能力が高くても、従来の管理職候補者として評価されにくい社員もいるでしょう。

人材開発委員会のような仕組みによって、複数の管理職が社員の能力や将来性を評価すれば、こうした人材にも新たな機会が生まれる可能性があります。

さらに、中途採用社員や若手社員についても、年功序列や従来の昇進慣行にとらわれない評価が可能になります。

重要なのは、性別や年齢、採用経路などによって成長機会が制限されないことです。

女性登用をきっかけに人事制度を見直すことで、企業全体の人材活用力を高めることができます。

機会の平等だけでは解決できない問題

一方で、機会の平等を重視する方法にも課題があります。

最大の問題は、成果が表れるまでに時間がかかることです。

管理職に必要な経験や能力を身につけるには、一定の期間が必要です。

過去に女性総合職の採用が少なかった企業では、現在の管理職候補者に占める女性の割合も低い場合があります。

そのため、現在の育成機会を公平にしても、女性管理職比率が短期間で大きく改善するとは限りません。

また、企業が機会を公平に提供していると考えていても、実際には偏りが残っている可能性があります。

例えば、重要な仕事への参加機会が男女で異なっていないかを確認する必要があります。

研修や配置転換の機会についても、客観的なデータに基づいて検証することが重要です。

機会の平等は、制度を整備するだけで実現するものではありません。

実際の運用状況を継続的に確認し、必要な改善を行うことが求められます。

人材開発委員会を機能させるための条件

人材開発委員会のような仕組みを導入しても、形式的な会議にとどまれば十分な効果は期待できません。

重要なのは、社員の能力や将来性について、具体的な議論を行うことです。

例えば、管理職候補者に必要な経験が不足している場合、どのような仕事を任せれば成長につながるのかを検討する必要があります。

また、本人の希望と会社が期待する役割が一致しているかを確認することも重要です。

さらに、委員会で決定した育成方針が、実際の人事配置や仕事の配分に反映されているかを確認する必要があります。

育成方針を決めても、現場の上司が従来どおりの仕事の配分を続けていれば、制度の効果は限定的です。

そのため、人事部門と現場の管理職が連携し、育成計画の実行状況を継続的に確認することが求められます。

また、社員本人にも育成方針を適切に伝え、将来のキャリア形成について対話することが重要です。

人材開発委員会は、社員の可能性を広げるための仕組みとして運用する必要があります。

経営者は育成機会の公平性をどう評価するか

機会の平等を重視する企業では、女性管理職比率だけでなく、育成機会の公平性を評価する必要があります。

例えば、重要なプロジェクトの責任者に占める女性比率を確認することが考えられます。

また、管理職候補者向けの研修や、海外勤務などの経験機会についても、男女間の偏りを分析することが重要です。

さらに、管理職候補者として選定された社員が、その後どのような仕事を経験し、どの程度成長したかを確認する必要があります。

ただし、単純に男女の人数をそろえればよいわけではありません。

本人の希望や能力、家庭環境などを踏まえながら、合理的な理由のない機会の偏りを解消することが重要です。

企業は、昇進という結果だけでなく、そこに至るまでの育成過程を管理する必要があります。

こうした取り組みは、女性登用だけでなく、経営人材の計画的な育成にも役立ちます。

結論

女性管理職の登用を進めるためには、昇進時点の公平性だけでなく、そこに至るまでの成長機会の公平性を確保することが重要です。

リクルートは、女性管理職や女性役員の比率について高い目標を掲げながらも、人数合わせの登用は行わない方針です。

その代わりに、人材開発委員会を通じて、社員の育成方針や次に与える仕事を複数の組織長が検討しています。

また、管理職に求められる要件を明文化し、長時間労働や転勤などの暗黙の昇進条件を見直しています。

こうした取り組みは、女性社員だけでなく、男性社員や中高年社員、中途採用社員にも公平な成長機会を提供することにつながります。

一方で、機会の平等を重視する方法は、成果が表れるまでに時間がかかるという課題があります。

そのため、企業は女性管理職比率という結果だけでなく、管理職候補者の育成状況や重要業務への参加機会などを継続的に確認する必要があります。

重要なのは、能力や実績を公平に評価するだけでは十分ではないということです。

その能力や実績を形成するための機会が公平に提供されているかを確認する必要があります。

女性管理職が少ない原因を女性社員の意欲や能力だけに求めるのではなく、企業の人材育成制度そのものを見直すことが求められます。

昇進機会の平等を実現することは、女性活躍推進にとどまらず、企業全体の人材活用力を高める経営改革といえるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月26日朝刊 女性登用は「結果」か「機会」か 伊藤忠は課長から執行役員に

タイトルとURLをコピーしました