管理職が親の介護に直面したら――責任ある仕事と家族を両立する組織運営

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親の介護は、企業で重要な役割を担う管理職にも突然訪れます。

部長や課長などの管理職は、部下の育成、業務の進捗管理、重要な意思決定、経営層への報告など、多くの責任を負っています。

そのため、親の介護が始まっても、仕事を休むことが難しいと感じる場合があります。

自分が不在になると組織が回らなくなるのではないか、部下に負担をかけるのではないか、経営層からの評価が下がるのではないかという不安もあります。

しかし、管理職が介護を理由に働き続けられなくなることは、本人だけでなく、企業にとっても大きな損失です。

人生100年時代には、50代・60代の管理職が親の介護を担うことも珍しくありません。

管理職自身が仕事と介護を両立できる組織をつくることは、企業の持続可能性を高める重要な経営課題です。

管理職が介護を抱え込みやすい理由

管理職は、一般社員と比較して業務上の裁量が大きい一方、責任も重くなります。

重要な会議、取引先との交渉、決裁、部下の評価など、管理職本人の判断を必要とする業務が多いためです。

また、長年の経験によって蓄積された知識や人脈が、特定の管理職に集中している場合もあります。

こうした状況では、親の介護が始まっても、仕事を他の社員に任せることが難しくなります。

さらに、管理職自身が長時間労働や休日対応を当然とする働き方を続けてきた場合、介護を理由に勤務時間を調整することに心理的な抵抗を感じることがあります。

部下には仕事と家庭の両立を認めながら、自分自身は休暇を取得できないという矛盾も生じます。

管理職が介護を抱え込む背景には、本人の責任感だけでなく、組織運営の仕組みそのものに課題がある場合があります。

50代・60代管理職に集中する介護リスク

親の介護が本格化しやすい時期と、企業で管理職として重要な役割を担う時期は重なります。

例えば、55歳の管理職であれば、親が80代というケースも考えられます。

親が高齢になるほど、病気や転倒、認知症などによって介護が必要になる可能性が高まります。

一方、55歳前後は、企業内で長年の経験を生かし、組織運営や後継者育成を担う時期でもあります。

そのため、親の介護による勤務制約が、組織運営に直接影響する可能性があります。

経済産業省は、2030年に働きながら介護を担うワーキングケアラーが約318万人に達すると推計しています。

介護は一部の社員だけの問題ではなく、企業の中核人材にも広がる課題です。

企業は、管理職が介護に直面することを例外的な事態として扱うのではなく、通常の人事管理上のリスクとして備える必要があります。

管理職の業務が属人化する組織の問題

管理職が休めない組織には、業務の属人化という問題が存在することがあります。

例えば、重要な取引先との交渉内容を部長しか把握していない場合、その部長が不在になると意思決定が遅れる可能性があります。

経理部門であれば、決算上の重要な判断、監査法人との協議、税務上の検討などが特定の管理職に集中する場合があります。

人事部門では、人事評価や労務問題への対応が特定の責任者に依存することもあります。

こうした属人化は、日常業務では効率的に見えることがあります。

しかし、管理職が介護や病気によって突然不在になった場合、組織全体の業務継続に支障が生じます。

そのため、重要な業務については、判断基準、業務手順、関係者との協議内容などを記録し、必要な情報を共有できる体制が重要です。

業務の属人化を解消することは、介護支援だけでなく、企業の内部統制や事業継続計画の強化にもつながります。

権限委譲は管理職自身を守る仕組み

管理職が介護と仕事を両立するためには、権限委譲が欠かせません。

権限委譲とは、管理職が担っている判断や業務の一部を、部下や他の管理職に任せることです。

ただし、単に仕事を部下に押し付けることではありません。

判断できる範囲、報告が必要な事項、最終責任の所在などを明確にする必要があります。

例えば、日常的な業務判断は課長に任せ、重要な経営判断については部長や役員が対応するなど、決裁権限を整理する方法があります。

また、管理職が不在の場合に誰が代行するのかを、あらかじめ決めておくことも重要です。

介護が始まってから急いで権限委譲するのではなく、日頃から部下に判断経験を積ませることが望まれます。

権限委譲は、管理職の負担を軽減すると同時に、部下の成長を促す仕組みでもあります。

後継者育成が介護との両立を支える

管理職が介護を理由に休暇を取得する場合、代わりに業務を担える人材がいるかどうかが重要になります。

そのため、後継者育成は介護との両立を支える取り組みでもあります。

後継者育成というと、定年退職や役員交代に備えるものと考えられがちです。

しかし、介護や病気などによる一時的な不在にも対応できるようにすることが重要です。

例えば、重要な会議に次世代の管理職候補を同席させたり、決算や予算管理の判断過程を共有したりする方法があります。

また、部下に一定の裁量を与え、判断経験を積ませることも必要です。

管理職本人がすべての業務を抱え込んでいると、部下が成長する機会も限られます。

介護への備えをきっかけに後継者育成を進めることは、組織全体の能力向上につながります。

管理職が介護を会社に伝える際の考え方

管理職が親の介護に直面した場合、どこまで会社に説明すべきか迷うことがあります。

親の病状や家族関係など、私生活に関わる情報を詳細に伝える必要はありません。

重要なのは、業務上どのような調整が必要になるかを具体的に伝えることです。

例えば、週に1回の通院付き添いが必要であること、特定の時間帯に連絡を受ける可能性があること、一定期間は在宅勤務を希望することなどです。

また、緊急時に誰が業務を代行するのかについても、上司や関係者と確認しておくことが望まれます。

管理職が介護を隠したまま働き続けると、突然の欠勤や業務停滞が生じた際に、組織として対応しにくくなる可能性があります。

必要な範囲で情報を共有することは、本人だけでなく、組織を守ることにもつながります。

介護休業と管理職の働き方

育児・介護休業法では、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得できる介護休業制度が設けられています。

管理職であっても、法律上の要件を満たせば介護休業を取得できます。

ただし、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかと、育児・介護休業法に基づく休業取得の可否は別の問題です。

管理職だから介護休業を取得できないというわけではありません。

また、介護休暇や短時間勤務等の措置など、仕事と介護を両立するための制度もあります。

2025年4月からは、企業による介護休業制度などの個別周知や意向確認、雇用環境の整備が義務付けられました。

管理職自身も制度を理解し、必要に応じて利用することが重要です。

介護休業は、家族が直接介護を続けるためだけでなく、介護サービスや家族の役割分担を整えるために活用することが望まれます。

管理職の不在を前提とした業務運営

介護と仕事を両立できる組織では、管理職が常に職場にいることを前提としない業務運営が重要になります。

例えば、重要な決裁事項については、代理決裁者をあらかじめ指定する方法があります。

会議についても、管理職本人が出席しなければ成立しないものと、部下が代理出席できるものを整理することができます。

また、情報共有の仕組みを整えれば、管理職が不在でも業務の進捗を確認しやすくなります。

ただし、介護休業中に常時業務対応を求めることは、休業制度の趣旨に反する可能性があります。

休業中は、原則として仕事から離れられる体制を整える必要があります。

そのためにも、日頃から業務の標準化や権限委譲を進めておくことが重要です。

管理職が不在でも組織が機能することは、管理職本人の能力が低いことを意味するものではありません。

むしろ、持続可能な組織運営が実現していることを示すものと考えられます。

介護と仕事の両立を人事評価にどう反映するか

管理職が介護のために勤務時間を調整する場合、人事評価のあり方も重要になります。

長時間勤務や休日対応を評価する職場では、介護を担う管理職が不利になる可能性があります。

一方、業務の成果、組織運営、部下の育成、業務改善などを適切に評価すれば、勤務時間の長さだけで能力を判断する必要はありません。

また、介護休業や介護休暇の取得を理由とする不利益な取り扱いは、法律で禁止されています。

企業には、制度利用の有無によって評価を左右するのではなく、合理的で透明性のある評価基準を設けることが求められます。

管理職が介護と仕事を両立しながら成果を上げられる仕組みは、育児や病気など、他の事情を抱える社員にも役立ちます。

多様な働き方を認めることは、企業の人材確保や定着にもつながります。

介護支援は内部統制と事業継続にも関係する

管理職の介護問題は、人事制度だけでなく、内部統制や事業継続計画にも関係します。

例えば、重要な承認権限が特定の管理職に集中している場合、その管理職が突然不在になると業務が停滞する可能性があります。

また、特定の担当者しか業務内容を理解していない場合、誤りや不正を発見する機会が限られることもあります。

そのため、職務分掌、権限規程、承認手続き、業務記録などを整備することが重要です。

経理部門では、決算業務、資金管理、税務申告、監査対応などについて、担当者と代行者を明確にすることが考えられます。

こうした取り組みは、管理職の介護休業への対応だけでなく、災害やシステム障害などの緊急事態にも役立ちます。

介護支援をきっかけに業務の継続性を高めることは、企業経営の安定性を強化する取り組みでもあります。

FPの視点から考える管理職の介護離職

管理職が介護を理由に退職する場合、家計への影響は大きくなる可能性があります。

管理職は一般的に一定の給与水準に達していることが多く、退職によって失われる収入も大きくなりやすいためです。

例えば、年収1,000万円の管理職が55歳で退職し、60歳まで働く予定だった場合、5年間の給与収入は単純計算で5,000万円になります。

これは税金や社会保険料を控除する前の金額であり、実際の手取り収入の減少額とは異なります。

また、退職時期によっては、厚生年金や退職金にも影響する可能性があります。

そのため、介護離職を検討する前に、勤務先の制度、親の介護費用、家族の役割分担、自分自身の老後資金などを確認する必要があります。

管理職としての責任を果たすことと、親の介護を支えることは、必ずしも対立するものではありません。

組織運営を見直すことで、仕事を続けながら介護できる可能性があります。

人生100年時代に求められる管理職像

人生100年時代には、管理職自身が介護や健康上の問題を抱えながら働くことも増えると考えられます。

そのため、管理職には、自分がすべての業務を抱え込むのではなく、組織として成果を上げる能力が求められます。

部下に仕事を任せ、情報を共有し、代行体制を整えることは、管理職自身の働き方を持続可能にするためにも重要です。

また、管理職が介護休業や勤務時間の調整を適切に利用することは、部下に対しても制度を利用しやすい環境を示すことになります。

介護を理由に働き方を変えることは、管理職としての責任を放棄することではありません。

むしろ、組織運営の仕組みを見直し、持続可能な働き方を実現する機会にもなります。

結論

管理職が親の介護に直面した場合、仕事と家族のどちらかを選ばなければならないと考える必要はありません。

重要なのは、管理職本人がすべての業務を抱え込まない組織運営を実現することです。

業務の見える化、権限委譲、後継者育成、代理決裁体制の整備などを進めれば、管理職が一時的に不在になっても組織が機能する可能性が高まります。

また、介護休業や介護休暇などの制度を活用し、必要な介護体制を整えることも重要です。

企業には、管理職が介護を理由に勤務時間を調整しても、不利益を受けない人事評価や職場環境が求められます。

介護を抱える管理職が働き続けられることは、企業にとっても経験豊富な人材を維持することにつながります。

人生100年時代に求められる管理職は、自分がいなければ組織が動かない管理職ではなく、自分が不在でも組織が機能する仕組みをつくれる管理職です。

仕事と介護の両立を可能にする組織運営は、社員の生活を守ると同時に、企業の持続可能性を高める重要な経営課題です。

参考

日本経済新聞 2026/10/27 会社に言えず7年間「隠れ介護」 ワーキングケアラーの孤立救うには

厚生労働省 育児・介護休業法のあらまし

厚生労働省 介護休業制度特設サイト

厚生労働省 令和7年4月1日施行 改正育児・介護休業法の概要

経済産業省 仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン

経済産業省 人的資本経営に関する取り組み

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