就職氷河期世代が40代から50代となり、老後の生活に対する不安が現実味を帯びています。
特に深刻なのが、非正規雇用や低賃金で働き続けてきた単身者の住宅費負担です。
2026年9月14日の日本経済新聞では、東京都内で契約社員として働く51歳の単身女性が紹介されました。
毎月の手取り収入は約15万円、家賃は7万円です。
収入の約47%が家賃に消える計算になります。
残りの8万円で食費、光熱費、通信費、医療費などを賄わなければなりません。
さらに、老後には収入が年金中心となり、現在の生活水準を維持することさえ難しくなる可能性があります。
人生100年時代において、単身者の住宅費と老後資金の問題をどのように考えるべきなのでしょうか。
手取り収入の約半分が家賃に消える現実
一般的に、家賃は手取り収入の25%から30%程度に抑えることが望ましいとされています。
ただし、これは法律や制度で定められた基準ではなく、家計管理上の目安です。
手取り収入が月15万円の場合、家賃の目安は3万7,500円から4万5,000円程度になります。
しかし、東京都内では、この水準で一定の住環境を備えた賃貸住宅を確保することは容易ではありません。
日本経済新聞で紹介された女性は、ワンルーム8畳のアパートに月7万円で暮らしています。
壁が薄く、隣人の生活音が聞こえ、夏場には室温が30度を超えることもあるといいます。
家賃が高いからといって、必ずしも快適な住環境が得られるわけではありません。
住宅費を削減するために郊外へ引っ越せば、通勤時間や交通費が増加する可能性があります。
職場の近くに住めば家賃が高くなり、家賃の安い地域へ移れば生活の利便性が低下することがあります。
低所得の単身者にとって、住宅費は簡単に削減できない固定費なのです。
月15万円で生活する家計を試算する
具体的な家計を考えてみましょう。
東京都内で暮らす50代の単身者を想定します。
毎月の手取り収入は15万円、家賃は7万円とします。
生活費の内訳を次のように仮定します。
家賃は7万円です。
食費は3万円です。
水道光熱費は1万2,000円です。
通信費は5,000円です。
日用品費は5,000円です。
医療費は5,000円です。
交通費は5,000円です。
被服費や交際費などは1万円です。
合計すると14万2,000円になります。
毎月の残額は8,000円です。
年間では9万6,000円しか残りません。
しかも、この試算には家電製品の買い替え、冠婚葬祭、引っ越し、旅行などの臨時支出を十分に織り込んでいません。
仮に年間20万円の臨時支出が発生すれば、家計は赤字になります。
また、病気で働けなくなった場合には、収入そのものが減少する可能性があります。
手取り15万円で家賃7万円という生活は、日常生活を維持できても、将来に向けた資産形成が難しい家計構造といえます。
50歳から65歳までにいくら貯蓄できるのか
次に、50歳から65歳までの15年間で、どの程度の老後資金を準備できるかを考えます。
毎月の貯蓄額を5,000円とした場合、年間6万円です。
15年間では90万円になります。
毎月1万円を貯蓄できれば、15年間で180万円です。
毎月2万円なら360万円になります。
いずれも運用益を考慮しない単純計算です。
ところが、手取り15万円で家賃7万円の家計では、毎月2万円を継続的に貯蓄することは簡単ではありません。
物価上昇によって食費や光熱費が増えれば、貯蓄余力はさらに小さくなります。
また、50代になると、自身の病気や親の介護などによって支出が増える可能性もあります。
若いころに十分な貯蓄ができなかった人が、50代から老後資金を積み上げることには大きな制約があります。
就職氷河期世代の老後問題は、本人の節約努力だけでは解決できない側面があるのです。
老後の年金収入はいくらになるのか
老後の生活を考えるうえで、最も重要なのが公的年金です。
会社員として厚生年金に長期間加入していれば、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。
一方、非正規雇用や失業期間が長かった場合には、厚生年金の加入期間や報酬水準によって年金額が少なくなる可能性があります。
ここでは、65歳以降の公的年金の手取り額を月10万円と仮定します。
これは就職氷河期世代の平均年金額を示すものではなく、家計への影響を考えるための試算です。
家賃が月7万円のままであれば、年金から家賃を支払った後に残る金額は3万円です。
食費や光熱費を賄うことさえ難しくなります。
仮に年金の手取り額が月12万円であっても、家賃を差し引くと5万円しか残りません。
さらに、年金から介護保険料や税金などが差し引かれる場合もあるため、実際の生活設計では額面ではなく手取り額を確認する必要があります。
公的年金の見込額は、ねんきん定期便やねんきんネットなどで確認できます。
50代の段階から、自分が65歳以降に受け取れる年金額を把握しておくことが重要です。
老後30年間の家計赤字はどこまで膨らむのか
65歳から95歳までの30年間を想定して、老後の家計を試算します。
年金の手取り収入を月10万円とします。
家賃を月7万円、その他の生活費を月8万円とすると、毎月の支出は15万円です。
毎月5万円の赤字になります。
年間では60万円の赤字です。
30年間では1,800万円の資金不足になります。
年金の手取り収入が月12万円であれば、毎月の赤字は3万円です。
年間36万円、30年間では1,080万円の不足となります。
この試算では、物価上昇や家賃改定、医療費や介護費の増加などは考慮していません。
一方で、実際には生活費の見直しや住み替え、就労収入などによって不足額が変わる可能性があります。
重要なのは、老後資金として一律に2,000万円や3,000万円を準備するという考え方ではありません。
自分の年金収入と生活費、特に住居費を基にして、必要な資金を計算することです。
家賃を2万円下げるだけで老後資金は大きく変わる
老後の家計改善で効果が大きいのは、毎月の固定費を減らすことです。
例えば、家賃を月7万円から5万円に引き下げた場合を考えます。
毎月2万円の支出削減になります。
年間では24万円です。
30年間では720万円の負担軽減になります。
仮に月10万円の年金収入があり、家賃以外の生活費が月8万円であれば、家賃7万円の場合は毎月5万円の赤字です。
家賃5万円なら、赤字は毎月3万円に縮小します。
老後30年間の資金不足も1,800万円から1,080万円に減少します。
ただし、家賃の安い住宅への住み替えには注意点があります。
築年数が古い住宅では、断熱性能や耐震性能に問題がある場合があります。
駅や病院、スーパーから遠くなると、高齢期の生活に支障が生じる可能性もあります。
家賃だけを基準に住まいを選ぶのではなく、交通、医療、買い物、安全性などを総合的に判断する必要があります。
65歳以降も働くことは解決策になるのか
老後の家計を改善するもう一つの方法は、65歳以降も働くことです。
例えば、65歳から70歳までの5年間、毎月5万円の手取り収入を得られたとします。
年間では60万円です。
5年間で300万円の収入になります。
年金収入だけでは不足する生活費を補うことができます。
また、厚生年金の適用対象となる働き方であれば、70歳までの加入によって将来の年金額が増える可能性もあります。
ただし、65歳以降の就労には限界があります。
健康状態が悪化すれば働けなくなることがあります。
企業側の雇用条件によって、希望する勤務時間や収入を確保できない場合もあります。
さらに、年齢が上がるほど新しい仕事を見つけることが難しくなる可能性があります。
そのため、老後資金の計画では、働き続けられる場合と働けなくなった場合の両方を想定することが重要です。
公的支援制度を利用できるか確認する
所得や資産が少ない単身者については、公的な支援制度の活用も重要になります。
まず、公営住宅があります。
公営住宅は、住宅に困窮する低所得者に対して、比較的低廉な家賃で住宅を提供する制度です。
ただし、所得要件や入居資格、募集戸数などは自治体によって異なります。
単身者が入居できる住宅が限られる場合もあります。
次に、住宅確保給付金があります。
これは、離職や収入減少などによって住居を失うおそれがある人などを対象とした制度です。
一定の要件を満たす場合に、家賃相当額の支援を受けられる仕組みがあります。
ただし、恒久的に家賃を補助する制度ではありません。
また、生活困窮者自立支援制度では、家計改善や就労支援などを受けられる場合があります。
生活保護制度も、資産や収入などの要件を満たす場合には、最低限度の生活を保障する最後の安全網となります。
公的支援を利用することは、決して特別なことではありません。
制度の内容を早めに確認し、必要な場合に相談できる窓口を把握しておくことが大切です。
50代から取り組みたい家計改善と住宅対策
50代の単身者が老後に備えるためには、現実的な対策を積み重ねる必要があります。
第一に、現在の家計を把握することです。
家賃、食費、通信費、保険料などを整理し、毎月の収支を確認します。
第二に、年金見込額を確認することです。
65歳から受給する場合だけでなく、繰下げ受給や就労継続によって年金額がどう変わるかも検討します。
ただし、繰下げ受給には受給開始までの生活費が必要であり、すべての人に適しているわけではありません。
第三に、住み替えの可能性を検討することです。
現在の家賃が収入に対して高い場合には、生活環境を維持しながら負担を軽減できる住宅を探します。
第四に、生活防衛資金を確保することです。
収入が途絶えた場合に備え、可能な範囲で現金や預貯金を準備します。
第五に、高齢期の住宅確保について情報を集めることです。
公営住宅、UR賃貸住宅、居住サポート住宅など、それぞれの制度や入居条件を確認します。
特に、単身者の場合には、家賃だけでなく保証人や緊急連絡先の問題も考えておく必要があります。
結論
手取り収入15万円で家賃7万円という家計は、現役時代であっても余裕が少なく、老後にはさらに厳しい状況になる可能性があります。
就職氷河期世代の単身者にとって、住宅費は老後の生活を左右する最大級の固定費です。
月2万円の家賃削減でも、30年間では720万円の違いが生じます。
一方、住宅費を抑えるために住環境を犠牲にすれば、健康や生活の質を損なうおそれがあります。
重要なのは、家賃を下げることだけではありません。
年金収入、生活費、貯蓄、就労、公的支援制度を組み合わせ、無理なく暮らせる住宅を確保することです。
また、就職氷河期世代の住宅問題を、個人の努力不足として片付けることはできません。
若いころの雇用環境によって所得や資産形成に格差が生じ、その影響が高齢期の住宅確保にまで及んでいるからです。
人生100年時代には、低所得の単身者でも安心して住み続けられる住宅政策が必要です。
50代からの住宅と家計の見直しは、老後の生活を守るための重要な準備なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月14日 就職氷河期おひとり様「家借りるのも大変」 見えぬワンルーム8畳の先
日本経済新聞 2026年9月18日 高齢者賃貸、孤独死懸念で厳しく おひとり様「住宅政策の蚊帳の外」
総務省 2023年住宅・土地統計調査