親の介護が始まったとき、仕事を休んで自分が介護しなければならないと考える人は少なくありません。
しかし、介護は数年間に及ぶこともあり、家族が仕事を休み続ける方法には限界があります。
そこで重要になるのが、育児・介護休業法に基づく介護休業制度です。
介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得できます。
ただし、この93日間は、家族が直接介護を続けるためだけの期間ではありません。
介護サービスを利用し、家族の役割分担を決め、仕事と介護を両立できる体制を整えるための期間として活用することが重要です。
人生100年時代には、50代・60代になっても働き続ける人が増えています。
親の介護を理由に仕事を辞めることは、本人の収入や年金、老後資金にも大きな影響を与える可能性があります。
介護休業制度を正しく理解し、仕事を続けるための選択肢を確保することが求められます。
介護休業93日間の基本的な仕組み
介護休業は、要介護状態にある対象家族を介護するために取得できる法律上の制度です。
対象となる家族には、配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫が含まれます。
介護休業の取得可能日数は、対象家族1人につき通算93日です。
この93日間は、3回まで分割して取得できます。
例えば、最初に30日間取得し、その後30日間、最後に33日間取得することも制度上は可能です。
ただし、介護休業を取得するには、対象家族が法律上の要介護状態に該当する必要があります。
ここでいう要介護状態は、介護保険制度の要介護認定と完全に一致するものではありません。
負傷、疾病、身体上または精神上の障害によって、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態が基本となります。
また、労働者の雇用形態などによって適用条件が異なる場合があります。
日々雇用される労働者は対象外であり、有期雇用労働者には一定の要件があります。
労使協定によって、一部の労働者が対象から除外される場合もあります。
取得を検討する際には、勤務先の就業規則や人事部門に確認することが重要です。
93日間は直接介護ではなく体制整備に活用
介護休業制度を利用する際に、最も重要なのは目的を明確にすることです。
介護休業を取得したからといって、93日間すべてを家族による直接介護に充てる必要はありません。
むしろ、介護休業が終了した後も仕事を続けられるように、介護体制を整えることが大切です。
具体的には、要介護認定の申請、ケアマネジャーとの相談、介護サービスの契約、住環境の整備、家族間の役割分担などが考えられます。
親が入院している場合には、退院後の生活をどうするかも重要な課題です。
自宅で生活を続けるのか、リハビリテーション施設などを利用するのか、介護施設への入所を検討するのかによって、必要な準備は異なります。
介護休業を取得する前に、何を決める必要があるのかを整理しておくと、限られた期間を有効に使うことができます。
介護休業の終了後に、家族が再びすべての介護を担う状態に戻ってしまえば、制度を利用した効果は限定的になります。
仕事を続けながら介護できる仕組みをつくることが、介護休業の重要な役割です。
3回に分割できる制度をどう使うか
介護休業を3回まで分割取得できることは、介護の状況が変化する場合に役立ちます。
例えば、親が突然入院した際に最初の休業を取得し、退院後の生活環境を整えるために2回目を利用することが考えられます。
その後、介護状態が変化し、施設への入所などが必要になった場合に、残りの休業を取得する方法もあります。
ただし、将来の介護の状況を正確に予測することは困難です。
最初から93日間を細かく割り振るよりも、現在必要な対応と将来の不確実性を考慮することが重要です。
また、介護休業の取得には、原則として休業開始予定日の2週間前までに事業主へ申し出る必要があります。
突然の入院などで緊急対応が必要な場合には、年次有給休暇や介護休暇などを組み合わせることも検討できます。
介護休業を使い切った後も介護は続く可能性があります。
そのため、休業日数をどのように配分するかについては、勤務先の制度や家族の状況を踏まえて慎重に考える必要があります。
介護休業給付金は原則67%
介護休業を取得する際に気になるのが、休業期間中の収入です。
雇用保険の一定の要件を満たす場合には、介護休業給付金が支給されます。
給付額は、原則として休業開始時賃金日額に支給日数と67%を乗じて計算されます。
例えば、休業開始時の賃金月額が30万円相当で、30日間の休業について満額支給の条件を満たす場合、概算では20万1,000円となります。
ただし、実際の給付額は賃金日額の計算方法、休業中の賃金支払い、支給上限額などによって異なります。
休業中に勤務先から賃金が支払われる場合には、給付金が減額されたり、支給されなかったりすることがあります。
また、介護休業給付金は雇用保険の制度であり、すべての介護休業取得者が対象になるわけではありません。
休業開始前の被保険者期間など、所定の要件を満たす必要があります。
介護休業給付金そのものは非課税ですが、介護休業中の社会保険料については注意が必要です。
育児休業とは異なり、介護休業については健康保険料や厚生年金保険料が原則として免除されません。
そのため、給付金だけを見て休業期間中の家計を判断するのではなく、社会保険料や住民税などの負担も確認する必要があります。
介護休暇と介護休業の違い
介護休業と混同しやすい制度に、介護休暇があります。
介護休暇は、要介護状態にある対象家族の介護や世話をするために取得できる休暇です。
対象家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで取得できます。
時間単位で取得することも可能です。
例えば、親の通院への付き添いや、ケアマネジャーとの面談、介護サービスの手続きなどに活用できます。
介護休業が一定期間まとまって仕事を休む制度であるのに対し、介護休暇は日常的な介護対応に利用しやすい制度です。
また、介護休暇中の賃金については、法律上、企業に有給とする義務はありません。
有給か無給かは勤務先の就業規則などによって異なります。
2025年4月からは、労使協定によって勤続6カ月未満の労働者を介護休暇の対象外とする仕組みが廃止されました。
ただし、週の所定労働日数が2日以下の労働者については、労使協定による除外が認められています。
介護休業と介護休暇を使い分けることで、長期的な介護体制の整備と日常的な対応を両立しやすくなります。
短時間勤務や時差出勤も重要な選択肢
介護と仕事を両立するためには、まとまった休業だけでなく、日常的な勤務時間の調整も重要です。
育児・介護休業法では、事業主に対し、対象家族1人につき、介護休業とは別に、利用開始から連続する3年以上の期間で2回以上利用できる短時間勤務等の措置を講じることを義務付けています。
企業は、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤制度、介護サービス費用の助成その他これに準ずる制度の中から、少なくとも1つを設ける必要があります。
ただし、法律によってすべての企業に短時間勤務制度そのものが義務付けられているわけではありません。
実際に利用できる制度は勤務先によって異なります。
また、テレワークについては、介護を行う労働者が利用できるようにすることが、2025年4月から事業主の努力義務となっています。
在宅勤務が可能な職種であれば、通勤時間を削減し、介護サービスの利用時間と仕事を調整しやすくなる場合があります。
ただし、在宅勤務中に常時介護を担うことは、仕事との両立をかえって難しくする可能性があります。
テレワークは介護サービスの代替ではなく、仕事と介護を調整するための手段として考えることが重要です。
2025年4月の法改正で企業の対応義務が強化
2025年4月から、改正育児・介護休業法に基づく介護離職防止のための措置が強化されました。
企業は、介護に直面したことを申し出た社員に対し、介護休業制度や両立支援制度などを個別に周知し、利用意向を確認する必要があります。
また、社員が40歳に達する時期に、介護休業制度などに関する情報を提供することも義務付けられました。
さらに、介護休業や両立支援制度を利用しやすい雇用環境を整備するため、研修、相談窓口の設置など、法律で定められた措置のいずれかを実施する必要があります。
重要なのは、社員が介護に直面してから制度を探すのではなく、事前に制度を理解できるようにすることです。
介護は突然始まる場合があります。
そのときに相談先や利用できる制度を知らなければ、仕事を辞めることを先に考えてしまう可能性があります。
企業は制度を整備するだけでなく、社員が安心して相談できる職場環境をつくる必要があります。
管理職が介護休業を取得する場合の課題
管理職が介護休業を取得する場合には、一般社員とは異なる課題が生じることがあります。
管理職は、部下の勤務管理、業務の進捗管理、重要な意思決定などを担っています。
そのため、自分が休業することで組織運営に支障が生じるのではないかと心配する場合があります。
しかし、管理職が休業できない組織は、業務が特定の個人に依存している可能性があります。
介護休業への対応をきっかけに、業務の見える化、権限委譲、代行者の指定などを進めることが重要です。
特に経理や財務、人事などの専門部門では、決裁権限や業務知識が特定の管理職に集中しやすい傾向があります。
日頃から業務の標準化や後継者育成を進めておけば、介護休業だけでなく、病気による休職や突然の退職にも対応しやすくなります。
管理職自身が介護と仕事を両立する姿勢を示すことは、部下にとっても制度を利用しやすい職場づくりにつながります。
介護離職が年金と老後資金に与える影響
FPの視点から重要なのは、介護休業と介護離職の経済的な違いです。
介護休業は、一定期間仕事を休みながら、雇用関係を維持する制度です。
一方、介護離職は給与収入が途絶え、その後の再就職が難しくなる可能性があります。
例えば、年収600万円の社員が55歳で退職し、60歳まで働く予定だった場合、5年間の給与収入は単純計算で3,000万円になります。
実際には税金や社会保険料、再就職後の収入などを考慮する必要がありますが、退職による経済的影響は小さくありません。
また、厚生年金の加入期間が短くなれば、将来受け取る年金額にも影響する可能性があります。
退職金制度によっては、退職時期が支給額に影響する場合もあります。
介護休業による一時的な収入減少と、介護離職による長期的な収入喪失は、分けて考える必要があります。
仕事を辞める前に、利用できる休業制度や介護サービスを確認することが重要です。
親の介護費用と自分の老後資金を分けて考える
介護休業を取得する際には、親の介護費用と自分自身の生活費を整理する必要があります。
親の介護費用については、まず親自身の年金や預貯金などを確認することが基本です。
介護保険サービスには自己負担がありますが、高額介護サービス費制度など、負担を軽減する仕組みもあります。
一方、介護休業中の本人の家計については、給付金、勤務先からの賃金、社会保険料、住民税、住宅ローンなどを確認する必要があります。
介護休業給付金は原則67%という水準ですが、通常の給与と同じ金額が手元に残るわけではありません。
そのため、休業前に一定期間の家計収支を試算しておくことが望まれます。
また、親の介護費用を子どもが負担する場合には、自分自身の老後資金を大きく取り崩さないよう注意が必要です。
介護が長期化する可能性を考慮し、家族間で費用負担について話し合うことも重要です。
介護休業を取得する前に確認したいこと
介護休業を有効に活用するためには、取得前の準備が欠かせません。
まず、勤務先の介護休業制度について、取得条件、申請方法、休業中の賃金、復職後の勤務方法を確認します。
次に、介護休業給付金の支給要件や見込額を確認します。
また、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、休業期間中に整えるべき介護体制を明確にします。
家族間の役割分担も重要です。
介護休業を取得する人が、すべての介護を担う必要はありません。
遠方に住む兄弟姉妹であっても、費用管理や書類手続き、親族への連絡などを分担できる場合があります。
さらに、休業終了後の勤務方法について、上司や人事部門と事前に相談しておくことが望まれます。
介護休業は、取得すること自体が目的ではありません。
休業後も仕事を続けられる状態をつくることが、最も重要な目的です。
結論
介護休業93日間は、親の介護を家族だけで担うための期間ではありません。
介護サービスを利用し、家族の役割分担を整え、仕事と介護を両立できる体制をつくるための制度です。
対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得できるため、介護の状況に応じた活用が可能です。
また、一定の要件を満たせば介護休業給付金を受けられるほか、介護休暇や短時間勤務等の措置などを組み合わせることもできます。
2025年4月からは企業の制度周知や相談体制の整備も強化されました。
しかし、制度が存在するだけでは介護離職を防ぐことはできません。
社員が安心して制度を利用できる職場環境と、休業後も働き続けられる業務体制が必要です。
特に50代・60代での介護離職は、給与収入、厚生年金、退職金、老後資金に長期的な影響を与える可能性があります。
人生100年時代には、介護のために仕事を辞めるのではなく、仕事を続けるために介護休業を活用するという発想が重要です。
親の生活を守りながら、自分自身の経済的な生活基盤も守ることが、仕事と介護を両立するための基本になります。
参考
日本経済新聞 2026/10/27 会社に言えず7年間「隠れ介護」 ワーキングケアラーの孤立救うには
厚生労働省 育児・介護休業法のあらまし
厚生労働省 介護休業制度特設サイト
厚生労働省 令和7年4月1日施行 改正育児・介護休業法の概要
厚生労働省 雇用保険制度 介護休業給付金
経済産業省 仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン