役員報酬の期中変更で損金不算入にならないための条件

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

企業経営では、業績の変化や役員の職務内容の変更に伴い、役員報酬を見直すことがあります。

しかし、役員報酬は従業員給与と異なり、法人税法上、損金算入について厳格な要件が設けられています。

特に注意したいのが、事業年度の途中で役員報酬を増額したり、減額したりする場合です。

会社として合理的な理由があっても、法人税法上の要件を満たしていなければ、変更後の役員報酬の一部が損金不算入となる可能性があります。

一方、役員の職務内容に重大な変更があった場合や、会社の経営状況が著しく悪化した場合などには、期中変更が認められることもあります。

今回は、役員報酬の基本となる定期同額給与の仕組みと、期中変更が認められる条件について、具体的な事例を交えて整理します。

役員報酬には損金算入の特別なルールがある

法人税法第34条では、役員に対して支給する給与について、一定の要件を満たすものを除き、原則として損金に算入しない仕組みが設けられています。

代表的なものが、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与です。

中小企業の役員報酬で特に重要になるのが、定期同額給与です。

定期同額給与とは、原則として1か月以下の一定期間ごとに支給され、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与をいいます。

例えば、毎月末に役員報酬として100万円を支給する場合です。

4月から翌年3月まで、毎月100万円を継続して支給するのであれば、基本的には定期同額給与に該当します。

ただし、定期同額給与に該当しても、不相当に高額な部分がある場合には、その部分が損金不算入となることがあります。

したがって、毎月同額で支給していれば、どのような金額でも損金算入できるわけではありません。

期首から3か月以内の通常改定

定期同額給与については、一定の時期に行われる通常の改定が認められています。

原則として、事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行われる改定です。

例えば、3月決算の会社を考えます。

事業年度は4月1日から翌年3月31日までです。

この会社が6月の定時株主総会で役員報酬を改定し、7月支給分から月額100万円を120万円に増額したとします。

改定前の4月から6月までは毎月100万円、改定後の7月から翌年3月までは毎月120万円を支給します。

このような改定は、通常改定の要件を満たす場合、定期同額給与として取り扱われます。

ここで重要なのは、改定前と改定後のそれぞれの期間で、支給額が同額になっていることです。

年間を通じて毎月同じ金額でなければならないというわけではありません。

ただし、3か月以内という期間については、事業年度の開始日を基準として判断します。

また、特殊な事情がある場合には例外的な取扱いもあるため、会社の決算期と役員報酬の改定時期を正確に確認する必要があります。

期中に役員報酬を増額した場合の問題点

それでは、事業年度開始から3か月を経過した後に役員報酬を増額した場合はどうなるでしょうか。

例えば、3月決算の会社で、社長の役員報酬を毎月100万円としていたとします。

ところが、業績が予想以上に好調だったため、10月から毎月150万円に増額しました。

増額の理由は、社長の経営努力によって利益が大幅に増加したためです。

しかし、業績が好調になったという理由だけでは、通常、期中改定を認める特別な事由には該当しません。

この場合、増額後の給与について、従前の月額100万円を超える部分が損金不算入となることがあります。

10月から翌年3月までの6か月間、毎月50万円を増額した場合には、合計300万円が損金不算入となる計算です。

会社が役員報酬を支給すること自体は可能ですが、法人税の所得計算では別の判断が必要になります。

役員報酬の増額によって利益を圧縮することを防ぐため、定期同額給与には厳格なルールが設けられているのです。

臨時改定事由による役員報酬の変更

事業年度開始から3か月を経過した後でも、一定の事情があれば役員報酬の改定が認められます。

その代表例が、臨時改定事由です。

臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情をいいます。

例えば、代表取締役が突然退任し、別の取締役が代表取締役に就任した場合です。

新たに代表取締役となった役員は、それまでの取締役とは職務内容や経営責任が大きく異なります。

このような場合、代表取締役への就任に伴って役員報酬を増額することには合理性があります。

臨時改定事由に該当し、改定前後の各期間で同額の給与が継続して支給されるのであれば、定期同額給与として取り扱われる可能性があります。

ただし、単に役職名を変更しただけでは十分ではありません。

実際に職務内容や責任の範囲が重大に変化していることが重要です。

税務調査では、役員の肩書だけでなく、職務の実態も確認されることになります。

役員の病気による報酬減額は認められるのか

役員が病気やけがによって、それまでの職務を十分に遂行できなくなる場合があります。

例えば、代表取締役が病気によって長期間の療養を必要とし、経営の第一線から退くことになった場合です。

それまで月額150万円の役員報酬を支給していましたが、職務内容の変更に伴い、月額80万円に減額したとします。

この場合、病気によって職務内容に重大な変更が生じたのであれば、臨時改定事由に該当する可能性があります。

重要なのは、病気になったという事実だけではなく、その結果として役員の職務内容や責任がどのように変わったのかという点です。

例えば、病気によって代表取締役としての職務を遂行できなくなり、他の役員に経営判断を委ねるようになった場合には、職務内容の重大な変更を説明しやすくなります。

一方、短期間の通院や軽度の体調不良で、実際の職務内容に大きな変化がない場合には、臨時改定事由に該当するとは限りません。

病気を理由とする報酬改定では、職務変更の実態を客観的に説明できることが重要です。

業績悪化改定事由による減額

役員報酬の期中変更が認められるもう1つの重要なケースが、業績悪化改定事由です。

会社の経営状況が著しく悪化した場合などには、役員報酬を減額することが認められる場合があります。

ただし、単に利益が減少したというだけでは、必ずしも業績悪化改定事由に該当しません。

例えば、当初の利益計画を達成できない見込みになったため、役員報酬を減額する場合です。

このような事情だけでは、通常、業績悪化改定事由に該当するとはいえません。

一方、主要取引先との取引停止によって売上高が急減し、金融機関との融資協議において役員報酬の減額が必要になった場合などには、業績悪化改定事由に該当する可能性があります。

重要なのは、会社の経営状況の著しい悪化に伴い、役員報酬を減額せざるを得ない客観的な事情が存在することです。

業績悪化改定事由は、経営者が自由に役員報酬を変更できる制度ではありません。

経営状況の悪化と役員報酬の減額との間に、合理的な関係があることが必要です。

利益調整を目的とした減額は認められない

役員報酬の減額で注意したいのが、利益調整を目的とした変更です。

例えば、当期の業績が予想より悪化し、当初見込んでいた利益を確保できなくなったとします。

そこで、社長の役員報酬を月額100万円から50万円に減額しました。

しかし、会社の資金繰りには特段の問題がなく、金融機関や取引先との関係にも重大な影響が生じていない場合です。

このようなケースでは、単に利益目標を達成するための報酬減額と判断される可能性があります。

業績悪化改定事由に該当しない場合、減額後の給与について、定期同額給与の要件を満たさない部分が生じることがあります。

例えば、期中に月額100万円から50万円へ減額し、その減額が税務上認められる改定に該当しない場合には、減額前の給与のうち月額50万円を超える部分が損金不算入となることがあります。

増額の場合と減額の場合では、損金不算入となる金額の考え方が異なる点にも注意が必要です。

したがって、役員報酬を減額すれば必ず法人税の負担が軽くなるというわけではありません。

株主総会や取締役会の議事録が重要になる

役員報酬を改定する場合には、会社法上の適切な手続を行うことも重要です。

取締役の報酬等については、定款に定めがない場合、原則として株主総会の決議によって定める必要があります。

株主総会で報酬総額の上限を決定し、その範囲内で個々の取締役の報酬額を決定する仕組みを採用している会社もあります。

この場合には、定款や株主総会決議、取締役会への委任内容などに応じて、適切な手続を行う必要があります。

税務上も、役員報酬を改定した理由や時期を確認できる資料が重要になります。

特に、臨時改定事由や業績悪化改定事由による変更では、改定の必要性を客観的に説明できることが求められます。

例えば、代表取締役の交代に伴う改定であれば、役員の異動に関する議事録や職務分掌を確認できる資料が考えられます。

業績悪化による減額であれば、月次決算資料、資金繰り表、金融機関との協議記録、経営改善計画などが重要になります。

議事録を作成していれば必ず損金算入が認められるわけではありませんが、判断の根拠を説明するうえで欠かせない資料になります。

未払役員報酬と定期同額給与の関係

役員報酬については、実際の支払時期にも注意が必要です。

例えば、会社の資金繰りが一時的に悪化したため、毎月100万円の役員報酬について、支給額を変更せず未払計上する場合があります。

この場合、実際に支払っていないという理由だけで、直ちに定期同額給与に該当しなくなるわけではありません。

ただし、役員報酬の支給債務が確定していることや、継続的な未払計上が実質的な報酬変更に当たらないかなど、個別の事情を確認する必要があります。

また、未払役員報酬については、源泉所得税の取扱いにも注意が必要です。

法人税上の損金算入と源泉所得税の納付時期は、別の問題として整理しなければなりません。

特に、未払計上を長期間継続する場合には、役員報酬の実態を踏まえた慎重な判断が必要になります。

結論

役員報酬の期中変更については、法人税法上の定期同額給与の要件を正確に理解することが重要です。

原則として、役員報酬は毎月同額で支給する必要がありますが、事業年度開始から3か月以内の通常改定については、一定の要件のもとで変更が認められます。

また、役員の職制上の地位や職務内容に重大な変更があった場合には、臨時改定事由による変更が認められることがあります。

会社の経営状況が著しく悪化した場合には、業績悪化改定事由による減額が認められる場合もあります。

ただし、単なる業績不振や利益目標の未達成だけでは、業績悪化改定事由に該当するとは限りません。

役員報酬の期中変更で重要なのは、変更の時期、変更の理由、変更前後の支給額、そして判断の根拠となる資料です。

会社法上の適切な手続を行い、議事録や財務資料などを保存しておくことも欠かせません。

役員報酬は、経営者の判断だけで自由に変更できる経費ではありません。

変更を検討する際には、事前に法人税法上の要件を確認し、損金不算入となるリスクを十分に把握しておくことが重要です。

参考

日本税理士会連合会 講義資料① 損金の計算・実務 太田達也

法人税法第34条

法人税法施行令第69条

法人税基本通達9-2-12、9-2-13、9-2-13の2

国税庁 役員給与に関するQ&A

タイトルとURLをコピーしました