企業が役員に賞与を支給する場合、従業員の賞与とは異なる法人税上のルールが適用されます。
従業員賞与は、一定の要件を満たせば損金に算入できますが、役員賞与については、原則として事前確定届出給与などの要件を満たさなければ損金算入が認められません。
特に注意したいのは、事前に支給額や支給時期を決めていても、税務署への届出が遅れたり、実際の支給内容が届出と異なったりすると、損金不算入となる可能性があることです。
また、役員に対する給与は、現金で支給するものだけではありません。
会社が役員の個人的な費用を負担する場合などにも、税務上の役員給与に該当することがあります。
今回は、事前確定届出給与の基本的な仕組みから、届出期限、支給額の相違、非常勤役員への給与、経済的利益の取扱いまで、具体例を交えて整理します。
役員賞与は原則として自由に損金算入できない
法人税法第34条では、役員給与の損金算入について、一定の制限が設けられています。
代表的な損金算入の対象は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与です。
このうち、中小企業が役員に賞与を支給する場合に重要になるのが、事前確定届出給与です。
事前確定届出給与とは、所定の時期に確定した額の金銭などを交付する旨の定めに基づいて支給される給与で、原則として所定の期限までに税務署へ届出を行うものです。
例えば、3月決算の会社が6月の定時株主総会で、社長に対して12月25日に300万円の賞与を支給することを決定したとします。
この場合、所定の期限までに届出を行い、届出どおりに300万円を支給すれば、事前確定届出給与として損金算入が認められる可能性があります。
一方、事前の定めや届出がなく、決算直前に利益が多いことを理由として役員賞与を支給しても、通常は損金算入できません。
役員賞与を利用した恣意的な利益調整を防ぐため、事前確定届出給与には厳格な要件が設けられています。
届出期限は株主総会の日だけで決まらない
事前確定届出給与で最も注意したいのが、税務署への届出期限です。
原則として、次の2つの日のうち、いずれか早い日が届出期限になります。
1つは、株主総会等で支給についての定めをした日から1か月を経過する日です。
ただし、その定めをした日が職務執行開始日より前である場合には、職務執行開始日から1か月を経過する日を基準とします。
もう1つは、会計期間開始の日から4か月を経過する日です。
例えば、3月決算の会社で、6月25日に定時株主総会を開催し、役員賞与の支給を決定したとします。
職務執行開始日も6月25日である場合、原則として7月25日が届出期限になります。
会計期間開始の日から4か月を経過する日よりも早いためです。
ただし、新設法人や臨時改定事由が生じた場合などには、別の取扱いがあります。
また、期限の日が休日に当たる場合などには、国税通則法による期限の取扱いも確認する必要があります。
重要なのは、株主総会の開催日だけで機械的に期限を判断しないことです。
役員の職務執行開始日や会計期間の開始日を確認し、届出期限を正確に計算する必要があります。
支給額が届出と異なる場合の問題点
事前確定届出給与では、届出書に記載した支給額と実際の支給額が一致していることが重要です。
例えば、社長に対して12月25日に300万円を支給する旨を届け出たとします。
しかし、会社の業績が予想より悪化したため、実際には200万円しか支給しなかった場合です。
この場合、200万円を支給しているのだから、その金額だけでも損金算入できると考えるかもしれません。
しかし、事前確定届出給与は、所定の時期に確定した額を支給することが要件です。
そのため、届出額300万円に対して実際の支給額が200万円であれば、原則として事前確定届出給与の要件を満たさず、200万円が損金不算入となる可能性があります。
反対に、届出額300万円に対して350万円を支給した場合にも、届出どおりの支給ではないため、損金算入に問題が生じます。
重要なのは、実際に支給した金額が届出額以下であればよいという制度ではないことです。
支給額を変更する必要が生じた場合には、変更の理由や変更届出の要件を事前に確認する必要があります。
支給日が1日違っても問題になるのか
事前確定届出給与では、支給額だけでなく支給時期も重要です。
例えば、12月25日に300万円を支給する旨を届け出ていたとします。
ところが、経理担当者の手続ミスによって、実際の振込日が12月26日になった場合です。
このような場合、届出に記載した支給時期と実際の支給時期が異なることになります。
事前確定届出給与は、所定の時期に確定した額を支給することが要件であるため、支給日の相違についても慎重な判断が必要です。
実務上は、支給予定日が金融機関の休業日に当たらないか、振込手続が確実に行われるかなどを事前に確認しておくことが重要です。
特に、年末年始や連休前後に役員賞与を支給する場合には、金融機関の営業日にも注意する必要があります。
事前確定届出給与は、単に届出書を提出すればよい制度ではありません。
届出内容どおりに支給するための社内管理体制も必要です。
複数回の役員賞与を支給する場合
事前確定届出給与では、年間に複数回の支給を予定することもあります。
例えば、社長に対して7月に200万円、12月に300万円を支給する旨を届け出た場合です。
この場合、それぞれの支給時期と支給額を事前に確定させる必要があります。
仮に7月の200万円は届出どおりに支給したものの、12月の300万円を支給しなかった場合には、損金算入の可否について問題が生じます。
同一の職務執行期間に係る複数回の支給については、原則として全体で事前確定届出給与の要件を満たしているかが問題になるためです。
そのため、12月分を支給しなかった場合には、7月に支給済みの200万円についても損金不算入となる可能性があります。
ただし、支給が複数の事業年度にまたがる場合などには、個別の取扱いを確認する必要があります。
役員賞与を複数回支給する場合には、年間の支給計画と資金繰りを十分に検討しておくことが重要です。
非常勤役員への報酬はどう取り扱うのか
非常勤役員に対する給与についても、法人税上の役員給与の規定が適用されます。
ただし、非常勤役員については、一定の要件のもとで、年1回や年2回などの給与が定期同額給与として取り扱われる場合があります。
例えば、非常勤取締役に対して、年1回120万円の報酬を支給する場合です。
このような給与については、支給形態や継続性などを踏まえ、法人税基本通達に定める取扱いを検討する必要があります。
ただし、非常勤役員であれば、年1回の給与が必ず定期同額給与として認められるわけではありません。
同族会社に該当するかどうかなど、適用要件に注意する必要があります。
特に、同族会社では、非常勤役員に対する年払いの報酬について、定期同額給与として取り扱われない場合があります。
そのため、非常勤役員に対して年1回の報酬を支給する場合には、事前確定届出給与による対応が必要かどうかを検討することが重要です。
また、非常勤役員の報酬額については、実際の職務内容や勤務実態との関係も問題になります。
名目的に役員に就任しているだけで、実際の職務をほとんど行っていない場合には、報酬額の相当性が問われる可能性があります。
経済的利益も役員給与に該当する
役員給与というと、毎月の役員報酬や賞与など、現金で支給するものを想像するかもしれません。
しかし、法人税上の役員給与には、経済的利益も含まれます。
例えば、会社が役員の個人的な費用を負担する場合です。
役員個人が負担すべき費用を会社が支払った場合、その役員に対して経済的利益を供与したものと判断されることがあります。
具体的には、役員の私的な旅行費用、個人的な買い物、業務と関係のない支出などが考えられます。
これらが役員に対する給与と認定された場合、法人税法第34条の規定によって損金算入が制限される可能性があります。
また、役員個人に対する給与所得として、源泉所得税の問題が生じる場合もあります。
会社が費用を負担しているからといって、すべてが法人の経費として認められるわけではありません。
支出の目的と実態を確認し、会社の業務に必要な費用なのか、役員個人に対する経済的利益なのかを区別する必要があります。
役員に対する各種手当にも注意が必要
役員に支給する住宅手当、通勤手当、その他の各種手当についても、税務上の取扱いを確認する必要があります。
例えば、役員に毎月一定額の住宅手当を支給する場合です。
現金で支給する住宅手当は、原則として給与として取り扱われます。
一方、会社が役員に社宅を貸与する場合には、一定の賃貸料相当額を役員から徴収することなどによって、給与課税される経済的利益が生じない場合があります。
ただし、役員社宅については、社宅の規模や賃貸料相当額の計算方法など、別途確認すべき要件があります。
また、通勤手当については、所得税法上の非課税限度額の範囲内であれば、原則として給与所得に課税されません。
しかし、法人税上の役員給与の判定と所得税上の非課税取扱いは、区別して考える必要があります。
役員に対する各種手当については、給与としての性質、支給方法、支給額の合理性などを整理することが重要です。
税務調査では何が確認されるのか
役員賞与や事前確定届出給与について、税務調査で重要になるのは、届出内容と実際の支給内容が一致しているかどうかです。
具体的には、株主総会や取締役会の議事録、事前確定届出給与に関する届出書、給与台帳、振込記録などが確認対象になります。
特に、届出期限内に提出しているか、届出書に記載した支給日と実際の支給日が一致しているか、届出額と実際の支給額が一致しているかが重要です。
また、役員給与の変更があった場合には、その理由や変更手続の適正性も確認されます。
非常勤役員に対する報酬については、実際の職務内容や報酬額の相当性が問題になることがあります。
さらに、役員の個人的な費用を会社が負担していないかという観点から、経費の内容が確認される場合もあります。
したがって、役員給与については、支給前の決議と届出だけでなく、支給後の記録管理も重要になります。
結論
役員賞与を法人税上の損金に算入するためには、事前確定届出給与の要件を正確に理解することが重要です。
特に、届出期限、支給時期、支給額の3つは、実務上の重要な確認事項です。
事前に支給額を決めていても、届出期限を過ぎてしまえば、原則として事前確定届出給与としての損金算入は認められません。
また、届出書を期限内に提出していても、実際の支給額や支給時期が届出内容と異なれば、損金不算入となる可能性があります。
非常勤役員に対する給与についても、支給形態や会社の区分に応じた判断が必要です。
さらに、役員給与には現金で支給する報酬や賞与だけでなく、会社が負担する個人的な費用などの経済的利益も含まれます。
役員給与の税務で重要なのは、支給する前に制度上の要件を確認し、決議、届出、支給、記録保存までを一体として管理することです。
特に事前確定届出給与は、わずかな手続上の相違が損金算入に大きな影響を与えることがあります。
役員賞与の支給を検討する際には、事前の税務確認を徹底し、届出内容どおりに支給できる体制を整えておくことが重要です。
参考
日本税理士会連合会 講義資料① 損金の計算・実務 太田達也
法人税法第34条
法人税法施行令第69条
法人税基本通達9-2-12、9-2-14
国税庁 役員給与に関するQ&A
国税庁 事前確定届出給与に関する届出手続