金とビットコインの明暗 同じ無国籍通貨でも値動きが分かれる理由

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金とビットコインは、ともに特定の国の信用だけに依存しない資産として語られることがあります。

特に、政府債務の増加や通貨価値の低下に対する警戒が強まる局面では、法定通貨から距離を置くための資産として注目されます。

ところが、足元の市場では金とビットコインの値動きに大きな差が生じています。

同じように金利を生まない資産でありながら、なぜ明暗が分かれているのでしょうか。

金とビットコインに共通する弱点

金とビットコインには共通点があります。

それ自体から利息や配当が生まれないことです。

預金や国債であれば金利を受け取ることができます。特に米国の長期金利が上昇すると、利息を生まない資産を保有する機会費用は大きくなります。

米10年物国債利回りは一時5.29%まで上昇し、2007年6月以来、約19年ぶりの高水準となりました。

一般的には、こうした金利上昇は金にもビットコインにも逆風となります。

ところが今回は、両者が同じ方向には動きませんでした。

ディベースメント取引とは何か

金とビットコインが一時的に同時に買われた背景には、ディベースメント取引があります。

ディベースメントとは、通貨価値の希薄化を意味します。

政府債務の膨張や財政への不安などから、将来的に法定通貨の実質的な価値が低下する可能性を警戒し、通貨との相関性が比較的低い資産へ資金を移す動きです。

米財務省が8月19日、償還まで10年以上ある国債の買い入れ消却について上限を少なくとも2倍に拡充すると発表したことが、市場の注目を集めました。

この発表をきっかけにドルの価値低下への警戒が意識され、金とビットコインの双方に資金が向かいました。

しかし、その後の展開は大きく異なりました。

金を苦しめた高金利

金にとって最大の逆風となったのが、高止まりする米国の長期金利です。

当初は米財務省による国債の買い入れ消却拡充が長期金利を抑えるとの見方もありました。

しかし実際には長期金利の上昇に歯止めがかかりませんでした。

金利を生まない金にとって、5%を超える米国債利回りは無視できない競争相手です。

安全性を重視する投資家であれば、価格変動のある金を保有するより、高い利回りを得られる国債を選択する余地が大きくなります。

さらに、8月までの金価格には買われ過ぎとの見方もありました。

その結果、米財務省の発表があった8月19日から9月29日までに、ニューヨーク金先物価格は1割近く下落しました。

安全資産だから必ず上がるわけではない

金について考えるときに注意したいのが、安全資産という言葉です。

世界情勢が不安定になれば、必ず金価格が上昇するわけではありません。

地政学リスクは金価格を支える要因の1つですが、実際の相場は金利、ドル、インフレ期待、中央銀行の購入、投資家のポジションなど多くの要因で決まります。

地政学リスクが高まっていても、金利上昇による下押し圧力の方が強ければ金価格が下落することは十分にあります。

安全資産という性格と、価格が安全に推移することは別の話なのです。

ビットコインには別の事情があった

一方、ビットコインには金とは異なる事情がありました。

ビットコイン価格は6月から8月中旬ごろまで6万ドル台で推移していました。

2025年10月につけた12万6,000ドル台の最高値と比べると、およそ半値の水準です。

金が買われ過ぎとみられていたのに対し、ビットコインには売られ過ぎとの見方がありました。

そこへディベースメント取引による資金流入が重なりました。

つまり、同じ材料が発生しても、それ以前の価格水準が違っていたため、その後の反応も異なったのです。

ETFが変えたビットコイン市場

もう1つ重要なのが、機関投資家の存在です。

ビットコイン関連ETFには資金流入が続き、9月27日までの1週間の純流入額は約24億ドルとなりました。

2025年10月以来の高水準です。

ETFという金融商品を通じて、従来よりも機関投資家がビットコイン市場へ資金を投入しやすくなっています。

ビットコインは8月19日から約2割上昇し、7月から9月までの3カ月では4割を超える上昇となりました。

金利上昇という逆風がありながらも、ETFを通じた資金流入や規制整備への期待というビットコイン固有の材料が上回った形です。

金とビットコインは代替関係なのか

今回の値動きから見えてくるのは、金とビットコインを単純な代替資産として考えることの難しさです。

確かに共通点はあります。

どちらも中央銀行が発行する法定通貨ではなく、それ自体から金利が発生するわけでもありません。通貨価値の低下を警戒するときの資金の逃避先として意識されることもあります。

しかし、価格を動かす要因はかなり違います。

金には長い歴史があり、中央銀行による購入や宝飾需要、実質金利、ドル相場などが大きく影響します。

一方のビットコインでは、ETFへの資金流入、暗号資産規制、機関投資家の参入、暗号資産市場全体のセンチメントなどが重要になります。

同じ無国籍通貨という言葉だけで、両者を同じ資産として扱うことはできません。

ビットコインにも逆風は残る

もちろん、ビットコインの上昇がそのまま続くとは限りません。

暗号資産の規制上の分類を明確にする市場構造法案の停滞は、不透明要因として残っています。

FRBによる追加利上げ観測もあります。

金利がさらに上昇すれば、ビットコインも金と同様に金利を生まない資産として改めて売り圧力を受ける可能性があります。

さらに、大型IPOなどに備えて投資家が保有するビットコインを換金する動きも、市場の需給に影響する可能性があります。

足元の上昇だけを見て、金よりビットコインの方が金利上昇に強いと一般化することはできません。

結論

金とビットコインは、ともに法定通貨の価値低下を警戒する局面で注目される資産です。

しかし今回の市場では、金は高金利と買われ過ぎが重荷となる一方、ビットコインはそれまでの価格下落、ETFへの資金流入、規制整備への期待などを背景に上昇しました。

重要なのは、同じ材料に反応する資産であっても、価格を決める構造まで同じとは限らないという点です。

金を見るなら金利やドル、中央銀行の動向を見る必要があります。

ビットコインを見るなら、それに加えてETFへの資金流入や規制、機関投資家の動向を見る必要があります。

金とビットコインをひとまとめにして無国籍通貨と考えるだけでは、現在の相場を十分に説明できなくなっています。

両者の値動きが分かれ始めたこと自体が、ビットコイン市場が金とは異なる独自の市場構造を持ち始めていることを示しているのかもしれません。

参考

日本経済新聞 2026年9月30日 夕刊 明暗分ける金と仮想通貨

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