現在、ゴルフ会員権の価格が再び上昇しています。
2026年7月の関東主要150コースの平均価格は305万2000円となり、5カ月連続で上昇しました。
足元では2009年11月以来およそ16年半ぶりの高値圏となっています。
しかし、日本のゴルフ会員権には現在とは比較にならないほど価格が上昇した時代がありました。
1980年代後半から1990年代初めのバブル経済期です。
当時はゴルフ人気が高まり、企業や富裕層などが会員権を積極的に購入しました。
人気の高い名門ゴルフ場では会員権価格が億円単位になる例もあり、ゴルフ会員権そのものが値上がりを期待する資産として売買されました。
ところがバブル経済が崩壊すると状況は一変します。
買い手が減少し、企業が保有していた会員権の売却も進み、価格は大幅に下落しました。
今回は、ゴルフ会員権バブルとは何だったのか、そして現在の値上がりと何が違うのかを見ていきます。
バブル期にはゴルフそのものが人気だった
ゴルフ会員権価格が上昇した背景には、まずゴルフ人気がありました。
高度経済成長を経て所得水準が上昇すると、ゴルフを楽しむ人が増えていきました。
特に1980年代には、ゴルフは個人の趣味であるだけでなく、企業活動とも密接に関係するようになります。
取引先との交流や接待などにゴルフが利用される機会も多くありました。
そのため、
個人としてゴルフを楽しみたい人
仕事でゴルフを利用したい人
法人として会員権を保有したい企業
など、幅広い需要が存在しました。
ゴルフ場の会員になること自体に高い価値が認められていたのです。
会員権は値上がりする資産と考えられた
ゴルフ会員権には市場価格があります。
例えば1000万円で購入した会員権が1500万円になれば、500万円の値上がりです。
バブル期には、土地や株式などさまざまな資産価格が上昇しました。
その中でゴルフ会員権も、
持っていれば値上がりする
という期待を持たれるようになります。
本来、ゴルフ会員権はゴルフ場を会員として利用するための権利です。
ところが価格上昇が続くと、利用価値より値上がり益に注目する買い手も増えていきます。
値上がりするから買う。
買う人が増えるからさらに値上がりする。
さらに値上がりするから新しい買い手が現れる。
こうした循環が価格を押し上げました。
法人需要が会員権価格を押し上げた
バブル期のゴルフ会員権市場を考えるうえで重要なのが法人需要です。
企業がゴルフ会員権を保有することは珍しくありませんでした。
取引先とのゴルフや役員などの利用を目的として、法人名義で会員権を保有する企業がありました。
企業業績が良く、資金にも余裕があれば、高額な会員権を購入することができます。
さらにゴルフ会員権価格そのものが上昇していれば、
利用できる
資産価値も上がる
という二つのメリットがあるように見えます。
企業による購入需要が増えれば、会員権市場への資金流入も大きくなります。
特に名門クラブでは供給される会員権が限られているため、法人と個人の買いが集中すれば価格が急激に上昇することがあります。
土地価格の上昇とも無関係ではなかった
バブル経済を象徴するものが土地価格の上昇です。
当時は、
土地の価格は下がらない
という考え方が広がりました。
ゴルフ場は広大な土地を必要とする施設です。
そのため土地価格の上昇は、ゴルフ場の資産価値に対する期待にもつながりました。
特に首都圏に近いゴルフ場は広大な土地を保有しているため、その土地そのものに大きな価値があるように見えました。
ただし重要なのは、ゴルフ会員権を持っているからといって、通常、そのゴルフ場の土地を自由に売却できるわけではないことです。
会員権とゴルフ場の土地所有権は同じものではありません。
それでも土地価格が上昇し続ける社会では、ゴルフ場に対する資産価値の期待も高まりやすくなります。
名門会員権が億円単位になる理由
人気の高い名門クラブでは、会員になりたい人が多い一方、会員権の供給には限りがあります。
例えば売りに出る会員権が10口しかないのに、購入希望者が100人いれば、価格には強い上昇圧力がかかります。
さらにバブル期には、
高くても将来もっと値上がりする
という期待がありました。
5000万円でも高いと思わず、
来年7000万円になるなら買いたい
と考える人が現れます。
7000万円になれば、
1億円になるかもしれない
という期待が生まれます。
このように実際のゴルフ利用によって得られる価値だけでは説明しにくい価格まで上昇していきます。
これが資産バブルの特徴です。
価格上昇が新たな需要を生んだ
通常の商品なら、値段が上がれば買いたい人は減ります。
しかし資産市場では逆のことが起きる場合があります。
100万円だった資産が200万円になると、
高くなったから買わない
ではなく、
こんなに上がっているなら今後も上がるかもしれない
と考えて購入する人が現れます。
300万円になれば、さらに注目されます。
価格上昇そのものが需要を生み、その需要がさらに価格を押し上げます。
ゴルフ会員権バブルでも、このような投資的需要が価格上昇を加速させました。
本来の利用価値から価格が大きく離れていく危険性がここにあります。
バブル崩壊で何が起きたのか
1990年代に入り、日本の資産バブルが崩壊すると環境が一変します。
株価や土地価格が下落し、企業や個人の資産状況が悪化しました。
すると高額なゴルフ会員権を積極的に購入する人が減っていきます。
一方、資金を確保するために会員権を売却したい企業や個人が増えます。
つまり、
買いたい人が減る
売りたい人が増える
という状態になります。
資産価格にとって最も厳しい需給関係です。
バブル期とは逆方向の循環が始まったのです。
法人の売却が価格下落を加速させた
企業が多数のゴルフ会員権を保有していれば、景気が悪化したときに売却対象になることがあります。
本業に必要不可欠な資産ではないためです。
企業が経費削減や資産圧縮を進めれば、
使っていないゴルフ会員権を売却しよう
という判断が出てきます。
複数の企業が同時に同じような行動を取れば、市場には売り注文が増えます。
しかし景気悪化で新しく購入する企業は減っています。
売りが多いのに買いが少ない。
その結果、会員権価格は下落します。
価格が下落すると、さらに早く売却しようとする保有者が現れ、下落を加速させることもあります。
預託金問題も表面化した
バブル期にはゴルフ場の新規開発も活発でした。
預託金制では、入会者から預託金を集め、それをゴルフ場の建設や運営などの資金として利用するケースがあります。
しかし経営環境が悪化すると、預託金の返還が大きな問題になります。
会員から、
預けたお金を返してほしい
という請求が集中しても、ゴルフ場側に十分な現金がなければ返還できません。
ゴルフ場の経営不安が高まれば、そのゴルフ場の会員権を欲しい人も減ります。
すると市場価格も下落します。
バブル崩壊は、単に会員権の市場価格を下げただけではなく、ゴルフ場の経営そのものにも大きな影響を与えました。
会員権価格が下がっても預託金額は同じことがある
例えば預託金1000万円の会員権があったとします。
バブル期には市場で2000万円で売買されていたかもしれません。
ところがバブル崩壊後、市場価格が200万円まで下落したとします。
市場価格が200万円だからといって、預託金の帳面上の金額まで200万円になるわけではありません。
ここで、
市場で売却できる価格
預託金返還請求権として表示される金額
の乖離が生じることがあります。
なぜ市場が額面よりはるかに低い価格を付けるのでしょうか。
将来、本当に預託金が額面通り返還されるのかという信用リスクが市場価格に反映されるからです。
ゴルフ会員権は安全な資産ではなかった
バブル期に高額で購入した会員権が、その後大幅に値下がりした例があります。
これはゴルフ会員権が元本保証の商品ではないことを示しています。
会員権の市場価格は、
ゴルフ人気
景気
法人需要
富裕層の購買力
ゴルフ場の経営状態
交通環境
会員数
などによって変化します。
人気の名門クラブであっても、市場環境が大きく変化すれば価格が下落する可能性があります。
高額であることと安全であることは別なのです。
現在の値上がりとバブル期は何が違うのか
現在もゴルフ会員権価格は上昇しています。
しかし、足元の値上がりをそのままバブル期と同じと考えるのは適切ではありません。
今回の記事では、高価格帯だけではなく70万円前後の低価格帯にも需要が広がっています。
総額100万円程度から始められる手軽さが評価されています。
また名門コースでは、都心からのアクセスや移動時間の短さといった実際の利用価値が重視されています。
さらに猛暑によって、山梨県や静岡県など比較的涼しい地域のコースへの需要も高まっています。
つまり現在は、
実際に利用したい
便利なゴルフ場の会員になりたい
夏でも快適にプレーしたい
という利用価値を背景とした需要が相場を支えている面があります。
値上がり期待だけになっていないかを見る
今後、会員権市場を見るうえで重要なのは、なぜ購入者が買っているのかという点です。
例えば、
そのゴルフ場を頻繁に利用したいから買う
という需要なら、利用価値が背景にあります。
一方、
来年もっと値上がりしそうだから買う
という需要が急増すれば、投機的な色彩が強くなります。
資産価格の上昇そのものが次の買いを呼ぶ状態が続くと、実際の利用価値から価格が離れていく可能性があります。
バブル期の経験から学べるのは、価格が上昇していることだけでは、その資産の本当の価値は分からないということです。
結論
ゴルフ会員権バブルとは、1980年代後半から1990年代初めにかけて、ゴルフ人気、旺盛な法人需要、土地価格の上昇、そしてさらなる値上がりへの期待が重なり、ゴルフ会員権価格が大幅に上昇した現象です。
人気の高い名門ゴルフ場では、会員権が億円単位になる例もありました。
しかし価格上昇の一部は、ゴルフ場を利用する価値だけではなく、
もっと値上がりするだろう
という期待によって支えられていました。
バブル経済が崩壊すると状況は逆転します。
法人や個人の購入需要が弱まり、一方で資産を処分したい売り手が増えました。
さらにゴルフ場の経営悪化や預託金返還問題も重なり、会員権価格は大幅に下落しました。
現在、ゴルフ会員権は再び値上がりしています。
ただし現在の需要には、都心からのアクセス、総額100万円程度から入会できる手軽さ、猛暑でも比較的快適に利用できる立地など、具体的な利用価値を重視する動きがあります。
今後重要なのは、価格が上がっているかだけを見ることではありません。
その価格を支えているのが実際の利用需要なのか、それともさらなる値上がりだけを期待する投機的需要なのかを見ることです。
ゴルフ会員権バブルの歴史は、利用するための資産であっても、値上がり期待が過度に強まれば価格が本来の価値から大きく離れることがあると教えてくれます。
参考
日本経済新聞 2026年8月27日 朝刊 ゴルフ会員権値上がり 5カ月連続 低価格帯も人気