会計不正を投資家はどう見抜くのか 売上や利益だけでは分からない危険信号編

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企業の会計不正が発覚すると、過去の決算書を見直して「もっと早く気づけなかったのか」と考えることがあります。

しかし、個人投資家が決算書だけから会計不正を断定することは簡単ではありません。

粉飾決算では、数字のつじつまを合わせたり、証拠を整えたりして、不正が見えにくくされることがあるからです。

一方、不正そのものを断定できなくても、企業の数字や開示情報に表れる不自然な変化に気づくことはできます。

重要なのは、一つの数字だけを見ないことです。

利益と営業キャッシュフロー、売上高と売掛金、監査法人の交代、KAM、訂正開示などを組み合わせることで、企業を見る角度を増やすことができます。

利益が増えていても安心とは限らない

企業分析では利益の増減が注目されます。

利益が毎年増えていれば、業績が順調に成長しているように見えます。

しかし、利益は会計上のルールに基づいて計算された数字です。

売上を計上する時期や、費用を計上する時期、固定資産の減損などによって利益は変化します。

そのため利益だけを見て企業の状態を判断するのは十分ではありません。

そこで一緒に確認したいのがキャッシュフローです。

利益と営業キャッシュフローを比較する

損益計算書の利益と、キャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローは同じ数字にはなりません。

売上を計上しても、代金をまだ回収していなければ現金は増えないからです。

減価償却費のように、費用として計上してもその期に現金が出ていかないものもあります。

したがって利益と営業キャッシュフローに差があること自体は普通です。

注意したいのは、その差が長期間大きく続く場合です。

利益は毎年増えているのに営業キャッシュフローがほとんど増えていない。

あるいは利益が大きく出ているのに営業キャッシュフローが継続的にマイナスになっている。

そのような場合には、なぜ利益が現金につながっていないのかを確認する必要があります。

売掛金の急増を見る

売上高と合わせて確認したい代表的な項目が売掛金です。

企業が商品を販売しても、代金を後日受け取る場合があります。

この未回収代金が売掛金です。

事業が成長して売上高が増えれば、売掛金も増えることがあります。

したがって売掛金が増えただけで問題とはいえません。

重要なのは売上高とのバランスです。

例えば売上高が前年比10パーセント増えている一方、売掛金が50パーセント増えているとします。

なぜ売掛金だけが急増しているのかを確認する必要があります。

取引条件が変わったのかもしれません。

大型取引が期末に発生したのかもしれません。

一方、売上計上の妥当性について確認すべき事情が存在する可能性もあります。

架空売上は売掛金に表れることがある

架空売上を計上すると、帳簿上は売上高が増えます。

しかし、実際の取引がなければ通常は顧客から代金が入ってきません。

その結果、売掛金が残る可能性があります。

もちろん不正を行う側も、この問題を理解しています。

別の資金を使って入金があったように見せたり、複雑な取引を組み合わせたりする可能性もあります。

そのため売掛金だけで不正を発見できるわけではありません。

それでも、売上高の伸びと売掛金の伸びを比較することは、決算書の不自然な動きを探す基本的な方法の一つです。

棚卸資産の急増にも注意する

製造業や小売業では棚卸資産も重要です。

商品や製品が売れずに在庫として残れば、棚卸資産が増えます。

企業が成長するために意図的に在庫を増やしている場合もあります。

新製品の発売に備えているのかもしれません。

しかし、売上高がほとんど増えていないのに棚卸資産だけが急増している場合には、その理由を確認する必要があります。

商品が売れずに在庫として積み上がっている可能性があります。

在庫の評価が適切なのかという問題もあります。

決算書では利益だけでなく、利益を生み出す過程で貸借対照表の数字がどう変化しているのかを見ることが重要です。

監査法人の交代を見る

監査法人の変更も確認したい情報の一つです。

ただし、監査法人が交代したからといって会計不正があるとは限りません。

監査報酬、監査体制、企業グループの変化など、さまざまな理由で監査法人が変更されます。

重要なのは交代理由です。

企業と監査法人の間で会計処理について意見の相違がなかったのか。

監査法人が辞任する形なのか。

長期間担当していた監査法人から突然変更されるのか。

こうした背景を企業の開示資料から確認します。

監査法人の交代という一つの事実だけで判断するのではなく、他の情報と組み合わせることが大切です。

KAMは監査人からの重要な情報になる

監査報告書のKAMも重要です。

KAMには、監査人がその企業の監査で特に重要と判断した事項が記載されます。

例えば売上高の認識、固定資産の減損、のれんの評価などです。

KAMに記載されたからといって、その企業に会計不正があるという意味ではありません。

むしろ監査人が重要な領域について重点的に監査したことを示す情報です。

投資家にとって重要なのは、なぜその項目がKAMになったのかを読むことです。

企業の決算数字とKAMを組み合わせると、監査人がどの数字や判断を特に重要と考えているのかが分かります。

不正リスクのKAMにも注目する

日本公認会計士協会は、不正に関する監査基準報告書240号の改正を進めています。

改正後の基準は2028年3月期の監査から適用される見通しです。

監査人が特に重要と判断した不正リスクに関する事項について、KAMとして監査報告書に記載することが想定されています。

これによって投資家は、監査人が企業のどの領域について重要な不正リスクを認識したのかを把握しやすくなります。

売上高の認識などが重要な不正リスクに関連する事項として取り上げられれば、その理由と監査人の対応を確認することができます。

投資家にとって監査報告書の情報価値は一段と高まるでしょう。

訂正開示は内容を見る

企業が過去に公表した決算内容を訂正することがあります。

単純な記載ミスの場合もあるため、訂正したという事実だけで会計不正と判断することはできません。

しかし、売上高や利益など重要な数字が大幅に変更された場合には注意が必要です。

なぜ訂正が必要になったのか。

何年間の決算が訂正されたのか。

利益への影響はいくらなのか。

経営者が関与していたのか。

内部統制に問題があったのか。

こうした内容まで確認します。

特に複数年度にわたる大規模な訂正の場合、企業の財務報告体制そのものに問題がなかったかを見る必要があります。

数字の組み合わせから違和感を探す

会計不正を考えるうえで重要なのは、一つの数字だけから結論を出さないことです。

例えば次のような企業があったとします。

売上高と利益は毎年大幅に増えている。

一方、売掛金は売上高を上回るペースで増えている。

営業キャッシュフローはほとんど増えていない。

さらに売上高の認識がKAMとして取り上げられている。

これだけで不正と断定することはできません。

しかし「なぜこうなっているのか」を調べる理由にはなります。

反対に、一つ一つの数字を独立して見ていると、この違和感に気づけない可能性があります。

決算書は数字の集合ではなく、数字同士がつながった一つの情報として見ることが重要です。

不正を当てることが目的ではない

個人投資家が企業分析をする目的は、会計不正を捜査することではありません。

監査法人や捜査機関のような情報や権限もありません。

したがって公開情報だけから「この会社は粉飾している」と断定するのは避けるべきです。

投資家にできるのは、不自然な数字や開示を見つけたとき、その理由が理解できるまで慎重に確認することです。

分からなければ投資を見送るという選択肢もあります。

企業の将来を完全に予測する必要はありません。

自分が理解できないリスクを避けることも、投資判断の一つです。

結論

個人投資家が決算書だけから会計不正を完全に見抜くことは困難です。

不正は発見されないよう意図的に隠されるからです。

しかし、不正そのものを断定できなくても、企業の数字や開示に表れる危険信号を確認することはできます。

利益と営業キャッシュフローが大きく乖離していないか。

売上高以上のペースで売掛金が増えていないか。

棚卸資産が不自然に積み上がっていないか。

監査法人が交代した理由は何か。

KAMでは何が重要事項として取り上げられているのか。

過去の決算に大規模な訂正はないか。

こうした情報を組み合わせることが重要です。

2028年3月期から予定されている監査基準の改正によって、重要な不正リスクに関する情報も監査報告書から読み取りやすくなる見通しです。

企業分析では、売上高や利益が増えているかを見るだけでは十分ではありません。

その利益が現金を伴っているのか、その売上がどのような資産を生み出しているのか、そして監査人がどこに重要なリスクを認識しているのかまで見る。

数字を点ではなく線で読むことが、会計不正の危険信号に気づくための重要な視点なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載

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