店でクレジットカードを使おうとしたところ、突然決済できなくなった。
もし、このようなことが起きたら店舗はどうするのでしょうか。
現金で支払ってもらえばよいと思うかもしれません。
しかし、キャッシュレス決済が普及した現在では、十分な現金を持ち歩いていない顧客もいます。
さらに問題は、決済できなくなることだけではありません。
すでに発生しているキャッシュレス売上の入金が止まれば、店舗の資金繰りにも影響します。
今回の参考記事では、決済サービス会社である全東信の破産によって、一部の加盟店で最大1カ月分の売上代金が入金されない事態が発生したとされています。
カード決済が利用できなくなることによる客離れや、資金繰りへの影響も懸念されています。
こうした事態に備えて考えておきたいのが、キャッシュレス時代のBCPです。
BCPとは何か
BCPとは、事業継続計画のことです。
会社に大きなトラブルが発生しても、重要な事業をできるだけ継続したり、早く復旧したりするための備えを意味します。
たとえば地震によって店舗が利用できなくなるかもしれません。
停電や通信障害によって業務システムが使えなくなることもあります。
重要な取引先から商品が届かなくなることも考えられます。
こうした事態が発生してから対応を考えるのではなく、
何が止まる可能性があるのか
止まったら営業にどのような影響が出るのか
代わりの方法はあるのか
どの程度の期間なら事業を続けられるのか
をあらかじめ考えておくのがBCPの基本的な考え方です。
なお、今回の参考記事ではBCPそのものについて解説されているわけではありません。
参考記事が示した決済サービス停止や未入金の問題をもとに、店舗の事業継続という視点から考えていきます。
キャッシュレス決済も重要な経営インフラになっている
以前であれば、店舗の重要なインフラといえば電気、水道、ガスなどを思い浮かべることが多かったでしょう。
しかし、キャッシュレス化が進んだ店舗では、決済サービスも営業を支える重要な仕組みになっています。
商品を販売できても、顧客が希望する方法で代金を受け取れなければ販売機会を失う可能性があるからです。
たとえば飲食店で食事を終えた顧客が、クレジットカードで支払おうとしたとします。
ところが決済サービスが利用できません。
顧客が現金を持っていなければ、店舗側にも顧客側にも困った問題が生じます。
今回の参考記事でも、全東信の破産によってカード決済が利用できなくなることで、客離れを招く可能性が指摘されています。
決済サービスは単なる支払方法ではなく、店舗が営業を続けるためのインフラの一つになっているのです。
決済障害には二つの問題がある
キャッシュレス決済が止まった場合、店舗には大きく二つの問題が考えられます。
一つは、新しい決済を受け付けられなくなることです。
もう一つは、すでに発生している売上代金の入金に問題が起きることです。
この二つは分けて考える必要があります。
決済端末や通信などの問題でカードを受け付けられなければ、その時点からの販売に影響します。
一方、決済に関係する会社の経営問題などによって売上代金が予定通り入らなければ、過去の売上に関係する資金繰りに影響します。
今回の全東信の事例で特に問題になったのは、後者も含む点です。
参考記事では、サービスを利用していた加盟店の中に最大1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
決済のBCPでは、支払いを受け付けられるかだけでなく、売上代金を確実に受け取れるかまで考える必要があります。
一つの決済手段しかなければ営業への影響が大きくなる
仮にキャッシュレス決済の大部分を一つのサービスに依存している店舗があるとします。
そのサービスが突然利用できなくなれば、店舗は大きな影響を受けます。
一方、別の決済方法を利用できれば、すべての決済が同時に止まるリスクを抑えられる場合があります。
重要なのは、単に決済ブランドをたくさん表示することではありません。
どこか一つに障害が起きた場合に、実際に別の方法で代金を受け取れる状態になっているかということです。
キャッシュレス時代のBCPでは、
普段使っている決済手段が使えない
という状況を具体的に想定しておくことが重要になります。
複数の決済手段を持つ意味
決済手段を複数用意しておくことは、顧客の利便性を高めるだけではありません。
事業継続の面でも意味があります。
たとえば、ある決済方法が利用できなくても、別の決済方法や現金で支払ってもらえる可能性があります。
一つの仕組みが停止しただけで、すべての販売を止めなくて済むようにする考え方です。
ただし、今回の参考記事では複数の決済サービスを利用することを具体的な対策として推奨しているわけではありません。
これは参考記事で示された決済停止リスクから考えられる一般的なBCPの考え方です。
また、決済手段を増やせば、それだけ契約や入金、手数料などの管理が複雑になる可能性があります。
数を増やせばよいという単純な話ではありません。
決済手段の分散と入金経路の分散は別に考える
ここで注意したいのが、顧客から見える決済手段と、店舗への入金経路が必ずしも同じ問題ではないことです。
店舗に複数のカードブランドや決済方法が表示されていても、その裏側で同じ事業者への依存が大きければ、その事業者に問題が起きたときに影響が集中する可能性があります。
店舗のBCPを考えるのであれば、
顧客がどの方法で支払えるか
という入口だけでなく、
売上代金がどのような経路で自社へ入ってくるか
という出口まで確認する必要があります。
今回の全東信の事例は、特に後者の重要性を示しています。
顧客が支払った後の売上代金が、予定通り店舗へ届くとは限らないからです。
資金繰りもBCPの一部になる
決済サービスが止まっても、店舗の支払いは止まりません。
飲食店なら食材の仕入代金があります。
従業員への給与があります。
家賃や水道光熱費なども支払わなければなりません。
仮に1カ月分の売上代金が予定通り入ってこなかった場合でも、こうした支払いに対応できるかを考えておく必要があります。
たとえば毎月1000万円の売上があり、そのうち700万円が特定の決済経路を通じて入金される店舗なら、その入金が止まった場合の影響は大きくなります。
売上高が1000万円あるから安心というわけではありません。
必要なのは、入金が止まった場合でも何日、何週間営業を続けられるのかという視点です。
キャッシュレス時代のBCPでは、決済手段の確保と資金繰り対策を切り離すことができません。
入金予定を日常的に確認することも備えになる
BCPというと、大規模な計画書を作ることを想像するかもしれません。
しかし、日常的な資金管理も重要な備えになります。
どの決済会社から
いつ
いくら
入金される予定なのかを把握します。
そして予定日に実際に入金されたかを確認します。
これを繰り返していれば、入金の異常にも気づきやすくなります。
さらに特定の決済会社からの入金が止まった場合、どの程度の資金不足が発生するのかも事前に試算できます。
キャッシュレス比率が高い店舗ほど、決済管理と資金繰り管理を一体として考える必要があります。
全東信の事例が示した事業継続リスク
今回の参考記事では、全東信はピーク時に約20万店の加盟店を抱えていました。
同社はカード会社より先に加盟店へ売上代金を入金するサービスを提供していましたが、競争激化や新型コロナウイルス感染症の影響などによって経営が悪化しました。
その後、信用問題から資金調達にも支障を来し、2026年7月に自己破産しました。
参考記事では、加盟店の中に最大1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
さらにカード決済が利用できなくなることで客離れを招き、資金繰りに支障を来す事業者が多数出る可能性も指摘されています。
つまり、決済事業者の問題が、
売上代金の未入金
決済手段の喪失
客離れ
資金繰り悪化
へと広がる可能性があるわけです。
キャッシュレス決済をBCPの対象として考える必要性が分かる事例です。
結論
キャッシュレス時代のBCPとは、決済サービスに障害や経営問題が発生しても、店舗ができるだけ営業を続けられるように備えておくことです。
キャッシュレス決済が使えなくなった場合に考えるべき問題は一つではありません。
顧客から新しい支払いを受け付けられなくなる問題があります。
さらに、すでに発生している売上代金が予定通り入金されなくなる問題もあります。
今回の参考記事では、全東信の破産によって、一部の加盟店で最大1カ月分の売上代金が入金されない事態が発生したとされています。
カード決済が利用できなくなることによる客離れや資金繰りへの影響も懸念されています。
そのため店舗では、一つの決済手段や事業者への依存度を把握し、別の決済方法を利用できるかを考えるとともに、入金が止まった場合の資金繰りまで確認することが重要になります。
キャッシュレス決済は便利な支払手段です。
しかし、利用割合が高くなるほど、それは店舗の営業と資金繰りを支える重要なインフラになります。
電気や通信が止まった場合に備えるのと同じように、決済が止まったらどう営業を続けるのかを考えることも、キャッシュレス時代の事業継続には必要なのです。
参考
企業実務 2026年9月 キャッシュレス時代の盲点 懸念される小規模飲食店の連鎖倒産