新リース会計で不動産戦略はどう変わるのか(会計実務編)

会計

日本企業の不動産戦略が大きな転換点を迎えています。

背景にあるのが、新リース会計基準です。

これまで企業は、

  • 保有する
  • 借りる
  • オフバランス化する

といった選択肢を使い分けながら、財務戦略を組み立ててきました。

しかし、新リース会計では、これまで貸借対照表に計上されていなかった多くの賃借契約についても、

  • 使用権資産
  • リース負債

を計上する方向へ変わります。

つまり、

「借りれば財務が軽く見える」

という従来の考え方が通用しにくくなります。

この変化は、単なる会計基準の改正ではありません。

企業の不動産戦略、設備投資戦略、資本効率経営、さらにはセール・アンド・リースバックの考え方そのものにも影響を与える可能性があります。

本稿では、新リース会計が企業不動産戦略をどう変えるのかを、会計実務の視点から整理します。

新リース会計とは何か

新リース会計では、借手側の会計処理が大きく変わります。

従来、日本基準では、

  • ファイナンス・リース
  • オペレーティング・リース

を区分していました。

このうち、オペレーティング・リースは原則として費用処理され、貸借対照表に負債を計上しない扱いでした。

そのため企業は、

  • 店舗
  • オフィス
  • 倉庫
  • 物流施設

などを賃借することで、資産や負債を圧縮しやすい面がありました。

しかし、新リース会計では、多くのリース契約について、

  • 使用権資産
  • リース負債

をオンバランス化する方向へ変わります。

つまり、

「借りているだけでも実質的には負債である」

という考え方が強まるのです。

なぜ制度が変わるのか

背景には、国際会計基準との整合性があります。

これまで世界的には、

「同じように長期間利用しているのに、保有なら負債、賃借なら負債なしになるのは不自然ではないか」

という批判がありました。

例えば、

  • 自社ビルを所有している企業
  • 30年契約でビルを借りている企業

は、実質的には似た経済効果を持つ場合があります。

にもかかわらず、会計上の見え方が大きく異なっていました。

このため、国際的には「利用権」を資産として認識し、将来支払う賃料を負債として認識する方向へ進んでいます。

日本でもその流れに沿って制度改正が進んでいます。

不動産戦略に何が起きるのか

この改正で最も影響を受けるのが、不動産戦略です。

従来は、

「持つより借りた方が財務が軽く見える」

という考え方がありました。

そのため、

  • 本社移転
  • 店舗展開
  • 物流施設整備

などで、賃借を選ぶ企業も多くありました。

しかし、新リース会計では、借りてもリース負債が計上されます。

つまり、

「持つ」
「借りる」

の会計上の差が縮小するのです。

セール・アンド・リースバックへの影響

特に重要なのが、セール・アンド・リースバックです。

これまで企業は、

  1. 不動産を売却する
  2. 賃借へ切り替える

ことで、

  • 総資産圧縮
  • ROE改善
  • 負債圧縮

を狙うことがありました。

しかし、新リース会計では、賃借部分についてリース負債が計上されます。

つまり、

「売却しても負債が残る」

という構造になりやすくなります。

これにより、従来ほど単純に財務改善効果が出ない可能性があります。

EBITDAは改善しやすくなる

一方で、新リース会計には別の影響もあります。

リース料は従来、営業費用として処理されることが多くありました。

しかし新基準では、

  • 減価償却費
  • 支払利息

へ分解される傾向があります。

その結果、EBITDAは改善しやすくなります。

近年は投資家がEBITDAを重視するケースも増えているため、

「利益が改善したように見える」

現象が起きる可能性があります。

ただし、これは実際にキャッシュ創出力が改善したわけではありません。

単なる表示区分変更に近い面もあります。

そのため、投資家側にも読み替えが必要になります。

実務負担は極めて大きい

新リース会計で企業実務に与える影響は非常に大きいと考えられます。

なぜなら、まず契約の洗い出しが必要になるからです。

例えば、

  • 不動産賃貸借契約
  • 倉庫契約
  • 車両契約
  • サーバー利用契約
  • 設備利用契約

などがリースに該当する可能性があります。

しかも、契約書に「リース」と書いていなくても対象になる場合があります。

このため、多くの企業で、

  • 契約台帳整備
  • AIによる契約分析
  • グループ横断プロジェクト

などが始まっています。

「所有か賃借か」の考え方が変わる

従来は、

「借りればオフバランス」

という発想がありました。

しかし今後は、

「借りても負債」
「持っても負債」

という考え方へ変わります。

すると企業は、単なる会計テクニックではなく、

  • 立地戦略
  • 事業継続性
  • インフレ耐性
  • 資産価値上昇
  • キャッシュフロー安定性

などを総合的に考えなければならなくなります。

つまり、

「何を持つべきか」
「何を借りるべきか」

という経営判断そのものが、より重要になるのです。

インフレ時代との関係

さらに現在の日本は、インフレ経済へ移行しつつあります。

インフレ下では、不動産価値が上昇しやすくなります。

そのため、

「資産を持たない方が効率的」

というデフレ時代の発想が、今後も正しいとは限りません。

特に、

  • 物流施設
  • 工場
  • 都心本社
  • 希少立地

などは、将来的にさらに価値が高まる可能性があります。

そのため、新リース会計は単なる会計基準改正ではなく、

「日本企業は何を持つべきなのか」

という経営思想そのものを問い直す契機になっているともいえます。

結論

新リース会計は、企業の不動産戦略を大きく変える可能性があります。

これまで企業は、

  • 保有か賃借か
  • オンバランスかオフバランスか

を重視してきました。

しかし今後は、

「借りても負債」

という考え方が強まり、単純なオフバランス戦略は通用しにくくなります。

その結果、

  • セール・アンド・リースバック
  • 本社戦略
  • 物流施設戦略
  • 設備投資戦略

などを根本から見直す企業が増える可能性があります。

特にインフレ時代に入った現在では、

「持たない経営」
「軽い資産構成」

が常に正解とは限りません。

今後は、会計だけでなく、

  • 事業継続
  • 資本効率
  • 資産価値
  • インフレ対応

を総合的に考えた不動産戦略が求められる時代になっていくと考えられます。

参考

日本経済新聞 朝刊 2026年5月8日
「企業施設、含み益20兆円 事業用不動産、インフレ波及 物言う株主が売却圧力」

日本経済新聞 朝刊 2026年5月8日
「事業用不動産 価格上昇で取得時より高く」

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