監査報告書はどこを読めばよいのか 個人投資家が決算書と一緒に確認したいポイント編

会計
グレーとモスグリーン WEBデザイン 特集 ブログアイキャッチ - 1

企業へ投資するとき、多くの人は売上高や利益、配当、株価などを確認します。

有価証券報告書まで読む人でも、財務諸表を確認したところで終わり、監査報告書はほとんど読まないことがあるかもしれません。

しかし、監査報告書には企業を見るうえで重要な情報があります。

監査法人が財務諸表についてどのような意見を出したのか。

監査でどの領域を特に重要と考えたのか。

企業の継続に関する重要な不確実性はないのか。

そして今後は、重要な不正リスクに関する情報もこれまで以上に注目されることになります。

監査報告書は専門家だけが読む書類ではありません。

ポイントを絞れば、個人投資家にも役立つ資料になります。

まず監査意見を確認する

監査報告書を読むとき、最初に確認したいのが監査意見です。

監査人は監査を行った結果に基づき、企業の財務諸表について意見を表明します。

多くの上場企業では適正意見が出ています。

適正意見は、財務諸表が適用される会計基準に従って、重要な点において適正に表示されていると監査人が判断したことを示します。

ここで注意したいのは、適正意見が企業の安全性や将来性を保証するものではないことです。

監査法人が「この会社の株価は上がる」「この会社は倒産しない」と保証しているわけではありません。

適正意見以外なら理由を確認する

監査意見には、適正意見以外のものもあります。

例えば財務諸表の一部に重要な問題があるものの、その影響が財務諸表全体に広範ではない場合などには、限定付適正意見となることがあります。

問題が重要かつ広範であれば、不適正意見となる場合があります。

十分かつ適切な監査証拠を得られず、その影響が重要かつ広範となる可能性がある場合には、意見不表明となることもあります。

こうした監査意見が出ている場合には「適正意見ではなかった」という事実だけを見るのではなく、なぜその意見になったのかを読むことが重要です。

企業の財務報告にどのような問題が存在しているのかを知る手掛かりになります。

次にKAMを見る

監査意見を確認したら、次に読みたいのがKAMです。

KAMとは監査上の主要な検討事項です。

監査人がその年度の財務諸表監査において特に重要と判断した事項が記載されます。

例えば固定資産の減損、のれんの評価、売上高の認識、引当金などがKAMとして取り上げられることがあります。

KAMを見ると、監査人が企業のどの会計領域を特に注意して監査したのかが分かります。

決算書を監査人の視点から読むための手掛かりになるのです。

KAMでは理由と監査対応を見る

KAMは項目名だけ確認して終わりではありません。

なぜその事項が監査上重要と判断されたのかを見ることが大切です。

例えば固定資産の減損がKAMになっている場合、その事業の将来予測に大きな不確実性があるのかもしれません。

大型買収後ののれんがKAMになっていれば、買収した事業の将来収益が重要な判断材料になっている可能性があります。

さらに監査人がそのリスクへどのように対応したのかも確認します。

経営者の事業計画を検討したのか。

外部データと比較したのか。

専門家を利用したのか。

KAMには、監査人が何を疑い、どのように確かめたのかを知る材料があります。

前年のKAMと比較する

KAMは一年度だけでなく、前年と比較するとさらに役立ちます。

毎年同じKAMが続いている場合があります。

例えば固定資産の減損が何年もKAMになっていれば、その事業について継続的に重要な判断が必要になっている可能性があります。

一方、前年にはなかったKAMが新たに登場することもあります。

大型買収を行った。

海外事業が急拡大した。

新しい事業を始めた。

こうした企業の変化が、監査上の重要事項にも表れることがあります。

反対に前年まで存在したKAMがなくなった場合には、なぜなくなったのかを見るのも有効です。

継続企業の前提とは何か

監査報告書でもう一つ確認したいのが、継続企業の前提に関する情報です。

企業の財務諸表は通常、会社が今後も事業を継続することを前提として作成されます。

しかし、大幅な赤字が続いている、資金繰りが厳しい、巨額の債務返済が迫っているといった状況では、事業継続に重要な疑義が生じることがあります。

経営者が対応策を実施してもなお、継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在する場合には、監査報告書でも関連する記載が行われます。

これは投資家にとって極めて重要な情報です。

単に赤字か黒字かを見るだけでなく、会社が事業を継続するための資金や事業基盤を確保できるのかを見る必要があります。

継続企業の記載と監査意見は別に考える

継続企業の前提に関する重要な不確実性が記載されているからといって、必ず監査意見が不適正意見になるわけではありません。

必要な情報が財務諸表で適切に開示されていれば、適正意見が表明されることもあります。

ここは個人投資家が誤解しやすいところです。

適正意見だから安心という単純な見方ではなく、監査報告書全体を見る必要があります。

監査意見と継続企業の前提に関する記載は、それぞれの意味を理解して読むことが大切です。

不正リスクの情報にも注目する

日本公認会計士協会は、不正に関する監査基準報告書240号の改正を進めています。

改正後の基準は2028年3月期の監査から適用される見通しです。

監査人が特に重要と判断した不正リスクに関する事項について、KAMとして監査報告書に記載することが想定されています。

これによって個人投資家も、監査人が企業のどの領域に重要な不正リスクを認識していたのかを把握しやすくなります。

例えば売上高の認識などが重要な不正リスクとして取り上げられれば、その理由と監査人の対応を確認することができます。

監査報告書の情報価値がさらに高まる可能性があります。

決算書と監査報告書を一緒に読む

監査報告書だけを独立して読むより、決算書と一緒に読むと理解しやすくなります。

例えば売掛金が急増している企業で、売上高の認識がKAMになっているとします。

売上高と売掛金の増加、KAMの内容を組み合わせて見ることで、その企業の売上について監査人が何を重要視しているのかを考えることができます。

大型買収によってのれんが急増し、のれんの減損がKAMになっている場合も同じです。

財務諸表の数字とKAMを結び付けて読むことで、単なる数字の確認から一歩進んだ企業分析ができます。

監査法人の交代も確認する

監査報告書を継続的に見ると、監査法人が変更される場合があります。

監査法人の交代自体は珍しいことではなく、それだけで会計不正を意味するものでもありません。

監査報酬、監査体制、企業グループの再編など、さまざまな理由があります。

ただし、会計処理を巡って企業と監査人の意見が対立していた場合などには、その背景が重要になります。

監査法人が変更された場合には、企業が開示する変更理由なども合わせて確認することが大切です。

一つの出来事だけで判断せず、複数の情報を組み合わせる視点が必要です。

個人投資家は全部理解する必要はない

監査報告書には専門用語が多く登場します。

最初からすべてを完全に理解しようとすると、読むこと自体が負担になるかもしれません。

まずは監査意見を確認する。

次にKAMを読む。

継続企業の前提に関する重要な記載がないかを見る。

そして今後は重要な不正リスクに関する記載にも注目する。

この程度から始めても十分です。

毎年同じ企業の監査報告書を読んでいると、前年との違いが少しずつ分かるようになります。

重要なのは、一度ですべて理解することではなく、決算を見る習慣の中に監査報告書を加えることです。

結論

個人投資家が監査報告書を読むとき、最初に確認したいのは監査意見です。

その次にKAMを読み、監査人がどの領域を特に重要と考えたのかを確認します。

継続企業の前提に関する重要な不確実性が記載されていないかを見ることも重要です。

さらに2028年3月期から予定されている監査基準の改正によって、重要な不正リスクに関する情報も監査報告書から読み取りやすくなる見通しです。

監査報告書は「適正意見だから問題なし」と確認するだけの書類ではありません。

監査人が企業のどこに難しい会計判断や重要なリスクを認識していたのかを知るための資料です。

決算書の数字は企業側から見た経営の結果です。

KAMなどには、その数字を監査した専門家がどこに注意したのかが表れます。

決算書と監査報告書を一緒に読むことで、一つの企業を経営者と監査人という二つの視点から見ることができるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載

タイトルとURLをコピーしました