「若者の金融資産が増えている」と聞くと、若い世代全体が豊かになっているように感じるかもしれません。
しかし、平均的な金融資産が増えていても、そのお金が若者全体に均等に分布しているとは限りません。
一部の人が多額の金融資産を持ち、ほかの多くの人がほとんど持っていない可能性もあります。
こうした「ばらつき」を数字で見るために使われる代表的な指標がジニ係数です。
ジニ係数とは何か
ジニ係数とは、所得や資産が人々の間でどの程度偏っているのかを表す指標です。
基本的には0から1までの数字で表します。
0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きいと考えます。
例えば、100人がそれぞれ同じ100万円の金融資産を持っているとします。
全員が同じ金額を持っているため、資産の偏りはありません。
このような完全に平等な状態ではジニ係数は0になります。
反対に、99人が金融資産をまったく持たず、1人だけがすべての金融資産を持っているとします。
これは極端に資産が偏った状態です。
このような状態に近づくほど、ジニ係数は1に近づいていきます。
平均金融資産だけでは格差は分からない
ジニ係数が重要なのは、平均値だけでは分からない資産の偏りを確認できるからです。
例えば、10人がそれぞれ100万円ずつ持っていれば、平均金融資産は100万円です。
一方、9人が0円で、1人だけが1000万円を持っている場合も、10人の平均金融資産は100万円です。
平均額だけを見ると、この二つの集団はまったく同じです。
しかし、実際の資産分布は大きく異なります。
前者は全員が同じ程度の資産を持っていますが、後者は1人に資産が集中しています。
ジニ係数を見ることで、こうした違いを把握しやすくなります。
所得格差と資産格差は違う
ジニ係数は所得にも資産にも使われますが、この二つは分けて考える必要があります。
所得とは、給料や事業収入など一定期間に入ってくるお金です。
資産とは、預貯金、株式、投資信託など、それまでに蓄積された財産です。
年収が同じ500万円の人でも、金融資産が100万円の人もいれば、1000万円の人もいるでしょう。
過去の所得、貯蓄率、投資経験、運用成果、家族からの贈与や相続などによって資産額には差が生まれます。
そのため、所得格差がそれほど大きくなくても、資産格差は大きくなることがあります。
若年層のジニ係数が高くなりやすい理由
若い世代では金融資産の保有状況に大きな差が生まれやすいと考えられます。
社会人になったばかりで預貯金がほとんどない人がいる一方、学生時代や就職直後から投資を始めている人もいます。
さらに、実家暮らしか一人暮らしかによって生活費は大きく変わります。
同じ給料でも、家賃負担がない人は毎月数万円を投資に回せるかもしれません。
奨学金を返済している人や高い家賃を負担している人には、それだけの余裕がない場合があります。
親から資金援助を受けられるかどうかによっても差が生じます。
若い世代は資産形成のスタート地点そのものが大きく異なるのです。
NISAの普及で新しい差も生まれる
NISAによって若い世代でも投資を始めやすくなりました。
少額から投資信託を積み立てることができ、運用によって得られた利益には一定の範囲で税金がかかりません。
長期的な資産形成には非常に有効な制度です。
しかし、NISAという同じ制度が用意されていても、利用できる金額は人によって違います。
毎月5万円を投資できる人と毎月5000円しか投資できない人では、長期間経過すると投資元本に大きな差が生まれます。
そもそも生活費で給料をほぼ使い切り、投資できない人もいます。
制度を利用できる機会が平等であることと、実際に形成される資産が平等であることは別なのです。
資産格差には時間が影響する
金融資産の格差を考えるうえでもう一つ重要なのが時間です。
投資には運用益がさらに運用される複利の効果があります。
若いうちに100万円の金融資産を持つ人と、ほとんど持っていない人との差は、その時点では100万円です。
しかし、前者がその100万円を長期間運用しながら積み立てを続ければ、その差は将来さらに大きくなる可能性があります。
つまり、若年期の資産格差は単なる現在の格差ではありません。
将来の資産格差の出発点になる可能性があります。
ジニ係数だけですべては分からない
もっとも、ジニ係数だけで生活の豊かさを判断することもできません。
例えば、金融資産が少なくても、高い専門能力を持ち、将来高い所得を得られる若者もいます。
反対に、多額の金融資産を持っていても、一時的な事情による場合があります。
また、平均値や中央値、所得、負債なども合わせて見る必要があります。
ジニ係数は格差を見るための重要な指標ですが、それだけですべてを説明する数字ではありません。
複数の統計を組み合わせて考えることが大切です。
結論
若者の金融資産が増えているかどうかを見るとき、平均保有額だけでは十分ではありません。
重要なのは、その金融資産が若者の間でどのように分布しているかです。
その偏りを数字で確認する代表的な指標がジニ係数です。
0に近ければ格差が小さく、1に近づくほど格差が大きくなります。
特に若い世代では、就職直後で資産がほとんどない人、すでにNISAなどで投資を始めている人、家族から資金援助を受けられる人など、資産形成のスタート地点に大きな違いがあります。
そして投資には時間と複利が作用します。
若いうちの小さな資産差が、その後何十年もの時間をかけて大きな差になる可能性があります。
「若者の金融資産が増えた」という平均値だけではなく、「誰がどのくらい持っているのか」まで見ることが、これからの資産形成を考えるうえで重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 若者の金融資産、格差拡大