決算書を作るだけでは終わらない――会社法上の計算書類・承認・公告

経営

株式会社では、毎事業年度の終了後に決算書を作成します。

多くの中小企業では、決算書の作成を法人税の申告や金融機関への提出と結び付けて考えることが一般的です。

しかし、決算書の作成は、税務申告のためだけに行うものではありません。

会社法では、株式会社に対して、会計帳簿の作成・保存、計算書類や事業報告の作成、必要な監査、取締役会による承認、定時株主総会への提出などを求めています。

さらに、決算内容を公告する義務も設けられています。

つまり、決算書は作成すれば終わりというものではありません。

会社法上、決算書を作成した後にも、複数の手続が必要になります。

特に中小企業では、法人税申告書を提出したことで決算に関する手続がすべて終了したと考えられがちです。

しかし、税務申告と会社法上の決算手続は、目的も根拠となる法律も異なります。

今回は、会社法上の会計帳簿と計算書類の違い、監査、承認、備置き、決算公告について整理します。

会計帳簿と計算書類の違い

会社法では、株式会社に対して会計帳簿の作成と保存を義務付けています。

会計帳簿とは、会社の財産や取引を継続的に記録するための帳簿です。

例えば、仕訳帳や総勘定元帳などが該当します。

会社は、日々の取引を会計帳簿に記録し、その記録をもとに決算書を作成します。

一方、計算書類とは、会社の財産や損益の状況を示すために作成する書類です。

会社法第435条では、株式会社は各事業年度に係る計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書を作成しなければならないと定めています。

会計帳簿が日々の取引を記録するものであるのに対し、計算書類は一定期間の経営成績や事業年度末の財政状態を示すものです。

このように、会計帳簿から計算書類を作成する方法は、一般に誘導法と呼ばれます。

会社法上の決算手続を理解するためには、会計帳簿と計算書類を区別することが重要です。

会社法上の計算書類の内容

会社法上の計算書類には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表が含まれます。

貸借対照表は、事業年度末における会社の資産、負債、純資産の状況を示す書類です。

損益計算書は、一定期間における収益、費用、利益などを示す書類です。

株主資本等変動計算書は、資本金、資本剰余金、利益剰余金などの変動状況を示します。

個別注記表は、計算書類を理解するために必要な会計方針やその他の事項を記載するものです。

中小企業では、貸借対照表と損益計算書を中心に決算を考えることが多いものの、会社法上の計算書類はそれだけではありません。

また、計算書類とは別に、事業報告と附属明細書の作成も必要になります。

これらの書類は、会社の経営状況を株主などに説明するための重要な資料です。

事業報告と附属明細書の役割

事業報告は、会社の事業の状況などを説明するための書類です。

計算書類が主として財産や損益の状況を示すのに対し、事業報告は会社の事業活動や経営に関する事項を示します。

例えば、会社の事業の経過や成果、重要な経営上の事項などが記載対象になります。

具体的な記載事項は、会社の機関設計や公開会社に該当するかどうかなどによって異なります。

また、計算書類と事業報告には、それぞれ附属明細書があります。

附属明細書は、計算書類や事業報告の内容を補足するための書類です。

したがって、会社法上の決算手続では、貸借対照表や損益計算書だけでなく、事業報告や附属明細書も含めて準備する必要があります。

会計帳簿と計算書類の保存期間

会社法では、会計帳簿と計算書類について保存期間を定めています。

会計帳簿およびその事業に関する重要な資料は、会計帳簿の閉鎖の時から10年間保存しなければなりません。

一方、各事業年度に係る計算書類、事業報告およびこれらの附属明細書については、作成した時から10年間保存する必要があります。

ここで重要なのは、会計帳簿と計算書類では、保存期間の起算点が異なることです。

また、会社法上の保存期間と税法上の帳簿書類の保存期間は、必ずしも一致しません。

例えば、法人税法では、帳簿書類の保存について別途の規定が設けられています。

会社法上の保存義務を満たしていても、税務上の保存義務を確認する必要があります。

反対に、税務上の保存期間だけを基準に書類を廃棄すると、会社法上の保存義務に違反する可能性があります。

経理部門では、会社法と税法の双方を踏まえた文書保存管理が重要です。

計算書類等に対する監査

監査役を設置している会社では、計算書類や事業報告などについて、監査役による監査が必要になります。

ただし、監査役の監査範囲が会計に関する事項に限定されている場合には、事業報告およびその附属明細書は監査対象になりません。

一方、会計監査人設置会社では、計算書類およびその附属明細書について、会計監査人による監査が必要です。

また、監査役、監査委員会または監査等委員会による監査も、会社の機関設計に応じて行われます。

事業報告およびその附属明細書については、監査役などが監査を行います。

このように、監査の対象や担当する機関は、会社の機関設計によって異なります。

監査役や会計監査人を設置している会社では、決算日程を組む際に監査期間を確保する必要があります。

計算書類を作成した直後に株主総会へ提出できるとは限らないことに注意が必要です。

会計限定監査役の監査上の注意点

中小企業では、定款によって監査役の監査範囲を会計に関する事項に限定している場合があります。

このような監査役を会計限定監査役といいます。

会計限定監査役は、業務監査を行う権限を持ちませんが、計算書類などについて必要な監査を行う義務を負っています。

2021年7月19日の最高裁判決では、会計限定監査役の監査義務について重要な判断が示されました。

計算書類の内容が会計帳簿と一致していることを確認するだけで、常に監査役としての任務を尽くしたとはいえないというものです。

会計帳簿そのものに誤りや不正が存在する可能性があるためです。

もっとも、会計限定監査役がすべての取引を詳細に調査しなければならないという意味ではありません。

具体的な事情に応じて、必要な注意を払って監査を行うことが求められます。

中小企業でも、監査役の監査を形式的な手続として扱わないことが重要です。

取締役会による計算書類の承認

取締役会設置会社では、計算書類、事業報告およびこれらの附属明細書について、取締役会の承認を受ける必要があります。

監査役や会計監査人などによる監査が必要な場合には、その監査を経た後に取締役会の承認を受けます。

つまり、取締役会設置会社では、計算書類の作成、必要な監査、取締役会の承認という順序が基本になります。

取締役会の承認は、単なる形式的な手続ではありません。

取締役会は、会社の経営状況や決算内容を確認し、計算書類などを承認する役割を担っています。

そのため、取締役は決算内容について必要な説明を受け、適切に確認することが重要です。

また、取締役会で承認した内容については、取締役会議事録を適切に作成・保存する必要があります。

株主に対する計算書類の提供

取締役会設置会社では、定時株主総会の招集通知に際して、株主に計算書類および事業報告などを提供する必要があります。

監査役や会計監査人などによる監査が行われた場合には、監査報告や会計監査報告も提供対象になります。

これは、株主が会社の経営状況を理解し、定時株主総会で適切な判断を行うための仕組みです。

株主は、計算書類や事業報告を確認することによって、会社の財産状況や経営成績を把握できます。

また、取締役の職務執行について判断するための情報を得ることもできます。

なお、株主総会資料の電子提供制度が適用される場合には、その制度に従った対応が必要になります。

会社の機関設計や株主総会の開催方法に応じて、適切な提供手続を確認することが重要です。

定時株主総会による計算書類の承認

会社法では、原則として、取締役は計算書類および事業報告を定時株主総会に提出または提供しなければならないと定めています。

そして、計算書類については、定時株主総会の承認を受ける必要があります。

一方、事業報告については、取締役がその内容を定時株主総会に報告します。

つまり、計算書類は原則として承認事項であり、事業報告は報告事項です。

この違いを理解することが重要です。

中小企業では、株主と取締役が同一人物であることも少なくありません。

そのため、定時株主総会での承認が形式的になりやすいものの、会社法上の手続として適切に行う必要があります。

また、承認の内容については、株主総会議事録に記録しておくことが重要です。

会計監査人設置会社の特例

会計監査人設置会社である取締役会設置会社では、一定の条件を満たす場合に、計算書類について定時株主総会の承認を受ける必要がなくなります。

この場合、取締役は計算書類の内容を定時株主総会に報告すれば足ります。

ただし、会計監査人が設置されていれば、無条件で承認が不要になるわけではありません。

会社計算規則第155条で定める要件を満たす必要があります。

例えば、会計監査人の監査意見や監査役などの監査結果について、法令上の条件を確認する必要があります。

この特例は、適切な監査が行われ、計算書類の信頼性が確保されている場合に、株主総会での承認手続を簡素化するものです。

なお、事業報告については、この場合も定時株主総会への報告が必要です。

計算書類等の備置きと閲覧

会社法では、計算書類や事業報告などについて、一定期間、本店や支店に備え置く義務を定めています。

原則として、定時株主総会の1週間前から備置きを開始する必要があります。

取締役会設置会社では、定時株主総会の2週間前から備え置かなければなりません。

本店では5年間、支店ではその写しを3年間備え置くことが原則です。

監査役や会計監査人を設置している会社では、必要な監査報告なども備置きの対象になります。

株主や会社債権者には、法令に従ってこれらの書類を閲覧し、謄本や抄本の交付などを請求する権利が認められています。

ただし、計算書類等を電磁的記録で作成し、法令で定める措置を講じている場合には、支店での写しの備置きを省略できることがあります。

この制度は、株主や会社債権者が会社の財務情報を確認できるようにするためのものです。

決算公告とは何か

株式会社には、原則として決算公告の義務があります。

会社法第440条では、定時株主総会の承認または報告の後、遅滞なく一定の計算書類を公告することを求めています。

公告の対象となるのは、原則として貸借対照表です。

ただし、大会社については、貸借対照表に加えて損益計算書も公告対象になります。

大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表上の資本金が5億円以上、または負債の総額が200億円以上の株式会社です。

決算公告は、会社の財務状況を外部に開示し、株主や債権者などの利益を保護するための制度です。

非上場会社や同族会社であっても、原則として決算公告の義務があります。

法人税の申告を行ったことや、金融機関に決算書を提出したことによって、決算公告の義務がなくなるわけではありません。

決算公告の方法

決算公告の方法には、官報、日刊新聞紙、電子公告などがあります。

官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙による公告では、法令に従って貸借対照表などの要旨を公告することが認められています。

一方、電子公告の場合には、原則として対象となる貸借対照表などを公告します。

また、会社法では、公告に代えて、貸借対照表などの内容である情報を電磁的方法によって継続的に公開する方法も認めています。

この場合には、定時株主総会の終結後、遅滞なく公開を開始し、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日まで継続して公開する必要があります。

ただし、この方法を利用する場合には、法令上の要件を満たす必要があります。

なお、有価証券報告書提出会社については、会社法第440条に基づく決算公告または公開を要しない特例があります。

決算公告の方法を検討する際には、会社の公告方法に関する定款や登記事項も確認することが重要です。

中小企業が決算手続で注意したい事項

中小企業では、決算業務の中心が税務申告になりやすい傾向があります。

しかし、会社法上の決算手続は、税務申告とは別に管理する必要があります。

まず、会計帳簿を適切に作成し、その記録をもとに計算書類を作成します。

次に、事業報告や附属明細書を準備します。

監査役や会計監査人などを設置している場合には、必要な監査を受けます。

取締役会設置会社では、監査後に取締役会の承認を受けます。

さらに、定時株主総会への提出または提供、計算書類の承認または報告を行います。

その後、必要な決算公告を実施します。

また、計算書類などの備置きや保存についても、会社法上の期間を確認する必要があります。

これらの手続を毎年の決算日程に組み込むことによって、対応漏れを防ぐことができます。

結論

株式会社の決算業務は、決算書を作成して法人税の申告を行えば終了するものではありません。

会社法では、会計帳簿の作成・保存、計算書類や事業報告の作成、必要な監査、取締役会による承認、定時株主総会への提出などを定めています。

また、計算書類等の備置きや、決算公告についても義務が設けられています。

特に重要なのは、会社法上の決算手続と税務申告を区別することです。

会社法上の計算書類は、会社の財産や損益の状況を株主や債権者などに示すためのものです。

一方、法人税申告は、課税所得や税額を計算し、税務署に申告するための手続です。

両者は密接に関係していますが、目的や法的根拠は異なります。

中小企業では、株主と経営者が同一である場合でも、必要な決算手続を適切に行うことが重要です。

計算書類の作成から監査、承認、備置き、公告までを一連の業務として管理することが、法令遵守と企業経営の信頼性向上につながります。

参考

明治大学会計専門職研究科 弥永真生「商法・会社法」サブテキスト(47~56ページ)

会社法第431条、第432条、第435条~第440条

会社計算規則第59条、第155条、第227条

最高裁判所2021年7月19日判決

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