若者の金融資産格差はなぜ広がるのか NISA時代に生まれる新しい格差

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NISAの普及によって、若い世代にも資産運用が広がっています。

若いうちから投資を始め、長期間にわたって資産形成できる環境が整ったことは大きな変化です。

しかし、その一方で新しい問題も見えてきました。

同じ若者の中でも、投資できる人と投資できない人の間で金融資産の格差が広がっているのです。

若者の有価証券保有額は大きく増えた

総務省の全国家計構造調査によると、30歳未満が保有する有価証券の平均額は、2014年の16万円から2024年には79万円となりました。

10年間で約5倍です。

NISAの普及やインターネット証券の拡大によって、若い世代にとって投資は以前より身近なものになりました。

スマートフォンがあれば少額から投資信託や株式を購入できます。

投資を始めるハードルそのものは大きく下がっています。

ところが、平均保有額が増えているからといって、すべての若者が豊かになっているわけではありません。

平均額だけでは見えない格差

そこで重要になるのがジニ係数です。

ジニ係数は所得や資産がどの程度偏っているかを示す指標で、数字が1に近づくほど格差が大きいことを意味します。

2024年の金融資産残高について年齢別にみると、18歳から24歳のジニ係数は0.718となり、年齢階級別で最も高くなっています。

25歳から34歳も0.682です。

つまり、若者全体の平均金融資産が増える一方で、たくさん金融資産を持つ若者と、ほとんど持たない若者との差も大きくなっているということです。

平均値だけを見ていると、この構造を見落としてしまいます。

NISAを使えるかどうかにも差がある

NISAは非常に有利な制度です。

通常、株式や投資信託から得られる利益には税金がかかりますが、NISA口座で投資した場合には一定の範囲で非課税になります。

しかし、NISAは口座を開設しただけでは資産形成につながりません。

実際に投資するためのお金が必要です。

金融庁によると、2025年12月末までに開設されたNISA口座は約2821万口座で、このうち20代は約337万口座でした。

20代ではおよそ4人に1人がNISA口座を持つ計算です。

裏返せば、多くの20代はまだNISAを利用していません。

制度への知識の差だけでなく、そもそも投資に回せる余裕資金があるかどうかという問題があります。

資産格差の出発点は賃金にある

若者の資産格差を考えるうえで、私は賃金が非常に重要だと思います。

毎月の手取りが20万円の人と30万円の人では、同じ生活費がかかるとしても投資に回せる金額は大きく違います。

初任給にも企業規模による差があります。

2026年4月入社の初任給が25万円以上となる企業の割合は、大企業では30.0パーセントですが、中小企業では17.0パーセントにとどまります。

投資の知識が同じでも、投資できる金額には差が生まれるのです。

NISAという制度を全員に用意するだけでは、必ずしも資産形成の機会が完全に平等になるわけではありません。

若い時の小さな差が将来大きくなる

資産形成には複利の効果があります。

例えば、20代から毎月一定額を積み立てる人と、40代になってから投資を始める人では、投資元本だけでなく運用期間にも大きな差が生まれます。

若い時の投資余力の違いは、その時点では月1万円や2万円程度の差かもしれません。

しかし、それが20年、30年と続けば、金融資産の差は大きくなる可能性があります。

これが所得格差と資産格差の大きな違いです。

所得は転職や昇進、賃上げなどによって後から差が縮まる可能性があります。

一方、資産には、それまで蓄積してきた元本と運用益があります。

早く資産形成を始めた人ほど時間を味方につけることができます。

株高も資産格差を広げることがある

日本の家計金融資産は2025年度末に約2400兆円となり、過去最高となりました。

このうち株式と投資信託は564兆円で、全体の23.6パーセントを占めています。

家計が投資へ向かっていること自体は望ましい動きでしょう。

しかし、株価が上昇したときに恩恵を受けるのは、すでに株式や投資信託を持っている人です。

100万円投資している人と1000万円投資している人では、同じ10パーセントの値上がりでも評価益は10万円と100万円になります。

金融資産を多く持つ人ほど、資産価格上昇の恩恵も大きくなります。

そのため、株高によって家計全体の金融資産が増えても、必ずしも格差が縮小するとは限りません。

NISAだけでは解決できない

これからの資産形成政策では、NISAの利用者を増やすことだけを目標にするのでは不十分だと思います。

重要なのは、若い人が投資に回せる余裕資金を持てる環境をつくることです。

賃上げ、正規雇用と非正規雇用の待遇差の縮小、社会保険料や税負担、住宅費、教育費など、資産形成の前段階にある問題も考える必要があります。

NISAは資産形成のための器です。

しかし、その器に入れるお金がなければ制度の恩恵を十分に受けることはできません。

金融教育と所得政策をセットで考える必要があります。

結論

若い世代に投資が広がっていることは、日本の家計にとって大きな変化です。

30歳未満の有価証券平均保有額が10年間で大幅に増えたことからも、その変化が分かります。

しかし、その裏側では若者の金融資産格差も広がっています。

これから重要になるのは、投資をしている人にさらに投資を促すことだけではありません。

まだ投資できていない人が、なぜ投資できないのかを見ることです。

NISA口座を持っているかという問題のさらに手前には、十分な賃金があるか、生活防衛資金を確保できるか、毎月少額でも積み立てられるかという問題があります。

資産形成の格差は、投資を始めた後に生まれるだけではありません。

投資を始められるかどうかの段階から、すでに始まっているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 若者の金融資産、格差拡大

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