健康ポイントとは何か 歩くと社員にポイントや報奨金を与える仕組み編

人生100年時代

健康のためには運動した方がよい。

多くの人が分かっていることです。

それでも、実際に毎日運動を続けることは簡単ではありません。

仕事が忙しい。

家事や育児で時間がない。

疲れている。

明日から始めようと思ってしまう。

こうした理由から、健康についての知識があっても実際の行動につながらないことがあります。

そこで企業の健康経営で注目されているのが健康ポイントです。

歩数や運動など一定の健康行動をした社員にポイントを付与し、商品やサービス、場合によっては金銭的な報奨につなげます。

健康になれば将来得をするという長期的なメリットだけではなく、今日歩けばポイントがもらえるという身近なメリットをつくるわけです。

健康ポイントは、社員の行動を変えるためのインセンティブとして利用され始めています。

健康ポイントとは何か

健康ポイントとは、健康につながる行動をした人にポイントなどの特典を与える仕組みです。

対象となる行動にはさまざまなものがあります。

一定の歩数を達成する。

スポーツイベントに参加する。

健康診断を受診する。

健康に関する研修を受ける。

継続的に運動する。

こうした行動にポイントを付けます。

貯まったポイントについて、商品やサービスなどと交換できるようにしたり、企業独自の福利厚生制度と組み合わせたりすることもできます。

企業によって制度設計は異なりますが、共通しているのは健康行動に小さな経済的価値を与えるという考え方です。

なぜ健康に報奨が必要なのか

そもそも健康になること自体が本人にとって大きな利益です。

それなら、わざわざ会社がポイントを与える必要はないようにも思えます。

ここに健康づくりの難しさがあります。

健康行動のメリットは、多くの場合すぐには現れません。

今日30分歩いたからといって、明日突然健康になるわけではありません。

運動を続けることで、数年後、数十年後の病気のリスクが低下する可能性があります。

一方、運動する負担は今日発生します。

時間を使います。

疲れます。

場合によっては面倒に感じます。

人は遠い将来の利益より、目の前の負担を大きく感じやすいものです。

そこでポイントという短期的なメリットを付けることで、最初の行動を起こしやすくします。

歩数はポイント制度と相性がよい

健康ポイントの対象として利用しやすいのが歩数です。

理由は数字で測定できるからです。

たとえば一定の歩数を達成すればポイントを付与するという仕組みにできます。

スマートフォンやウェアラブル端末を利用すれば、歩数を自動的に記録することもできます。

社員が毎日紙に記録する必要はありません。

歩数が数字として表示されることで、あと少し歩けば目標を達成できるという意識も生まれます。

今日はあと1000歩。

駅まで歩けば達成できる。

昼休みに少し散歩しよう。

こうした小さな行動を引き出すことができます。

健康という抽象的な目標を、今日何歩歩くかという具体的な目標に変えられることが大きな特徴です。

報奨金を支給する企業もある

ポイントではなく、直接的な金銭的インセンティブを設ける企業もあります。

日本経済新聞の記事で紹介されたLINEヤフーでは、歩数と体重の目標を設定し、達成した社員に最大月2000円を支給しています。

同社では、1回30分以上の運動を週2日以上、1年間継続している社員の割合が、2017年の14パーセントから2024年には34パーセントまで上昇したとされています。

もちろん、この変化のすべてが報奨金だけによるものとは限りません。

しかし、企業が社員の健康行動を具体的に評価し、一定のメリットを与えるという考え方は注目できます。

健康は社員自身の問題だから会社は関係ないという考え方から、健康行動を企業が積極的に後押しする考え方への変化です。

インセンティブは最初の一歩を後押しする

健康ポイントの役割は、社員をポイントだけで運動させ続けることではありません。

重要なのは最初のきっかけをつくることです。

運動習慣がない人にとって、最も難しいのは始めることです。

一度ウォーキングを始める。

歩数を見るようになる。

少し遠くまで歩く。

それを何週間か続ける。

この過程で、運動すること自体が日常生活の一部になる可能性があります。

ポイントは、その習慣が形成されるまでの補助輪のような役割を果たすと考えることができます。

最終的には、ポイントがなくても自然に歩く状態をつくることが理想です。

報奨を大きくすればよいわけではない

それなら、ポイントや報奨金を大きくすれば運動する社員がもっと増えるのではないかとも考えられます。

しかし、必ずしもそうとは限りません。

報奨が大きくなりすぎると、健康づくりではなく報奨を得ること自体が目的になる可能性があります。

また、制度の運営費用も増加します。

企業が健康経営として実施する以上、投入した費用に対してどの程度の効果があったのかを考える必要があります。

小さな報奨でも、目標達成を実感できる仕組みや社員同士で楽しめるイベントなどと組み合わせれば、行動を促せる可能性があります。

金額だけではなく、制度全体の設計が重要になります。

健康な人だけが得をする制度にしない

健康ポイントには公平性の問題もあります。

たとえば1日1万歩を達成した人だけにポイントを与える制度を考えてみます。

もともと運動習慣があり、毎日1万歩以上歩いている社員にとっては簡単です。

一方、身体的な事情などから多く歩くことが難しい社員には不利になります。

これでは健康格差を広げる制度になりかねません。

そこで絶対的な歩数だけではなく、改善幅を評価する方法も考えられます。

5000歩だった人が6000歩になった。

週1回だった運動が週2回になった。

自分で設定した目標を継続して達成した。

こうした変化を評価すれば、より多くの社員が参加できます。

健康経営では、運動能力を競わせることではなく、健康的な行動を増やすことが目的だからです。

ポイントをもらうための不正にも注意する

ポイントに経済的価値を持たせると、新たな問題も生まれます。

記録上の歩数だけを増やそうとする行動が起きる可能性があります。

制度を厳格にしすぎれば管理コストが増えます。

反対に緩すぎれば制度への信頼性が低下します。

企業側は、何のために健康ポイントを導入するのかを明確にする必要があります。

社員を監視する制度ではありません。

健康行動を始めるきっかけをつくる制度です。

細かな不正をすべて取り締まることに費用をかけすぎれば、本来の目的を見失う可能性があります。

個人情報への配慮も必要

健康ポイントをデジタル化すると、企業が社員の健康に関係するデータを扱う機会が増えます。

歩数。

運動時間。

体重。

健康診断に関する情報。

これらは社員にとってプライバシー性の高い情報を含む場合があります。

健康経営だからといって、会社が無制限に情報を集めてよいわけではありません。

どの情報を取得するのか。

何の目的で利用するのか。

誰が見ることができるのか。

人事評価に利用するのか。

保存期間をどうするのか。

こうしたルールを明確にする必要があります。

健康ポイントへの参加によって社員が会社に監視されていると感じれば、制度への信頼は失われます。

企業にも経済的なメリットがある

企業がポイントや報奨金を支給すれば、当然コストが発生します。

しかし、健康ポイントは単なる費用とは限りません。

運動習慣が広がる。

社員の健康状態が改善する。

病欠が減る。

休職が減る。

長く働ける社員が増える。

離職が減る。

こうした効果が生まれれば、企業側にも経済的なメリットがあります。

特に人手不足の時代には、一人の社員が離職した場合、新たな社員を採用し、教育するために大きな費用がかかります。

社員の健康維持に一定額を投資して離職や長期休職を防ぐことができれば、企業にとって合理的な投資になる可能性があります。

健康ポイントは行動変容の仕組み

健康ポイントについて考えるときに重要なのは、単なる福利厚生制度として見ないことです。

その本質は行動変容にあります。

人は健康についての知識を持っているだけでは、必ずしも行動しません。

そこで目標を設定する。

歩数を見える化する。

達成するとポイントを与える。

同僚とイベントに参加する。

こうした仕組みを組み合わせることで、健康的な行動を選択しやすくします。

会社が社員に運動を命令するのではありません。

運動したくなる環境をつくるわけです。

健康経営は、社員の意志の強さだけに頼るのではなく、行動を続けやすい仕組みを設計する段階へ進みつつあります。

結論

健康ポイントとは、歩数や運動などの健康行動にポイントや報奨を付けることで、社員が健康的な行動を始め、継続するきっかけをつくる仕組みです。

最大の特徴は、将来の健康という遠い利益に加えて、今日行動することへの身近なメリットを与えることにあります。

一方で、単純に歩数の多い社員だけを優遇すれば、健康状態や仕事内容による不公平が生まれる可能性があります。

報奨を大きくすればよいわけでもありません。

個人情報の取り扱いにも十分な配慮が必要です。

重要なのはポイントそのものではなく、ポイントをきっかけとして健康的な行動を習慣に変えることです。

社員が健康になれば、本人だけでなく、病欠や休職、離職の減少を通じて企業にも利益が生まれます。

これまで健康は個人が自分で管理するものと考えられてきました。

これからは企業が環境と仕組みを整え、社員の行動変容を後押しする時代になります。

健康ポイントは、福利厚生から人的資本投資へと変わりつつある健康経営を象徴する仕組みの一つになっていくのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月13日朝刊 スポーツ推進企業に支援

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