パートタイムで働く人が勤務時間や収入を考えるとき、よく使われる言葉が「扶養の範囲内」です。
ところが、この「扶養」には大きく分けて税金上の扶養と社会保険上の扶養があります。
両者は似ているようで、制度の目的も判定方法も異なります。
社会保険の適用拡大によって106万円の壁や週20時間の壁が注目されるなか、自分がどの制度の扶養について考えているのかを区別することが、これまで以上に重要になっています。
社会保険上の扶養とは何か
会社員などが加入する健康保険には、一定の要件を満たす家族を被扶養者として加入させる仕組みがあります。
被扶養者となった家族は、原則として自分自身で健康保険料を負担することなく健康保険の給付を受けることができます。
例えば会社員の夫の健康保険に、パートで働く妻が被扶養者として加入しているケースなどです。
もちろん夫婦が逆の場合も同じです。
重要なのは、家族だから自動的に被扶養者になれるわけではないことです。
収入や生計維持関係など、一定の要件を満たす必要があります。
国民年金にも配偶者に関する仕組みがある
社会保険上の扶養を考えるとき、健康保険とともに重要なのが国民年金です。
厚生年金に加入する会社員などに扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者が一定の要件を満たすと、国民年金の第3号被保険者になることがあります。
第3号被保険者は、自分自身で国民年金保険料を直接納める必要がありません。
それでも第3号被保険者だった期間は、老齢基礎年金を計算するうえで保険料納付済期間として扱われます。
そのため配偶者の扶養内で働く人にとっては、
健康保険の被扶養者でいられるか
国民年金の第3号被保険者でいられるか
という二つが重要になります。
130万円の壁との関係
社会保険上の扶養で代表的な収入基準が、いわゆる130万円の壁です。
一般的には年間収入が130万円未満であることなどが、健康保険の被扶養者認定で重要になります。
ただし、税金のように1月から12月までの収入を集計して、年末に130万円未満だったかどうかだけで判断するわけではありません。
原則として、今後の収入見込みなどをもとに判定されます。
そのため、
昨年の年収
今年これまでに受け取った給与
だけを見るのではなく、現在の給与水準や今後の働き方も重要です。
さらに年齢などによって収入基準が異なる場合もあり、収入以外にも被扶養者となるための要件があります。
実際の認定では、加入している健康保険に確認することが大切です。
税金上の扶養とは何が違うのか
一方、税金にも配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除などの仕組みがあります。
これらは所得税や住民税を計算するための制度です。
社会保険とは目的が違います。
税金上の扶養から外れたからといって、自動的に健康保険の被扶養者から外れるわけではありません。
逆に税金上では一定の控除が受けられる状況でも、社会保険では自分自身が勤務先の健康保険や厚生年金に加入することがあります。
「扶養」という同じ言葉が使われるため混同されやすいのですが、
税金の扶養
社会保険の扶養
は別々に判定する必要があります。
勤務先で社会保険に加入する場合はどうなるのか
ここが今後ますます重要になります。
パートタイム労働者が勤務先の社会保険の加入要件を満たした場合、「年収130万円未満だから配偶者の扶養に入り続けたい」と自由に選べるわけではありません。
勤務先で社会保険の加入対象となれば、原則として自分自身が被保険者になります。
つまり130万円に到達する前でも、勤務先の社会保険へ加入するケースがあります。
これまで「130万円を超えなければ社会保険料を払わなくてよい」と考えていた人にとって、社会保険の適用拡大は大きな変化です。
106万円の壁撤廃で何が変わるのか
2026年10月から、短時間労働者への社会保険適用で設けられてきた月額賃金8万8000円以上という賃金要件が撤廃されます。
年収換算で約106万円になることから「106万円の壁」と呼ばれてきた基準です。
この賃金要件がなくなることで、週20時間という労働時間の基準がより重要になります。
一定の要件を満たして週20時間以上働けば、130万円に達していなくても勤務先の社会保険に加入するケースが増えていきます。
つまり、
130万円未満なら扶養
という単純な考え方では判断できなくなっていきます。
企業規模要件の撤廃でも対象者が増える
さらに企業規模要件も段階的に縮小され、2035年10月には撤廃される予定です。
これまで勤務先が小規模だったため短時間労働者への社会保険適用の対象になっていなかった人にも、適用が広がっていきます。
そうなれば「小さな会社で働いているから130万円まで扶養内」という考え方も次第に通用しにくくなります。
社会保険制度は、
勤務先の規模
一定以上の賃金
といった条件を減らし、一定程度働く人は自分自身で社会保険に加入する方向へ進んでいます。
扶養を外れると必ず損なのか
社会保険上の扶養から外れると、自分自身の給与から健康保険料や厚生年金保険料などを負担することになります。
そのため短期的には手取りが減る場合があります。
しかし、勤務先の厚生年金に加入すれば、加入期間や報酬に応じて将来受け取る老齢厚生年金が増えます。
健康保険でも、本人が被保険者になることで一定の要件のもと傷病手当金などの給付を受けられます。
したがって、
扶養に残れば得
扶養を外れれば損
と一律に考えることはできません。
現在の手取りだけでなく、将来の年金や保障まで含めて比較する必要があります。
配偶者の会社の家族手当にも注意する
さらに注意したいのが、会社独自の家族手当や配偶者手当です。
企業によっては、配偶者の収入などを条件として手当を支給している場合があります。
これは税金や社会保険とは別の制度です。
そのためパートの勤務時間を増やす場合には、
自分自身の社会保険
配偶者の社会保険上の扶養
税金の控除
配偶者の勤務先の家族手当
などをそれぞれ確認する必要があります。
「扶養を外れるといくら変わるのか」を考えるには、家計全体で見ることが重要です。
年収だけでは判断できない時代へ
これまでパートの働き方では、「年収をいくらまでにするか」が強く意識されてきました。
しかし社会保険の適用拡大が進めば、年収だけでは判断できなくなります。
まず自分の勤務先で社会保険の加入対象になるのかを確認する。
そのうえで、配偶者などの社会保険上の扶養に入れるのかを確認する。
さらに税金や勤務先独自の手当を確認する。
こうして制度を一つずつ分けて考える必要があります。
特に106万円の賃金要件撤廃後は、「週何時間働くのか」という労働時間の重要性がさらに高まります。
結論
社会保険上の扶養と税金上の扶養は、まったく同じ制度ではありません。
社会保険では、健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者という仕組みがあります。
一方、税金には配偶者控除や扶養控除などがあります。
同じ「扶養」という言葉を使っていても、それぞれ別々に判定されます。
さらに社会保険の適用拡大によって、130万円に達する前でも自分自身の勤務先で厚生年金や健康保険に加入するパートタイム労働者が増えていきます。
これからは「年収130万円未満なら扶養内」とだけ考えることはできません。
週何時間働くのか。
自分の勤務先で社会保険に加入するのか。
配偶者の社会保険上の扶養から外れるのか。
税金や会社の家族手当はどうなるのか。
それぞれを分けて確認することが、年収の壁に振り回されずに働き方を考えるための第一歩になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月9日朝刊 Views 先読み「パートの社保適用、賃金要件撤廃 就労の壁、焦点は時間に」