人が亡くなると、その人が持っていた預貯金や不動産、株式などの財産を誰が引き継ぐのかという問題が生じます。
遺言書があれば、その内容が財産の承継を考えるうえで重要になります。しかし遺言書がない場合などには、民法が定める相続人の範囲が基本になります。
この民法によって相続する権利を認められている人が「法定相続人」です。
法定相続人は、家族であれば誰でもなれるわけではありません。
配偶者には特別な位置付けがあり、それ以外の親族については、子、直系尊属、兄弟姉妹という明確な順位が決められています。
相続手続きを進めるためには、まずこの相続順位を理解しておく必要があります。
配偶者は常に相続人になる
亡くなった人に法律上の配偶者がいる場合、その配偶者は原則として常に相続人になります。
ここでいう配偶者とは、法律上婚姻している夫または妻です。
例えば夫が亡くなり、妻と子どもがいる場合には、妻と子どもが相続人になります。
子どもがいなくても、夫の両親が生きていれば、妻と夫の両親が相続人になります。
子どもも両親などの直系尊属もいなければ、一定の場合には妻と夫の兄弟姉妹が相続人になります。
つまり、配偶者自身には第1順位、第2順位といった順位があるわけではありません。
順位のある親族と組み合わせて相続人になるという位置付けです。
内縁の配偶者は法定相続人にはならない
長期間夫婦として生活していても、婚姻届を提出していない内縁関係の場合には注意が必要です。
民法上の配偶者としての法定相続権はありません。
例えば30年間一緒に暮らしていたとしても、婚姻していなければ、当然に配偶者として遺産を相続できるわけではありません。
事実婚のパートナーに財産を残したい場合には、遺言などによって準備しておくことが重要になります。
相続では、生活実態だけでなく法律上の身分関係が大きな意味を持ちます。
第1順位は子ども
配偶者以外の相続人について、最も優先順位が高いのが子どもです。
亡くなった人に子どもがいれば、その子が第1順位の相続人になります。
例えば父親が亡くなり、妻と長男、長女がいる場合には、妻、長男、長女が相続人です。
父親の両親や兄弟姉妹が生きていたとしても、子どもがいるため、原則として父親の両親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
相続順位では、より上位の相続人が存在すれば、下位の順位の人には相続権が回ってこない仕組みになっています。
前婚の子も同じ第1順位になる
子どもについて注意したいのが、現在の婚姻関係だけを見て判断してはいけないことです。
例えば男性が再婚し、現在の妻との間に子どもが2人いたとします。
男性に前妻との間の子どもが1人いれば、その子も第1順位の相続人です。
現在の妻との間の子と、前妻との間の子で相続順位に違いはありません。
離婚によって元配偶者との婚姻関係は終了しますが、親子関係までなくなるわけではないからです。
そのため、前回取り上げた相続人調査では、故人の出生から死亡までの戸籍を確認することが重要になります。
養子も原則として子として相続する
養子縁組をしている場合、養子も法律上の子として相続人になります。
実子だけが第1順位の相続人になるわけではありません。
ただし、養子には普通養子縁組と特別養子縁組があり、実親との相続関係の扱いが異なる場合があります。
また、民法上の相続人となる養子の人数と、相続税の計算上、法定相続人の数に含めることのできる養子の人数は必ずしも同じではありません。
相続税では基礎控除や生命保険金の非課税限度額などを不当に増やすことを防ぐため、法定相続人の数に算入できる養子の人数に一定の制限があります。
民法上の相続と相続税計算上の取り扱いを分けて考える必要があります。
子が先に亡くなっていれば孫が相続することがある
第1順位の子どもが故人より先に亡くなっている場合には、その子どもの子、つまり故人から見た孫が相続人になることがあります。
これが代襲相続です。
例えば父親に長男と長女がいたものの、長男が父親より先に亡くなっており、長男に子どもが2人いたとします。
この場合、一定の要件を満たせば長男の2人の子どもが長男に代わって相続人になります。
子どもが先に死亡しているからといって、直ちに第2順位の親へ相続権が移るわけではありません。
代襲相続人が存在しないかを確認する必要があります。
第2順位は父母などの直系尊属
亡くなった人に子やその代襲相続人がいない場合には、第2順位の相続人を確認します。
第2順位は、父母や祖父母などの直系尊属です。
直系尊属とは、自分より前の世代にあたる直系の親族をいいます。
まず父母が生きていれば父母が相続人になります。
父母がすでに亡くなっていて祖父母が生きている場合には、祖父母が相続人になることがあります。
直系尊属の中では、亡くなった人により近い世代が優先されます。
父母がいるのに祖父母も一緒に相続人になるわけではありません。
子どもがいれば原則として親は相続人にならない
相続順位で特に重要なのは、各順位が同時に相続するわけではないことです。
例えば、亡くなった人に妻、子ども、母親がいたとします。
この場合、相続人は妻と子どもです。
母親は第2順位なので、第1順位である子どもが存在する以上、原則として相続人にはなりません。
家族だから全員で遺産を分けるという仕組みではありません。
民法が定める順位によって、誰が相続人になるのかが決まります。
第3順位は兄弟姉妹
第1順位の子やその代襲相続人がおらず、第2順位の父母や祖父母などの直系尊属もいない場合には、第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。
例えば夫が亡くなり、妻はいるものの、子どもがおらず、夫の父母や祖父母もすでに亡くなっているとします。
夫に兄弟姉妹がいれば、妻とその兄弟姉妹が相続人になります。
子どものいない夫婦では、兄弟姉妹が相続人になる可能性があることを知っておくことが重要です。
配偶者がすべての財産を当然に相続できるとは限らないからです。
兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は甥や姪が相続することがある
第3順位の兄弟姉妹についても代襲相続があります。
故人の兄弟姉妹が故人より先に亡くなっている場合、その兄弟姉妹の子、つまり故人から見た甥や姪が代襲相続人になることがあります。
ただし、子どもの代襲相続とは範囲が異なります。
兄弟姉妹の場合、代襲相続は甥や姪までです。
甥や姪も先に亡くなっていた場合、その子まで再代襲する仕組みにはなっていません。
この違いは相続人調査をするときに重要になります。
配偶者だけが相続人になる場合もある
亡くなった人に配偶者がいても、必ず他の親族と共同で相続するわけではありません。
子やその代襲相続人がおらず、父母や祖父母などの直系尊属もおらず、兄弟姉妹やその代襲相続人もいなければ、配偶者だけが相続人になります。
反対に配偶者がいない場合には、子、直系尊属、兄弟姉妹という順位に従って相続人を判断します。
したがって、相続人を確認するときには、まず配偶者の有無を確認し、そのうえで第1順位から順番に確認すると理解しやすくなります。
法定相続人と実際に財産を取得する人は同じとは限らない
法定相続人になったからといって、必ず法律で決められた割合の財産を取得しなければならないわけではありません。
遺言がある場合には、その内容によって財産が承継されることがあります。
遺言がない場合でも、相続人全員が合意すれば、遺産分割協議によって法定相続分とは異なる割合で財産を分けることができます。
例えば配偶者が自宅をすべて取得し、子どもが預金を取得するといった分け方も考えられます。
法定相続人は「誰が相続する権利を持っているか」を決める仕組みであり、最終的な財産の分け方そのものを決める制度ではありません。
相続税でも法定相続人の数が重要になる
法定相続人という考え方は、民法上の遺産分割だけでなく、相続税の計算でも重要になります。
代表的なのが相続税の基礎控除です。
相続税の基礎控除は、
3000万円プラス600万円掛ける法定相続人の数
によって計算します。
法定相続人が3人なら、基礎控除は4800万円です。
さらに死亡保険金や死亡退職金の非課税限度額などでも法定相続人の数が使われます。
誰が法定相続人なのかを正確に把握することは、遺産分割だけでなく相続税を計算するうえでも欠かせません。
結論
法定相続人とは、民法によって相続する権利を認められている人です。
法律上の配偶者は原則として常に相続人になります。
それ以外の親族には順位があり、第1順位が子、第2順位が父母や祖父母などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹です。
第1順位の相続人がいれば第2順位や第3順位には原則として相続権は回りません。
また、子や兄弟姉妹が先に亡くなっている場合には、代襲相続によって孫や甥、姪などが相続人になることがあります。
相続では「家族だから相続人になる」のではありません。
戸籍によって法律上の親族関係を確認し、民法の順位に沿って法定相続人を確定する必要があります。
誰が相続人なのかを正しく把握することが、その後の遺産分割、預金の解約、不動産の相続登記、そして相続税申告を正しく進めるための基本になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日 朝刊 <マネーの知識ここから>相続の基礎(1) 故人の財産、死亡後に「凍結」