1,000万円の設備を初年度に全額経費にできるのか 中小企業経営強化税制編

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少額減価償却資産の特例では、一定の中小法人が40万円未満の減価償却資産を取得した場合、年間合計300万円まで取得年度に全額を損金算入できます。

では、500万円や1,000万円といった高額な機械設備を購入した場合はどうでしょうか。

通常であれば、取得価額を法定耐用年数にわたって減価償却していくことになります。

しかし、一定の要件を満たす中小企業では、中小企業経営強化税制を利用することによって、高額な設備についても即時償却を選択できる場合があります。

資料では、取得価額1,000万円、耐用年数15年の設備について、通常の減価償却と即時償却を比較した例が示されています。

通常の減価償却では初年度の減価償却費が66万6,666円であるのに対し、即時償却では999万9,999円です。

設備投資を行う中小企業にとって、非常に大きな違いです。

ただし、中小企業経営強化税制は、設備を購入すれば自動的に利用できる制度ではありません。

事前の準備が重要になります。

40万円以上の設備は通常なら減価償却する

2026年度税制改正によって、少額減価償却資産の特例は40万円未満まで拡大されました。

しかし、40万円以上の設備まで自由に即時償却できるようになったわけではありません。

資料では、40万円以上の減価償却資産については、通常は耐用年数にわたって減価償却していくと説明されています。

例えば、パソコンやコピー機、ソフトウェアなどの事務関連設備では4年から5年程度、工場の機械では10年程度、賃貸物件の内装や厨房設備などでは15年程度になるケースが紹介されています。

実際の耐用年数は資産の種類などによって確認する必要がありますが、高額な設備ほど取得価額を費用化するまで長い時間がかかることがあります。

1,000万円の設備を15年で償却するとどうなるのか

資料では、取得価額1,000万円、耐用年数15年の設備を例にしています。

通常の減価償却では、初年度の減価償却費は66万6,666円です。

会社は設備を取得するために1,000万円を投資しています。

それに対して、初年度に費用として計上できる金額は約67万円にとどまるという例です。

残りの取得価額は、その後の年度にわたって費用化していくことになります。

設備投資額が大きい中小企業にとっては、この時間差が税負担や資金繰りを考えるうえで重要になります。

中小企業経営強化税制なら即時償却を選択できる場合がある

そこで検討対象になるのが、中小企業経営強化税制です。

資料では、中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受け、対象となる設備を取得または製作した場合、一定の要件のもとで中小企業経営強化税制を利用できると説明されています。

この制度では、対象設備について即時償却または税額控除を選択できます。

即時償却を選択すれば、通常なら耐用年数にわたって減価償却する設備について、取得年度に大部分を損金算入することが可能になります。

少額資産だけではなく、高額な設備投資でも即時償却という選択肢が生まれるわけです。

1,000万円の設備なら差は約933万円

資料の例をそのまま比較してみます。

取得価額は1,000万円です。

耐用年数は15年です。

通常の減価償却による初年度の減価償却費は66万6,666円です。

一方、中小企業経営強化税制による即時償却では999万9,999円です。

両者の差は933万3,333円になります。

つまり、同じ1,000万円の設備投資でも、どの制度を利用するかによって取得年度に損金算入できる金額が大きく変わることになります。

利益が大きく出ている年度であれば、この差がその年度の課税所得に大きな影響を与える可能性があります。

即時償却は1,000万円が戻ってくる制度ではない

ここで誤解してはいけないことがあります。

1,000万円を即時償却できるからといって、1,000万円の税金が減るわけではありません。

即時償却とは、設備の取得価額を早期に損金算入する仕組みです。

損金が増えることで課税所得が減り、その結果として法人税等の負担を抑える効果が生じます。

また、設備の購入代金そのものがなくなるわけでもありません。

1,000万円の設備を購入すれば、会社は1,000万円の設備投資を行う必要があります。

税金を減らすためだけに不要な設備を購入すれば、会社の資金は大きく減少します。

即時償却は、必要な設備投資を行う企業が税制上のメリットを活用するための制度と考える必要があります。

通常の減価償却がなくなるわけではない

即時償却には、もう1つ重要な特徴があります。

取得年度に大部分を費用化すれば、その分だけ翌年度以降に計上する減価償却費はなくなっていきます。

通常の減価償却であれば、耐用年数にわたって減価償却費を計上します。

即時償却では、その費用を取得年度に大きく前倒しします。

したがって、即時償却によって設備の取得価額以上の費用を計上できるわけではありません。

費用をいつ計上するかという違いが大きいのです。

即時償却と税額控除を選択できる

中小企業経営強化税制では、即時償却だけが選択肢ではありません。

資料では、即時償却または10%の税額控除を選択できる制度として紹介されています。

即時償却は、対象設備の取得価額を早期に損金算入する方法です。

一方、税額控除は、一定額を法人税額から直接控除する方法です。

この2つは税負担を軽減する仕組みが異なります。

そのため、「即時償却できるなら必ず即時償却を選べばよい」とは限りません。

会社の利益水準や今後の業績見込みなどを踏まえて考える必要があります。

即時償却と税額控除のどちらを選ぶべきかについては、次の記事で詳しく取り上げます。

対象設備であることが必要

中小企業経営強化税制は、高額な設備なら何でも利用できる制度ではありません。

制度の対象となる設備であることが必要です。

資料では、現在の制度について複数の類型が設けられていることが説明されています。

そのなかで、筆者が利用を勧めているのが収益力強化設備に関する類型です。

対象業種や設備の範囲が広く、実務で利用しやすいことが理由として挙げられています。

つまり、「1,000万円以上なら対象」「機械なら対象」と金額や名称だけで判断することはできません。

設備投資の内容と制度要件を確認する必要があります。

設備を買う前から手続きを考える必要がある

中小企業経営強化税制で特に重要なのが手続きのタイミングです。

資料では、収益力強化設備について、まず中小企業等経営強化法に基づく投資計画に関する確認申請を経済産業局に提出する流れが説明されています。

その確認には、おおむね2か月程度を要するとされています。

さらに、その後、事業分野を所管する行政機関へ経営力向上計画を提出し、認定を受けます。

こちらについても、提出から認定までおおむね1か月程度かかると説明されています。

設備を購入して決算直前に税理士へ相談すれば、すぐに即時償却できるという制度ではありません。

業種によって提出先も異なる

経営力向上計画の提出先は、すべての会社で同じではありません。

資料では、事業分野によって提出先が異なる例が紹介されています。

食品製造業、美容業、コンテンツ制作など、それぞれ事業を所管する行政機関が異なります。

許認可が必要な事業の場合には、その許認可を所管する省庁が関係することもあります。

自社がどの行政機関へ申請するのかを事前に確認する必要があります。

設備の選定だけでなく、制度利用の手続きそのものを設備投資計画に組み込んでおくことが重要です。

決算直前に考え始めるのでは遅い

資料では、確認申請から認定までの期間を考えると、制度利用には少なくとも3か月程度を要すると説明されています。

さらに、書類を作成するための準備期間も必要です。

そのため、決算日の4か月以上前から準備を始めることが勧められています。

これは非常に重要な実務上のポイントです。

少額減価償却資産であれば、決算直前に必要なパソコンなどを購入して事業の用に供することで対応できる場合があります。

しかし、中小企業経営強化税制を利用する高額な設備投資では、同じような感覚で考えることはできません。

制度利用を考えるのであれば、かなり早い段階から動く必要があります。

設備投資と税務を同時に計画する

中小企業では、設備を購入することを決めてから税務上の取扱いを確認することがあります。

しかし、中小企業経営強化税制を利用する場合には、この順番では間に合わない可能性があります。

例えば、来年度に1,000万円の製造設備を導入する予定があるとします。

その段階で、設備の仕様、導入時期、資金調達方法とともに、税制の利用可能性も確認しておくことが重要です。

設備投資計画と税務計画を別々に考えるのではなく、最初から一体として考えるわけです。

特に大規模な設備投資では、減価償却の方法によって年度ごとの利益や税負担が大きく変わる可能性があります。

節税ではなく投資効果が先にある

中小企業経営強化税制は魅力的な制度ですが、税制が設備投資の目的になってはいけません。

1,000万円の設備を即時償却できるからといって、必要のない1,000万円の設備を購入すれば会社の資金は減ります。

設備投資で最初に考えるべきなのは、その設備が会社の収益力や生産性の向上につながるかどうかです。

その設備を導入する必要性があり、投資効果が見込める。

そのうえで、利用できる税制があれば活用する。

この順番が重要です。

税制は設備投資の採算性を高める手段であって、設備投資そのものを正当化するものではありません。

結論

40万円以上の設備は、通常であれば耐用年数にわたって減価償却していきます。

しかし、一定の中小企業が要件を満たす設備を取得し、中小企業経営強化税制を利用できれば、即時償却または税額控除を選択できる場合があります。

資料では、取得価額1,000万円、耐用年数15年の設備について、通常の初年度減価償却費66万6,666円に対して、即時償却では999万9,999円となる例が示されています。

取得年度の損金算入額には大きな違いがあります。

一方、この制度は設備を購入してから考えればよいものではありません。

投資計画に関する確認や経営力向上計画の認定など、事前に進めなければならない手続きがあります。

資料では、準備期間まで考えて決算日の4か月以上前から動くことが勧められています。

高額な設備投資ほど、「買ってから節税方法を考える」のでは遅くなる可能性があります。

設備投資を計画した段階で税制まで確認する。

そして、事業上必要な投資であることを前提として、通常の減価償却、即時償却、税額控除のどれが自社に適しているのかを考えることが重要です。

参考

企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A

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