銀行に会社の業績を説明するとき、多くの経営者がまず示すのは売上と利益でしょう。
売上はいくら増えたのか。
営業利益はいくら出ているのか。
もちろん、どちらも重要な数字です。
しかし、事業性評価では売上と利益だけで会社の将来性を判断するわけではありません。
金融機関が知りたいのは、その数字が今後も続くのか、そして将来のキャッシュフローにつながるのかという点です。
その判断材料になるのがKPIです。
KPIは事業の途中経過を示す数字
KPIとは、事業計画の達成状況を確認するための重要な指標です。
売上や利益が最終的な結果だとすれば、KPIはそこに至る途中の事業活動を把握するための数字と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば売上が増える前には、受注が増えるかもしれません。
受注が増える前には、商談件数が増えるかもしれません。
継続取引型の事業であれば、顧客数や契約継続率などの変化が、その後の売上に影響することもあります。
つまり、売上や利益だけを見ていると結果が出てから変化に気づくことになります。
事業の実態に合ったKPIを継続して確認すれば、その前の段階で変化を把握しやすくなります。
金融機関はKPIも継続的に確認する
企業価値担保権を活用した融資では、融資後の管理も重要になります。
資料では、融資実行後も事業計画と実績との差異、主要KPI、資金繰り、業績悪化の予兆などを継続的に確認する必要があるとされています。
ここが従来の融資を考えるうえでも参考になるポイントです。
金融機関が知りたいのは、決算時点で最終的にいくら利益が出たのかだけではありません。
事業計画が順調に進んでいるのか。
将来の売上につながる動きがあるのか。
資金繰りに問題が生じる兆候はないのか。
こうした変化を早い段階で把握するために、主要KPIが役立ちます。
すべての会社に共通するKPIがあるわけではない
注意したいのは、どの会社も同じKPIを使えばよいわけではないことです。
重要な指標はビジネスモデルによって異なります。
資料でも、金融機関が事業性評価を行う際には、市場環境、競合状況、顧客ニーズ、自社の強みや弱み、ビジネスモデル、顧客に選ばれる理由などを整理し、それが利益を生み出す仕組みを説明することが重要とされています。
つまり、KPIも自社が利益を生み出す仕組みと結びついていなければなりません。
単に管理できる数字を並べるのではなく、「この数字が変化すると、将来の売上や利益がどう変わるのか」という関係が重要です。
受注状況は将来の売上を見る材料になる
資料では、将来性を融資判断に反映してもらうために整理する情報として、事業計画や資金繰り表に加えて、受注状況も挙げられています。
受注状況は、将来の売上を考えるうえでわかりやすい情報です。
今期の売上が好調でも、受注残が急速に減っていれば、数カ月後には売上が落ちる可能性があります。
反対に、現在の売上がまだ大きく増えていなくても、受注が積み上がっていれば、今後の売上につながる可能性があります。
決算書は過去の結果を示しますが、受注状況は将来を見るための材料になります。
事業性評価では、この時間軸の違いを意識することが重要です。
顧客別売上から見えるものもある
資料では、顧客別売上も整理すべき情報として挙げられています。
年間売上が3億円だったとしても、その中身によって事業の見え方は変わります。
特定の1社への売上依存度が非常に高い会社と、多数の顧客に分散している会社では、売上構造が違います。
また、主要顧客との取引額が増えているのか、減っているのかを見ることで、事業の変化を把握できる場合もあります。
重要なのは、特定の状態を機械的に良い悪いと判断することではありません。
なぜその顧客構成になっているのか。
取引が今後どう変化すると考えているのか。
その変化が売上やキャッシュフローにどう影響するのか。
こうした説明と組み合わせることが大切です。
商品別利益を見ると売上だけではわからないことが見える
売上が増えているからといって、必ずしも収益力が高まっているとは限りません。
そこで重要になるのが商品やサービスごとの利益です。
資料でも、商品別利益を整理することが事業価値と返済原資を具体的に説明するための材料として示されています。
たとえば、売上が大きく伸びている商品があったとしても、その商品の利益率が低ければ、売上ほど利益は増えない可能性があります。
反対に、売上規模はそれほど大きくなくても、高い利益を生み出している商品があるかもしれません。
どの商品やサービス、顧客、取引で利益を生み出しているのか。
これを把握することで、自社の収益構造を金融機関に説明しやすくなります。
資金繰りにつながる指標も重要になる
KPIというと営業活動に関する数字を想像しがちですが、金融機関との対話では資金繰りに関係する指標も重要です。
資料では、将来キャッシュフローを説明する際に、在庫回転期間、売掛金回収期間、買掛金支払期間などを整理することが必要とされています。
たとえば売上が伸びていても、売掛金の回収期間が長期化すれば、資金繰りは悪化する可能性があります。
在庫回転期間が長くなれば、在庫として固定される資金が増えることもあります。
こうした数字は、損益計算書の売上や利益だけでは把握しにくい事業の変化を示してくれます。
KPIは計画と実績を結びつける
金融機関は事業計画を作成しているかどうかだけではなく、その計画を実際に管理しているかも見ています。
資料では、月次で進捗を確認し、計画と実績の差を把握するPDCAが回っているかが問われるとされています。
そこでKPIが役立ちます。
たとえば売上計画を達成するために必要な受注額を設定していたとします。
売上はまだ計画どおりでも、受注額が計画を大きく下回っていれば、数カ月後の売上に影響する可能性があります。
その段階で原因を分析し、対策を講じることができれば、事業計画を実際の経営管理に使っていることになります。
KPIは数字を集めること自体が目的ではありません。
計画と実績の差を早く把握し、経営判断につなげるためのものです。
KPIが悪化したときの説明が重要になる
金融機関に良いKPIだけを見せればよいわけでもありません。
むしろ重要なのは、数字が悪化したときに会社がその原因を把握しているかどうかです。
受注が減っている。
在庫回転期間が長くなっている。
売掛金の回収期間が伸びている。
特定商品の利益率が低下している。
こうした変化があったときに、
なぜ起きたのか。
一時的なものなのか。
今後どのような対応を取るのか。
将来の売上やキャッシュフローにどの程度影響するのか。
ここまで説明できれば、金融機関との対話にも活用できます。
事業性評価では、数字の良し悪しだけでなく、その数字を企業自身が管理できていることも重要なのです。
KPIを増やしすぎない
管理する数字が多ければ事業管理が高度になるとは限りません。
あまりに多くの指標を設定すると、何が本当に重要なのかわからなくなることがあります。
自社の売上や利益、キャッシュフローにつながる重要な数字を絞り込むことが大切です。
資料の実践チェックリストでも、金融機関との対話について、試算表、資金繰り表、KPI、業績変化を継続的に共有できるかが確認項目として示されています。
金融機関に大量の数字を渡すことが目的ではありません。
事業の状態を理解するために必要な数字を継続的に共有することが重要です。
結論
売上と利益は、会社の経営を考えるうえで重要な数字です。
しかし、どちらも基本的には事業活動の結果として表れる数字です。
事業性評価では、その結果だけでなく、結果を生み出す途中の動きも重要になります。
受注状況。
顧客別売上。
商品別利益。
在庫回転期間。
売掛金回収期間。
買掛金支払期間。
こうした数字を自社の事業構造に合わせて確認することで、売上や利益だけでは見えない変化を把握できます。
そして重要なのは、KPIを金融機関に見せるためだけに管理することではありません。
経営者自身がKPIを使って計画と実績の差を把握し、必要な対応を行い、その内容を金融機関にも説明できる状態をつくることです。
事業性評価の時代には、「今年はいくら儲かったか」だけではなく、「これから儲かる仕組みがどう動いているのか」を数字で説明することが求められます。
KPIは、その事業の実力と将来の変化を金融機関に伝えるための重要な共通言語になっていくのです。
参考
企業実務 2026年10月号 金融機関はあなたの会社をこう見ている「事業性評価」の本音と建前