中小企業が大きな設備投資を行う場合、中小企業経営強化税制を利用できれば、即時償却または税額控除を選択できる場合があります。
前回は、取得価額1,000万円、耐用年数15年の設備について、通常の減価償却では初年度の減価償却費が66万6,666円であるのに対し、即時償却では999万9,999円となる例を取り上げました。
これだけを見ると、「それなら即時償却を選んだほうが得ではないか」と考えたくなります。
しかし、中小企業経営強化税制では、即時償却だけでなく税額控除という選択肢があります。
資料では、対象設備について即時償却または10%の税額控除を選択できることが示されています。
この2つは、税負担を軽減する仕組みがまったく異なります。
どちらを選ぶかを考えるには、単年度の節税額だけではなく、会社の利益水準や今後の業績まで見る必要があります。
即時償却は取得価額を早く費用化する制度
即時償却の最大の特徴は、対象となる設備の取得価額を取得年度に大きく損金算入できることです。
通常の減価償却であれば、設備の取得価額を耐用年数にわたって費用化します。
耐用年数が10年や15年の設備であれば、取得時に多額の資金を支出しても、税務上の費用は長い期間に分かれて計上されます。
即時償却を選択すれば、その費用化を取得年度に大きく前倒しできます。
その結果、取得年度の課税所得を大幅に圧縮できる可能性があります。
利益が大きく出ている年度では、非常に大きな効果を持つことがあります。
即時償却は税額を直接減らす制度ではない
ただし、即時償却について誤解してはいけないことがあります。
即時償却は、法人税額から設備投資額を直接差し引く制度ではありません。
損金を増やすことによって課税所得を減らし、その結果として法人税等を減らす仕組みです。
例えば、1,000万円の設備を即時償却できたからといって、税金が1,000万円減るわけではありません。
あくまで1,000万円近い金額を損金として計上できるということです。
実際にどの程度税負担が減るかは、その会社の所得や適用される税率などによって異なります。
税額控除は法人税額から直接差し引く
これに対して税額控除は、仕組みが異なります。
資料では、中小企業経営強化税制について、一定の場合に10%の税額控除を選択できると説明されています。
税額控除は、損金を増やして課税所得を減らすのではなく、計算された法人税額から一定額を直接控除する仕組みです。
例えば、税額控除の対象となる取得価額が1,000万円で、10%の税額控除を適用できるケースであれば、その計算上の金額は100万円となります。
即時償却と税額控除では、税負担への働き方が違うわけです。
1,000万円の設備で考える
資料で取り上げられている1,000万円の設備を使って考えてみましょう。
耐用年数は15年です。
通常の減価償却では、初年度の減価償却費は66万6,666円とされています。
即時償却を選択した場合には999万9,999円です。
取得年度だけを見れば、損金算入額には非常に大きな差があります。
一方、税額控除を選択した場合には、通常の減価償却を行いながら、制度に基づく税額控除を利用するという考え方になります。
つまり、即時償却と税額控除は、「どちらのほうが減価償却費が大きいか」という比較ではありません。
課税所得を大きく減らす方法を選ぶのか、法人税額から直接控除する方法を選ぶのかという違いです。
即時償却は費用計上の前倒しという性格を持つ
即時償却を考えるうえで重要なのは、将来の減価償却費との関係です。
通常の減価償却を選べば、設備の取得価額は耐用年数にわたって費用化されていきます。
即時償却を選択すれば、それを取得年度に大きく前倒しします。
そのため、取得年度の損金は大きくなりますが、その分だけ翌年度以降に計上する減価償却費は少なくなります。
即時償却によって、設備の取得価額そのものが増えるわけではありません。
費用化するタイミングを大幅に早めることに意味があります。
税額控除では通常の減価償却が続く
税額控除を選択する場合には、即時償却とは異なり、設備そのものについて通常の減価償却を行っていくことになります。
つまり、取得年度に税額控除の効果を受けながら、設備の取得価額については耐用年数に応じた減価償却費をその後も計上していくことになります。
ここが即時償却との大きな違いです。
即時償却は費用計上を取得年度に集中させます。
税額控除では、税額そのものに対する控除を受けながら、減価償却費は複数年度にわたって計上されます。
そのため、どちらが適しているかは会社の状況によって変わります。
利益が大きい年度では即時償却の効果が目立つ
設備投資を行う年度に大きな利益が出ている場合には、即時償却によって課税所得を大きく圧縮できる可能性があります。
例えば、新しい工場設備の導入と同じ年度に、本業でも大きな利益が見込まれている会社を考えてみます。
通常の減価償却では初年度に計上できる費用が限られます。
即時償却が利用できれば、多額の設備投資額を早期に損金算入できるため、取得年度の税負担を抑える効果が大きくなる可能性があります。
特に資金需要が大きい設備投資年度では、税金の支払いを抑えることで手元資金を確保しやすくなるという意味もあります。
利益が少ない場合には考え方が変わる
一方、設備投資を行った年度の利益がもともと少ない場合にはどうでしょうか。
即時償却によって多額の損金を計上しても、課税所得そのものがそれほど大きくなければ、取得年度に発生する税負担の軽減効果には限界があります。
したがって、単に「即時償却できるから即時償却を選ぶ」と考えるのではなく、自社の利益状況を確認する必要があります。
設備投資額だけを見るのではなく、その年度にどの程度の利益が見込まれているのかを把握することが重要です。
将来の利益も考える必要がある
即時償却と税額控除を比較するときには、取得年度だけではなく翌年度以降の利益も重要になります。
即時償却を選択すれば、取得年度には大きな減価償却費を計上できます。
しかし、その分、翌年度以降の減価償却費は少なくなります。
将来も安定して利益が出ると予想される会社では、通常の減価償却費を将来に残すことにも意味があります。
反対に、設備投資年度に突出して大きな利益が発生しているのであれば、その年度に費用を集中させる意味が大きくなることがあります。
設備投資年度だけで結論を出すのではなく、数年間の利益計画と合わせて考えることが大切です。
税額控除にも適用条件がある
税額控除については、「取得価額の10%が必ずそのまま戻ってくる」と考えないことも重要です。
資料では、中小企業経営強化税制について10%の税額控除が示されていますが、実際の適用では対象となる企業や設備などの要件を満たす必要があります。
また、会社の状況によって税額控除を十分に利用できるかどうかも確認する必要があります。
したがって、設備投資額に10%を掛けただけで最終的な節税額を判断するのは適切ではありません。
制度の適用要件と会社の税額を確認したうえで検討する必要があります。
どちらを選ぶかは決算時だけの問題ではない
即時償却と税額控除の選択というと、決算を組む段階で税理士と相談すればよいように思えるかもしれません。
しかし、中小企業経営強化税制そのものを利用するためには、その前段階の準備が必要です。
資料では、収益力強化設備について、投資計画に関する確認申請や経営力向上計画の認定などの手続きが説明されています。
確認申請から認定までには一定の期間が必要です。
したがって、「設備を買った。利益も出た。即時償却と税額控除のどちらがよいか考えよう」という順番では、そもそも制度利用の準備が間に合わない可能性があります。
設備投資を計画した段階から税制の利用可能性を確認することが重要です。
節税額だけで設備投資を決めない
即時償却と税額控除のどちらを選ぶかは重要ですが、その前に確認すべきことがあります。
それは、その設備投資自体が必要なのかということです。
1,000万円の設備について大きな税制上のメリットを受けられたとしても、会社は設備取得のために1,000万円を投資します。
節税額だけを見て不要な設備を購入すれば、会社の現預金は減ってしまいます。
設備投資によって売上が増えるのか。
生産性が上がるのか。
人手不足を補えるのか。
コスト削減につながるのか。
まず投資そのものの経済合理性を考え、そのうえで税制を利用することが基本です。
税制は設備投資の効果を高める手段
中小企業経営強化税制を考えるときには、「節税するために設備を買う」のではなく、「必要な設備を買うので税制を活用する」という順番が重要です。
設備投資によって会社の収益力が高まり、その投資を税制面から後押しする。
これが制度を活用する基本的な考え方です。
即時償却と税額控除についても、どちらが常に優れているというものではありません。
会社の利益状況、設備投資額、今後の業績などを踏まえて選択する必要があります。
結論
中小企業経営強化税制では、一定の要件を満たす設備について、即時償却または税額控除を選択できる場合があります。
即時償却は、設備の取得価額を取得年度に大きく損金算入することで課税所得を圧縮する方法です。
一方、税額控除は、法人税額から一定額を直接控除する方法です。
両者は税負担を軽減する仕組みそのものが異なります。
設備投資年度に大きな利益が出ているから即時償却を利用したいというケースもあれば、通常の減価償却を続けながら税額控除を利用することを検討するケースもあります。
大切なのは、単年度の節税額だけで判断しないことです。
取得年度の利益だけでなく、翌年度以降の利益や減価償却費まで含めて考える必要があります。
そして何より、税制を理由に設備投資を行うのではなく、事業に必要な設備投資を行ったうえで、利用できる税制を選択するという順番が重要です。
即時償却か税額控除か。
この選択は単なる税務処理ではなく、設備投資と利益計画、資金繰りを一体として考える経営判断でもあるのです。
参考
企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A