会社の退職金とiDeCoの一時金。
どちらも老後の大切な資金ですが、税金を考えると単純に好きな順番で受け取ればよいとは限りません。
どちらも原則として退職所得となり、退職所得控除を利用できるからです。
問題は、同じ加入期間や勤続期間に対応する退職所得控除を二重に利用できないよう、受取時期などに応じた調整の仕組みがあることです。
そのため、会社の退職金をいつ受け取り、iDeCoをいつ受け取るかによって税負担が変わる場合があります。
iDeCoの出口では、いくら受け取るかだけでなく、どの順番でいつ受け取るかまで考える必要があります。
退職金にもiDeCoにも退職所得控除がある
勤務先から受け取る退職金は、原則として退職所得になります。
iDeCoの老齢給付金を一時金として受け取る場合も、原則として退職所得です。
そして、どちらにも退職所得控除があります。
会社の退職金では主に勤続年数、iDeCoでは掛け金を拠出した期間などをもとに控除額を計算します。
20年以下の部分については原則として1年40万円、20年を超える部分については1年70万円です。
ここだけを見ると、会社の退職金とiDeCoでそれぞれ控除を使えるように見えます。
しかし実際には、両者の期間が重複する場合などに調整が必要になります。
なぜ二重に控除できないよう調整するのか
例えば会社員として働いている30年間、同時に企業型DCやiDeCoへ加入していたとします。
会社の勤続期間30年と、確定拠出年金の加入期間30年がほぼ同じ期間だった場合を考えます。
同じ30年間について会社の退職金でも退職所得控除を満額利用し、さらにiDeCoでも同じ30年間を使って退職所得控除を満額利用できれば、同一期間について二重に控除を受けることになります。
そこで税制では、複数の退職金などを一定期間内に受け取った場合、重複期間などを考慮して退職所得控除を調整する仕組みがあります。
受け取る順番によって確認する期間が違う
退職所得控除の調整を難しくしているのが、どちらを先に受け取るかによって確認すべきルールが変わることです。
会社の退職金を先に受け、その後iDeCoの一時金を受け取るケース。
反対にiDeCoを先に受け取り、その後会社の退職金を受け取るケース。
この二つは必ずしも同じ扱いではありません。
さらに税制改正によって調整ルールが変更されることがあります。
そのため、何年空ければ必ず退職所得控除をもう一度満額使えるという単純な理解は危険です。
実際の受取時点で最新の制度を確認する必要があります。
60歳で会社の退職金を受け取るケース
典型的なのは、60歳で勤務先を定年退職し、会社の退職金を受け取るケースです。
長期間勤務した人であれば、会社の退職金だけで大きな退職所得控除を利用することがあります。
その直後にiDeCoも一時金として受け取ると、加入期間と勤続期間の重複などによってiDeCo側で利用できる退職所得控除が制限される可能性があります。
そこで制度改正後は、60歳ですぐiDeCoを受け取らず、一定の要件を満たして拠出を続ける方法が注目されます。
60歳以降に新しい加入期間を積み上げるという考え方です。
60歳以降の加入期間をつくる意味
例えば60歳で会社の退職金を受け取り、それまでの勤続期間に対応する退職所得控除を利用したとします。
その後60歳から69歳までiDeCoへ新たに加入します。
一定の条件のもとで、この10年間が将来のiDeCo一時金に対する退職所得控除につながる可能性があります。
年40万円で計算される10年間なら400万円です。
企業年金などから引き継いだ加入期間との関係で21年目以降に当たるケースでは、年70万円という計算が関係する可能性もあります。
60歳以降もiDeCoを続けることには、掛け金を積み増すだけではない意味があります。
iDeCoを先にもらえばよいとも限らない
では、会社の退職金より先にiDeCoを受け取ればよいのでしょうか。
これも単純ではありません。
その後に会社の退職金を受け取る際、過去に受け取ったiDeCo一時金との関係で退職所得控除の調整が行われる場合があります。
つまり受取順序を逆にすれば自動的に問題が解決するわけではありません。
退職金の金額、勤続年数、iDeCoの加入期間、それぞれの受取年齢を確認したうえで比較する必要があります。
一時金だけでなく年金方式も比較する
退職所得控除を十分に使えない場合には、iDeCoをすべて一時金で受け取らない方法もあります。
iDeCoを年金として受け取れば、原則として公的年金等に係る雑所得となり、公的年金等控除との関係を考えることになります。
金融機関などの条件によっては、一部を一時金として受け取り、残りを年金として受け取る方法もあります。
退職所得控除を使いやすい部分は一時金。
残りは公的年金等控除との関係を確認しながら年金。
このように出口を分けることも検討できます。
退職金の手取りは受取前に試算する
会社の退職金やiDeCoは、一度受け取ってから受取時期をやり直すことはできません。
だからこそ、受取前の試算が重要です。
会社の退職金はいくらか。
勤続年数は何年か。
企業型DCやiDeCoの加入期間は何年か。
過去に退職金を受け取ったことがあるか。
iDeCoを一時金にした場合の税額はいくらか。
年金にした場合の税額や社会保険料などへの影響はどうなるか。
これらを並べて、税引き後の手取り額で比較する必要があります。
結論
退職金とiDeCoのどちらを先にもらえば有利なのかは、すべての人に共通する答えがあるわけではありません。
会社の退職金もiDeCoの一時金も原則として退職所得となり、退職所得控除を利用できます。
しかし、勤続期間と加入期間が重複する場合などには、受取時期に応じて退職所得控除の調整が行われることがあります。
そのため受取順序だけでなく、何歳で受け取るのかが重要になります。
60歳で会社の退職金を受け取り、その後もiDeCoへの加入を続ける。
一定の条件のもとで新しい加入期間を積み上げ、将来の退職所得控除につなげる。
あるいは一時金と年金を組み合わせる。
こうした出口設計が考えられます。
iDeCoでは、掛け金の所得控除に目が向きがちです。
しかし資産額が大きくなるほど、最後にどう受け取るかによって手取り額が変わる可能性があります。
退職金とiDeCoは、受け取る直前に考えるのではなく、60歳になる前から一つの年表にして設計しておくことが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 60歳からiDeCo増額 拠出・非課税枠活用しやすく