人手不足が深刻になるなか、企業や自治体で「フルタイムで働けること」を採用や活躍の前提にしない動きが広がっています。
これまで時短勤務というと、育児や介護を抱える社員に対する福利厚生というイメージが強くありました。
しかし最近では、その位置付けが変わりつつあります。
短い時間しか働けない人を特別扱いするのではなく、短い時間でも成果を出せる人を重要な戦力として活用する考え方です。
時短勤務者を増やすことは、人材確保だけでなく、管理職の仕事の割り振り方や組織全体の働き方を見直すきっかけにもなっています。
時短勤務とは何か
時短勤務とは、通常の所定労働時間より短い時間で働く勤務形態です。
例えば、通常は1日8時間勤務の会社で、1日6時間や7時間勤務にするような働き方です。
育児や介護との両立のために利用されることが多く、これまではフルタイム勤務が難しい期間の一時的な制度として扱われる傾向がありました。
そのため、
子育てが落ち着くまでの働き方
介護が終わるまでの働き方
フルタイム勤務へ戻るまでの暫定措置
という位置付けになりがちでした。
しかし、人手不足が深刻になるにつれて、この考え方そのものが変わり始めています。
フルタイムという条件が採用対象を狭めている
企業が人を採用するとき、
週5日勤務
1日8時間勤務
夕方まで勤務可能
残業にも対応可能
といった条件を設定すれば、当然ながら応募できる人は限られます。
能力や経験があっても、育児や介護などの事情によってフルタイム勤務ができない人は少なくありません。
つまり、
働く能力がないのではなく、働ける時間が短いだけ
という人材が労働市場に存在しているわけです。
企業側がフルタイムという条件を外せば、こうした人たちを採用対象にできます。
人手不足時代には、この違いが非常に重要になります。
高知県が短時間正職員を採用した理由
高知県は2026年度、週10時間の無給休暇を取得できる「短時間正職員」の採用を始めました。
職種を限定しない短時間勤務の正職員採用としては全国初の取り組みです。
背景には職員の残業時間を減らしたくても、人員を十分に確保できないという問題がありました。
そこで、
フルタイムで働ける人だけを採用する
という発想から、
短時間でも働ける人を増やす
という発想へ転換しました。
非常に興味深いのは応募状況です。
行政職5人の募集に対して約100人が応募しました。
多くは育児中の女性だったといいます。
これは、働く意欲や能力を持ちながら、勤務時間の条件によって正職員として働くことが難しかった人が相当数存在することを示しています。
正職員と時短勤務を両立させる意味
短時間勤務というと、
パート
アルバイト
契約社員
などを想像する人もいるでしょう。
しかし、高知県の制度では「短時間正職員」です。
人事評価や昇給制度もフルタイム職員と同じです。
ここには重要な意味があります。
短時間勤務だから補助的な仕事を任せるのではなく、正職員として責任ある仕事を任せるという考え方だからです。
勤務時間と人材の価値を切り離して考えることになります。
時短勤務者は本当に戦力になるのか
時短勤務を導入するとき、企業側でよく出てくる懸念があります。
勤務時間が短ければ顧客対応ができないのではないか
フルタイム社員の負担が増えるのではないか
重要な仕事を任せにくいのではないか
といったものです。
ところが、実際に業務を調べてみると、その前提自体が間違っている場合があります。
求人サイト「しゅふJOB」を運営するビースタイルメディアでは、大手顧客向け営業部門で時短社員の採用を始めました。
当初は、顧客対応のある営業部門で時短勤務は難しいという意見もありました。
そこで午後5時以降に届く顧客メールを調べました。
すると、午後5時以降に対応が必須だったメールは月1件程度でした。
多くは翌日の対応でも問題なかったのです。
本当に必要な仕事なのかを調べる
この事例から分かるのは、
今までそうしてきたから必要だと思っている仕事
と、
本当に必要な仕事
は必ずしも同じではないということです。
午後5時以降も営業担当者がいなければならないと思っていても、実際にはほとんど緊急対応がありませんでした。
時短勤務者を採用しようとすると、
この仕事は本当にこの時間に必要なのか
この仕事は本当にこの人が担当する必要があるのか
翌日に回してはいけないのか
という検証が行われます。
その結果、仕事そのものの無駄が見つかることがあります。
時短勤務者が管理職を変える
時短勤務の効果は、本人だけにとどまりません。
管理職の仕事の進め方にも影響します。
時短勤務者には時間的な制約があります。
午後5時までの勤務なら、それまでに仕事を終わらせる必要があります。
そのため管理職も、
誰が何をしているのか
仕事がどこで止まっているのか
誰に仕事が集中しているのか
どの仕事を優先するのか
を把握する必要があります。
ビースタイルメディアでは、業務を30分単位でカレンダーに入力して共有しています。
作業が止まっていれば周囲が気付き、助けることができます。
業務量が多すぎる社員にも気付きやすくなります。
これは時短勤務者だけのための仕組みではありません。
結果として、チーム全体の生産性を高める仕組みになります。
時間ではなく成果で評価する
時短勤務者を戦力化するためには、人事評価の考え方も重要になります。
例えば、
8時間働いた人
6時間働いた人
がいたとします。
勤務時間だけを見れば8時間働いた人の方が長く働いています。
しかし、
8時間で100の成果を出した人
6時間で100の成果を出した人
なら、成果は同じです。
さらに6時間勤務の人が大きな成果を上げることもあります。
記事で紹介された時短勤務の社員は、担当企業の売り上げを大きく伸ばし、社内表彰を受けています。
勤務時間の長さと成果の大きさは必ずしも一致しないのです。
時短勤務者の仕事を誰かに上乗せしてはいけない
一方で、時短勤務制度を作るだけでは問題は解決しません。
典型的な失敗が、
時短勤務者ができない仕事をフルタイム社員に任せる
という方法です。
例えば、時短勤務者が午後4時に帰宅した後、その人の仕事を同僚が引き受ける状態です。
これでは時短勤務者の負担は減っても、周囲の社員の負担が増えます。
フルタイム社員からすると、
なぜ自分だけ仕事が増えるのか
という不満につながります。
場合によっては離職の原因にもなります。
必要なのは仕事の付け替えではなく、仕事そのものの見直しです。
誰かの善意に頼らない仕組みが必要になる
育児や介護では、突然仕事を離れなければならないことがあります。
子どもの発熱
学校からの呼び出し
家族の通院
介護施設からの連絡
などです。
これを毎回、
同僚にお願いする
上司に頭を下げる
誰かが善意で代わる
という方法で対応していると、本人にも周囲にも心理的負担が生じます。
そこで重要になるのが、会社として支援を制度化することです。
電通ランウェイでは「子育てサポート担当者」を設け、突発的な事情が生じた子育て中の社員の業務を支援する仕組みを導入しています。
ポイントは、助け合いを個人の善意だけに任せないことです。
働く時間を全員が選ぶ考え方もある
さらに進んだ企業では、育児や介護をしている人だけを対象にするのではなく、全社員が働く時間を選べる制度を導入しています。
オンワードホールディングスでは「シフト選択制」を導入し、始業時間が異なる複数のシフトから勤務時間を選べるようにしています。
大和リースでは、理由を問わず勤務時間を6時間から10時間まで選べる制度を導入しました。
これは非常に重要な変化です。
従来の時短勤務は、
事情がある人だけが短く働く制度
でした。
これからは、
誰もが自分の状況に応じて働く時間を選ぶ制度
へ変わる可能性があります。
なぜ全員が選べる方が働きやすいのか
育児中の人だけが時短勤務をすると、
自分だけ早く帰って申し訳ない
周囲に迷惑をかけているのではないか
重要な仕事を任せてもらえなくなるのではないか
という心理が生まれやすくなります。
一方、誰でも勤務時間を選べる会社なら、
今日は早く帰る人
朝早く働く人
長く働く人
短く働く人
が共存できます。
働く時間の違いそのものが特別ではなくなります。
重要なのは何時間会社にいたかではなく、その時間でどのような仕事をしたかになります。
人手不足が時短勤務の意味を変える
これまで企業は、
フルタイムで働ける人を採用する
ことを基本にしてきました。
しかし、少子高齢化によって働き手が減れば、その条件を満たす人だけを奪い合うことになります。
そこで、
6時間なら働ける人
週4日なら働ける人
朝なら働ける人
夕方までなら働ける人
にも採用対象を広げる必要が出てきます。
これは単なる福利厚生ではありません。
人材獲得戦略です。
フルタイム勤務を条件にして採用できない企業より、柔軟な働き方を認めて優秀な人材を確保できる企業の方が、人手不足時代には競争力を持つ可能性があります。
結論
時短勤務は、育児や介護を抱える社員を支援するためだけの制度ではなくなりつつあります。
働く時間に制約があっても、能力や経験を持つ人はたくさんいます。
企業がフルタイム勤務という条件を外せば、これまで採用できなかった人材を戦力として迎えられます。
さらに時短勤務者がいることで、管理職は仕事の優先順位、業務量、役割分担を細かく考えなければなりません。
その結果、無駄な業務が減り、チーム全体の生産性が上がる可能性があります。
ただし、時短勤務者ができない仕事をフルタイム社員に上乗せするだけでは制度は長続きしません。
必要なのは、
短く働く人をどう支えるか
ではなく、
限られた時間で誰もが成果を出せる職場をどう作るか
という発想への転換です。
人手不足が進む日本では、「何時間働けるか」より「働ける時間で何ができるか」を見る企業が、人材を確保しやすくなっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 「時短」勤務者は重要な戦力 人員確保に効果 管理職の意識変わる
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 シフトを選べる企業も