厚生年金の適用拡大とは何か パートも会社員の年金に入る方向へ制度が変わっている理由編

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かつて厚生年金は、主に正社員として働く人が加入する制度というイメージが強くありました。

パートやアルバイトなど勤務時間の短い人は、会社で働いていても配偶者の扶養に入り、第3号被保険者になるケースが多くありました。

しかし、この仕組みは少しずつ変わっています。

短時間労働者についても、一定の条件を満たせば勤務先の厚生年金や健康保険に加入してもらう「社会保険の適用拡大」が進められているからです。

これは単に社会保険料を負担する人を増やす政策ではありません。

働く人自身が自分名義の厚生年金を持つこと。

社会保険の扶養を意識した働き控えを減らすこと。

そして第3号被保険者制度への依存を小さくすること。

これらが深く関係しています。

厚生年金の適用拡大とは何か

厚生年金の適用拡大とは、これまで勤務先の厚生年金に加入していなかった短時間労働者についても、加入対象を広げていくことです。

会社で働いているからといって、すべての人が同じ条件で厚生年金に加入してきたわけではありません。

正社員など一定以上働く人は厚生年金の加入対象になります。

一方、勤務時間の短いパートやアルバイトについては、一定の条件を満たした場合に加入する仕組みが設けられてきました。

この対象範囲を段階的に広げてきたのが適用拡大です。

つまり、

正社員かパートか

という呼び方だけではなく、

実際にどの程度働いているのか

などによって社会保険への加入を判断する方向へ制度が変わっています。

短時間労働者も社会保険に入る

パートで働いている人の中には、

自分はパートだから厚生年金には入らない

と思っている人もいるかもしれません。

しかし、パートという雇用上の呼び方だけで社会保険への加入が決まるわけではありません。

一定の加入要件を満たせば、短時間労働者でも勤務先の厚生年金や健康保険に加入します。

加入すれば、国民年金では第2号被保険者になります。

これまで配偶者の扶養に入り第3号被保険者だった人であれば、第3号から第2号へ移ることになります。

つまり厚生年金の適用拡大は、第3号被保険者を直接廃止しなくても、第3号に該当する人を減らしていく仕組みでもあるのです。

週20時間という基準が重要になる

短時間労働者への社会保険適用を考えるうえでは、週の所定労働時間が重要な基準の一つになります。

これまで社会保険の扶養を意識していた人にとっては、

年収をいくらに抑えるか

だけでなく、

週に何時間働くか

も重要になっています。

勤務先の社会保険への加入要件を満たせば、配偶者の扶養に入り続けるのではなく、自分自身が勤務先の社会保険に加入することになるからです。

社会保険制度が、

年収だけで扶養かどうかを考える仕組み

から、

働き方そのものを見て本人加入を広げる仕組み

へ変わりつつあると考えると分かりやすくなります。

企業規模によって加入範囲が違ってきた

短時間労働者への社会保険の適用拡大では、企業規模も重要な要件となってきました。

制度改正によって対象企業の範囲は段階的に広げられてきました。

大きな企業から始まり、より規模の小さい企業で働く短時間労働者へ対象が拡大されてきたのです。

このため同じような時間、同じような賃金で働いていても、

勤務先の企業規模

によって社会保険への加入状況が異なることがありました。

この違いは働く人にとって分かりにくいだけでなく、企業間の公平性という問題にもつながります。

なぜ企業規模要件を設けてきたのか

社会保険の適用をすべての企業へ一度に広げれば、企業側にも大きな影響が生じます。

厚生年金や健康保険では、企業にも社会保険料の事業主負担があるからです。

特に短時間労働者を多く雇用する企業にとっては、社会保険の対象者が増えることで人件費が増加します。

大企業と比較すると、中小企業では負担への対応が難しい場合もあります。

そのため企業規模を基準として段階的に適用を広げる方法が取られてきました。

しかし企業規模による違いを残せば、

どの会社で働くかによって社会保険への入り方が違う

という問題も残ります。

今後の適用拡大では、この企業規模要件をどうするのかも重要になります。

106万円の壁も制度変更が進む

短時間労働者の社会保険では、いわゆる106万円の壁も注目されてきました。

一定の企業で働く短時間労働者について、月額賃金8万8000円以上という賃金要件があったためです。

年収換算でおよそ106万円となることから、106万円の壁と呼ばれてきました。

しかし、2026年10月には、この106万円の壁の原因となっていた賃金要件が撤廃されます。

これによって、

年収106万円を超えるかどうか

という基準の意味は大きく変わります。

今後は賃金額だけでなく、週の労働時間などを基準として本人が社会保険に加入する方向がさらに強まります。

適用拡大は130万円の壁にも影響する

厚生年金の適用拡大は、130万円の壁とも関係します。

130万円の壁は、主に配偶者の社会保険の扶養から外れるかどうかに関係する基準です。

これまでは勤務先の社会保険に加入しないパート労働者が、

130万円未満に収入を抑えて配偶者の扶養に入る

という働き方を選ぶことがありました。

しかし勤務先の社会保険への加入対象が広がれば、130万円に達する前でも自分自身の勤務先で社会保険に加入する人が増えます。

すると、

130万円までなら必ず扶養でいられる

という考え方そのものが当てはまらない人が増えていきます。

第3号被保険者が減る仕組み

厚生年金の適用拡大と第3号被保険者制度の縮小は密接につながっています。

例えば会社員の夫に扶養されながらパートで働いている妻が第3号被保険者だったとします。

勤務先の社会保険への加入要件を満たさなければ、第3号のまま働くことがあります。

ところが適用拡大によって勤務先の厚生年金に加入することになれば、本人が第2号被保険者になります。

第2号になれば第3号ではありません。

つまり、

第3号制度を法律上廃止する

という方法だけでなく、

第2号になれる人を増やす

ことによっても第3号被保険者を減らすことができます。

なぜいきなり第3号を廃止しないのか

第3号制度には約640万人の被保険者がいます。

これを一度に廃止すれば、多くの家庭に急激な負担変化が生じる可能性があります。

特に働いていない人が第1号へ移れば、新たに国民年金保険料を負担するケースが考えられます。

一方、働いている人について厚生年金の適用を徐々に広げれば、第3号から第2号へ段階的に移していくことができます。

本人には社会保険料負担が生じますが、勤務先も保険料を負担します。

さらに本人名義の厚生年金が積み上がります。

このため適用拡大は、第3号制度を急激に廃止するのではなく、対象者を徐々に減らしていく方法としても重要なのです。

本人にとっては負担増だけではない

社会保険の適用拡大について、

パートからも社会保険料を取る政策

と考えると、負担増だけが目につきます。

確かに、これまで第3号だった人が第2号になれば、給与から厚生年金保険料や健康保険料が差し引かれるようになります。

現在の手取りにはマイナスです。

しかし同時に本人名義の老齢厚生年金が積み上がります。

厚生年金保険料は原則として勤務先も負担します。

健康保険でも本人として加入することで、一定の条件のもとで傷病手当金などの保障につながる場合があります。

負担と給付の両方を見る必要があります。

企業側には社会保険料負担が生じる

一方、企業にとって適用拡大はコスト増になります。

これまで社会保険の対象外だったパート労働者が加入すれば、企業にも厚生年金や健康保険などの事業主負担が発生します。

そのため企業側が、

勤務時間を短くする

採用方法を変える

人員配置を見直す

といった行動を取る可能性があります。

社会保険の壁による働き控えというと労働者側の問題だけに見えますが、企業側にも加入を避けようとする動機が生まれる場合があります。

適用拡大を進めるには、企業側への影響も考える必要があります。

社会保険に入った後にしっかり働けるかが重要

適用拡大によって社会保険に加入した直後は、手取りの伸びが小さく感じられることがあります。

そのため、

加入するくらいなら勤務時間を減らそう

という新たな働き控えが生じる可能性もあります。

重要なのは、社会保険に加入した後も勤務時間や収入を増やしやすい環境を作ることです。

加入した後に十分に働いて収入を増やせれば、社会保険料を負担しても手取りを増やしやすくなります。

さらに厚生年金も積み上がります。

壁の直前で止まる働き方から、

壁を超えてしっかり働く

という働き方へ移れるかが重要になります。

適用拡大だけでは第3号はなくならない

厚生年金の適用を広げても、第3号被保険者がすべていなくなるわけではありません。

働いていない人がいるからです。

育児によって働くことが難しい人もいます。

介護を担っている人もいます。

勤務時間が短く、厚生年金の加入要件を満たさない人も残る可能性があります。

したがって適用拡大は第3号縮小の有力な方法ですが、それだけで第3号制度の問題をすべて解決できるわけではありません。

最後まで第3号として残る人をどのように扱うのかという問題が残ります。

第3号改革を見るときは適用拡大を見る

今後、第3号被保険者制度の改革を考えるときには、

第3号を廃止するか

というニュースだけを見るのでは不十分です。

厚生年金の適用対象がどこまで広がるのか。

企業規模による要件がどうなるのか。

短時間労働者の加入条件がどう変わるのか。

こうした改正を見る必要があります。

適用範囲が広がるほど、第3号から第2号へ移る人が増える可能性があります。

第3号制度を直接変更しなくても、周囲の制度を変えることで第3号の人数を減らすことができるからです。

結論

厚生年金の適用拡大とは、これまで勤務先の社会保険に加入していなかったパートなどの短時間労働者にも、厚生年金や健康保険への加入対象を広げていくことです。

これによって、配偶者の扶養に入り第3号被保険者だった人が、自分自身の勤務先で社会保険に加入する第2号被保険者へ移るケースが増えます。

本人には社会保険料負担が生じます。

しかし勤務先も保険料を負担し、本人には老齢厚生年金が積み上がります。

つまり適用拡大は、

パートから保険料を集める

だけの政策ではありません。

配偶者の社会保険に扶養される仕組みから、働く本人が自分自身の社会保険に加入する仕組みへ移す改革でもあります。

そしてこれは、第3号被保険者制度を一度に廃止することなく、働いている第3号を段階的に第2号へ移していく方法でもあります。

今後の第3号改革を見るうえでは、

第3号を残すかなくすか

だけではなく、

厚生年金に加入できる人をどこまで増やすのか

を見ることが重要です。

第3号被保険者制度の縮小は、厚生年金の適用拡大という別の制度改革を通じて、すでに少しずつ進んでいるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 厚労省「年金3号」縮小へ調査 働き控えの実態把握

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