生成AIが支える滞納整理――国税庁の業務改革と人間の判断の重要性

税理士
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国税庁の徴収行政において、生成AIを活用した業務改革が進んでいます。

税金の滞納整理では、納税者との過去の交渉内容、財産調査の結果、納付状況、分割納付の経緯など、多くの情報を確認する必要があります。

こうした情報は、長期間にわたって蓄積されることがあり、担当職員が事案の全体像を把握するためには相当の時間を要します。

2026年11月2日付の「税のしるべ」に掲載された国税庁徴収部長・山下和博氏へのインタビューでは、生成AIによって滞納者ごとの整理事績を要約し、優先的に対応する事案の選定や担当者変更時の引継業務を効率化する取組が紹介されました。

生成AIの活用は、単なる事務作業の省力化にとどまりません。

税務職員が専門的な判断を必要とする業務に集中できる環境を整え、徴収行政全体の質を高める可能性があります。

一方で、生成AIの誤りや個人情報の取扱いなど、慎重に対応すべき課題もあります。

滞納整理における情報管理の重要性

国税の滞納整理では、納税者ごとに多くの情報が蓄積されます。

例えば、滞納している税目や金額、納期限、督促や催告の履歴、納税相談の内容、財産調査の結果などです。

事業者の場合には、売上高、利益、資金繰り、借入金、売掛金、事業継続の見通しなども重要な情報になります。

さらに、過去に分割納付の相談が行われている場合には、その経緯や履行状況を確認する必要があります。

これらの情報を十分に把握せずに対応すれば、納税者の事情を適切に考慮できない可能性があります。

また、過去の交渉内容を確認しないまま同じ説明を繰り返すことは、納税者の負担を増やすことにもつながります。

滞納整理では、過去の記録を正確に把握し、継続性のある対応を行うことが重要です。

生成AIによる整理事績の要約

国税庁が進めている取組の一つが、生成AIによる滞納者別の整理事績の要約です。

整理事績とは、滞納整理の過程で行われた催告、納税相談、財産調査、滞納処分などの対応経緯を記録したものです。

滞納事案によっては、長期間にわたって多くの記録が蓄積されます。

担当職員がすべての記録を確認するには時間がかかります。

生成AIを活用すれば、大量の文章から重要事項を抽出し、事案の概要を短時間で把握することが期待されます。

例えば、過去の納税相談の内容、納付約束の履行状況、財産調査の経緯などを整理することが考えられます。

ただし、今回のインタビューでは、生成AIによる要約の具体的な様式や処理時間の短縮効果までは示されていません。

実際の効果については、今後の運用状況を確認する必要があります。

担当者変更時の引継業務の効率化

税務行政では、職員の人事異動や担当変更が行われます。

滞納整理を担当する職員が変更になった場合、新しい担当者は過去の記録を確認し、事案の経緯を把握する必要があります。

特に、長期間にわたる滞納事案や複雑な財産関係を伴う事案では、引継ぎに相当の時間が必要になることがあります。

生成AIによって過去の整理事績を要約できれば、担当者は重要事項を効率的に確認できます。

例えば、滞納額の推移、納税者との交渉経緯、財産調査の実施状況、今後の対応上の課題などを整理することが考えられます。

ただし、要約だけで事案のすべてを把握できるわけではありません。

重要な判断を行う場合には、必要に応じて原資料や過去の記録を確認する必要があります。

生成AIによる要約は、引継ぎを支援する手段であり、正式な記録そのものに代わるものではありません。

優先的に対応する事案の選定

国税庁は、生成AIによる整理事績の要約を、優先的に着手する事案の選定にも活用しています。

滞納整理では、多数の事案を同時に管理する必要があります。

そのため、すべての事案に同じ時間と人員を投入することは現実的ではありません。

滞納額、滞納期間、財産状況、納付見込み、処理の困難性などを踏まえて、対応の優先順位を判断する必要があります。

生成AIによって過去の記録が整理されれば、担当職員が事案の状況を把握しやすくなります。

例えば、納付約束が履行されていない事案や、財産状況に変化が生じている事案について、必要な確認を行う際の参考になります。

ただし、生成AIによる要約と、AIによる優先順位の自動決定は異なります。

今回のインタビューで示されたのは、要約した情報を活用して事案の選定を効率化する取組です。

最終的な対応方針については、法令や個別事情を踏まえた判断が必要です。

生成AIと従来型AIの違い

国税庁の徴収行政では、生成AIだけでなく、予測モデルを利用したAI活用も進んでいます。

従来型の予測AIは、過去のデータから一定の傾向を分析し、将来の可能性を予測することに適しています。

例えば、滞納者に対して電話、訪問、文書のうち、どの方法で接触できる可能性が高いかを予測する取組です。

また、電話に応答する可能性が高い曜日や時間帯を予測するモデルも構築されています。

一方、生成AIは、文章の要約や整理などに活用できます。

徴収行政では、過去の整理事績を要約し、担当職員による情報把握を支援する役割が期待されています。

両者は異なる技術ですが、組み合わせることによって業務の効率化につながる可能性があります。

ただし、AIの予測結果や生成AIの要約を無条件に正しいものとして扱うことは適切ではありません。

生成AIの誤りと情報の正確性

生成AIを行政事務に活用する場合、特に注意したいのが情報の正確性です。

生成AIは、文章を自然な形で要約できる一方、重要事項を省略したり、原文にない内容を生成したりする可能性があります。

こうした現象は、一般にハルシネーションと呼ばれます。

滞納整理では、納税者の財産状況や過去の交渉内容など、判断に大きな影響を与える情報を取り扱います。

例えば、納税者が分割納付を希望したという記録と、分割納付を約束したという記録では意味が異なります。

また、財産を保有している可能性があるという情報と、実際に財産の存在が確認されたという情報も区別する必要があります。

生成AIによる要約に誤りがあれば、対応方針に影響する可能性があります。

そのため、重要な判断を行う際には、原資料との照合や職員による確認が欠かせません。

納税者情報の保護と守秘義務

税務行政で取り扱う情報には、納税者の所得、財産、取引内容、経営状況など、機微性の高い情報が含まれます。

税務職員には、職務上知り得た秘密について守秘義務が課されています。

生成AIを活用する場合にも、納税者情報を適切に保護することが不可欠です。

特に、外部の生成AIサービスを利用する場合には、入力情報の保存や学習への利用、第三者への提供などに注意する必要があります。

行政機関では、利用するシステムの安全性、アクセス権限、情報の保存方法などを適切に管理することが求められます。

また、生成AIが出力した要約についても、誰が確認し、どのような判断に利用したのかを検証できる仕組みが重要です。

生成AIの利便性を高めることと、納税者情報を適切に保護することは、両立させなければなりません。

人間による判断が必要な理由

滞納整理では、単に税額や滞納期間だけで対応方針を決定できるわけではありません。

納税者の資金繰り、事業継続の可能性、生活状況、財産の保有状況など、多くの事情を考慮する必要があります。

例えば、一時的な売掛金の回収遅延によって納付が困難になっている事業者と、十分な資産がありながら意図的に納税を回避している者では、対応を区別する必要があります。

また、一定の要件を満たす場合には、納税の猶予や換価の猶予などの制度を検討することもあります。

一方、財産を隠蔽して滞納処分を免れようとする悪質な事案については、厳正な対応が求められます。

こうした判断には、法令の理解と個別事情の把握が欠かせません。

生成AIは情報整理を支援できますが、納税者の権利や義務に関わる判断については、職員が責任を持って対応する必要があります。

企業経理における生成AI活用への示唆

国税庁の取組は、企業経理における生成AI活用にも参考になります。

企業経理では、税務申告、納付管理、税務調査対応、会計処理の検討など、多くの記録を取り扱います。

例えば、過去の税務調査で指摘された事項や、会計処理の判断経緯などを整理する際に、生成AIによる要約が役立つ可能性があります。

また、担当者変更時の引継資料の作成や、社内規程の確認などにも活用が考えられます。

ただし、生成AIによる要約をそのまま正式な判断根拠とすることは適切ではありません。

原資料との照合、機密情報の保護、出力内容の確認などが必要です。

特に、税務判断に関わる事項については、法令や通達などの根拠を確認することが重要になります。

税理士業務における生成AIの可能性

税理士業務でも、生成AIによる情報整理や文書作成支援の活用が考えられます。

顧問先との相談履歴、過去の申告内容、税務調査対応の経緯などを整理することは、継続的な税務支援に役立ちます。

また、担当者変更時の引継ぎや、複雑な相談案件の論点整理にも活用できる可能性があります。

一方、税理士には守秘義務があり、顧問先の情報を適切に管理する必要があります。

生成AIを利用する場合には、利用するサービスの安全性や情報管理の仕組みを確認することが重要です。

また、生成AIが示した税務上の見解については、法令や公的資料に基づく検証が欠かせません。

生成AIは税理士の専門的判断を支援する道具であり、税理士自身の責任を代替するものではありません。

結論

国税庁は、生成AIによって滞納者ごとの整理事績を要約し、優先的に対応する事案の選定や担当者変更時の引継業務を効率化する取組を進めています。

大量の記録を短時間で整理できれば、税務職員は事案の把握に要する時間を削減し、専門的な判断を必要とする業務に集中しやすくなります。

一方で、生成AIには重要事項の省略や誤った内容の生成といった課題があります。

税務行政では、情報の正確性、個人情報の保護、判断過程の検証可能性を確保することが不可欠です。

また、納税者の事情を踏まえた対応や滞納処分の判断については、引き続き職員の専門的判断が求められます。

これからの税務行政では、生成AIによる情報整理の効率化と、人間による正確で公平な判断を組み合わせることが重要になります。

国税庁の取組は、企業経理や税理士業務においても、生成AIをどのように活用し、どの部分に人間の判断を残すべきかを考えるうえで重要な示唆を与えています。

参考

税のしるべ 2026年11月2日「令和8年国税庁の幹部に聞く/徴収部長・山下 和博」

国税庁「税務行政の将来像」

国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」

国税庁「令和7年度租税滞納状況」

個人情報保護委員会「行政機関等における個人情報の取扱いに関するガイドライン」

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