企業が毎年市区町村に提出する給与支払報告書の重要性が、これまで以上に高まっています。
2026年10月26日付の「税のしるべ」に掲載された高橋俊一国税庁課税部長へのインタビューでは、2027年1月以降、eLTAXを通じてオンライン提出される給与支払報告書の情報が、マイナポータル連携の対象となることが説明されました。
これにより、従業員が所得税の確定申告を行う際に、給与情報を自動入力できる機会が大幅に増加すると見込まれています。
給与支払報告書は、これまで主に個人住民税の課税資料として利用されてきました。
しかし、今回の仕組みの拡大によって、地方税のために提出された情報が、国税である所得税の確定申告にも活用されることになります。
企業にとっては、給与支払報告書の電子提出が、行政手続の効率化だけでなく、従業員の利便性向上にもつながることになります。
人事給与部門や経理部門では、給与データの正確性、電子提出の運用体制、従業員への周知などを改めて確認することが重要です。
給与支払報告書とは何か
給与支払報告書とは、企業などの給与支払者が、従業員に支払った給与の内容を市区町村に報告するための書類です。
地方税法に基づき、原則として前年中に給与を支払った従業員について、翌年1月1日現在の住所地の市区町村に提出します。
提出期限は原則として翌年1月31日です。
ただし、期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合には、翌開庁日が期限となります。
2026年中に支払った給与に関する給与支払報告書については、原則として2027年2月1日が提出期限となります。
給与支払報告書には、給与収入、給与所得控除後の金額、所得控除の額の合計額など、住民税の計算に必要な情報が記載されます。
市区町村は、提出された情報などを基に、翌年度の個人住民税を計算します。
給与支払報告書は、企業の給与事務と地方税の課税を結び付ける重要な書類です。
源泉徴収票と給与支払報告書の関係
給与支払報告書と似た書類に、給与所得の源泉徴収票があります。
源泉徴収票は、給与支払者が従業員に交付する書類であり、一定の要件に該当するものについては税務署への提出も必要です。
一方、給与支払報告書は、市区町村に提出する書類です。
両者には共通する情報が多く含まれていますが、提出先と利用目的が異なります。
源泉徴収票は所得税の申告や確認などに利用され、給与支払報告書は主に個人住民税の課税資料として利用されます。
企業の給与計算システムでは、同じ給与データを基に両方の書類を作成することが一般的です。
そのため、給与計算や年末調整の段階で誤りがあれば、両方の書類に影響する可能性があります。
給与支払報告書の電子提出が重要になるほど、基礎となる給与データの正確性も重要になります。
eLTAXによる電子提出の仕組み
eLTAXは、地方税に関する申告や届出、納税などをインターネットで行うためのシステムです。
企業は、eLTAXを利用することで、給与支払報告書を市区町村に電子提出できます。
複数の市区町村に従業員が居住している場合でも、電子的に提出手続を行えることが大きな特徴です。
従来の紙による提出では、市区町村ごとに書類を準備し、郵送するなどの事務が必要でした。
eLTAXを利用すれば、紙の印刷や封入、郵送などの作業を減らすことができます。
また、給与計算システムから電子提出用のデータを作成できる場合には、手作業による転記を減らすことも可能です。
ただし、電子提出を行う場合でも、提出先や従業員情報、給与金額などの確認は必要です。
電子化によって作業が効率化されても、提出内容の正確性を確保する責任がなくなるわけではありません。
給与支払報告書の電子提出義務
給与支払報告書については、一定の条件に該当する給与支払者に電子提出が義務付けられています。
現行の基本的な判定では、基準年に税務署へ提出すべき給与所得の源泉徴収票の枚数が100枚以上である場合、給与支払報告書についても電子提出が必要になります。
ここで重要なのは、単純な従業員数ではなく、税務署に提出すべき源泉徴収票の枚数によって判定することです。
また、判定には基準年の考え方があるため、提出する年の従業員数だけで判断することはできません。
さらに、電子提出義務の判定基準については、今後の制度変更にも注意が必要です。
企業では、対象となる提出年に適用される法令や地方税共同機構の案内を確認する必要があります。
電子提出義務の対象外であっても、任意でeLTAXを利用することは可能です。
事務負担の軽減や従業員の利便性向上を考えると、電子提出への移行を検討する意義があります。
給与情報のマイナポータル連携が拡大
2027年1月以降、eLTAXによってオンライン提出される給与支払報告書の情報が、マイナポータル連携の対象となります。
これにより、従業員が2026年分の所得税の確定申告を行う際に、給与情報を自動入力できる機会が広がります。
従来、給与情報のマイナポータル連携には、勤務先の提出方法などによる制約がありました。
今回の対象拡大は、地方税のために提出された給与情報を所得税の確定申告にも活用する点に特徴があります。
ただし、eLTAXで給与支払報告書を提出すれば、すべての従業員が必ず自動入力を利用できるというわけではありません。
本人のマイナポータル連携の設定や、提出された情報の処理状況など、利用条件を満たす必要があります。
また、自動入力された給与情報についても、従業員本人が内容を確認することが重要です。
企業としては、給与支払報告書の電子提出が従業員の確定申告の利便性にも関係することを理解しておく必要があります。
企業の給与計算システムに求められる対応
給与支払報告書の電子提出を円滑に行うためには、給与計算システムの対応状況を確認することが重要です。
企業では、給与計算、年末調整、源泉徴収票の作成、給与支払報告書の提出など、複数の業務が連続しています。
これらの業務で同じ情報を何度も入力している場合には、事務負担が大きくなります。
給与計算システムからeLTAX提出用のデータを作成できれば、入力作業を減らすことが期待されます。
ただし、システムが対応している場合でも、設定やデータの確認が必要です。
特に、従業員の氏名、住所、生年月日、個人番号などの情報は、正確に管理する必要があります。
また、退職者や年の途中で住所が変更された従業員についても、提出先や提出要否を適切に判断することが重要です。
給与計算システムの導入や更新を検討する際には、給与計算機能だけでなく、法定調書や給与支払報告書の電子提出への対応状況も確認することが望まれます。
年末調整から電子提出までの業務管理
給与支払報告書の正確性を確保するためには、年末調整から電子提出までの業務を一体として管理することが重要です。
年末調整では、従業員から提出された各種申告書や証明書を基に、所得税の精算を行います。
その結果は、源泉徴収票や給与支払報告書の作成にも反映されます。
そのため、年末調整の段階で誤りがあれば、後続の業務にも影響する可能性があります。
企業では、扶養親族の情報、各種所得控除、給与支払額、源泉徴収税額などを適切に確認する必要があります。
また、給与支払報告書の提出後に誤りが判明した場合には、訂正手続が必要になることがあります。
電子提出を行う場合でも、提出後の受付結果やエラーの有無を確認することが重要です。
単にデータを送信するだけでなく、適切に受け付けられたことを確認するまでを業務として管理する必要があります。
従業員への周知と確定申告支援
給与情報のマイナポータル連携が拡大することによって、企業には従業員への周知という役割も期待されます。
高橋課税部長は、事業者を通じた従業員への周知などに取り組む方針を示しています。
企業としては、給与情報の連携によって確定申告が便利になることを、従業員に案内することが考えられます。
また、マイナンバーカードや電子証明書の有効期限を確認する必要があることも、周知事項の一つです。
ただし、企業が従業員の確定申告を代行する必要があるわけではありません。
確定申告は、原則として納税者本人が行う手続です。
企業の役割は、正確な給与情報を作成・提出し、必要な情報を従業員に提供することです。
特に、医療費控除や寄附金控除などのために確定申告を行う従業員にとって、給与情報の自動入力は利便性向上につながります。
中小企業にとっての電子提出のメリット
中小企業では、経理担当者が給与計算や年末調整、税務申告などを兼務している場合があります。
そのため、給与支払報告書の作成や提出に多くの時間を費やすこともあります。
eLTAXによる電子提出を利用すれば、紙の印刷や郵送などの作業を減らすことができます。
また、給与計算システムと連携することで、データの転記作業を減らせる可能性があります。
ただし、電子提出への移行には、初期設定や担当者の操作習得など、一定の準備が必要です。
利用するシステムによっては、費用が発生する場合もあります。
そのため、自社の従業員数や給与事務の状況に応じて、適切な方法を選択することが重要です。
電子提出は、単に紙をなくすための取組ではありません。
給与事務全体の効率化と正確性の向上を実現するための手段として考えることが望まれます。
給与情報のデジタル化と個人情報保護
給与支払報告書には、従業員の給与収入や扶養親族など、重要な個人情報が含まれています。
また、個人番号を取り扱う場合には、番号法に基づく適切な管理が必要です。
電子提出を進める際には、情報セキュリティの確保も重要になります。
例えば、給与データへのアクセス権限を適切に設定し、必要な担当者だけが情報を取り扱えるようにすることが考えられます。
また、電子データの保存場所やバックアップ、送信時の確認手続なども重要です。
外部の給与計算サービスを利用している場合には、委託先の情報管理体制についても確認する必要があります。
デジタル化によって利便性が向上する一方、情報漏えいなどのリスクにも適切に対応することが求められます。
経理部門と人事給与部門の連携
給与支払報告書の電子提出を円滑に進めるためには、経理部門と人事給与部門の連携も重要です。
給与計算や年末調整を人事部門が担当し、税務申告や納付を経理部門が担当している企業もあります。
この場合、給与情報の管理や提出手続について、担当部門間で認識を共有する必要があります。
特に、給与支払報告書、源泉徴収票、法定調書などの作成では、共通するデータを利用することがあります。
そのため、部門ごとに異なる情報を管理している場合には、整合性の確認が重要です。
また、提出期限や訂正手続についても、責任者と担当者を明確にしておくことが望まれます。
給与事務のデジタル化を進める際には、システムの導入だけでなく、業務分担や確認手続を含めた見直しが必要です。
結論
給与支払報告書の電子提出は、企業の給与事務において、これまで以上に重要な役割を果たすようになります。
2027年1月以降、eLTAXを通じてオンライン提出される給与支払報告書の情報がマイナポータル連携の対象となることで、従業員の確定申告の利便性向上が期待されています。
これは、地方税のために提出された情報を、所得税の確定申告にも活用する取組です。
企業にとっては、給与支払報告書の正確な作成と電子提出の重要性が高まります。
また、給与計算システムの対応、年末調整から提出までの業務管理、従業員への周知、個人情報保護なども重要な課題になります。
特に中小企業では、電子提出を給与事務全体の効率化につなげることが望まれます。
ただし、電子化が進んでも、提出内容の正確性を確認する責任がなくなるわけではありません。
正確な給与データの管理と適切な提出手続を基本として、デジタル技術を活用することが重要です。
給与支払報告書の電子提出を、企業の人事給与・経理業務を見直す機会として捉えることが求められます。
参考
税のしるべ 2026年10月26日「令和8年国税庁の幹部に聞く/課税部長・高橋 俊一」
国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション―税務行政の将来像2023―」(2023年6月)
国税庁「マイナポータル連携特設ページ」
地方税共同機構「eLTAX(地方税ポータルシステム)」