猛暑で発電所が止まることがあるのはなぜか 気候変動と電力供給の意外な関係編

経営

猛暑になると、家庭や企業ではエアコンの使用が増え、電力需要が大きくなります。

そのため「暑い日は発電所をたくさん動かせばよい」と考えるかもしれません。

ところが、猛暑や渇水は電力需要を増やすだけではありません。

発電する側の能力まで低下させることがあります。

実際に海外では、猛暑や渇水などによって原子力発電所の運転や出力に影響が生じることがあります。

なぜ暑くなると発電所が十分に動かせなくなるのでしょうか。

その鍵になるのが「水」です。

発電所ではなぜ水が必要なのか

火力発電所や原子力発電所では、大量の熱を扱います。

発電の仕組みを単純化すると、熱を利用して蒸気をつくり、その蒸気でタービンを回して電気をつくります。

そして、タービンを通過した蒸気を再び水へ戻す必要があります。

その際に重要になるのが冷却です。

発電設備から熱を取り除くために、河川や海などの水を利用する発電所があります。

つまり、電力をつくる設備でありながら、水という自然資源にも支えられているのです。

猛暑で水温が上がると何が起きるのか

冷却に利用する水は、温度が低いほど熱を受け取る余地があります。

ところが猛暑が続けば、河川や海の水温も上昇することがあります。

もともとの水温が高ければ、発電設備を冷却する能力にも影響します。

さらに、発電所から冷却に利用した水を河川などへ戻す場合には、周辺環境への影響も考えなければなりません。

すでに河川の水温が高い状態で、さらに温度の高い水を排出すれば、水生生物などへ影響を与える可能性があります。

そのため一定の条件では、発電所の出力を抑えたり、運転に制約が生じたりすることがあります。

渇水も発電に影響する

問題になるのは水温だけではありません。

干ばつによって河川の水量そのものが減ることもあります。

発電所が冷却などに河川の水を利用している場合、十分な水を確保できなくなれば運転に影響する可能性があります。

つまり発電所にとっては、水が「あるかどうか」と「何度なのか」の両方が重要です。

猛暑と渇水が同時に発生すれば、水量が減り、水温も上昇するという状況が起こり得ます。

電力を大量に必要とする時期に、供給側にも制約が生じる可能性があるのです。

猛暑は需要と供給の両方に影響する

猛暑による電力問題の難しさは、需要と供給の両方へ同時に影響することです。

気温が上昇すれば、家庭やオフィス、商業施設、工場などで冷房需要が増えます。

つまり電力需要は増加します。

一方で、水温上昇や渇水などによって発電設備の能力が制限されれば、供給側には逆方向の圧力がかかります。

電気をたくさん使いたいときに、発電する側の余裕が小さくなる可能性があるわけです。

これは企業にとっても重要な気候リスクです。

電力が止まれば企業活動も止まる

現代の企業活動は電力なしではほとんど成り立ちません。

製造業では生産設備を動かせません。

物流センターでは自動倉庫や搬送設備が使えなくなる可能性があります。

小売業では冷蔵設備や決済システムなどにも影響します。

オフィスでもパソコン、通信機器、サーバーなどが必要です。

さらに、工場の設備によっては突然電力が止まることで、生産途中の商品が使えなくなったり、設備の再稼働に時間がかかったりする場合があります。

電力供給の安定性は企業活動の土台なのです。

電力会社に任せるだけでは十分なのか

企業は通常、必要な電気を電力会社などから購入します。

そのため、電力の安定供給は電力会社の問題だと思われがちです。

しかし、電力供給が停止した場合に実際に事業停止の損失を負うのは企業自身です。

そこで企業側でも「電気が来なくなった場合」を考える必要があります。

非常用発電機を設置する。

蓄電池を利用する。

自社施設で再生可能エネルギーを発電する。

複数のエネルギー源を組み合わせる。

こうした対策によって、外部からの電力供給だけに依存するリスクを一定程度抑えることができます。

非常用電源は何時間必要なのか

非常用電源を設置しているだけで安心とは限りません。

重要なのは「どれくらいの時間、何を動かせるのか」です。

例えば、非常用発電機があっても燃料が数時間分しかなければ、長期間の停電には対応できません。

蓄電池にも容量があります。

すべての設備を通常通り動かそうとすれば、短時間で電力を使い切ってしまう可能性があります。

そこで、停電時にどの設備を優先して動かすのかを決めておく必要があります。

人命に関係する設備。

情報システム。

重要な生産設備。

冷蔵や温度管理が必要な設備。

電力にも事業継続の優先順位が必要なのです。

再生可能エネルギーにも安全保障の視点がある

再生可能エネルギーは、二酸化炭素の排出を減らすためのものとして語られることが多くあります。

しかし、気候安全保障の視点では別の意味もあります。

企業が太陽光発電などを利用して自社で電力をつくり、蓄電池などと組み合わせれば、外部からの電力供給への依存度を一定程度下げられる可能性があります。

もちろん、太陽光や風力も天候によって発電量が変わります。

1つの電源ですべてを解決することはできません。

重要なのは、複数の電源や蓄電手段を組み合わせ、1つの供給源が使えなくなっても重要業務を続けられる仕組みをつくることです。

気候変動とエネルギーを一体で考える

気候変動対策とエネルギー政策は、これまで主に二酸化炭素排出量の削減という観点から議論されてきました。

しかし、気候変動そのものがエネルギー供給へ影響するようになれば、もう1つの視点が必要になります。

どのエネルギーが環境負荷を減らせるのかだけではありません。

異常気象が発生したときにも、必要な電力を確保できるのか。

企業にとってエネルギー戦略は、脱炭素と事業継続の両方から考える課題になっているのです。

結論

猛暑になると電力需要が増えますが、その一方で発電する側にも影響が生じることがあります。

火力発電所や原子力発電所などでは冷却に水が重要な役割を果たしており、猛暑による水温上昇や干ばつによる水量減少が運転の制約につながる場合があります。

つまり気候変動は、電力を「たくさん必要にする」だけではなく「つくりにくくする」可能性もあるのです。

企業にとって、安定した電力供給は事業継続の大前提です。

そのため外部からの電力供給だけを前提とせず、非常用発電、蓄電池、自家発電などを含めて、電力が止まった場合の対応を考える必要があります。

気候安全保障の時代には「電気はいつでも来る」という前提そのものを点検する必要があります。

企業のエネルギー戦略は、電気を安く買うことだけではなく、何か起きても重要な事業を動かし続けられる仕組みをつくることへと広がっているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月25日 朝刊 「気候安全保障」時代の企業経営

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