株式会社を設立するときには、資本金や商号、本店所在地などを決めるだけでなく、会社の意思決定や経営監督を誰が担うのかを決める必要があります。
これを会社法では「機関設計」と呼びます。
株式会社には、株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人など、さまざまな機関があります。
しかし、すべての株式会社が、これらの機関を設置しなければならないわけではありません。
会社の規模や株式の譲渡制限の有無などによって、設置が義務付けられる機関と、任意に設置できる機関が異なります。
特に、中小企業では、必要以上に複雑な機関設計を採用すると、役員の選任、会議の開催、監査などの事務負担が増加します。
一方、事業規模が拡大したにもかかわらず、経営を監督する仕組みが不十分であれば、不正や経営判断の誤りを防ぐことが難しくなります。
会社の成長段階に応じた機関設計を理解することは、健全な企業経営の基本です。
株式会社の機関とは何か
会社は法人であり、法律上、権利義務の主体となることができます。
しかし、法人そのものが人間のように考え、判断し、行動することはできません。
そこで、会社の意思決定や業務執行を担う人や組織が必要になります。
これが会社の機関です。
会社法上、すべての株式会社には株主総会と取締役が必要です。
株主総会は、会社の所有者である株主が意思決定を行う場です。
取締役は、会社の経営に関する職務を担います。
ただし、取締役会を設置している会社では、個々の取締役と取締役会の役割が区別されます。
取締役会が業務執行の決定や取締役の職務執行の監督を行い、代表取締役などが業務を執行する仕組みになります。
会社の機関設計を考える際には、意思決定、業務執行、監督、監査という機能を整理することが重要です。
公開会社と非公開会社の違い
株式会社の機関設計を理解するためには、まず公開会社と非公開会社の違いを知る必要があります。
会社法上の公開会社とは、発行する全部または一部の株式について、譲渡による取得に会社の承認を必要としない株式会社です。
つまり、譲渡制限のない株式を1株でも発行できる会社は、会社法上の公開会社に該当します。
ここで注意したいのは、公開会社と上場会社は同じ意味ではないことです。
証券取引所に上場していない会社でも、株式の譲渡制限の内容によっては公開会社に該当します。
反対に、すべての株式について譲渡による取得に会社の承認が必要な会社は、公開会社ではありません。
一般に、このような会社を非公開会社と呼びます。
中小企業や同族会社では、株式の譲渡制限を設けていることが多くあります。
これは、経営者の知らない第三者が株主になることを防ぎ、安定した経営を維持するためです。
会社法では、公開会社には取締役会の設置が義務付けられています。
一方、非公開会社では、一定の例外を除き、取締役会を設置しないことも認められています。
この違いが、機関設計の自由度に大きく影響します。
大会社と中小会社の違い
会社法では、会社の規模によっても機関設計が異なります。
会社法上の大会社とは、次のいずれかに該当する株式会社です。
- 資本金の額が5億円以上
- 負債の総額が200億円以上
いずれか一方を満たせば、大会社に該当します。
例えば、資本金が1億円であっても、負債総額が250億円であれば大会社です。
一方、資本金が4億円、負債総額が100億円であれば、会社法上の大会社には該当しません。
この区分は、税法上の中小法人や中小企業者の判定とは異なります。
税務上の中小企業に関する特例を適用できるかどうかと、会社法上の大会社に該当するかどうかは、別々に判断する必要があります。
大会社には、会計監査人の設置が義務付けられています。
また、公開会社である大会社では、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかの機関設計を採用する必要があります。
企業規模が大きくなるほど、経営の透明性や監督機能が重視される仕組みです。
株主総会の役割
株主総会は、株式会社に必ず設置される機関です。
ただし、株主総会が決定できる事項は、取締役会の有無によって異なります。
取締役会を設置している会社では、株主総会は会社法に規定された事項と、定款で定めた事項について決議します。
例えば、取締役の選任、定款変更、一定の組織再編などが該当します。
一方、取締役会を設置していない会社では、株主総会は会社法に規定された事項だけでなく、会社の組織、運営、管理その他会社に関する一切の事項について決議できます。
つまり、取締役会を設置しない会社では、株主総会の権限が広くなります。
株主が少数で、経営者自身が大部分の株式を保有している中小企業では、この仕組みが合理的な場合があります。
ただし、株主総会の権限が広いことと、取締役の責任が軽くなることは別の問題です。
取締役には、会社に対する善管注意義務や忠実義務などが課されています。
取締役会の3つの役割
取締役会を設置している会社では、取締役会が経営上の重要な役割を担います。
会社法第362条では、取締役会の基本的な職務として、次の3つを定めています。
第一に、会社の業務執行の決定です。
重要な財産の処分や譲受け、多額の借財など、会社経営に重大な影響を与える事項について意思決定します。
第二に、取締役の職務執行の監督です。
取締役会は、経営判断を行うだけでなく、業務執行が適切に行われているかを監督する役割を持っています。
第三に、代表取締役の選定と解職です。
取締役会設置会社では、取締役会が代表取締役を選定し、必要に応じて解職します。
取締役会は、迅速な意思決定と経営者に対する相互牽制を両立させるための仕組みです。
ただし、取締役会を設置しただけで、経営監督が十分に機能するわけではありません。
議案の内容を検討し、必要な情報を収集し、議論した結果を適切に記録することが重要です。
監査役の役割
監査役は、取締役の職務執行を監査する機関です。
会社経営では、経営者が会社の利益よりも自己の利益を優先したり、法令に違反する行為を行ったりするリスクがあります。
監査役には、こうした問題を発見し、会社や株主の利益を守る役割があります。
監査役の監査は、一般に業務監査と会計監査に分けて考えられます。
業務監査では、取締役の職務執行が法令や定款に適合しているかなどを確認します。
会計監査では、計算書類などが適正に作成されているかを確認します。
ただし、一定の非公開会社では、定款によって監査役の監査範囲を会計に関する事項に限定することが認められています。
この場合、監査役の権限や職務の範囲は、通常の監査役とは異なります。
中小企業では、監査役を設置していても、実際には十分な監査活動が行われていないケースが考えられます。
監査役という役職を置くことだけでなく、監査に必要な情報が提供され、実効性のある監査が行われることが重要です。
監査役会と社外監査役
監査役会は、複数の監査役によって構成される機関です。
監査役は、それぞれ独立して監査権限を行使することが基本ですが、監査役会では監査方針の決定や情報交換などを行います。
監査役会設置会社では、監査役は3人以上必要であり、その半数以上は社外監査役でなければなりません。
社外監査役を一定数確保するのは、経営陣からの独立性を高めるためです。
企業規模が大きくなるほど、経営者の判断を客観的に監督する仕組みが重要になります。
一方、小規模な非公開会社では、監査役会を設置せず、必要に応じて監査役を置く仕組みも選択できます。
会計参与と会計監査人の違い
会社法には、会計参与と会計監査人という機関もあります。
名称が似ていますが、役割は異なります。
会計参与は、取締役などと共同して計算書類やその附属明細書などを作成する機関です。
会計参与になれるのは、税理士、税理士法人、公認会計士、監査法人です。
会計参与は、専門家が計算書類の作成に関与することで、会計情報の信頼性を高める仕組みです。
一方、会計監査人は、会社が作成した計算書類などを監査し、会計監査報告を作成します。
会計監査人になれるのは、公認会計士または監査法人です。
つまり、会計参与は計算書類の作成に関与し、会計監査人は計算書類を監査するという違いがあります。
特に、税理士が会計参与に就任する場合には、通常の税務顧問とは異なる会社法上の地位と責任を負うことになります。
税務申告書の作成や税務相談を行うことと、会計参与として計算書類を共同作成することは、法律上区別して考える必要があります。
監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社
株式会社には、監査役を中心とした監査体制以外にも、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社という仕組みがあります。
監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役が監査を担います。
監査等委員会は3人以上の取締役で構成され、その過半数は社外取締役である必要があります。
一定の条件を満たす場合には、重要な業務執行の決定の一部を取締役に委任できる仕組みもあります。
一方、指名委員会等設置会社では、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会を設置します。
各委員会は3人以上の取締役で構成され、その過半数を社外取締役とする必要があります。
経営の監督と業務執行を分離し、透明性を高めることを重視した仕組みです。
これらの機関設計は、特に大規模企業のガバナンスを考えるうえで重要です。
中小企業に適した機関設計
中小企業では、会社の規模や株主構成に応じて、必要な機関を選択することが重要です。
例えば、株式のすべてに譲渡制限を設けた非公開会社で、大会社に該当しない場合には、取締役1人だけを置く機関設計も可能です。
この場合、取締役会や監査役を必ず設置する必要はありません。
経営者が1人で会社を運営する場合には、意思決定が迅速で、組織運営の負担も比較的小さくなります。
一方、複数の株主が存在する会社や、経営者以外の役員が業務執行を担う会社では、取締役会や監査役の設置を検討する意義があります。
ただし、機関を増やすほど経営が健全になるとは限りません。
重要なのは、会社の実態に合った意思決定と監督の仕組みを整えることです。
また、事業承継を予定している会社では、現在の経営者が退任した後も適切に経営できる機関設計を考える必要があります。
創業時には取締役1人で十分でも、会社の成長や世代交代に応じて機関設計を見直すことが望まれます。
結論
株式会社の機関設計は、会社の意思決定、業務執行、監督、監査の役割をどのように分担するかを定める重要な仕組みです。
すべての株式会社には株主総会と取締役が必要ですが、取締役会、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人などの設置については、会社の種類や規模によって取扱いが異なります。
特に重要なのは、公開会社と非公開会社、大会社とそれ以外の会社を区別することです。
中小企業では、簡素な機関設計によって迅速な意思決定を実現できる一方、会社の成長に応じて監督機能を強化する必要があります。
また、税理士が関与する会計参与と、公認会計士などが担う会計監査人では、会社法上の役割が異なります。
機関設計は、会社設立時に一度決めれば終わりというものではありません。
事業規模、株主構成、経営者の交代、事業承継などに応じて、継続的に見直すことが重要です。
会社法の仕組みを正しく理解し、会社の実態に適した機関設計を採用することが、健全で持続可能な企業経営につながります。
参考
明治大学会計専門職研究科 弥永真生「商法・会社法」サブテキスト(4~17ページ)
会社法第2条、第295条、第326条~第328条、第331条、第335条、第362条、第381条、第390条、第396条、第399条の2、第400条、第404条、第436条