有価証券の評価損はどこまで損金になるのか

税理士
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企業が保有する株式や債券の価格が大幅に下落した場合、決算で評価損を計上することがあります。しかし、企業会計上の評価損が、そのまま法人税の計算でも損金として認められるとは限りません。

特に注意したいのは、有価証券の保有目的によって税務上の取扱いが異なることです。

売買目的で保有する株式と、取引先との関係維持を目的として長期間保有する株式では、評価方法も評価損の損金算入要件も違います。

今回は、有価証券の評価に関する法人税の基本的な考え方と、決算実務で注意すべきポイントを整理します。

有価証券の保有目的によって税務処理が変わる

法人税では、有価証券を大きく売買目的有価証券と売買目的外有価証券に区分します。

売買目的有価証券とは、短期的な価格変動による利益を得る目的で取得した有価証券です。

一方、売買目的外有価証券には、取引関係の維持や事業上の必要性などから保有する株式が含まれます。

この区分によって、期末の評価方法が異なります。

売買目的有価証券については、原則として事業年度末の時価によって評価します。

したがって、取得時より時価が下落していれば評価損が発生し、反対に時価が上昇していれば評価益が発生します。

これらの評価損益は、法人税の所得計算にも反映されます。

一方、売買目的外有価証券は、原則として取得原価を基礎として評価します。

市場価格が下落したという理由だけで、税務上の評価損を自由に計上できるわけではありません。

ここが、有価証券の税務を理解する最初の重要なポイントです。

売買目的有価証券は時価評価が原則

具体例で考えてみましょう。

ある会社が短期売買目的で上場株式を1,000万円で取得したとします。

事業年度末の時価が700万円になっていた場合、評価損は300万円です。

売買目的有価証券として適切に区分されているのであれば、期末時価による評価損300万円は、原則として法人税の所得計算に反映されます。

反対に、事業年度末の時価が1,200万円に上昇していた場合には、200万円の評価益が生じます。

この評価益も、原則として益金に算入されます。

つまり、売買目的有価証券では、実際に売却していなくても、期末時点の価格変動が課税所得に影響します。

ただし、売買目的有価証券に該当するかどうかは、会社が単に売買目的と説明すればよいものではありません。

取得目的、取引の実態、社内の管理方法などを踏まえて判断する必要があります。

長期保有していた株式について、価格が下落した年度だけ売買目的有価証券として取り扱うような処理は、適切ではありません。

売買目的外有価証券は原価法が基本

次に、取引先との関係維持を目的として保有する上場株式を考えます。

取得価額は1,000万円です。

その後、株価が下落し、事業年度末の時価が700万円になりました。

この場合、売買目的有価証券と同じように300万円を税務上の評価損として計上できるでしょうか。

原則として、それだけでは認められません。

売買目的外有価証券は、取得原価を基礎として評価するためです。

ただし、法人税法では、一定の事実が生じた場合に限り、評価損の損金算入を認めています。

その代表例が、有価証券の価額が著しく低下した場合です。

重要なのは、単なる価格下落と、税務上の評価損を認めるほどの著しい価額の低下を区別することです。

上場株式の評価損と50%基準

国税庁が公表した上場有価証券の評価損に関するQ&Aでは、評価損の損金算入について重要な判断基準が示されています。

上場有価証券等について、事業年度末の価額が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合には、著しい価額の低下に該当するとされています。

例えば、税務上の帳簿価額が1,000万円の上場株式について考えます。

事業年度末の時価が700万円であれば、下落率は30%です。

通常、この下落だけでは50%基準を満たしません。

一方、時価が400万円まで下落していれば、下落率は60%となります。

この場合には、著しい価額の低下という要件を検討することになります。

ただし、60%下落したからといって、自動的に600万円の評価損が損金になるわけではありません。

近い将来に株価が回復する見込みがないことについて、合理的な判断が必要です。

また、税務上の損金算入には、原則として評価損を損金経理することも求められます。

したがって、株価の下落率だけを確認して損金算入を判断することは危険です。

企業会計と法人税では評価損の目的が異なる

企業会計では、財務諸表に企業の財政状態を適切に反映させることが重要です。

市場価格が大幅に下落した有価証券について、取得原価のまま表示し続けると、資産価値を過大に表示するおそれがあります。

そのため、一定の要件に該当する場合には減損処理が必要になります。

一方、法人税では、評価損の損金算入について制限が設けられています。

資産を売却していない段階で、会社が自由に評価損を計上できると、課税所得を恣意的に減少させることが可能になるためです。

この目的の違いから、企業会計上は評価損を計上していても、税務上は損金算入が認められない場合があります。

例えば、企業会計上600万円の減損損失を計上したものの、税務上の要件を満たしていない場合です。

このときは、法人税申告書の別表四で600万円を所得金額に加算する必要があります。

これを評価損の損金不算入に伴う申告調整といいます。

評価損が否認された場合の翌期以降の取扱い

ここで注意したいのは、税務上いったん損金算入が認められなかった評価損についても、その後の事業年度に損金算入が認められる場合があることです。

例えば、取得価額1,000万円の上場株式について、前期に600万円の会計上の減損処理を行ったとします。

会計上の帳簿価額は400万円になります。

しかし、前期には税務上の要件を満たしていなかったため、600万円を申告加算しました。

その後、当期末において株価の回復可能性を合理的に検討した結果、税務上の評価損の要件を満たすことになったとします。

この場合、過去に損金算入を否認された評価損について、当期に申告調整によって損金算入できる場合があります。

ただし、損金算入できる金額には、税務上の帳簿価額と期末時価との差額による制限があります。

また、過去または当期に会計上の損金経理が行われている金額の範囲内であることにも注意が必要です。

評価損の税務処理は、単年度だけで完結するとは限りません。

過年度の申告調整と税務上の帳簿価額を継続して管理する必要があります。

税務調査では何を確認されるのか

有価証券の評価損について税務調査で問題になりやすいのは、評価損を計上した理由と判断の合理性です。

具体的には、取得目的に応じた有価証券の区分が適切であるか、期末時価の算定が適切であるか、株価の回復可能性を合理的に判断しているか、といった点が重要になります。

特に、評価損を計上した年度の業績が悪化している場合には、課税所得を減少させるために評価損を計上したのではないかという観点から検証される可能性があります。

そのため、評価損を計上する際には、判断の根拠を文書として残すことが重要です。

例えば、期末時点の株価資料、過去の株価推移、発行会社の財務情報、業績見通し、取締役会などでの検討記録が考えられます。

必要に応じて、証券アナリストなど専門家による分析資料を利用することも有効です。

重要なのは、決算時点でどのような情報に基づいて判断したのかを、後から説明できる状態にしておくことです。

結論

有価証券の評価損は、企業会計上の処理と法人税上の取扱いを区別して考える必要があります。

売買目的有価証券では、原則として期末時価による評価損益が税務上の所得計算に反映されます。

一方、売買目的外有価証券では、原則として取得原価を基礎として評価し、一定の要件を満たす場合に限り評価損の損金算入が認められます。

特に上場株式については、帳簿価額のおおむね50%相当額を下回るという基準だけでなく、近い将来の回復可能性について合理的な判断が必要です。

さらに、会計上の減損処理と税務上の損金算入時期が異なる場合には、法人税申告書で適切な調整を行わなければなりません。

企業の決算実務で重要なのは、評価損を計上すること自体ではなく、その評価損が税務上どのように取り扱われるのかを事前に確認することです。

有価証券の評価損は、会計処理、税務判断、証拠資料の整備を一体として考えることが求められる分野といえるでしょう。

参考

日本税理士会連合会 講義資料① 損金の計算・実務 太田達也

国税庁 2009年4月 上場有価証券の評価損に関するQ&A

法人税法第25条、第33条

法人税法施行令第68条

法人税基本通達9-1-7

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