企業が取引先の倒産などによって売掛金や貸付金を回収できなくなることは珍しくありません。しかし、「回収できない」と企業が判断しただけで、税務上の貸倒損失が認められるわけではありません。
実際には、貸倒損失をめぐって税務当局と納税者の判断が分かれ、裁判に発展した事例も数多くあります。
これらの裁判例を見ていくと、税務上は何を重視して判断しているのかがよく分かります。
今回は、貸倒損失に関する裁判例から読み取れる重要なポイントを解説します。
裁判で争われる理由とは何か
貸倒損失が争われる最大の理由は、「本当に回収不能だったのか」という点です。
企業は経営判断として「もう回収は無理だ」と考えて貸倒処理を行います。
一方、税務当局は、
「まだ回収できる可能性が残っていたのではないか」
という視点から検討します。
つまり、経営判断と税務判断は必ずしも一致しないのです。
裁判所は客観的な事実を重視する
裁判例を見ると、裁判所は企業の主観ではなく、客観的な事実を重視しています。
例えば、
・破産手続が開始されたか
・財産調査の結果はどうだったか
・配当は終了しているか
・事業は継続しているか
・債務者に資産が残っているか
などが総合的に検討されます。
「回収は難しいと思った」という説明だけでは、貸倒損失は認められないことが少なくありません。
回収努力も重要な判断材料になる
裁判では、債権者が回収のためにどのような行動を取ったかも確認されます。
例えば、
・督促を行ったか
・返済交渉を続けたか
・担保の実行を検討したか
・保証人へ請求したか
などです。
何も行動せずに貸倒処理をすると、「まだ回収の可能性があった」と判断されることがあります。
回収努力の記録は、税務上も重要な証拠になります。
貸倒れの時期も裁判で争点になる
貸倒損失では、「認められるか」だけでなく、「いつ計上するか」も重要です。
例えば、同じ債権でも、
ある年度では貸倒れが認められず、
翌年度には認められる、
というケースもあります。
裁判では、その年度末時点で回収不能だったかどうかが判断されます。
つまり、貸倒処理のタイミングも税務では重要な論点なのです。
形式だけでは判断されない
破産や会社清算が始まったからといって、自動的に貸倒損失になるわけではありません。
逆に、正式な倒産手続がなくても、
・財産がまったく存在しない
・事業実態が消滅している
・長期間所在不明である
など、実質的に回収不能と認められる場合もあります。
裁判例では、形式だけではなく、実態を踏まえて判断する姿勢が見られます。
証拠資料の有無が結果を左右する
貸倒損失を巡る裁判では、企業がどのような資料を保管していたかが大きな意味を持ちます。
例えば、
・取引記録
・督促状
・内容証明郵便
・破産手続に関する書類
・財産調査の資料
などは、回収不能を裏付ける重要な証拠になります。
適切な資料が残されていれば、企業側の主張を裏付けやすくなります。
税務調査を意識した対応が重要になる
裁判まで発展するケースは多くありませんが、税務調査では貸倒損失が重点的に確認されることがあります。
そのため、
「なぜ貸倒処理を行ったのか」
「その時点でどのような事実があったのか」
を説明できるようにしておくことが大切です。
日頃から資料を整理し、経過を記録しておくことが、税務リスクを減らすことにつながります。
裁判例は実務の教科書でもある
裁判例は過去の紛争をまとめたものですが、実務担当者にとっては貴重な学習材料でもあります。
税法の条文だけでは分かりにくい判断基準も、裁判例を通じて具体的に理解できます。
「どのような場合に認められ、どのような場合に否認されるのか」を知ることで、実務上の判断力を高めることができます。
貸倒損失は金額が大きくなることも多いため、裁判例から学ぶ意義は決して小さくありません。
結論
貸倒損失をめぐる裁判例を見ると、税務上は「回収不能であること」と「その時期」を客観的な事実に基づいて判断していることが分かります。
企業の主観だけではなく、回収努力の状況や倒産手続の進行、保有資産の有無など、多くの事情が総合的に検討されます。また、その判断を裏付ける資料の保存も重要な要素です。
裁判例は過去の事例ではありますが、現在の実務にも多くの示唆を与えてくれます。貸倒損失を適切に処理するためには、判例の考え方を理解し、客観的な証拠に基づいて判断する姿勢が欠かせません。
参考
税のしるべ
2026年7月20日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」税理士・東辻 淳次
第3回/通達で貸倒損失の計上可否が明らかに