非上場株の相続税評価はどう変わるのか 六十年ぶりの新ルール案で中小企業の税負担が軽くなる理由編

税理士
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非上場会社のオーナーにとって、相続の際に大きな問題となるのが自社株の評価です。

上場株であれば市場で株価がついているため、その価格を基準に相続税評価額を計算できます。しかし、中小企業や同族会社などの非上場株には市場価格がありません。そのため、会社の利益や純資産、似た業種の上場企業の株価などを使って、税務上の株価を計算する仕組みが設けられています。

この非上場株の評価方法について、国税庁が抜本的な見直しに動いています。

報道によれば、新しい評価方法では、現在使われている類似業種比準方式などを見直し、会社の簿価純資産と今後の収益力を基礎として評価する方式に一本化する案が検討されています。

実現すれば、現在の基本的な評価体系がつくられた一九六四年以来の大きな改革となります。

では、非上場株の評価はどのように変わるのでしょうか。

現在の非上場株評価には三つの方法がある

現在の非上場株の評価では、会社の規模などに応じて主に三つの方法が使われています。

一つ目が類似業種比準方式です。

これは、評価対象会社と似た業種の上場企業の株価を参考にして非上場株の価値を計算する方法です。会社の配当、利益、純資産などを上場企業と比較して株価を算定します。

一般に規模の大きい会社では、この類似業種比準方式の割合が高くなります。

二つ目が純資産価額方式です。

会社が持っている資産と負債を相続税評価額などに置き換え、その差額である純資産を基礎として株価を計算します。

土地や有価証券など多くの資産を持っている会社では、純資産価額が高くなり、自社株評価額も高くなる場合があります。

三つ目が、類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせる方法です。

会社の規模などによって両者を一定割合で併用します。

このように現在の制度では、同じ非上場会社であっても会社規模などによって評価方法が異なります。

新ルール案では簿価純資産と収益力が中心になる

今回示される新ルール案の大きな特徴は、評価方法を大幅に簡素化する方向にあることです。

報道されている案では、会社の直前期末の簿価純資産に、今後五年間で見込まれる収益力を考慮して評価額を計算します。

さらに、過大な評価となることを避けるため、算定された金額に一定の係数を掛ける仕組みが検討されています。

つまり、考え方を単純化すると、

会社が現在どれだけの純資産を持っているのか

会社がこれからどれだけ利益を生み出せるのか

という二つの要素から企業価値を評価する仕組みに近づくことになります。

今後五年間の利益については、過去五年間の平均利益などを基礎として算定することが想定されています。

重要なのは、利益がマイナスの場合も計算に反映される点です。

収益力の低い会社や赤字会社については、単純に資産を持っているというだけで高い株価が算定されることを避けられる可能性があります。

類似業種比準方式は廃止される方向

今回の改革で特に大きな意味を持つのが、類似業種比準方式を廃止する方向が示されていることです。

現在は、似た業種の上場会社の株価や利益などを利用して非上場会社の株価を計算しています。

しかし、上場企業と中小企業では事業規模や資金調達力、株式の換金性などが大きく異なります。

そもそも市場で自由に売買できる上場株と、簡単には売却できない同族会社の株式を比較することには限界があります。

さらに、現在の制度では会社規模や利益、配当などを調整することで評価額が大きく変わるケースもあります。

制度上認められた複数の評価方法を組み合わせることなどによって、自社株評価額を大幅に圧縮する事例も問題となってきました。

そこで、他社の株価と比較する方式から、自社そのものの純資産と収益力を評価する方式へ転換しようとしているわけです。

高収益の大規模企業では評価額が上がる可能性がある

新ルールによって大きな影響を受ける可能性があるのが、規模が大きく収益力の高い非上場会社です。

日本経済新聞の試算では、従業員約九十人、売上高五十億円超、利益三億円超の製造販売会社の場合、株式評価額が現行方式より二六パーセント増加し、二十一億六千万円となりました。

相続税額も十億九千万円となり、現行方式より二億円以上増えたとされています。

もちろん、これは一定の仮定に基づく試算です。

特に新制度で使用される係数はまだ決まっておらず、試算では〇・七という仮定が置かれています。

したがって、実際の制度導入後に同じ結果になるとは限りません。

それでも、収益力の高い大規模な非上場会社については、現在より評価額が高くなる可能性があることを示しています。

純資産の大きな会社にも注意が必要になる

新制度では、利益だけを見ればよいわけではありません。

会社が保有している純資産も重要になります。

日本経済新聞の試算では、売上高十七億円の工事会社について、現行方式では九千六百万円だった評価額が、新方式では三億円まで上昇しました。

相続税額も千百万円から九千三百万円へ大幅に増えています。

この会社では利益は三千万円程度でしたが、約五億円の純資産を保有していたことが評価額を押し上げたとされています。

この点は、長年経営を続けてきた会社にとって重要です。

利益を社内に蓄積してきた会社では、現預金や不動産などの資産が積み上がり、簿価純資産が大きくなっている場合があります。

新制度では、こうした会社の蓄積された資産が株価により直接的に反映される可能性があります。

中小零細企業では評価額が下がる可能性がある

一方、新制度によってすべての会社の相続税が増えるわけではありません。

むしろ規模が小さく、収益力もそれほど高くない中小・零細企業では、評価額が下がる可能性があります。

日本経済新聞の試算では、従業員七人、売上高一億円の塗装業の場合、株式評価額は約一割低下し、相続税額も四百六十万円から三百三十万円に減少しました。

さらに、売上高四千万円、従業員一人の事務代行業では、評価額が千八百万円から七百八十万円まで低下しました。

相続税額はもともとゼロで、新方式でもゼロだったとされています。

つまり、新制度は単純な増税策ではありません。

高収益で資産を多く持つ会社については評価額が上がる一方、規模が小さく収益力の低い会社では評価額が下がる可能性があります。

会社の実態に応じて評価額の差がより明確になる仕組みとも考えられます。

なぜ六十年以上続いた制度を変えるのか

現在の非上場株評価の基本的な仕組みは、一九六四年に公表された財産評価基本通達を基礎としています。

しかし、その後の日本経済や企業経営は大きく変化しました。

非上場企業の規模も業種も多様化しています。

さらに、現在の評価制度を利用して相続税評価額を大幅に引き下げる事例も問題となってきました。

会計検査院は二〇二四年、非上場株評価について、評価の公平性が必ずしも確保されているとは言えないと指摘しました。

国税庁は二〇二六年四月から有識者会議で評価方法の見直しを検討しています。

今回の改革には、企業の実態をより適切に評価するとともに、制度を利用した過度な節税を防ぐ狙いがあります。

総則六項を巡る争いにも影響する可能性がある

現在の財産評価基本通達には、通達に定められた通常の評価方法を使うことが著しく不適当と認められる場合に、国税当局が別の方法で評価できる規定があります。

いわゆる総則六項です。

通常の評価ルールに従って計算していても、著しく低い評価額となった場合などに国税当局が適用することがあり、伝家の宝刀とも呼ばれています。

非上場株についても総則六項が適用され、納税者と国税当局の間で争いになることがあります。

評価方法そのものを会社の純資産と収益力に基づく仕組みに変更すれば、現在より会社の経済的実態を直接反映しやすくなる可能性があります。

その結果、通常の評価額と実際の企業価値との大きな乖離を理由として総則六項を適用する場面にも影響する可能性があります。

もっとも、新制度になれば総則六項の問題がなくなるということではありません。

どのような場合に通常の評価方法から離れて評価するのかという問題は、引き続き重要になるでしょう。

事業承継では自社株対策の考え方が変わる

今回の改革が実現すれば、事業承継対策にも大きな影響があります。

これまでは、類似業種比準方式と純資産価額方式の特徴を理解し、自社株評価額がどのように決まるのかを把握することが重要でした。

しかし、新制度では、

簿価純資産がいくらあるのか

過去の利益がどの程度なのか

今後の収益力がどのように評価されるのか

という点がより重要になります。

特に高収益企業や多額の純資産を蓄積している会社では、制度変更によって自社株評価額が大きく上昇する可能性があります。

一方、収益力の低い小規模企業では、評価額が下がり、事業承継時の税負担が軽くなる可能性があります。

会社の規模だけで評価方法を分ける現在の制度から、会社自身の資産と収益力をより直接的に評価する制度へ移行することになれば、非上場株の相続対策そのものを見直す必要が出てきます。

二〇二八年一月からの適用が目指されている

報道によれば、国税庁は新ルール案を二〇二七年度の税制改正大綱に反映し、二〇二八年一月以降の相続から適用することを目指しています。

ただし、現時点では最終決定された制度ではありません。

特に重要なのが、評価額に掛ける係数です。

この係数がいくつになるかによって、実際の株式評価額は大きく変わります。

また、五年間の収益力を具体的にどのように算定するのか、赤字年度をどのように扱うのか、特殊な資産構成を持つ会社をどのように評価するのかなど、実務上確認すべき論点も残っています。

今後公表される具体的な計算式や適用時期を確認することが重要です。

結論

非上場株の相続税評価は、約六十年ぶりの大きな転換点を迎えようとしています。

現在は会社規模に応じて類似業種比準方式や純資産価額方式などを使い分けていますが、新ルール案では、会社の簿価純資産と今後五年間の収益力を基礎として評価する方式への一本化が検討されています。

この改革によって、高収益で純資産の大きな会社では評価額と相続税負担が増える可能性があります。

一方、規模が小さく収益力の低い中小・零細企業では評価額が下がり、事業承継時の税負担が軽減される可能性があります。

重要なのは、今回の見直しを単純な増税や減税として捉えないことです。

目指されているのは、会社規模によって評価方式を使い分ける仕組みから、会社が実際に保有している純資産と利益を生み出す力を基礎として企業価値を評価する仕組みへの転換です。

非上場会社のオーナーにとっては、相続が発生してから考える問題ではありません。

制度改正が実現した場合に自社株評価額がどの程度変わるのかを確認し、事業承継計画や株式移転の時期を含めて検討していくことが重要になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式

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