マンションの管理組合が加入する共用部分の火災保険が、大きな転換点を迎えています。
自然災害の増加、建物の老朽化、漏水事故の多発などを背景に、保険料の値上がりが続いています。築年数の古いマンションでは、契約更新時に保険料が50〜60%上昇するケースもあるといいます。
保険料の負担に耐えられず、必要な補償を削減する管理組合も出てきました。さらに、管理会社との契約終了などをきっかけに、共用部分の保険が更新されず、無保険状態に陥る事例も報告されています。
マンション保険の問題は、単なる保険料の値上がりではありません。
管理組合の財政運営、建物の維持管理、区分所有者の負担、さらにはマンションの資産価値にも関わる重要な問題です。
今回は、マンション保険料が上昇する背景と、管理組合が取り組むべき具体的な対策について解説します。
マンション保険は共用部分と専有部分に分かれる
分譲マンションの火災保険は、大きく2つに分かれます。
1つは、区分所有者が個別に加入する専有部分の保険です。
室内の内装や設備、家財などを対象とするもので、補償内容は契約によって異なります。
もう1つが、管理組合が加入する共用部分の保険です。
共用廊下、階段、エントランス、エレベーター、共用設備などが主な対象になります。
一般的に、共用部分の保険料は管理費から支払われます。
したがって、保険料が上昇すれば管理組合の支出が増え、最終的には区分所有者の管理費負担にも影響します。
重要なのは、専有部分の保険に加入していても、共用部分の損害まで十分に補償されるわけではないという点です。
管理組合が適切な保険に加入していなければ、大規模な事故が発生した際に、多額の修繕費や損害賠償金を区分所有者が負担する可能性があります。
マンション保険料が大幅に上昇する3つの理由
保険料上昇の背景には、主に3つの要因があります。
まず、自然災害の増加です。
台風や豪雨などによる保険金支払いが増えたことを受け、損害保険会社は2019年から2024年にかけて火災保険料の改定を繰り返しました。
マンション共用部分の保険は、通常、最長5年の契約です。
そのため、5年前に契約した保険を更新する場合、契約期間中に実施された複数回の料率改定が一度に反映されることがあります。
次に、マンションの高経年化です。
国土交通省によると、築40年以上のマンションは2025年末時点で約158万8,000戸に達しました。
10年間で約100万戸増加した計算になります。
建物の老朽化が進めば、設備の故障や事故が発生する可能性も高まります。
保険会社は築年数などを保険料算定に反映するため、高経年マンションほど保険料が高くなる傾向があります。
そして、3つ目が漏水事故の増加です。
マンションでは給排水管の老朽化による漏水事故が少なくありません。
配管そのものの経年劣化は通常、保険の補償対象になりませんが、漏水によって生じた他の部分の損害や、法律上の損害賠償責任については、契約内容に応じて保険金が支払われる場合があります。
こうした事故が繰り返されれば、保険金支払いが増え、次回更新時の保険料にも影響する可能性があります。
つまり、マンションの老朽化は、修繕費だけでなく保険料の上昇にもつながるのです。
保険料を削減するために補償を外す危険性
保険料が大幅に上昇すると、管理組合では支出削減が議論されます。
その際、保険の補償範囲を縮小する方法が選択されることがあります。
特に注意したいのが、賠償責任補償の特約です。
例えば、共用配管からの漏水によって階下の住戸に損害が発生した場合、管理組合に法律上の賠償責任が生じることがあります。
施設賠償責任補償などの特約があれば、契約条件に応じて損害賠償金が補償されます。
しかし、特約を外していれば、管理組合が自己資金で対応しなければならない可能性があります。
仮に、漏水事故による損害賠償額が500万円になったとします。
管理組合に十分な余裕資金がなければ、他の管理費支出を削減したり、区分所有者から追加徴収したりする必要が生じるかもしれません。
さらに深刻なのは、第三者への損害です。
外壁の一部が落下し、通行人にけがを負わせた場合などには、多額の損害賠償責任が発生する可能性があります。
保険料を年間数十万円削減した結果、数百万円、数千万円の負担を抱えることになれば、本末転倒です。
保険料の削減は必要ですが、管理組合が負担できない重大なリスクまで引き受けるべきではありません。
地震保険を外す判断にも慎重さが必要
共用部分の地震保険を更新しない管理組合もあります。
地震保険は火災保険とセットで加入する仕組みで、保険金額は火災保険金額の30〜50%の範囲で設定します。
地震による建物の損害をすべて補償できるわけではありません。
このため、補償が限定的だとして加入を見送るケースがあります。
しかし、地震保険の役割を正しく理解する必要があります。
地震保険は、建物を完全に再建するための資金を確保する制度ではなく、被災後の生活や建物の復旧に向けた資金を補うことを目的としています。
大規模地震が発生した場合、管理組合には応急修繕、安全確認、復旧計画の策定など、多くの対応が求められます。
地震保険に加入していなければ、保険金による資金確保はできません。
一方で、地震保険に加入していても、支払われる保険金には限度があります。
したがって、地震保険への加入判断では、保険料だけでなく、建物の耐震性能、立地、修繕積立金の残高、被災時の資金調達能力などを総合的に検討することが重要です。
免責金額の見直しが保険料削減の有力な方法になる
必要な補償を維持しながら保険料を抑える方法として、免責金額の調整があります。
免責金額とは、保険事故が発生した際に、契約条件に従って保険金から差し引かれる自己負担額です。
例えば、免責金額が5万円で、補償対象となる損害が30万円発生した場合、単純な差額方式であれば保険金は25万円になります。
免責金額を10万円に引き上げれば、保険金は20万円になります。
その代わり、保険料を引き下げられる可能性があります。
東京海上日動火災保険によると、主契約と賠償責任特約の免責金額を5万円から10万円に引き上げることで、保険料が約7%下がるケースがあります。
仮に年間保険料が200万円で、同じ削減率が適用されるとすれば、年間14万円の負担軽減になります。
5年間では70万円です。
もちろん、実際の削減額は契約条件によって異なります。
また、事故が多発すれば、自己負担額が積み重なる可能性があります。
重要なのは、管理組合がどの程度の損害まで自己負担できるのかを確認することです。
少額事故は自己負担とし、大規模事故に備えるという考え方は、保険を合理的に活用するうえで有効です。
ただし、免責金額の変更については、区分所有者への十分な説明が欠かせません。
給排水管の更新工事が保険料抑制につながる
保険料の上昇を抑えるためには、事故の原因そのものを減らすことも重要です。
特に高経年マンションでは、給排水管の劣化対策が大きな課題になります。
漏水事故が頻発するマンションでは、保険会社から事故リスクが高いと評価される可能性があります。
反対に、適切な修繕工事を実施し、事故リスクを低減できれば、保険料の割引などにつながる場合があります。
日新火災海上保険では、マンション管理士による建物の管理状況の診断結果などに応じて、保険料を割り引く仕組みがあります。
給排水管の更新状況や長期修繕計画の整備状況などが評価対象になります。
ここで考えたいのが、修繕工事を先送りすることの経済合理性です。
例えば、給排水管の更新工事に2,000万円必要だとします。
管理組合が工事を先送りした結果、漏水事故が増加し、保険料も上昇すれば、長期的な負担はさらに大きくなる可能性があります。
加えて、資材価格や人件費の上昇によって、将来の工事費が高くなることも考えられます。
もっとも、工事を前倒しすれば必ず保険料が下がるわけではありません。
工事費、漏水事故の発生状況、保険料への影響、修繕積立金の残高を比較し、総合的に判断する必要があります。
マンション管理では、目先の支出削減だけでなく、長期的な総費用を最小化する視点が求められます。
管理会社との契約終了が無保険リスクにつながる
見落とされやすいのが、管理会社との契約終了に伴う保険契約の管理です。
多くのマンションでは、管理会社が保険代理店を兼ねています。
そのため、保険の更新手続きや契約内容の確認を管理会社に任せているケースがあります。
ところが、管理費の値上げなどを巡って管理会社との契約を解除した場合、保険契約の管理体制も変わることがあります。
保険契約自体が管理会社との契約終了によって当然に失効するわけではありません。
しかし、更新時期や保険代理店の変更について適切な引き継ぎが行われなければ、更新漏れが発生する恐れがあります。
実際に、管理会社との契約終了後、共用部分の保険が更新されず、無保険状態になっていたマンションも報告されています。
管理組合は、少なくとも次の事項を確認しておく必要があります。
- 保険会社と保険代理店の名称
- 保険契約の満期日と更新手続き
- 火災保険と地震保険の補償内容
- 施設賠償責任補償などの特約の有無
- 事故発生時の連絡先と保険金請求手続き
- 管理会社変更時の契約引き継ぎ方法
これらは、管理会社に任せきりにするのではなく、管理組合の理事会が把握しておくべき基本情報です。
管理組合の財政運営では保険料と修繕費を一体で考える
マンションの維持管理費用には、管理費会計と修繕積立金会計があります。
一般的に、保険料は管理費会計から支払われ、大規模修繕工事などは修繕積立金会計から支出されます。
会計上は区分されていますが、区分所有者にとっては、どちらもマンションを維持するための負担です。
したがって、保険料と修繕費を別々に考えるだけでは、適切な判断ができません。
例えば、修繕工事を先送りすれば、一時的に修繕積立金の支出を抑えられます。
しかし、建物の劣化が進めば、漏水事故などによる保険金請求が増え、将来の保険料が上昇する可能性があります。
反対に、必要な修繕を適切な時期に実施すれば、事故リスクを低減できるだけでなく、保険契約の条件改善につながることもあります。
管理組合は、保険料、修繕費、事故による自己負担額を合わせた長期的な資金計画を作成することが重要です。
特に築30年、40年を超えるマンションでは、保険料の上昇を長期収支計画に織り込む必要があります。
これまでの保険料が将来も維持されるという前提は、見直した方がよいでしょう。
保険契約の見直しはマンションの資産価値にも関係する
マンションの資産価値は、立地や築年数、専有面積だけで決まるわけではありません。
管理組合の財政状態や建物の維持管理状況も重要です。
十分な修繕積立金が確保され、適切な修繕工事が実施されているマンションは、将来の維持管理に対する安心感があります。
一方、保険料を支払えないほど財政状態が悪化しているマンションでは、建物の維持管理にも支障が生じる可能性があります。
さらに、必要な保険に加入していなければ、大規模事故が発生した際に区分所有者へ多額の追加負担が求められる恐れがあります。
中古マンションを購入する際には、修繕積立金の残高や長期修繕計画に加えて、共用部分の保険加入状況も確認したいところです。
具体的には、保険の補償範囲、保険金額、免責金額、賠償責任特約の有無、地震保険の加入状況などが確認対象になります。
また、過去に漏水事故が頻発していないか、保険料が大幅に上昇していないかも重要な判断材料です。
保険契約は、マンションの管理品質を把握するための情報の1つといえるでしょう。
管理組合が今から取り組むべき5つの対策
今後、マンション保険料の上昇が続く可能性を踏まえると、管理組合には主体的な対応が求められます。
第1に、現在の保険契約を正確に把握することです。
保険証券や約款を確認し、どのような事故が補償され、どのような事故が対象外となるのかを整理します。
第2に、複数の保険会社から見積もりを取得することです。
同じような補償内容でも、保険会社によって保険料や引受条件が異なる場合があります。
第3に、免責金額を見直すことです。
少額事故を自己負担することで、重大事故への補償を維持しながら保険料を抑えられる可能性があります。
第4に、建物の修繕状況を確認することです。
特に給排水管の劣化状況を把握し、必要な工事を長期修繕計画に反映させることが重要です。
第5に、保険料の上昇を管理組合の中長期的な財政計画に織り込むことです。
保険料が上がるたびに補償を削減するのではなく、管理費の適正化も含めて検討する必要があります。
これらの取り組みを継続することで、保険料負担と事故リスクのバランスを改善できる可能性があります。
結論
マンション保険料の大幅な上昇は、管理組合の財政運営に新たな課題を突きつけています。
自然災害の増加、建物の老朽化、漏水事故の多発という構造的な要因を考えれば、今後も保険料負担への対応は重要なテーマであり続けるでしょう。
しかし、保険料を削減するために必要な補償まで外してしまえば、事故発生時に管理組合が多額の負担を抱える危険性があります。
重要なのは、保険料の安さだけを追求することではありません。
免責金額の調整、複数社の比較、給排水管の更新工事、長期修繕計画の見直しなどを組み合わせ、必要な補償を維持しながら負担を適正化することです。
また、管理会社に保険契約を任せきりにせず、管理組合自身が契約内容や更新時期を把握することも欠かせません。
マンション保険は、万一の事故に備えるための費用であると同時に、区分所有者の財産を守るための重要な仕組みです。
これからのマンション管理では、建物の修繕、保険契約、管理組合の財政運営を一体として考える必要があります。
保険料を削減することよりも、将来の大きな損失を防ぐことが、結果としてマンションの資産価値を守ることにつながるのです。
参考
日本経済新聞 2026年10月10日「マンション保険に危機、管理組合向け大幅値上げ 免責額調整など対応策」
国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
日本損害保険協会「マンションの共用部分に関する火災保険・地震保険の基礎知識」