増資と第三者割当の基本――新株発行で注意すべき会社法のルール

経営

株式会社が事業を拡大するためには、設備投資や人材採用、研究開発などに必要な資金を確保することが重要です。

資金調達の方法には、金融機関からの借入れや社債の発行などがありますが、株式を新たに発行して出資を受ける方法もあります。

一般に、新株を発行して資金を調達することを増資と呼びます。

借入れとは異なり、株式による資金調達では、原則として出資金を返済する義務はありません。

一方、新たな株主が加わることで、既存株主の持株比率や議決権割合が変化する可能性があります。

特に、非上場会社や同族会社では、新株発行が経営権や事業承継に大きな影響を与えることがあります。

会社法では、募集株式の発行等について、公開会社と非公開会社で異なる決定手続を定めています。

また、株式を引き受ける者に特に有利な金額で発行する場合には、既存株主の利益を保護するための特別な手続が必要になります。

今回は、募集株式の発行等の仕組み、株主割当、公募、第三者割当、決定機関の違い、有利発行の問題について整理します。

募集株式の発行等とは何か

会社法では、新株の発行と自己株式の処分を合わせて「募集株式の発行等」として規律しています。

新株発行とは、会社が新たに株式を発行することです。

例えば、発行済株式が1,000株の会社が、新たに200株を発行する場合が該当します。

一方、自己株式の処分とは、会社が保有している自社株式を第三者などに交付することです。

新株発行では発行済株式総数が増加しますが、自己株式の処分では発行済株式総数そのものは増加しません。

ただし、自己株式には原則として議決権がないため、その処分によって株主の議決権割合が変化することがあります。

会社法が両者を募集株式の発行等として扱うのは、既存株主の利益や経営権に影響を与える点で共通するためです。

なお、自己株式の処分は、新株発行とは異なり、当然に資本金の増加を伴うものではありません。

株式による資金調達の3つの方法

募集株式の発行等は、株式を引き受ける相手によって整理できます。

代表的な方法は、株主割当、公募、第三者割当です。

株主割当は、既存株主に対して、その保有株式数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を与える方法です。

公募は、広く投資家から募集株式の引受けを募る方法です。

第三者割当は、特定の投資家や取引先、役員などに募集株式を割り当てる方法です。

例えば、事業提携先から出資を受ける場合や、外部投資家を新たな株主として迎える場合には、第三者割当が利用されることがあります。

それぞれの方法には、資金調達の効率性、既存株主への影響、必要な手続などに違いがあります。

会社法上、重要なのは、株主に割当てを受ける権利を与える募集株式の発行等と、それ以外の募集株式の発行等を区別することです。

この区別によって、募集事項を決定する機関が異なる場合があります。

募集事項として決定する内容

会社が募集株式を発行する場合には、あらかじめ募集事項を決定する必要があります。

会社法第199条では、募集事項として定めるべき内容を規定しています。

主な内容は、募集株式の数、払込金額またはその算定方法、現物出資がある場合の内容、払込期日または払込期間などです。

例えば、普通株式を200株発行し、1株当たりの払込金額を10万円とする場合には、総額2,000万円の払込みが予定されます。

ただし、払込金額の全額が資本金に計上されるとは限りません。

会社法上、一定の範囲で資本準備金に計上することが認められています。

また、現金ではなく財産を出資する場合には、現物出資に関する規制も関係します。

募集事項は、出資者がどのような条件で株式を取得するのかを明確にするための重要な事項です。

公開会社における新株発行の決定

会社法上の公開会社とは、発行する全部または一部の株式について、譲渡による取得に会社の承認を必要としない株式会社です。

上場会社と同じ意味ではありません。

公開会社では、原則として取締役会が募集事項を決定します。

これは、公開会社では迅速な資金調達が必要になる場合があり、株主総会を開催することなく取締役会で意思決定できる仕組みが設けられているためです。

例えば、公開会社が通常の条件で第三者割当増資を行う場合には、原則として取締役会決議によって募集事項を決定できます。

ただし、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、原則として株主総会の特別決議が必要になります。

公開会社だからといって、すべての新株発行を取締役会だけで決定できるわけではありません。

非公開会社における新株発行の決定

非公開会社では、公開会社と異なり、原則として株主総会の特別決議によって募集事項を決定します。

これは、非公開会社では株主構成が経営権に直結する場合が多いためです。

例えば、創業者が発行済株式のすべてを保有している会社が、外部投資家に新株を発行するとします。

新株発行によって外部投資家が一定の議決権を取得すれば、創業者の経営権に影響する可能性があります。

そのため、非公開会社では、新株発行について株主総会による意思決定を重視しています。

取締役会を設置している非公開会社であっても、通常の第三者割当について、取締役会決議だけで募集事項を決定できるわけではありません。

一方、会社法では、一定の要件のもとで、株主総会が募集事項の決定を取締役会または取締役に委任する仕組みも認めています。

実際の増資では、会社の機関設計、定款、募集方法に応じて必要な決議を確認することが重要です。

株主割当に認められる柔軟な手続

株主割当では、既存株主に募集株式の割当てを受ける権利を与えます。

例えば、既存株主が保有株式数に応じて新株を引き受ける場合には、全員が持株比率に応じて引き受ければ、原則として株主間の持株比率を維持できます。

会社法では、株主割当について、一定の条件のもとで募集事項の決定手続を柔軟にする仕組みを認めています。

非公開会社で取締役会を設置している場合には、定款に定めがあれば、取締役会決議によって募集事項を決定できます。

また、取締役会を設置していない非公開会社では、定款に定めがあれば、取締役の決定によって募集事項を定めることができます。

一方、そのような定款の定めがなければ、原則として株主総会の特別決議が必要です。

株主割当であっても、会社の機関設計や定款の内容によって必要な手続が異なります。

第三者割当が経営権に与える影響

第三者割当では、特定の者に募集株式を割り当てます。

この方法は、資金調達だけでなく、事業提携や資本関係の強化などにも利用されます。

例えば、発行済株式が1,000株の会社で、創業者が600株、その他の株主が400株を保有しているとします。

この場合、創業者の持株比率は60%です。

ここで、外部投資家に500株を新たに発行すると、発行済株式総数は1,500株になります。

創業者が保有する株式数は600株のままであるため、持株比率は40%に低下します。

この例では、株式の内容や議決権に差がないことを前提としています。

創業者の持株比率が60%から40%に低下すれば、株主総会における議決権の支配関係も大きく変わる可能性があります。

第三者割当を検討する際には、調達金額だけでなく、増資後の持株比率や議決権割合を確認する必要があります。

特に同族会社では、経営権の維持や事業承継への影響を慎重に検討することが重要です。

有利発行に関する特別な規制

新株発行では、払込金額の設定が重要になります。

特に、募集株式を引き受ける者にとって、払込金額が特に有利な金額である場合には、会社法上の特別な規制が適用されます。

これを一般に有利発行と呼びます。

例えば、会社の株式に相応の価値があるにもかかわらず、特定の者に著しく低い価格で新株を発行すると、既存株主の経済的利益が損なわれる可能性があります。

公開会社では、通常の募集株式の発行等については原則として取締役会決議で募集事項を決定できますが、有利発行の場合には原則として株主総会の特別決議が必要です。

また、取締役は株主総会で、特に有利な払込金額によって募集する必要がある理由を説明しなければなりません。

非公開会社では、通常の第三者割当についても原則として株主総会の特別決議が必要ですが、有利発行の場合には、その必要性についての説明も重要になります。

有利発行に該当するかどうかは、株式の価値や払込金額などを踏まえて判断する必要があります。

非上場株式の発行価格と税務

非上場会社では、株式の市場価格が存在しません。

そのため、新株発行時の払込金額をどのように設定するかが重要な課題になります。

株式の価値を検討する際には、会社の純資産、収益力、将来の事業計画などが関係する場合があります。

また、非上場株式の評価については、会社法上の有利発行の判断と、税務上の時価の判断を区別する必要があります。

会社法上、必要な決議を行っている場合であっても、税務上の課税関係が生じないとは限りません。

例えば、特定の株主や親族に著しく低い価格で株式を取得させる場合には、経済的利益の移転が問題になる可能性があります。

また、法人が新株を引き受ける場合には、法人税法上の取扱いについて検討が必要になることもあります。

なお、これらの税務上の留意点は、資料で扱われている会社法上の募集株式の発行等を踏まえた実務上の補足です。

個別の課税関係については、取引当事者、発行条件、株式の評価などに応じて判断する必要があります。

中小企業が増資前に確認したい事項

中小企業が増資を行う場合には、資金調達の必要性だけでなく、会社法上の手続と増資後の経営体制を確認することが重要です。

まず、会社が公開会社に該当するかどうかを確認します。

次に、取締役会の設置の有無や定款の内容を確認します。

そのうえで、株主割当、公募、第三者割当のいずれの方法を採用するのかを検討します。

また、募集株式の数や払込金額、払込期日などの募集事項を明確にする必要があります。

さらに、増資後の持株比率や議決権割合を試算し、既存株主の権利にどのような影響が生じるかを確認します。

特に、創業者や後継者が経営権を維持する必要がある会社では、第三者割当による議決権割合の変化に注意が必要です。

また、増資後には、必要な登記手続や会計処理、税務上の取扱いについても確認する必要があります。

新株発行は、資金調達と同時に株主構成を変更する重要な経営判断です。

結論

株式会社の募集株式の発行等には、新株発行と自己株式の処分が含まれます。

募集方法には、株主割当、公募、第三者割当があり、それぞれ既存株主への影響や必要な手続が異なります。

会社法では、公開会社と非公開会社で募集事項の決定機関を区別しています。

公開会社では、原則として取締役会決議によって募集事項を決定できます。

一方、非公開会社では、原則として株主総会の特別決議が必要です。

ただし、株主割当については、定款の定めによって取締役会や取締役が募集事項を決定できる場合があります。

また、特に有利な払込金額で新株を発行する場合には、既存株主の利益を保護するための規制が設けられています。

特に中小企業や同族会社では、第三者割当によって持株比率や議決権割合が変化し、経営権や事業承継に影響する可能性があります。

増資を検討する際には、調達金額だけでなく、会社法上の決定手続、株式の発行価格、既存株主への影響、税務上の取扱いを総合的に確認することが重要です。

適切な資本政策と法令に従った手続を両立させることが、会社の持続的な成長と安定した経営につながります。

参考

明治大学会計専門職研究科 弥永真生「商法・会社法」サブテキスト(45~46ページ)

会社法第199条、第200条、第201条、第202条、第203条、第208条、第445条

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