税務業務の中心は、長年にわたって正確な税額計算と期限内の申告に置かれてきました。
企業経理では、月次決算、決算整理、税額計算、申告書作成などが重要な業務となっています。
税理士についても、税務申告書の作成や税務相談が専門業務の中心です。
しかし、税務行政のデジタル化が進む中で、申告書を正確に提出するだけでは、十分な納税管理とはいえなくなっています。
申告書の提出が完了していても、納税資金が不足していたり、納付手続を忘れていたりすれば、国税の滞納が発生する可能性があります。
2026年11月2日付の「税のしるべ」に掲載された国税庁徴収部長・山下和博氏へのインタビューでは、キャッシュレス納付の普及、滞納の未然防止、AIを活用した徴収事務の高度化などが紹介されました。
こうした取組は、税務行政だけでなく、企業経理や税理士の業務の在り方にも重要な変化をもたらします。
これからの税務管理では、申告から納付までを一体的に捉え、滞納を発生させない仕組みを整えることが重要になります。
申告中心の税務管理からの転換
従来の税務業務では、申告書の正確性と提出期限の遵守が重視されてきました。
もちろん、税額を正しく計算し、期限内に申告することは、現在でも税務管理の基本です。
しかし、税金の申告と納付は別の手続です。
例えば、法人税の確定申告書を期限内に提出していても、納付が遅れれば、原則として延滞税が発生します。
また、消費税についても、申告書の提出だけで納税義務が履行されたことにはなりません。
そのため、税務管理では、申告書の作成から納付完了までの一連の業務を管理する必要があります。
特に、税理士が申告業務を担当し、企業の経理部門が納付業務を担当する場合には、役割分担と情報共有が重要です。
申告書を提出した段階で業務を終了するのではなく、納付が確実に行われる仕組みを整えることが求められます。
納税予定表による期限管理の徹底
企業経理における納税管理改革の基本となるのが、納税予定表の整備です。
納税予定表には、法人税、消費税、源泉所得税などの税目ごとに、申告期限、納期限、納付予定額、納付方法などを記載します。
地方税についても、法人住民税、法人事業税、固定資産税などを含めて管理することが望まれます。
ただし、国税と地方税では、利用できる電子納付の仕組みや手続が異なるため、それぞれ確認する必要があります。
例えば、複数の子会社を管理する企業グループでは、法人ごとに納期限や納付金額が異なる場合があります。
こうした場合には、法人別・税目別の納税予定表を作成し、グループ全体で進捗状況を確認できる仕組みが有効です。
また、申告書の提出状況だけでなく、納付手続の実施状況や納付完了の確認結果まで記録することが重要です。
月次決算と納税見込額の連動
納税資金を計画的に確保するためには、月次決算と納税見込額を連動させる必要があります。
決算が終了してから税額を計算する方法では、納税資金の準備に十分な時間を確保できない場合があります。
例えば、事業年度の途中で利益が大幅に増加した場合、法人税等の納付額が当初の予想を上回る可能性があります。
一方、設備投資や売掛金の回収遅延によって、利益が増加していても現預金が不足することがあります。
そのため、月次試算表をもとに年間利益を予測し、法人税等の納付見込額を定期的に更新することが重要です。
消費税についても、課税売上げや課税仕入れ等の状況を確認し、納付見込額を把握する必要があります。
税額予測の精度を高めることは、資金繰りの安定化にもつながります。
キャッシュレス納付を前提とした業務設計
国税庁は、2026年度末までにキャッシュレス納付割合を54%とする目標を掲げています。
キャッシュレス納付には、ダイレクト納付、インターネットバンキング等による納付、クレジットカード納付、スマートフォンアプリ納付、振替納税などがあります。
ただし、税目や納付方法によって利用条件や取扱いが異なります。
企業経理では、自社の税目、納付金額、承認手続などを踏まえて、適切な方法を選択する必要があります。
特に、ダイレクト納付は、e-Taxを利用して登録口座から納付できるため、企業の納付業務の効率化に役立ちます。
一方、電子納付では、従来の納付書への押印や金融機関への持参といった手続がなくなる場合があります。
そのため、電子化後も適切な承認と確認が行われるよう、内部統制を整備することが重要です。
納付業務の内部統制と職務分担
企業の納付業務では、税額計算、申告書の承認、納付手続、納付結果の確認など、複数の工程があります。
これらの業務を一人の担当者だけで処理すると、誤りや不正を発見しにくくなる可能性があります。
そのため、企業規模や人員体制に応じて、適切な職務分担を設けることが望まれます。
例えば、税額計算担当者が申告書を作成し、上席者が内容を承認したうえで、納付担当者が納付手続を行う方法が考えられます。
また、納付完了後には、預金口座の取引明細や電子納付の記録を確認し、納付予定額と実際の納付額を照合します。
自動ダイレクトなどの仕組みを利用する場合でも、引落予定日や口座残高、引落結果の確認は必要です。
電子化によって作業工程を削減しながら、必要な統制を維持することが重要になります。
税理士と顧問先の役割分担の明確化
税理士が企業や個人事業主の申告業務を担当する場合には、納付業務に関する役割分担を明確にする必要があります。
例えば、税理士が申告書を作成・送信し、納税者自身が納付を行う場合があります。
この場合、税理士が申告書を提出したことと、納税者が納付を完了したことは別の事実です。
そのため、税理士は、申告書の提出時に納付税額、納期限、納付方法などを適切に伝えることが重要です。
また、納税者が自動ダイレクトなどを利用する場合には、利用条件や引落予定日を確認する必要があります。
ただし、税理士がすべての納付結果を確認する義務を当然に負うわけではありません。
具体的な業務範囲は、顧問契約や委任内容などによって異なります。
税理士と顧問先の双方が、誰が何を確認するのかを明確にしておくことが、納付漏れの防止につながります。
滞納予防を目的とした資金繰り支援
税理士が顧問先に提供できる支援の一つが、納税資金の計画的な準備です。
特に中小企業や個人事業主では、利益と現金の動きが一致しないことがあります。
例えば、売上高が増加していても、売掛金の回収が遅れれば、納税時期に十分な資金を確保できない場合があります。
また、設備投資や借入金返済によって、現預金が減少することもあります。
税理士は、月次試算表や決算予測を活用し、納税見込額を早期に把握する支援ができます。
さらに、納税予定額を資金繰り表に反映させ、必要な資金を確保するための助言を行うことが考えられます。
予納ダイレクトや専用預金口座による積立なども、事業者の資金状況に応じて検討できる方法です。
ただし、資金繰り支援を行う場合には、税理士の業務範囲や責任を明確にすることが重要です。
納付遅延が発生した場合の初期対応
納税管理体制を整えていても、予期しない事情によって納付が遅れる場合があります。
例えば、売掛金の回収遅延、取引先の倒産、災害、急激な業績悪化などです。
こうした場合には、納付が困難であることを放置せず、早期に税務署へ相談することが重要です。
国税には、一定の要件を満たす場合に、納税の猶予や換価の猶予などが認められる制度があります。
ただし、これらの制度には法令上の要件があり、申請すれば必ず認められるわけではありません。
税理士は、顧問先の資金繰り状況や納付可能額を確認し、必要に応じて適切な制度の利用を検討する支援ができます。
重要なのは、滞納が長期化する前に対応することです。
AI活用時代の企業経理と税理士の役割
国税庁は、AIを活用して滞納者への接触方法や電話応答の可能性が高い時間帯を予測する取組を進めています。
また、生成AIによって滞納整理の記録を要約し、事案の選定や担当者変更時の引継業務を効率化する取組も進めています。
こうした動きは、企業経理や税理士業務にも示唆を与えます。
企業経理では、納税予定表の作成、納付履歴の管理、担当者間の引継ぎなどにデジタル技術を活用する余地があります。
税理士についても、顧問先の納税予定額や過去の相談履歴を整理し、適切な助言につなげることが考えられます。
ただし、AIによる分析や要約には誤りが生じる可能性があります。
また、税務情報には機密性の高い情報が含まれるため、情報管理にも注意が必要です。
デジタル技術を活用しながら、最終的な判断と確認は専門家が責任を持って行うことが重要です。
納税管理改革を進めるための実務体制
企業経理や税理士事務所が納税管理改革を進める場合には、既存の業務を整理することから始める必要があります。
まず、税目ごとの申告期限と納期限を一覧化し、担当者と承認者を明確にします。
次に、月次決算や決算予測を活用し、納税見込額を早期に把握する仕組みを整えます。
さらに、納付方法を確認し、必要に応じてキャッシュレス納付の導入を検討します。
納付手続を実施した後には、納付結果を確認し、記録を保存することが重要です。
また、担当者の異動や退職があっても業務を継続できるよう、手順書や引継資料を整備する必要があります。
これらの取組は、大規模なシステム投資を行わなくても、既存の会計システムや表計算ソフトなどを活用して進めることができます。
重要なのは、納税管理を担当者個人の経験に依存させず、組織として継続できる仕組みにすることです。
結論
国税庁の徴収行政は、キャッシュレス納付の普及、滞納の未然防止、AIを活用した業務の高度化などを通じて変化しています。
こうした動きに対応するため、企業経理や税理士にも納税管理の見直しが求められます。
これまでのように、正確な税額計算と期限内申告だけを重視するのではなく、納税資金の準備、納期限管理、納付結果の確認までを一体的に管理する必要があります。
企業経理では、納税予定表と資金繰り表を連動させ、適切な内部統制を整備することが重要です。
税理士についても、申告書の作成だけでなく、納税見込額の早期把握や滞納予防に向けた助言が、顧問先に提供できる重要な支援になります。
一方で、税理士と顧問先の役割分担や業務範囲を明確にし、それぞれが責任を持って対応することも必要です。
これからの税務管理では、申告書を正確に提出することを出発点として、税金が確実に納付されるまでを管理する仕組みが重要になります。
申告中心の税務業務から滞納予防を重視する納税管理への転換は、企業経理の高度化と税理士の付加価値向上につながるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年11月2日「令和8年国税庁の幹部に聞く/徴収部長・山下 和博」
国税庁「税務行政の将来像」
国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」
国税庁「キャッシュレス納付のご案内」
国税庁「令和7年度租税滞納状況」
国税庁「納税の猶予制度」