夫婦で考える金融資産の持ち方――名義・年金収入・医療費負担と相続対策

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2029年8月から、75歳以上の後期高齢者医療制度に株式や投資信託の売却益、配当などの金融所得を反映する新たな仕組みが始まる予定です。

この制度変更によって、夫婦で金融資産をどのように保有し、どのような順番で取り崩すかが、老後の家計管理において重要になります。

特に、夫婦の年齢差、年金収入、金融資産の名義、課税口座とNISA口座の保有割合などによって、医療保険料や医療費の窓口負担への影響が異なる可能性があります。

例えば、夫が75歳以上で妻が70歳の場合と、夫婦ともに75歳以上の場合では、加入している医療保険制度や所得判定の仕組みが異なります。

また、夫婦で金融資産を分散して保有することが、必ずしも社会保険負担の軽減につながるわけではありません。

金融資産の名義を変更する場合には、贈与税や相続税の問題も生じます。

今回は、夫婦の金融資産管理について、医療保険料、窓口負担割合、年金収入、相続対策の観点から整理します。

夫婦の年齢によって加入する医療保険制度が異なる

日本の公的医療保険制度では、原則として75歳になると後期高齢者医療制度へ移行します。

そのため、夫婦の年齢差によって、加入している医療保険制度が異なる場合があります。

例えば、夫が76歳、妻が71歳の場合です。

夫は後期高齢者医療制度に加入しますが、妻は国民健康保険や勤務先の健康保険などに加入している可能性があります。

一方、夫が80歳、妻が77歳の場合には、原則として夫婦ともに後期高齢者医療制度に加入します。

後期高齢者医療制度では、保険料は原則として被保険者ごとに計算されます。

ただし、均等割の軽減判定や医療費の窓口負担割合などには、世帯の所得状況が関係する場合があります。

したがって、夫婦のどちらに金融所得が発生するかによって、世帯全体の負担が変わる可能性があります。

金融資産の名義と金融所得の帰属

株式や投資信託の売却益、配当などは、原則としてその金融資産を保有する人の所得になります。

例えば、夫名義の課税口座で株式を保有し、年間100万円の配当金を受け取る場合、その配当所得は原則として夫に帰属します。

一方、妻名義の課税口座で同じ100万円の配当金を受け取る場合には、原則として妻の所得になります。

2029年からの新制度では、こうした金融所得が後期高齢者医療制度の負担判定に反映される予定です。

ただし、名義だけで所得の帰属が決まるとは限りません。

実際に誰の資金で取得した資産なのか、誰が管理しているのかなどによって、税務上の判断が必要になる場合があります。

また、夫婦間で金融資産を移転する場合には、贈与税の課税関係にも注意が必要です。

社会保険負担を抑えるためだけに、形式的に資産名義を変更することは適切ではありません。

夫婦ともに75歳以上の場合の注意点

夫婦ともに後期高齢者医療制度に加入している場合、医療費の窓口負担割合の判定では、同じ世帯の被保険者の所得状況が関係します。

例えば、夫の年金収入が年間240万円、妻の年金収入が年間120万円の場合を考えます。

夫が課税口座で多額の金融所得を得た場合、その所得が夫自身の保険料に影響するだけでなく、世帯の窓口負担割合の判定に関係する可能性があります。

その結果、妻自身には金融所得がなくても、妻の窓口負担割合が変わる場合があります。

一方、妻が金融所得を得た場合にも、世帯全体の所得判定に影響する可能性があります。

ただし、負担割合は住民税の課税所得や収入額など、複数の条件によって決まります。

金融所得が夫に発生するか妻に発生するかだけで、負担割合を判断することはできません。

夫婦それぞれの所得と、世帯全体の所得を分けて確認する必要があります。

夫婦の年齢差による社会保険負担の違い

夫婦に年齢差がある場合には、金融所得が発生する時期にも注意が必要です。

例えば、夫が76歳、妻が69歳で、夫婦それぞれ課税口座に金融資産を保有している場合です。

夫は後期高齢者医療制度に加入していますが、妻は別の医療保険制度に加入している可能性があります。

この場合、夫の金融所得は後期高齢者医療制度の新たな判定対象となる一方、妻の金融所得については加入する医療保険制度によって取り扱いが異なります。

ただし、妻が国民健康保険に加入している場合、確定申告した金融所得が保険料に影響することがあります。

また、夫婦の所得状況によっては、世帯の軽減判定などに関係する場合もあります。

したがって、75歳未満の配偶者に金融所得を集中させれば、必ず社会保険負担を抑えられるというわけではありません。

夫婦の年齢差だけでなく、加入している医療保険制度と所得判定の仕組みを確認することが重要です。

NISA口座は夫婦それぞれが利用できる

NISAは、一定の条件を満たす18歳以上の人が利用できる非課税投資制度です。

夫婦それぞれがNISA口座を開設できます。

新しいNISAでは、1人当たり年間360万円、非課税保有限度額1,800万円という枠が設けられています。

そのため、夫婦それぞれが制度を利用すれば、合計で最大3,600万円の非課税保有限度額を活用できることになります。

ただし、これは夫婦それぞれが自分の資金で投資することを前提としています。

例えば、夫が自分の資金1,800万円をNISAで運用し、妻も自分の資金1,800万円をNISAで運用する場合です。

それぞれのNISA口座で得た非課税所得は、今回の後期高齢者医療制度における新たな金融所得反映の対象外とされています。

一方、夫の資金を妻に移して妻名義のNISA口座で運用する場合には、贈与税の問題が生じる可能性があります。

NISAの非課税投資枠と贈与税の非課税枠は、別の制度である点に注意が必要です。

夫婦間の贈与と年間110万円の基礎控除

夫婦間で金融資産を移転する場合には、贈与税の取り扱いが重要です。

暦年課税では、贈与税の基礎控除額は受贈者1人当たり年間110万円です。

例えば、夫から妻へ年間100万円の現金を贈与した場合、他に贈与がなく、贈与が適法に成立していれば、原則として贈与税はかかりません。

一方、夫から妻へ年間300万円を贈与した場合には、原則として基礎控除額を超える部分について贈与税の課税対象となります。

ただし、夫婦間で生活費や教育費として通常必要な金額を、その都度渡す場合には、一定の条件の下で贈与税がかからない取り扱いがあります。

しかし、生活費として受け取った資金を預貯金や株式投資に充てる場合には、贈与税の課税関係が問題になることがあります。

また、毎年一定額を贈与する場合には、贈与契約の内容や実際の資金移動を明確にすることが重要です。

社会保険負担の軽減を目的として安易に名義を変更するのではなく、贈与税や相続税を含めた検討が必要です。

名義預金と名義株式の問題

相続対策では、名義預金や名義株式にも注意が必要です。

名義預金とは、形式上は配偶者や子どもなどの名義になっていても、実質的には被相続人の財産と判断される預金を指します。

例えば、夫が自分の資金を妻名義の預金口座に移したものの、妻がその資金を自由に管理・使用できない場合です。

このような場合、形式上は妻名義であっても、実質的には夫の財産と判断される可能性があります。

株式や投資信託についても、取得資金の出所や管理状況などによって、実質的な所有者が問題になる場合があります。

そのため、金融資産の名義を変更する際には、単に口座名義を変えるだけでは十分ではありません。

贈与契約の成立、資金移動の記録、受贈者による管理などを確認する必要があります。

名義と実質的な所有関係を一致させることが、税務上のトラブルを防ぐために重要です。

配偶者の死亡後に医療費負担が変わる可能性

夫婦で老後の資産管理を考える際には、どちらか一方が亡くなった後の家計も重要です。

例えば、夫婦ともに75歳以上で、夫が先に亡くなった場合です。

妻はそれまで夫婦2人の世帯で医療費の窓口負担割合が判定されていましたが、夫の死亡後は単身世帯として判定されることになります。

また、遺族年金の受給や金融資産の相続によって、妻の収入構成や資産構成が変わる可能性があります。

遺族年金は原則として非課税ですが、相続した課税口座の株式や投資信託から配当や売却益が発生すれば、その金融所得が社会保険負担に影響する場合があります。

さらに、相続した金融資産を生活費に充てるために売却する場合には、譲渡益に対する所得税・住民税も問題になります。

したがって、夫婦で資産管理を考える際には、夫婦がともに健在な期間だけでなく、単身生活になった後の資金計画も必要です。

相続した株式の取得費は原則として引き継ぐ

株式や投資信託を相続した場合には、取得費の取り扱いにも注意が必要です。

原則として、相続人は被相続人の取得費を引き継ぎます。

例えば、夫が500万円で購入した株式を、相続開始時に1,500万円の時価で保有していた場合です。

妻がその株式を相続し、後に1,500万円で売却した場合、単純計算では1,000万円の譲渡益が発生します。

相続時の時価1,500万円が、そのまま税務上の新たな取得費になるわけではありません。

また、一定の要件を満たす場合には、相続税の取得費加算の特例が利用できることがあります。

そのため、相続した金融資産を売却する際には、相続税と所得税・住民税の関係を確認する必要があります。

さらに、2029年からの新制度では、対象となる売却益が後期高齢者医療制度の負担判定に反映される可能性があります。

相続した金融資産をいつ売却するかという判断も、老後の家計管理に関係することになります。

夫婦で考える資産取り崩しの順番

夫婦の金融資産管理では、課税口座とNISA口座、預貯金などをどのような順番で取り崩すかが重要です。

例えば、夫婦で金融資産5,000万円を保有している場合です。

その内訳が、預貯金1,000万円、NISA口座2,000万円、課税口座2,000万円であるとします。

この場合、生活費の不足分を預貯金から補う方法、NISA口座を取り崩す方法、課税口座の資産を売却する方法があります。

預貯金の取り崩しでは、原則として金融所得は発生しません。

NISA口座で得た非課税の売却益も、今回の新たな金融所得反映の対象外です。

一方、課税口座で含み益のある金融資産を売却すれば、譲渡益が発生する場合があります。

ただし、社会保険負担を抑えるためだけにNISA口座から優先的に取り崩すと、将来の非課税運用の機会を失う可能性があります。

そのため、生活費の必要額、金融資産の運用状況、夫婦それぞれの年齢、相続予定などを総合的に考える必要があります。

税理士・FPの視点から考える夫婦の資産管理

2029年からの制度変更を踏まえると、夫婦の金融資産管理では、個人単位と世帯単位の両方で考えることが重要になります。

まず、夫婦それぞれの年金収入と金融所得を把握します。

次に、加入している医療保険制度、医療保険料、窓口負担割合などを確認します。

さらに、課税口座とNISA口座の保有状況、金融資産の取得費、含み益、年間の配当収入などを整理します。

また、将来の相続に備えて、金融資産の名義と実質的な所有関係を確認することも重要です。

夫婦間の資産移転を検討する場合には、贈与税や相続税への影響を考慮する必要があります。

特に、金融所得を抑えるためだけに資産名義を変更することは避けるべきです。

夫婦の老後資産管理では、税金と社会保険負担だけでなく、生活費、医療費、介護費、相続対策まで含めた長期的な計画が求められます。

結論

2029年8月から始まる金融所得の後期高齢者医療制度への反映によって、夫婦の金融資産の持ち方や取り崩し方は、老後の社会保険負担を考えるうえで重要になります。

夫婦の年齢差、年金収入、金融資産の名義、課税口座とNISA口座の保有割合などによって、医療保険料や医療費の窓口負担への影響が異なる可能性があります。

ただし、夫婦で金融資産を分散して保有すれば、必ず社会保険負担が軽減されるわけではありません。

また、金融資産の名義変更には贈与税や相続税の問題があり、名義と実質的な所有関係を一致させることが重要です。

さらに、夫婦のどちらか一方が亡くなった後には、世帯構成や年金収入、金融資産の保有状況が変わる可能性があります。

人生100年時代の資産管理では、夫婦がともに健在な期間だけでなく、単身生活になった後の生活設計まで考える必要があります。

重要なのは、税金や社会保険料を個別に抑えることだけではありません。

夫婦それぞれの生活を安定させながら、医療費、介護費、相続対策を含めて金融資産を計画的に管理することです。

参考

日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金融所得を高齢者医療に反映 NISAは対象外、資産売却時期で負担変化」

厚生労働省「後期高齢者医療制度」

厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映」

金融庁「NISAを知る」

国税庁「贈与税がかかる場合」

国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」

国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

国税庁「相続等により取得した株式等の取得費」

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