かつて相続対策といえば、「亡くなった後にどう財産を分けるか」が中心でした。
しかし人生100年時代を迎えた今、その考え方は大きく変わろうとしています。
平均寿命は伸び、多くの人が90歳近くまで生きる時代になりました。その結果、親から子へ財産が移転する時期も遅くなっています。
60代の子どもが90代の親から相続を受けるケースも珍しくありません。
こうした状況の中で注目されているのが「贈与」です。
財産を亡くなった後に移転する相続より、生きているうちに移転する贈与の重要性が高まっています。
人生100年時代において、なぜ贈与が見直されているのでしょうか。
相続では遅すぎる時代
昔は親が70代で亡くなり、子どもは40代や50代で財産を引き継ぐことが一般的でした。
住宅取得
子育て
教育費負担
など、資金需要が大きい時期に相続が発生していました。
しかし現在は違います。
親が90歳まで生きると、子どもはすでに定年を迎えていることもあります。
その頃には住宅ローンも終わり、子育ても終わっています。
つまり最もお金が必要な時期に財産が届かないのです。
社会全体から見ても、資産が高齢世代に滞留する原因になっています。
政府も生前移転を促している
近年の税制改正を見ると、政府は資産の生前移転を促す方向へ動いています。
教育資金贈与
結婚・子育て資金贈与
住宅取得資金贈与
などの特例がその代表例です。
若い世代へ早期に資産を移転することで、
消費拡大
住宅取得促進
少子化対策
などの効果を期待しているのです。
高齢者が資産を抱えたまま亡くなるよりも、生きているうちに社会へ循環させる方が経済全体にとって望ましいと考えられています。
相続対策から人生設計へ
贈与の価値は節税だけではありません。
本質は人生設計にあります。
例えば孫の大学進学資金を援助する場合を考えてみます。
相続で財産を渡す頃には大学はすでに卒業しています。
しかし贈与であれば、学費が必要なタイミングで支援できます。
住宅取得も同じです。
30代や40代で住宅資金を援助できれば、家族の生活基盤づくりに大きく貢献できます。
贈与とは単なる財産移転ではなく、「必要な時に必要な人へ渡す行為」なのです。
相続税対策としての贈与は変わりつつある
一方で、税制面では変化も起きています。
近年、生前贈与加算期間が3年から7年へ延長されました。
これは亡くなる直前の駆け込み贈与による相続税回避を防ぐためです。
従来のような単純な節税目的の贈与は効果が薄れつつあります。
しかしだからといって贈与の価値が下がったわけではありません。
むしろ、
家族の生活支援
事業承継
資産承継
という本来の目的が重視される時代になったと言えます。
人生100年時代の贈与は「見守り型」になる
今後は一括で大きな財産を渡すよりも、段階的に移転する方法が増えるかもしれません。
例えば、
教育費支援
住宅取得支援
起業支援
子育て支援
などです。
必要な時に必要な額を渡しながら、親世代も老後資金を確保します。
これを私は「見守り型贈与」と呼びたいと思います。
財産を渡して終わりではなく、その後の人生も見守りながら支援する考え方です。
家族信託との相性も良い
人生100年時代では認知症リスクも無視できません。
認知症になると資産管理が難しくなります。
そのため近年は家族信託への関心も高まっています。
家族信託と贈与を組み合わせることで、
親の生活資金確保
資産管理
段階的な承継
を実現できます。
相続だけで考える時代から、長期的な資産移転計画を考える時代へ移行しているのです。
資産承継の目的は節税ではない
資産承継というと、どうしても相続税対策に目が向きます。
しかし本来の目的は家族の幸福です。
どれだけ税金を減らせても、
家族が争う
資産が活用されない
次世代が困る
のであれば意味がありません。
大切なのは、財産を通じて家族の人生を支えることです。
その意味で贈与は単なる税務手続きではなく、人生の応援手段とも言えます。
結論
人生100年時代において、贈与は相続より重要な役割を果たす可能性があります。
なぜなら、財産を必要な時期に必要な人へ届けられるからです。
相続は亡くなった後の財産移転ですが、贈与は生きている間に人生を支援できます。
これからの資産承継は、「いくら残すか」ではなく、「いつ渡すか」が重要になります。
人生100年時代の贈与とは、単なる節税策ではありません。
家族の未来を支えるための、生前から始まる資産承継なのです。
参考
税のしるべ
2026年6月1日
極めて高い水準の所得の負担適正化措置の初年の適用者は744人、導入時の想定数を上回る