金融所得の反映は介護保険にも広がるのか――高齢者の応能負担と制度改革の行方

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2029年8月から、75歳以上の後期高齢者医療制度に金融所得を反映する新たな仕組みが始まる予定です。

この制度変更を受けて、今後注目されるのが介護保険制度への影響です。

介護保険でも、所得に応じてサービス利用時の自己負担割合が1割、2割、3割に分かれています。また、65歳以上の介護保険料は、本人や世帯の所得状況などに応じて決まります。

そのため、株式や投資信託の売却益、配当などの金融所得を介護保険にも反映すべきではないかという議論が生じています。

一方、医療保険と介護保険では制度の仕組みが異なります。後期高齢者医療制度で金融所得の反映が始まるからといって、介護保険でも同じ仕組みが直ちに導入されるわけではありません。

今回は、介護保険の負担の仕組み、金融所得との関係、預貯金などの資産要件、今後の制度改革の方向性を整理します。

介護保険制度の保険料と利用者負担

介護保険制度は、40歳以上の人が加入し、介護が必要になった場合に、要介護認定などを受けて介護サービスを利用する仕組みです。

65歳以上の人は第1号被保険者、40歳から64歳までの人は第2号被保険者と呼ばれます。

第1号被保険者の介護保険料は、市区町村ごとに設定され、本人や世帯の所得状況などによって段階的に決まります。

また、介護サービスを利用する際の自己負担割合は、原則として1割ですが、一定以上の所得がある人は2割、現役並みの所得がある人は3割となります。

つまり、介護保険制度でも、所得が多い人ほど負担が大きくなる仕組みが既に導入されています。

ただし、医療保険とは異なり、介護保険では介護サービスを長期間継続して利用することが少なくありません。

そのため、自己負担割合が変わると、毎月の生活費に継続的な影響が生じる可能性があります。

介護保険の2割負担と3割負担の基準

介護保険では、65歳以上の第1号被保険者について、一定の所得基準を満たす場合に2割または3割負担となります。

2割負担の判定では、原則として本人の合計所得金額が160万円以上であることに加え、年金収入とその他の合計所得金額の合計が、単身者では280万円以上、65歳以上の人が2人以上いる世帯では346万円以上であることなどが基準になります。

3割負担では、原則として本人の合計所得金額が220万円以上であり、年金収入とその他の合計所得金額の合計が、単身者では340万円以上、65歳以上の人が2人以上いる世帯では463万円以上であることなどが基準になります。

ただし、実際の判定には所得の種類や世帯構成などが関係します。

また、2026年10月時点では、2割負担の対象を拡大する方向で議論が続いています。

したがって、現在の所得基準が今後もそのまま維持されるとは限りません。

2026年10月に金融所得の反映を議論

厚生労働省は2026年10月26日、社会保障審議会の介護保険部会で、介護保険の保険料や利用者負担割合に金融所得を反映することについて議論しました。

背景にあるのは、確定申告の有無によって社会保険負担に違いが生じる問題です。

現在、源泉徴収ありの特定口座で得た一定の金融所得については、確定申告をしなければ、原則として介護保険の所得判定に反映されません。

一方、確定申告を行った場合には、所得判定に反映されることがあります。

経済的には同じ金融所得を得ていても、申告方法によって負担が異なる場合があるわけです。

後期高齢者医療制度では、こうした違いを是正する仕組みが2029年8月から導入される予定です。

介護保険についても、同様の課題をどのように解決するかが検討されています。

ただし、2026年10月時点で、介護保険への金融所得反映の具体的な開始時期や対象範囲が決定したわけではありません。

金融所得と金融資産は区別する必要がある

制度改革を考える際には、金融所得と金融資産を区別することが重要です。

金融所得とは、株式や投資信託の売却益、配当、利子などの所得を指します。

一方、金融資産とは、預貯金、株式、投資信託、債券などの保有資産を指します。

例えば、5,000万円の金融資産を保有していても、その資産から所得が発生していなければ、金融所得は少ない場合があります。

反対に、金融資産の残高が比較的小さくても、頻繁に売買を行って多額の利益を確定させれば、金融所得が大きくなる場合があります。

今回の後期高齢者医療制度の見直しは、一定の金融所得を負担判定に反映するものです。

金融資産の保有残高そのものを、一律に医療保険料へ反映する制度ではありません。

介護保険でも、金融所得を反映するのか、金融資産の残高まで考慮するのかによって、制度の影響は大きく異なります。

介護保険には既に預貯金の資産要件がある

介護保険では、金融資産を考慮する仕組みが一部で既に導入されています。

代表的なのが、介護保険施設などを利用する低所得者の食費や居住費を軽減する補足給付です。

補足給付では、所得要件に加えて、預貯金等の資産要件が設けられています。

例えば、一定以上の預貯金等を保有している場合には、住民税非課税世帯であっても、補足給付の対象とならないことがあります。

これは、所得だけでなく、保有資産も負担能力の判断材料としている制度です。

ただし、補足給付における資産要件と、介護保険料やサービス利用時の自己負担割合を決める仕組みは異なります。

補足給付で資産を考慮しているからといって、介護保険のすべての負担判定に金融資産が反映されているわけではありません。

今後の制度改革では、こうした既存の仕組みとの整合性も課題になります。

預貯金の正確な把握には課題がある

金融資産を負担判定に反映する場合、大きな課題となるのが預貯金などの正確な把握です。

金融機関に預貯金口座を複数保有している人もいれば、証券会社やネット銀行を利用している人もいます。

また、夫婦それぞれの名義で金融資産を保有している場合もあります。

資産要件を公平に適用するためには、対象となる資産を正確に把握する仕組みが必要です。

しかし、現在の補足給付などでは、申請者による申告や通帳の確認などが重要な役割を果たしています。

すべての金融資産を網羅的に把握することは容易ではありません。

2026年10月の介護保険部会でも、金融資産の把握方法や自治体の事務負担などが課題として指摘されました。

金融所得の把握と金融資産残高の把握では、必要となる情報や事務手続きが異なる点に注意が必要です。

2割負担の対象拡大との関係

介護保険制度では、金融所得の反映とは別に、2割負担の対象拡大も検討されています。

現在の2割負担の所得基準を引き下げれば、これまで1割負担だった人の一部が2割負担になる可能性があります。

一方、介護サービスを継続的に利用する人にとっては、自己負担割合の上昇が家計に大きな影響を与える場合があります。

そのため、負担増に耐えられない人への配慮措置も議論されています。

例えば、一定期間の負担増を抑える方法や、預貯金が少ない人への配慮などが検討対象となっています。

ただし、これらは制度改正に向けた検討段階の内容であり、具体的な所得基準や配慮措置がすべて決定したわけではありません。

金融所得の反映と2割負担の対象拡大が同時に進めば、所得によっては複数の制度変更の影響を受ける可能性があります。

医療費と介護費の負担が同時に増える可能性

高齢期には、医療サービスと介護サービスを同時に利用する場合があります。

例えば、75歳以上の人が定期的に通院しながら、訪問介護や通所介護を利用している場合です。

金融所得の反映によって後期高齢者医療制度の窓口負担割合が上昇し、将来的に介護保険の利用者負担割合も上昇すれば、家計全体の負担が増える可能性があります。

ただし、医療保険には高額療養費制度があり、介護保険には高額介護サービス費制度があります。

さらに、医療保険と介護保険の自己負担額を合算し、一定の限度額を超えた場合に負担を軽減する高額医療・高額介護合算療養費制度もあります。

したがって、窓口負担割合が上がったからといって、自己負担額が単純に2倍、3倍になるとは限りません。

実際の負担を考える際には、各制度の所得区分や自己負担限度額を確認する必要があります。

年金収入が少なくても金融所得が多い場合

例えば、公的年金収入が年間180万円で、課税口座から年間120万円の配当収入を得ている75歳以上の人を考えます。

現在の制度では、源泉徴収ありの特定口座で得た配当について確定申告をしなければ、原則として介護保険の所得判定に反映されない場合があります。

しかし、将来的に金融所得を申告の有無にかかわらず反映する制度が導入されれば、介護保険料や利用者負担割合に影響する可能性があります。

一方、同じ120万円の運用収益をNISA口座で得た場合には、非課税所得の取り扱いが重要になります。

ただし、介護保険で将来どの金融所得を対象とするかは、2026年10月時点では決定していません。

後期高齢者医療制度でNISA口座の非課税所得が対象外とされているからといって、介護保険の将来の制度設計まで確定したと考えることは適切ではありません。

応能負担の拡大と老後資産形成の両立

金融所得や金融資産を社会保険負担に反映する議論の背景には、応能負担という考え方があります。

応能負担とは、所得や資産などの負担能力に応じて費用を負担するという考え方です。

高齢化によって医療費や介護費が増加するなか、現役世代だけでなく、一定の負担能力がある高齢者にも応分の負担を求める必要があるという意見があります。

一方、老後の生活費に備えて長年積み立ててきた金融資産を取り崩した結果、社会保険負担が大きく増えることには慎重な意見もあります。

特に、金融所得は毎年安定して発生するとは限りません。

株式や投資信託をまとめて売却した年だけ所得が大きくなる場合もあります。

また、医療費や介護費が増える時期と、金融所得が発生する時期が重なる可能性もあります。

制度改革では、負担の公平性を高めることと、高齢者が安心して資産形成や資産取り崩しを行える環境を維持することの両立が求められます。

税理士・FPの視点から考える今後の備え

今後の制度変更に備えるためには、医療保険と介護保険を別々に考えるのではなく、老後の社会保険負担全体を把握することが重要です。

まず、公的年金収入、課税口座の配当収入、株式や投資信託の売却予定額などを整理します。

次に、現在の医療保険料、介護保険料、医療費の窓口負担割合、介護サービスの利用者負担割合を確認します。

また、将来的に介護サービスを利用する可能性を考え、一定の生活予備資金を確保することも重要です。

NISAの活用や課税口座の取り崩し時期の検討は有効な選択肢になり得ますが、介護保険への金融所得反映は現時点では検討段階です。

未確定の制度変更を前提として、多額の金融資産を急いで売却することは避けるべきです。

制度の具体的な内容が公表された段階で、税金、医療保険料、介護保険料、医療費、介護費を含めた資金計画を見直すことが重要です。

結論

2029年8月から始まる後期高齢者医療制度への金融所得反映は、高齢者の社会保険負担のあり方を変える重要な制度変更です。

さらに、介護保険についても、金融所得や金融資産を負担判定に反映することが検討されています。

ただし、2026年10月時点では、介護保険への金融所得反映の開始時期や具体的な対象範囲は決定していません。

また、介護保険では2割負担の対象拡大や、低所得者への配慮措置なども議論されています。

今後の制度改革によっては、医療費と介護費の負担が同時に変化する可能性があります。

人生100年時代の資産管理では、所得税・住民税だけでなく、医療保険料、介護保険料、医療費、介護費まで含めた長期的な生活設計が必要です。

重要なのは、将来の負担増を過度に恐れて資産運用を変更することではありません。

制度の動向を確認しながら、必要な生活資金を確保し、税金と社会保険負担を総合的に考えた資産管理を進めることです。

参考

日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金融所得を高齢者医療に反映 NISAは対象外、資産売却時期で負担変化」

厚生労働省「介護保険制度の見直しに関する意見」

厚生労働省「社会保障審議会介護保険部会」2026年10月26日開催資料

厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映」

内閣府「社会保障・こども分野における経済・財政一体改革の検討事項等について」

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